ヒュギエイアの毒杯が溢れる日まで(旧:Dead Butterfly)

D

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旅立ち

夜明け

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「はぁ、行ったか」


ウロボロスがそう呟く。そして誰もいない空間を見つめながら、まるで誰かに語りかけるように喋り出す。


「これでいいのか? あんたも人がいいのか悪いのか」


 呆れたような口調とは裏腹に、決して警戒はとかない。そんな態度をウロボロスはとる。


 すると、どこからともなく一人の女性がウロボロスの視線の先に現れた。


「あら、いいに決まってるじゃない。選択の余地はないはずよ」


 どの口が言うんだか、と愚痴を言った後、その女性を見つめる。それは先ほど白と話していた輪花の姿をしていた。


「さぁどうだかな。上手だったぞ、。“神”じゃなくて役者でもやってたほうがよかったんじゃねえか?しかし、俺みたいな“象徴”じゃなくて“神”のあんだがどうして一人の“人間”を気にかける?」


「まぁ落ち着きなさい。あなただって話を持ちかけた時はそうでもなかったけど、結構ノリノリだったじゃない。一人称も俺、じゃなくて私、だったし。おもわず笑っちゃうところだったわ。」


「……てめぇ」


「ごめんなさい、つい、ね。“象徴”のあなたに敵意を向けられると、私も結構怖いの。だから睨むのはやめて。それでね、最初に誤解を解いておきたいんだけど、あれは輪花の意思よ。彼女がだいぶ白のことを気にしてたから、あなた輪花の魂を私に一時的にトレースして白に会いたいかって聞いたら、是非に、って答えられたの。だから、確かに白は私に話しかけてはいたけど、思いを伝えた相手は輪花だし、輪花も白に話せたってこと。これでいい?」


「わかった。役者って言ったのは謝る。中身はちゃんと母親だったんだな」


「女優並みに美しい、って意味だったら何回でも言っていいわよ」


 実年齢は何歳だよ、ウロボロスは思ったが、口には出さない。それは女性だから、
というのも一つの理由だが、それ以前に自分は“象徴”で相手は“神”だからだ。いわゆるサラスヴァティと呼ばれる存在である。


 しかしその女性はその一瞬の思考を見逃さなかった。それは“神”だから、などではなく、一人の女性として。


「あなた、なんか失礼なこと考えてない?」


「考えるくらい仕方ないだろ!口に出さなかっただけ、俺は懸命だったと思うけどな」


「私が察せている時点でアウトよ。何より、あなたは私との線引きをしっかりしているからいいけど、そうでなかったらこんな風に話せないわよ?」


「それはわかってる。それより、俺が聞いた答えはまだ聞いてないぞ。なぜ一人の“人間”にそこまでするんだ?しかも自分の体に母親の魂をトレースまでして」


「あなたも知っての通り、白はあのままだと、死んでたわ。ただ、それだけのことなら私も動かない。けど、白はいわば私の子供なの。だから助けたかったのよ。」


「……え?」


 ウロボロスが驚く。というのも、白の母親は輪花なのだし、基本的に神は人の子を生まないからだ。

 しかし、彼の驚きの声を弁財天は別の方向で受け取る。


「い、いや、べ、別にほかの男の神との間にできた子供なんてものじゃないわよ。」




「もう! そんなことはどうでもいいのよ! そうじゃなくて、彼には私の半分が備わっている、そういいたいの。」


「おい、神の力の半分ってやばくないか。均衡が崩れるなんてものじゃない。崩壊を招きかねないぞ?」


「それは大丈夫よ。流石に神の力の半分とはいえ、人の器に入ればそこまで強大な力は出せないから。それに、日本にいた時の体のまま、あそこへ転生させたら弱過ぎてすぐに死んじゃうじゃない。その分を差し引いたら、いくら強くなっても人外の範疇を超えないわよ。均衡を崩すもののほどじゃないはず、きっと」


 やけに自信がなさげな弁財天の態度にウロボロスは不安を覚えるが、さらにあることに気づき焦り出す。


「人外の範疇を超えないって、人外の時点で超えてるもクソもないんだよ。それに今それを言われても困るんだよな。日本にいた時の体をそのまま持ってきてるわけないだろ。もうすでに器は用意してある。ちゃんとあの世界に適応できるようにな。まぁデザインはあんたが好みそうなものにしたが。」


