ヒュギエイアの毒杯が溢れる日まで(旧:Dead Butterfly)

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旅立ち

収監、そして疑問

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 白が目を覚ましたのは、どこかの部屋の中だった。


(図らずして寝るところにありつけたな)


 自嘲気味になりながら思う。なぜ自嘲気味なのかというと、気絶させられる前までの記憶があり、ここが独房だろうということは容易に想像出来たからだ。何より手足に鉄球が付いている。


(しかし初っ端から幸先悪いな。転生してすぐ独房入れられる小説なんて見たことないぞ。でも覚悟は決めないとな。ここがいくら異世界と言えども小説ではなく現実だ。絶対に生きて生きて、生き抜いてやる)


 そして白は考えを巡らせ始めた。


(まずここから出るには、相手方と話すことが必要条件だ。ただしあの3人が殺されていたことを考えると話し合いは無理だろう。となるとここから脱出するか? いや、それこそ無理だ。ここは彼らの地。万に一つここを脱出できても、その後彼らの追っ手から逃げ切れるわけがない。なにせここは森の中だろうからな。)


 白は一通り考えた後彼らがくるのを待つことにした。


(手足にちょうどいい鉄球があるしな。いい筋トレになりそうだ)


 進学校に通っていた者にしては、かなり脳筋かつポジティブな考えをする白であった。と言っても他のステータスの数値をあげる方法が分からず、筋トレをするしかないのが現状であり、ただ待つよりは幾分かマシだろう。そう思っての行動だった。


 そしてしばらく経っても彼らは現れなかった。しかし白はそんなことは気にもとめず、一心不乱に筋トレを続けていた。


(これがボロスさんが言っていた、努力すればするほど、って奴か。確かにすごいな。最初だから、というのもあるだろうが、筋トレの成果が目に見えて分かる。ここまで顕著に現れるものなのか。なんだか楽しくなってきたな)


 白は、前世とは比べ物にならない速さで成長している筋肉に、強くなる喜びを見出していた。そして白は彼らが呼びにくるまでずっと、筋トレを続けていた。


「そろそろ、よろしいでしょうか……」


 そう、白を連れ出そうとした者が思わず引いてしまうくらいに。


「あ、大丈夫ですよ。すいませんね。囚われの身だというのに自分の筋肉をいじめる喜びを見つけてしまいまして」


「はぁ……」


「それでどこへ向かえば良いのでしょう?」


「はっ⁉︎ そうでした。ハク様、こちらへどうぞ」


「ありがとうございます」


 会釈をしながら連れ出してきた人物を見る。それはまだ幼さを残した、少し抜けていそうなエルフだった。白は自分を独房から連れ出す役割の者は、自分が逃げ出してもすぐに捕まえられそうな屈強な戦士だと思っていたため、少々拍子抜けだった。


(まぁ俺程度、こんな可愛らしい少女でも十分だってのは認めるが)


 そんなことを思いながら白は彼女にいくつか問いかける。


「すいません。あなたの名前はなんですか?あ、別に教えたくなければいいんですが。」


「お、教えたくないなんて滅相も無い。私はエレメンタル所属、ツグという者です!」


「わかりました。ではツグさん、僕たちはどこへ向かっているのですか?」


「ハク様の今後を決める場所です。会議場、って言えばわかりますか?」


「大丈夫です。」


(こわ! 下手に「裁く」なんて言われるより「今後を決める」って言われた方が怖いのは俺だけか⁈)


「じゃあ最後に、先程から「ハク様」と呼ばれていますが、どうしてでしょう。僕はこれでも囚人なのでは?「様」をつけてはマズイでしょう」


「「疑わしきは罰せず」ですよ。何より、長からは、客は丁重にもてなせ、と日頃から言い聞かされていますので、「様」をつけさせていただきました。ご不満でしょうか?」


「不満なんて無いですよ。ただ「ハク」と呼ばれた方が居心地はいいですけどね」


 そう言いながら彼は違うことを考えていた。


(「丁重にもてなせ」っておそらくそのままの意味では無いよな。悪役が「可愛がってあげましょう」って言って主人公をいじめるアレだよな⁈ ヤバい、その「会議室」とやらに行ってはダメだ。俺が犯罪を認めない限りずっと拷問するに決まってる。 なんとしても、逃げなくては……)


