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発病
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※吐血の描写があります。苦手な方はご注意ください。
手遅れに注意ーーか。
俺ってもう既に手遅れなんじゃないか、と心の中で自嘲した。背筋をすうっと冷たい汗が伝い、身体の奥が一瞬だけ凍りついた。
そんな俺の様子を見て落ち込んだと勘違いしたのか、蓮君は俺のことを励ましてくれた。そのおかげで少しだけ心が軽くなった。
「末吉でもきっと大丈夫ですよ、また来年リベンジしに来ましょうね?」
来年......。果たして俺は来年まで生きれているかな。生きれていたとしても、もう自由に外に出られる身体じゃないかもしれない。そんな未来を想像して心の中に黒い靄がかかったような気分になった。
「....俺に来年なんて来るのかな」
ぽつりと心の声がこぼれた。その瞬間、しまった!蓮君に聞かれたかもしれない。と動悸がした。
ただ、幸いなことに蓮君にその声は届いていないようだった。
「??葵さん、何か言いました?」
「......ううん。来年も...そうだね一緒に来ようね」
俺はちゃんと笑顔で言えてただろうか。今はもう、少しずつ演じるのも上手くなってきた気がしたのに、蓮君を前にするとつい気持ちが緩んでしまう。その手に縋り付きたくなってしまって、弱い自分を曝け出しそうになった。
「じゃあ、葵さん。今日は楽しかったです。またすぐ会いましょうね」
「うん。ここまで送ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね。」
ひらひらとにこやかに手を振ったあと、蓮君は俺に背を向けて歩き出した。
やっと、蓮君との距離の取り方がわかってきたところなのにな。そう思うとなんだか残念で、悲しくて
——心にぽっかりと大きな穴が開いたような感覚がした。
ほんのわずかな時間だったけど、笑って、話して、歩いた——それだけで、胸の奥から温かな気持ちが溢れてくるような気がした。
「ただいま。」
「......お帰り。話がある、母さんに。」
初詣から帰ると瑠夏が酷く怒った顔で俺のことを見つめていた。その声は俺が今まで聞いたこともないように低く、ぴりぴりとした空気が俺の肌を刺す。
「ばあちゃんから聞いたよ。なに、この薬の量......いつから!?ねぇ!どこが悪いの!?」
瑠夏は、俺が飲んでいる薬が入った袋を突き付けた。あちゃ、瑠夏に知られちゃったか。でも心なしか気持ちが少し楽になった気がする。
ほんとは心のどこかで、瑠夏に知ってほしかった、気づいてほしかったんじゃないかと思った。そう考えたら少しだけ、瑠夏の前だけは頑張ろうと張り詰めていた糸がふっと緩んで気が抜けてしまった。
その刹那ーーー
「母さんはだいじょ......っ!?ごふっ、ごほっ......!!」
声にならない咳が漏れ、胸をナイフで突き刺されたような痛みが走る。次の瞬間、両手で抑えきれないほどの血を吐き出した。
あぁーーこれはやばい。ゆっくりと目を開け、両手を見つめる。手に染み込んだ赤が、目の前で鮮明に広がっていく。
「...やっぱダメだった、かな......。」
力尽きて、その場にどさりと倒れ込んだ。全身の力が抜けて、身体を思うように動かせなくなった。視界も狭まり、霞がかかってきた。このまま死ぬのかな、俺。
「??かあ......さ、ん??な、なにっ......そ、れっ!?」
瑠夏の驚いた声が遠くから聞こえた。耳鳴りが酷く、すぐ近くにいるはずの瑠夏の声すら、もう俺には届かなくなっていた。
そして声を発することさえ困難になっていた。
ただ、心の中でひたすら瑠夏に伝えたかったことが一つずつ浮かんできた。
「ごほっ......ごほっ......。」
咳をするたびに鮮血が目の前に散っていく。
ごめん。ごめんな、瑠夏。最後まで良い親でいられなかった。でも、瑠夏ならきっと大丈夫。俺がいなくても、こんなに強くて、優しい子なんだから。
はぁ。結局、瑠夏の晴れ姿はこの目で見れなさそうだな......。なにかあったら母さんのことを頼るんだよ。
心の底からずっとずっと愛してるよ、瑠夏。
母さんも......息子が先に死ぬなんて嫌だよな。あんなに俺のこと必死に支えてくれたのにごめん。母さんの言った通り、やっぱり瑠夏にも早く病気のことを伝えておくべきだったのかもしれない。
今更、こんな後悔しても遅いよね。瑠夏のこと頼んだよーー。
そうだ、蓮君にもちゃんと謝らないと。本当はね、好きだったよ。ちゃんと気持ちを伝えたかった。もし許されるのなら、蓮君と番になりたかったな。最後に我が儘でもいいから、別れ際キスでもしてもらえたら......なんて思った。
だけど寂しくなるからちょっとだけ、ほんのちょっとでもいいから......俺のことを思い出してくれたら嬉しいな。
あれ、後悔なんてないと思ってたのにこんなにも心に残るものがあったなんて。
あぁ、意識が遠のいていく。消えゆく意識の中で、蓮君が必死に俺の名前を呼んでいる声がかすかに聞こえた気がした。
たとえ、これが幻聴だったとしても、最後にその声を聞けただけでもう十分だった。
