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旅立ち
何者
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行動に出てからすぐのこと。白は一つのことに気づく。
彼は森を背にして歩いていた。というのも、周りに人がいるような場所はなく、森に行くよりは草原を歩いていた方が、より安心できる場所にたどり着く可能性がある、そう思ったからだ。おそらくこの考えは間違いではないだろう。しかし、森が見えなくなってもなお草原が広がっていたら、と考えた時、方角がわからないのは非常にまずい。
(北極星みたいな方角を示す星があればいいんだがな。この世界にそんな星があることを前提で行動するのは馬鹿がやることだ。それに夜は危険だと相場は決まっている。星なんか悠長に観察出来ないだろう。ん? 待てよ、相場? そうか! 相場だ!)
そして彼は前世の記憶を手繰り寄せる。しかし、この選択が間違っていた。白は幼少の頃よりトップ校に入学するため、親よりゲームを与えられていなかった。勉強をさせるためである。その上、携帯にゲームをインストールすることも許されていなかったのだ。しかし彼はささやかな反抗として、ネット小説を読んでいた。それならネット環境があれば大体のものは読めたし、親にバレるリスクも少なかったからだ。しかし、そこに一つの問題があった。情報の偏りである。言い換えれば、前世の記憶そのものが間違いだらけだということだ。
ただしこれに縋るしか道がないのもまた事実。そういう意味では、白の異世界生活の滑り出しは不幸なものとなった。
(まず、おさらいだ。どの話でも大抵緑色の子供みたいなモンスター、通称ゴブリンは弱い。ただしなめてかかったり、集団に会うと初期の頃は必ず死ぬ。こんな感じだったな。ゴブリンを殺すことを生業としている作品もそう言ってたし。そしてスライム、可愛い見た目をしているが、めちゃくちゃ強いらしい。スライムが魔王やってるナイスガイな小説があったくらいだしな。そしてドラゴン。これは言うまでもなく最強の種族のはずだ)
このように今後出現するであろうモンスターをリストアップしていく。偏見が混ざっているとはいえ、どれも警戒しておく、と言うスタンスを取るあたり、白は優秀だった。そして次の確認に移る。
(よし、一通りは確認し終えた。次は俺がどう戦うかだな。前世で剣道を習っていたけど、絶対に役に立たないと思っていいだろう。あれを振り回せたのは竹刀だからで本物の剣を振り回すのは不可能だ。確か素振り用木刀と同じくらいの重さだからな、片手でなんか10回も振れないだろう。だとすると、石だな。石を見たらポケットの中に入れておこう。なんだか馬鹿そうな奴に見えかねないが、外聞を気にするのは今じゃない。で、後は重くない棒状のものを手に入れたいところだが、それはまたいい機会があったらな)
こうして遠い間合いと近い間合い、両方の武器を考えた。ちなみに彼の今の服装は、学校の制服だったりする。制服に石を詰めるのは抵抗があったが、背に腹は変えられないのが現状だった。そして最後にどのような行動をするかだが、早く決まった。
(森を右手に歩いて行こう)
その途中で人に会ったら御の字、ぐるぐる回ることになってもそれは一周回ることが出来るくらいにはこの森が安全であると証明される、そう考えたのだ。
そして、スタート地点の木に傷をつける、ことが出来なかったため仕方なく目印として樹皮を剥がしておく。そして彼は再び歩き出した。
歩き出してしばらくした頃、代わり映えしない景色に白は飽きていた。
(退屈だな。人っ子一人いやしない)
そう思った瞬間、彼の視界に木や草以外のものが目に入る。
(これは、荷台、だよな)
そこにあったのは何も載せられていない荷台だった。小説からの知識だが、商人は山賊に襲われるというジンクスがある。自分以外の生き物がいる予感に心を踊らせ、周りに痕跡がないか探していると、草が踏みつけられてできた道が森の奥へつながっていた。荷台に争われた形跡がないことからこの荷台の持ち主は商人だと推測する。
商人が山賊に襲われないことに越したことはない、と至極当たり前のことを思いながら森の中へ足を入れる。その次の瞬間、声をかけられた。
「お前は何者だ?」