「着きましたよ~、さっ、どうぞ中へ。ハク様、いえ、ハク」


 現実はどこまでも非情だった。ツグの最後の優しさが、一周回って怖く思えるくらいに。


(終わった……俺、死ぬのかな。もうなるようになるしかないか……)


 そして彼は会議場に入る。まるで裁判所や処刑場、拷問室に入る者のように。


「ハク殿、お待ちしておりました。どうぞお座りください」


「はい……」


「顔をあげてください。私はエレメント所属、エルフ代表、ワンドです。そして私の前にいる4人のエルフはあなたから見て左から順に、ウィル、クリプトメリア、トーチ、バーチ、それぞれ我々エルフの軍、財政、政治、外交を取りまとめている者たちです」


「……よろしくお願いします」


(ほんとにエルフだ。この世界にもいるんだな。代表って言ってたけどまだ若そうに見えるし、何より美男美女揃いってのはこの世界でも共通なんだな)


「こちらこそお願いします。ではまず最初に、あなたはあの男たちの仲間で、一緒に我々エルフを捕まえにきた、これは事実ですか?」


 ついに来た。


「事実ではありません」


 できる限り誠実に答える。白にとってはこれは地獄の審判であり、下手な言い分をするよりもマシだという賢明な判断の賜物であった。


「そうですか、わかりました。ツグ、枷を解いてあげなさい」


 ツグが、白についている手足の枷を手早くとる。あの鉄球を軽々持っていることから考えて、ツグは見た目通りの筋力でないのがわかった。


「あの、僕をそんなに簡単に解放していいんでしょうか?」


「君がシロなのはわかっていたことでしたので」


(俺の前世を知っているのか⁈)


「あの枷はあんなに軽いので、罪人にとってあの独房から逃げるのは容易いんですよ。少なくとも我々エルフを捕らえられるほどの実力者であれば。だがあなたは逃げませんでした。それどころかあの枷を重そうに抱えながらトレーニングをしていたではありませんか。そんなあなたが犯人であるはずがありません。無罪だということを知らせに呼びに行こうかと思いましたがあまりに真剣に取り組んでいたのでしばらく呼ぶのを控えさせてもらいました」


(シロって「罪人かそうではないか」の方かよ!)


「じゃあなんで私はここに呼ばれたのでしょう」


「あなたの正体が依然としてわからないからですよ」


 ワンドの雰囲気が急に変わった。こちらがこの審判の本当の目的だったようだ。


「あなたはどこから来ましたか?」


「どこから、と言われても……」


(この世界に来たらこの森の近くにいました、なんて言っても絶対に信じてくれないしな、どうすれば……)


 そうして彼は一つの申し出をする。


「すいません、どう答えたらいいのかわからないんです。嘘を見破る魔法みたいなものがあるなら私にかけて頂けませんか?」


「それは大丈夫ですよ。ここにあるバーチ、外交を担当している者は特殊な「眼」を持っていましてね、嘘をついているかどうかが分かるんですよ。ですからどうぞ正直に話してくれて構いませんよ」


(こわ! この人丁寧な口調なのにどうしてこんなに怖いの? それに特殊な「眼」って、いわゆる邪眼か?)


「そうですか、では最初の質問の答えを。私はこの森の側から来ました」


「当たり前のことを言いますね、この森の側を通らずしてこの森に来れるわけがありませんのに。まぁいいでしょう。次の質問に移ります。あなたの所属はどこですか?」


「どこにも所属はしていません」


「それは困りますね、どこにも所属していないと言うことは、つまり私たち「連合」の者ではないことになりますので、敵、即ち「ソウル」側の者と言うことになりますが」


「お言葉ですがワンドさん、その「ソウル」とやらもあなた方「連合」の敵なのでしょう?私はどこの組織にも属していない、そう言ったんです」


「嘘、ではないのか」


 ワンドはバーチに目をやり、嘘でないことを確認する。部下には信頼を置いているワンドだが、この時だけは嘘ではないことが信じられなかった。なぜならこの世界において両組織に属していないのはからである。事実、バーチもそのことに疑問を抱き何回もまばたきしながら白の嘘を見破ろうとするが何一つ嘘はついてない。


「失礼なことを聞きますが、あなたの種族はじゃないんですか?」


「人間ですよ。少なくともステータスにはそう書いてあります」


 そう言って彼はステータスを見る




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