意識を完全に手放す直前、一筋の涙が静かに頬を伝った。
手遅れに注意ーーか。
俺ってもう既に手遅れなんじゃないか、と心の中で自嘲した。背筋をすうっと冷たい汗が伝い、身体の奥が一瞬だけ凍りついた。
そんな俺の様子を見て落ち込んだと勘違いしたのか、蓮君は俺のことを励ましてくれた。そのおかげで少しだけ心が軽くなった。
「末吉でもきっと大丈夫ですよ、また来年リベンジしに来ましょうね?」
来年......。果たして俺は来年まで生きれているかな。生きれていたとしても、もう自由に外に出られる身体じゃないかもしれない。そんな未来を想像して心の中に黒い靄がかかったような気分になった。
「....俺に来年なんて来るのかな」
ぽつりと心の声がこぼれた。その瞬間、しまった!蓮君に聞かれたかもしれない。と動悸がした。
ただ、幸いなことに蓮君にその声は届いていないようだった。
「??葵さん、何か言いました?」
「......ううん。来年も...そうだね一緒に来ようね」
俺はちゃんと笑顔で言えてただろうか。今はもう、少しずつ演じるのも上手くなってきた気がしたのに、蓮君を前にするとつい気持ちが緩んでしまう。その手に縋り付きたくなってしまって、弱い自分を曝け出しそうになった。
「じゃあ、葵さん。今日は楽しかったです。またすぐ会いましょうね」
「うん。ここまで送ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね。」
ひらひらとにこやかに手を振ったあと、蓮君は俺に背を向けて歩き出した。
やっと、蓮君との距離の取り方がわかってきたところなのにな。そう思うとなんだか残念で、悲しくて
——心にぽっかりと大きな穴が開いたような感覚がした。
ほんのわずかな時間だったけど、笑って、話して、歩いた——それだけで、胸の奥から温かな気持ちが溢れてくるような気がした。
「ただいま。」
「......お帰り。話がある、母さんに。」
初詣から帰ると瑠夏が酷く怒った顔で俺のことを見つめていた。その声は俺が今まで聞いたこともないように低く、ぴりぴりとした空気が俺の肌を刺す。
「ばあちゃんから聞いたよ。なに、この薬の量......いつから!?ねぇ!どこが悪いの!?」
瑠夏は、俺が飲んでいる薬が入った袋を突き付けた。あちゃ、瑠夏に知られちゃったか。でも心なしか気持ちが少し楽になった気がする。
ほんとは心のどこかで、瑠夏に知ってほしかった、気づいてほしかったんじゃないかと思った。そう考えたら少しだけ、瑠夏の前だけは頑張ろうと張り詰めていた糸がふっと緩んで気が抜けてしまった。
その刹那ーーー
「母さんはだいじょ......っ!?ごふっ、ごほっ......!!」
声にならない咳が漏れ、胸をナイフで突き刺されたような痛みが走る。次の瞬間、両手で抑えきれないほどの血を吐き出した。
あぁーーこれはやばい。ゆっくりと目を開け、両手を見つめる。手に染み込んだ赤が、目の前で鮮明に広がっていく。
「...やっぱダメだった、かな......。」
力尽きて、その場にどさりと倒れ込んだ。全身の力が抜けて、身体を思うように動かせなくなった。視界も狭まり、霞がかかってきた。このまま死ぬのかな、俺。
「??かあ......さ、ん??な、なにっ......そ、れっ!?」
瑠夏の驚いた声が遠くから聞こえた。耳鳴りが酷く、すぐ近くにいるはずの瑠夏の声すら、もう俺には届かなくなっていた。
そして声を発することさえ困難になっていた。
ただ、心の中でひたすら瑠夏に伝えたかったことが一つずつ浮かんできた。
「ごほっ......ごほっ......。」
咳をするたびに鮮血が目の前に散っていく。
ごめん。ごめんな、瑠夏。最後まで良い親でいられなかった。でも、瑠夏ならきっと大丈夫。俺がいなくても、こんなに強くて、優しい子なんだから。
はぁ。結局、瑠夏の晴れ姿はこの目で見れなさそうだな......。なにかあったら母さんのことを頼るんだよ。
心の底からずっとずっと愛してるよ、瑠夏。
母さんも......息子が先に死ぬなんて嫌だよな。あんなに俺のこと必死に支えてくれたのにごめん。母さんの言った通り、やっぱり瑠夏にも早く病気のことを伝えておくべきだったのかもしれない。
今更、こんな後悔しても遅いよね。瑠夏のこと頼んだよーー。
そうだ、蓮君にもちゃんと謝らないと。本当はね、好きだったよ。ちゃんと気持ちを伝えたかった。もし許されるのなら、蓮君と番になりたかったな。最後に我が儘でもいいから、別れ際キスでもしてもらえたら......なんて思った。
だけど寂しくなるからちょっとだけ、ほんのちょっとでもいいから......俺のことを思い出してくれたら嬉しいな。
あれ、後悔なんてないと思ってたのにこんなにも心に残るものがあったなんて。
あぁ、意識が遠のいていく。消えゆく意識の中で、蓮君が必死に俺の名前を呼んでいる声がかすかに聞こえた気がした。
たとえ、これが幻聴だったとしても、最後にその声を聞けただけでもう十分だった。
意識を完全に手放す直前、一筋の涙が静かに頬を伝った。
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