独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

文字の大きさ
31 / 60

食事会

しおりを挟む
 蓮君からご両親の話を聞いてから二か月後、俺は新調したスーツに身を包んで、蓮君のご両親が待っているという料亭にこれから向かう予定だった。

 まだ会ってすらいないというのに、緊張と不安で心臓がバクバクと脈打っていた。

 おかしな点はないだろうか。ネクタイは曲がってない?、忘れ物は?マナーは大丈夫かな......。あぁ、こんな心配になるならもっと勉強しておけばよかったかも。と刻一刻と時間が迫るたびに不安はどんどん募ってきた。

 鏡の前で「こうかな??いやこっちの方が...」と悩み続けて、すでに三十分以上は経っていた。

 このスーツは瑠夏に選んでもらったものだ。「蓮君の親御さんと会うんだよね」と話をしたとき「じゃあ今からスーツでも買いに行こうよ」と一緒に買いに行ってくれたことを思い出した。

 スーツだけに関しては、瑠夏が選んでくれたものだから心配はしていなかった。問題はそれ以外なんだけどね。

「葵さんもう出れそ......ふふっ、もうまーだやってるの?大丈夫。葵さんは今日もキレイだよ。」

「そういうことを言ってるんじゃなくーー!?」

 ふにっと温かい感触が唇に触れた。

「じゃっ、下で待ってるね、」

「もう......」

 まったく。これから蓮君のご両親に会いに行くというのに、緊張感はないのだろうか......いや、自分の両親を前に緊張するわけないか。

 俺は頬をばちんと叩いて気を取り直す。

 さて、今日の俺の役割は出しゃばりすぎないこと!!そして蓮君と蓮君のお父さんで話をさせること。俺のお節介だろうけど、二人の関係が少しでも良くなることを願いながら、家を出た。

 俺は車に乗ってる最中も、そわそわと落ち着かずにはいられなかった。

「そういえば。今日どこで蓮君のご両親と会うの?」

「あぁ、今日はここでご飯食べるらしいですよ」

「......まじ?」

 そう言って蓮君が見せてきた写真には、あの超有名な三つ星がついてる和食屋さんの画面が映し出されていた。そこは予約がもう一年先まで埋まってるとか、そんなレベルのお店だった。

 そんなところに今から行くって知ったらますます動揺するに決まってるじゃんね。聞いたことを少しだけ後悔した。

 俺が心配して「テーブルマナーの勉強もっとしておけばなぁ」とぼやいていると

 蓮君は「個室だからテーブルマナーもそんなに堅苦しくないと思うけどね」と笑っていた。

 今日はただ美味しいご飯を食べるだけ。それと、蓮君のサポートをすること。この二つを忘れないように心の中で反芻した。

「あ、葵さん着いたよ。」

「うわぁ...ここテレビで見たことある場所だ。」

 ただ、意外とお店の前は高級店!という感じではなく、どちらかというと庶民向けのような雰囲気で少し拍子抜けした。

 テレビで見たときはなんかもっとこう、キラキラしてる感じだったんだけどな。

 けれど、店の中に足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。外観と違って中は一気に和の世界に切り替わっていた。店内の中央には竹や小さい松の木が植えてあり、店の中に木??と想像の斜め上を行く空間に少し困惑した。

 さらに奥に進めば受付のような場所が現れた。そこで蓮君が慣れた様子でウェイトレスに要件を伝えていた。

「はい。美園様ですね。すでにお連れ様が中でお待ちでございます。個室までご案内いたします」

 ついに来てしまった。蓮君のご両親が待つ個室の前に。手の平にはじんわりと汗が滲んできた。

 扉がウェイトレスによって静かに開かれた。中にいた蓮君のご両親と視線が合った。見た瞬間に感じ取った。これは...両親ともにアルファだ。

「それではどうぞごゆるりと」

「葵さん、席こっち。荷物はここに置いてね」

「...あ、あぁ。ありがとう。」

 つい、蓮君のご両親の圧のようなものにやられてぼーっとしてしまった。さすが蓮君だ。こういう場所きっと慣れてるんだな。

「初めまして。私は立花葵と申します。この度はお食事にご招待いただきまして、ありがとうございます。」

 俺は深々と頭を下げた。

「そんなに畏まらなくていいのよ。あなたが...蓮の恋人ね。初めまして、蓮の母の麗華れいかです。」

 はぇ!?なんで付き合ってるってバレてるんだ??と焦って、蓮君の方をちらっと見ると、怒られる寸前の子犬のような顔をしていた。あぁ、うっかり言っちゃったんだろうな蓮君。まぁ、お付き合いしてますって言う手間が省けたからいっか。

「ほら、あなたも挨拶して?」

「......蓮の父の慎一郎しんいちろうだ。」

「ごめんなさいね。この人いつもこんな調子だから、気にしないでちょうだいね。」

「いえ!全然大丈夫です!!」

 どうやら、蓮君の整った顔立ちは両親譲りみたいだが、特に母親の麗華さんとはそっくりだった。ぱっちりとした目元や、薄い唇が蓮君にそのまま受け継がれているように感じた。

 対して、父親の慎一郎さんとは、あんまり似ていないような気がする?麗華さんの遺伝子が強いのだろうか?それとも、蓮君の内面がお父さんと似ているのかな?

 どちらにせよ、話をしてみないと分からないな。まだ挨拶しかしていないのに、少し緊張感のある空気が個室を漂っていた。

 この食事会大丈夫かな...。胃がキリキリと少し痛み始めた。

しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...