独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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番外編

瑠夏の報告02

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「へぇ、瑠夏。こんなおしゃれな所で飲んでるんだ。いいね。」

 落ち着いた照明に、流れるクラシックの音。ここのバーは、変にナンパをしてくる客もいないし、落ち着いていて平和だ。

「でしょ?穴場みたいで気に入ってるんだ。まぁ、教えてくれたのは凪なんだけどね。」

「そうだよ!俺、その凪君の話聞きたいんだよ!」

 そう、俺が今日伝えたかった大事な報告とはーー俺と凪が結婚することだ。

 今日はその報告を早く母さんにしたくて仕方なかった。

 とりあえず本題に入る前に飲み物を頼んだ。母さんはモスコミュール、俺はブランデーを頼んだ。

「まずは、乾杯しよっか。」

「そうだね、乾杯。」

 グラスをコツン、と静かに鳴らす。一口飲むと、香りが華やかで甘やかな味が舌を撫でる。

「早速なんだけど、凪君とはどう??」

「あ~それが、さ。結婚するんだ......凪と。」

「......」

 さらりと言ってしまったからか、母さんからの返事がない。

 あれ?なんかまずった!?と恐る恐る、視線を写すと母さんは涙を堪えていた。

「えぇ、なんで泣いてるの。」

「だって......だって瑠夏が幸せになってくれて嬉しくてさ......。そっかぁ、おめでとう。」

 母さんは、俺が子どもの頃と変わらない優しい手付きで、そっと頭を撫でてくれた。

「これで、泣いてたら結婚式どうするのさ」

「あはは。本当に、そうだよね。蓮はもうこのこと、知ってたでしょ?」

「そりゃね。凪も蓮と同じ大学だったし。」

「じゃあ蓮、俺に隠してたんだ。」

「俺が口止めしてたからね。」

「じゃあ、しょうがないか。ふふふ、幸せになってね。瑠夏。」

「ありがとう、母さんもね......いや、母さんはもう幸せか。」

「まぁね。はぁ~、それにしても瑠夏も結婚か......なんか寂しいな。」

「俺も、母さんが蓮と結婚するって聞いたとき、ちょっと寂しかったんだからね。」

「こういう気持ちだったんだね。ちょっとニュアンスは違うかもだけどさ。」

 母さんはグラスに入ったお酒をしばらく見つめたあと、それから小さく一口、喉へ流し込んだ。

「今日は俺が奢るよ。瑠夏の結婚祝いでさ」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

 この日、俺はペースを落としながらお酒を飲んでいたから、潰れることはなかった。

 ......が、母さんはこれがまぁ見事にできあがっていた。俺が「もう飲むのやめな??」と止めても

「まだ、飲めるから大丈夫だって~。酔ってないし~」

 と繰り返し言いながら、笑ってスルー。

 これは潰れるだろうなと察して、仕方なくこっそり蓮にバーの住所を送っておいた。

「る~か~。もう、かえんろ?まら、のみたりらいよ~。」

 眠たげに母さんがぽやぽやと呟いた。

「はいはい。今から、旦那さんがお迎えに来ますからね。」

「......だんら~?だれの?」

 目を細めながら、母さんは不思議そうに小首をかしげ、そのまま寝てしまった。

 カランコロン、という音とともに扉が開いた。連絡を入れてからまだ数十分しか経ってないのに、蓮が母さんを迎えに来た。いやいくらなんでも早すぎだろ、と心の中で苦笑いをした。