油断していた。人の形跡があったことから、人がよく利用する森だと思い、無条件に安全な森だと心の中で決めつけていた今さっきの自分が腹立たしい。
一体どこから。周りを見渡しても声の主となるような姿は認識できない。白は認識できず、話しかけてきた相手は白のことを認識している。その時点で自分の命は声の主に握られていると悟った白は、礼儀正しく答えようとした。
「私の名前は……」
(名前? 俺の前世の名前は蛇穴白だが、ここはもう別の世界だ。こういう時、どうすればいいのか、考えたこともなかった。いっそのこと前世の名前で名乗るか? いや、でも……)
「ハクです。この周りを歩いていたら荷台を見つけたので、あたりを散策していました。お気に障ったなら謝りたいと思います。」
とっさに出た偽名を悟られないように、その後の言葉を流暢につなげる。一瞬言葉が通じないか心配になったが、それは杞憂に終わった。
「ハクか、分かった。ではハク、お前はこいつらと面識があるか?」
そう言われたと同時に、ドサっと3人の男の死体が目の前に落とされる。
三体の死体を見たとき、白は状況が分かってしまった。この3人かあの荷台の持ち主で、何か罪を犯したから、まだ見ぬ声の主に殺されたのだと。そしてその3人と白は同じ「人間」であり白は荷台の近くでウロウロしていた。疑わしいのは当然かもしれない。しかし白は弁解をする前に突然吐き気を催してしまう。我慢する間もないくらいに。
自分と同種の生き物が殺されている現場を見た時、脳が、神経が、「自分を殺す環境や生き物が、すぐ近くにいる」と認識し、そこから逃げるために生理的嫌悪感という形で体に現れる、そのことを白は知っていたが抗う術がなかったのだ。
ただし、その声の主は容赦なかった。いや、すぐ殺さない限り慈悲深かったのか。
「……お前を連行する」
その言葉が、気絶させられる白の、最後に聞いたものだった。
———————————————————
Dです。
題名を変えました。
「ヒュギエイアの毒杯が溢れる日まで」
です。また、作品名の横の画像ですが、インターネットから引っ張ってくるのは著作権やらなんやらで怖かったので、自分で書きました。高校生のとき、美術選択ではなく音楽選択だった私の最高傑作だと自負しています(笑)
見苦しかったら容赦なく言ってください。すぐに消します
彼は森を背にして歩いていた。というのも、周りに人がいるような場所はなく、森に行くよりは草原を歩いていた方が、より安心できる場所にたどり着く可能性がある、そう思ったからだ。おそらくこの考えは間違いではないだろう。しかし、森が見えなくなってもなお草原が広がっていたら、と考えた時、方角がわからないのは非常にまずい。
(北極星みたいな方角を示す星があればいいんだがな。この世界にそんな星があることを前提で行動するのは馬鹿がやることだ。それに夜は危険だと相場は決まっている。星なんか悠長に観察出来ないだろう。ん? 待てよ、相場? そうか! 相場だ!)
そして彼は前世の記憶を手繰り寄せる。しかし、この選択が間違っていた。白は幼少の頃よりトップ校に入学するため、親よりゲームを与えられていなかった。勉強をさせるためである。その上、携帯にゲームをインストールすることも許されていなかったのだ。しかし彼はささやかな反抗として、ネット小説を読んでいた。それならネット環境があれば大体のものは読めたし、親にバレるリスクも少なかったからだ。しかし、そこに一つの問題があった。情報の偏りである。言い換えれば、前世の記憶そのものが間違いだらけだということだ。
ただしこれに縋るしか道がないのもまた事実。そういう意味では、白の異世界生活の滑り出しは不幸なものとなった。
(まず、おさらいだ。どの話でも大抵緑色の子供みたいなモンスター、通称ゴブリンは弱い。ただしなめてかかったり、集団に会うと初期の頃は必ず死ぬ。こんな感じだったな。ゴブリンを殺すことを生業としている作品もそう言ってたし。そしてスライム、可愛い見た目をしているが、めちゃくちゃ強いらしい。スライムが魔王やってるナイスガイな小説があったくらいだしな。そしてドラゴン。これは言うまでもなく最強の種族のはずだ)
このように今後出現するであろうモンスターをリストアップしていく。偏見が混ざっているとはいえ、どれも警戒しておく、と言うスタンスを取るあたり、白は優秀だった。そして次の確認に移る。