「へぇ、どんなデザインか気になるわね。」


「聞いていたか? あの世界に適応できる体を授けた、そう言ったんだ」


「ええ、聞こえたわよ。あら、そろそろ時間ね、また遊びに来るわ」


 露骨な現実逃避の仕方に思わず、頭を抱える。ウロボロスはその口調に反して、結構繊細のようだ。


「おい、あの世界はお前達の管轄だが、転生は俺の責任なんだ。お前の子供だか何だか知らないが、そういうのは報告を先にしてくれ、頼むから。」


「はいはい、頼むわよ~」


「他人事だと思って。後々大変なのは俺なんだからな。そもそも、なぜそんな存在が人間にいるんだよ。それくらい教えてくれても、いいと思わないか?」


「ん~、まぁいいわ。これから迷惑かけるみたいだし。実は……」


------------------------------------------



 その頃白は、異世界に送られていた。


(ここが異世界か)


 あたりを見渡す。土、草、木、空、どれをとっても見た目は日本のそれとあまり変わらないのに、どこか違う、そう感じさせた。時間はおそらく夜明け。夜特有の涼しさと、日の出がもたらす清々しさが混じり合い太陽の光が世界を照らす。ここが異世界という予備知識があったからかもしれないが、それでもその新鮮さに白の胸は高鳴る。少年というもの、やはり冒険は憧れるのだ。


(そういえばウロボロスが俺の情報を渡しとくって言ってたよな)


 ズボンのポケットの中に手を入れると、案の定手紙と思しきものがあった。


[お前の情報だが、それは一般にステータスと呼ばれるものだ。体の情報が数値として表される。安心しろ、他の人に見られることはない。もちろん他の人のステータスも見ることができないが。自分のステータスを見たいときは素直にそう願え、きっと見えるはずだ。最初に言った通り、この世界は努力が実を結ぶ世界だ。そしてその実とは、ステータスにおける数値のことを指す。もちろん上がり幅や最大値は個人差があるがな。こんなところでステータスの説明については以上だ。後は自分でなんとかしろ。すまないが転生した後、お前がどこにいるのかわからない。街にいるかもしれないし、ドラゴンの腹の中かもしれない。しかし、この手紙が見れているならば、そこそこいい環境だろう。健闘を祈る。]


(ウロボロス、ありがたいな。……呼び捨てにするのもなんだとは思うけど、名前、わからないしな。敬意をこめて、ボロスさん、とでもしとこう)


 そう思いつつ、彼の手紙の通りステータスを見たいと願う。そうすると次のようなものが頭の中に浮かんだ。視覚化するとこうだ。



種族:人間
職業:レベル    10%解放
性別:男
状態:良好
加護:サラスヴァティの加護    10%解放


Lv                 :1
HP                :110/110
MP               :110/110
攻撃力          :10
防御力          :10
魔法攻撃力   :10
スピード      :10


特性:なし


耐性:なし


スキル:なし


称号:転生者
        蛇の友達      20%解放




【サラスヴァティの加護】     10%解放
HP、MP共に成長補正。魔法において水の適正がある。あらゆる「波」に対して敏感。
知識がある人に授けられる。



【蛇の友達】
蛇と話せるようになる。


(なるほど、今回もサラスヴァティ様とご縁があるのか。それにしても嬉しい加護だな。HP、MP両方に補正がかかるのはもちろんのこと、波に敏感、というのがとてもいい。あと、水に補正があるということは、水には困らないだろう。10%解放というのがよくわからないが、それも努力次第だろうしな。数値で表されているのがいい証拠だ。これは是非とも伸ばしておきたい。と言っても、何もしなくとも上がるだろう。恩恵を常に身近に感じるんだ。感謝なんかしてもしたりない。
蛇の友達は、よくわからないな。だけどこれも数値で表されているし、今後頑張って行くとしよう。伸ばし方は……とりあえずヘビを見つけて、喋るところから始めようかな。)


(問題は職業だ。職業レベルってなんだ?職業の名前がレベルってことか?よくわからないな。説明書きも特にないし、これは保留だな。)


  そうして白はステータスを引っ込める。まだよくわからないことがたくさんあるが、とりあえず安心して暮らせる場所に行きたい。そう思った彼は行動に移す。


------------------------------------------

Dです。

 僕は一応、最終話までの大まかな流れをメモしてました。しかし途中で大幅に書き換えなければならない場所がありその構想を潰す事にしました。
 そして、ここからが本題ですが、最初の構想は夢オチだったんです。だから胡蝶の夢で、「胡蝶」と「故蝶」とで掛けて、Dead Butterflyだったんですが、ボツになりましたので、また新しい題名にします。次の構想が練り終わるまで今のままのタイトルですが、それが終わったら、あとがきにて発表させてもらい、その後題名を変更させていただきますので、ご了承ください。
今後とも我が作品を読んでくださると嬉しいです。


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