「お、呼び出してごめんな。蓮。」

「いいって別に。......にしても、まーた結構飲んだね。葵、瑠夏の結婚がよっぽど嬉しかったんだろうね。」

「まぁうん。それは嬉しいんだけど......飲むペースは考えてほしいよな。いくら酒が弱くないとはいえさ?」

「平気。今日は美智子さんに玲音預かってもらってるし、あとでたーっぷり言っとくから、安心して。」

「......それならいいけど。」

 蓮は突っ伏して寝ている母さんを軽々と抱き上げた。あぁ母さん......。これから蓮に説教されるのかと思うと、少
し気の毒に思った。

「あ、そうだ。出海君もここのバーにあと十分後ぐらいに着くって。」

「それ、蓮が言ったんだろ?」

「俺は葵と帰るけど、瑠夏は出海君と帰ったほうがいいじゃん?」

 蓮のさりげない気遣いに心が温かな気持ちに包まれた。てか、いつの間に連絡先交換してたんだ。

「じゃあな、瑠夏。俺はこれから葵におしおきしなきゃだから。」

「はいはい。またね、蓮。母さんにも”楽しかったよ、また会おうね”って伝えといて。」

「りょーかい。」

 蓮は母さんを抱っこしたまま、店を出て行った。それとほぼ同じタイミングで凪が入って来た。

「今、たぶん美園君と瑠夏のお母さんとすれ違ったよ。結構酔ってたみたいだけど大丈夫なの?あれ。」

「あぁ、割とああいうの多いから、気にしないでいいよ。」

「そうなんだ。今度正式にご挨拶したいな。この前はさらっとお会いしただけだったし。」

「そうだね。それと、結婚のこと泣いて喜んでくれたよ。」

「そっか 良かった。」

 凪は軽く俺の手を握った。凪の方を見ると少し耳が赤らんでいた。

「......明日さ、一緒に結婚指輪......見に行きたい。」

 いつも人前ではクールなくせに、こういうときだけ甘えたになるのも愛おしく感じる。

「うん 凪に似合うのを選ぶよ。」

 グラスの氷が小さく「カラン」と鳴った。

 穏やかな夜の店内に、温もりに満ちた柔らかな空気が漂っていた。

***

「立花先生!おはようございます!!えっ、それ指輪!?いつもしてなかったよね!?」
「あっ!!ほんとだ!!キラキラしてる!!」

「おはよう。うん実はね......。」

 昨日、凪と「生徒たちにバレないといいね」なんて話してたばっかりだったのに。子どもたちってそういうところ意外とよく見てるんだな。

「えぇ~私、立花先生と結婚したかったのにぃ~。せんせーい今からじゃダメですか~??」
「もう遅い??」

「えぇ~、そうだなぁ......。」

 こういうとき、なんて返せば正解なのかが未だに分からない。同い年ならともかく、生徒相手となると当たり障りのない言葉選びが難しい。

 どう言おうか考えていたそのとき、廊下から速足で誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。

「二人ともごめんね。伝達事項があるから立花先生のこと少し借りるね。」

 凪は口元こそ緩く弧を描いていたけど、その目は軽く据わっていた。

「うん!分かった......え、ちょっとまって、今出海先生も指輪してなかった??」
「え!?出海先生も結婚したの!?」
「「......これってまさか!?」」

 ”きゃ~っ”という悲鳴に似たような声を背中で聞きながら、俺は凪に空き教室に連れて行かれた。あぁこれ、完全に嫉妬してるときのやつだ。思わず口角が上がってしまう。

「ふふ、生徒相手でもダメなの?」

「ダメ。瑠夏は俺だけのだから。」

 口を尖らせながら不機嫌そうに言う凪の姿が、可愛くて仕方なかった。今すぐにでも抱きしめたかったけど、その衝動をなんとか抑え込んだ。

「分かった。気を付けるよ。」

「......うん、ならいい。ごめん、勝手に連れてきちゃって。それだけだからじゃあーー」

「凪。」

 振り返った凪の腕を引き寄せて、俺はキスをした。

「凪もさ、そんな可愛い顔......俺以外に見せないでね。」

「~~~っ!瑠夏のばか!」

 結婚指輪をつけて出勤した俺たちは職場でちょっとした騒ぎを巻き起こしたのはーーまた別の話。

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