(よし、一通りは確認し終えた。次は俺がどう戦うかだな。前世で剣道を習っていたけど、絶対に役に立たないと思っていいだろう。あれを振り回せたのは竹刀だからで本物の剣を振り回すのは不可能だ。確か素振り用木刀と同じくらいの重さだからな、片手でなんか10回も振れないだろう。だとすると、石だな。石を見たらポケットの中に入れておこう。なんだか馬鹿そうな奴に見えかねないが、外聞を気にするのは今じゃない。で、後は重くない棒状のものを手に入れたいところだが、それはまたいい機会があったらな)
こうして遠い間合いと近い間合い、両方の武器を考えた。ちなみに彼の今の服装は、学校の制服だったりする。制服に石を詰めるのは抵抗があったが、背に腹は変えられないのが現状だった。そして最後にどのような行動をするかだが、早く決まった。
(森を右手に歩いて行こう)
その途中で人に会ったら御の字、ぐるぐる回ることになってもそれは一周回ることが出来るくらいにはこの森が安全であると証明される、そう考えたのだ。
そして、スタート地点の木に傷をつける、ことが出来なかったため仕方なく目印として樹皮を剥がしておく。そして彼は再び歩き出した。
歩き出してしばらくした頃、代わり映えしない景色に白は飽きていた。
(退屈だな。人っ子一人いやしない)
そう思った瞬間、彼の視界に木や草以外のものが目に入る。
(これは、荷台、だよな)
そこにあったのは何も載せられていない荷台だった。小説からの知識だが、商人は山賊に襲われるというジンクスがある。自分以外の生き物がいる予感に心を踊らせ、周りに痕跡がないか探していると、草が踏みつけられてできた道が森の奥へつながっていた。荷台に争われた形跡がないことからこの荷台の持ち主は商人だと推測する。
商人が山賊に襲われないことに越したことはない、と至極当たり前のことを思いながら森の中へ足を入れる。その次の瞬間、声をかけられた。
「お前は何者だ?」
油断していた。人の形跡があったことから、人がよく利用する森だと思い、無条件に安全な森だと心の中で決めつけていた今さっきの自分が腹立たしい。
一体どこから。周りを見渡しても声の主となるような姿は認識できない。白は認識できず、話しかけてきた相手は白のことを認識している。その時点で自分の命は声の主に握られていると悟った白は、礼儀正しく答えようとした。
「私の名前は……」
(名前? 俺の前世の名前は蛇穴白だが、ここはもう別の世界だ。こういう時、どうすればいいのか、考えたこともなかった。いっそのこと前世の名前で名乗るか? いや、でも……)
「ハクです。この周りを歩いていたら荷台を見つけたので、あたりを散策していました。お気に障ったなら謝りたいと思います。」
とっさに出た偽名を悟られないように、その後の言葉を流暢につなげる。一瞬言葉が通じないか心配になったが、それは杞憂に終わった。
「ハクか、分かった。ではハク、お前はこいつらと面識があるか?」
そう言われたと同時に、ドサっと3人の男の死体が目の前に落とされる。
三体の死体を見たとき、白は状況が分かってしまった。この3人かあの荷台の持ち主で、何か罪を犯したから、まだ見ぬ声の主に殺されたのだと。そしてその3人と白は同じ「人間」であり白は荷台の近くでウロウロしていた。疑わしいのは当然かもしれない。しかし白は弁解をする前に突然吐き気を催してしまう。我慢する間もないくらいに。
自分と同種の生き物が殺されている現場を見た時、脳が、神経が、「自分を殺す環境や生き物が、すぐ近くにいる」と認識し、そこから逃げるために生理的嫌悪感という形で体に現れる、そのことを白は知っていたが抗う術がなかったのだ。
ただし、その声の主は容赦なかった。いや、すぐ殺さない限り慈悲深かったのか。
「……お前を連行する」
その言葉が、気絶させられる白の、最後に聞いたものだった。
———————————————————
Dです。
題名を変えました。
「ヒュギエイアの毒杯が溢れる日まで」
です。また、作品名の横の画像ですが、インターネットから引っ張ってくるのは著作権やらなんやらで怖かったので、自分で書きました。高校生のとき、美術選択ではなく音楽選択だった私の最高傑作だと自負しています(笑)
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