死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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4.

「あ~あ。なんか、最悪な夢だったな。」

 まだ鈍く痛む頭と足を庇いながら、ベッドから起き上がる。

 ゼノに転生して、まだ一日しか経っていない。

 それでも少しだけ分かったことがある。

(俺とゼノ......似てるな)

 種類は違う。でも、根っこのところで、同じ匂いがする。

「......だから来た、ってか」

 都合のいい理由だと分かっていながら、そう思うことにした。

 俺には、母親がいた。

 ただーー

「誕生日おめでとう。はい、今日からこれを終わらせましょうね。」

 プレゼントは参考書や赤本、テキストの数々。ゲームやおもちゃなんてもってのほかだった。

 外食へ行っても、料理を待っている間は常に勉強で、到底楽しいと思えるような時間ではなかった。

 だから、友達と呼べる人もできなかった。

「友達? ダメに決まってるでしょ」

 その声が、頭の奥で蘇る。

「......っ」

 胃のあたりが、きりきりと痛む。深く息を吸って、吐く。

 ーー大丈夫。あの人は、ここにはいない。

 それだけで、十分だった。

「さて、と」

 今日も今日とて学校だ。

 なにしろ今日はーー

(カリムを遠くから見る)という俺の中での一大イベントがある。行く理由としては十分すぎる。

 休む選択肢など端から存在しない。

 身支度を済ませ、軽く食事を流し込む。外に出ると、昨日と同じ馬車が当然のように待っていた。

(便利すぎるだろ......)

 馬車に揺られながら、考える。

 カリムとアルトをどう自然に結びつけるか。ゲーム内でゼノがアルトにしていたこと、悪役令息という役割が、本来果たすべき立ち位置。

(悪役、やりたくねぇな......)

 けれど、何もしなければルートが壊れてしまう。

 どうすればいい。

 考えがまとまらないまま、学園に着いてしまった。

 馬車を降りた瞬間、思わず足が止まる。

「......すげぇな。」

 このアジームス学園は、英国の城の造形をモチーフにして作られている。

 広大な敷地と校舎の美しさについ見入ってしまった。

 昨日は気づかなかった景色が、目の前に広がっていた。

(ゲームで見たまんま、いや......それ以上か。)

 歩くのだけでも楽しい。

 ーーただし、俺はやっぱり悪役令息だ。

「......あら、ヴェリタス様じゃありません?」

 声が刺さる。

「また誰かに嫌がらせでもなさるのかしら。」

 視線が、冷たい。

 すれ違うたびに距離を取られ、ひそひそと囁かれる。

 教室に入れば、机には落書き。引き出しにはゴミ。

「......分かりやす。」

 思わず苦笑する。

(まぁ、このくらいは当然か。)

 ゼノがやってきたことを考えれば、これくらいは軽い方だ。

「はーい、席に着きなさい」

 教師が教室に入ってくる。

「......ごほんっ」

 教師はなぜかこちらを見て、咳払いをする。

(......あー)

 なんとなく察した。

(ゼノ。まともに授業出てなかったな。)

 授業が始まり、ノートを開く。

 ノートにも落書きや破かれていた箇所はあったが、なんとか隙間を探して、板書を写していく。

(試験、あるのか。)

 記憶を辿るが、試験イベントはなかったはずだ。

(ってことは......今は、何をしても影響されないはず。)

 なら。

「......やるか。」

 小さく呟く。

 原作には関係ないし、ゼノにとっていいことかも分からない。

 でもーー

(ゼノがここにいていい理由くらい、作っとくか。)

 そこからはひたすら勉強した。

 学校でも、家でも、空いた時間は全部机に向かう。

 まさか、こんなところで勉強が役に立つなんてな。

 食事は最低限。用意されていたものと、残っていたパンや果物で繋いでいた。

 ーーこうでも何かに没頭していないと、余計なことを考えてしまいそうだったから。

***

 迎えた試験当日。

 必死に頭に詰め込んだ範囲がかなり出たこともあって、手応えは悪くなかった。

「これにて、試験を終了いたします。皆さま、お疲れ様でした。」

 試験が終わり、教室には解放感があふれていた。

 カツカツとヒールの音を響かせながら、先生が教室を出て行く。

「ふぅ......。やっと一息つける。」

 結果発表は一週間後。クラス順位と学年順位が、講堂の壁際に貼りだされるらしい。手ごたえはあったし、これだけやったんだ。さすがに百位以内には入ってるだろ。

 先生がいなくなると教室は一気に騒がしくなったが、俺は気にせず、さっさと席を立った。

 家に帰るなりベッドへ倒れ込む。食事?そんな余裕はない。疲労が全身に重くのしかかる。

 試験中に必死で詰め込んだ知識は、かなり役に立った。ーー百位以内?いや、もっと上かもしれない。

 結局、試験期間中もカリムに会うことはできなかった。カリムとアルトのクラスでさえ、分からない状態だった。

 悶々とした感情を抱きながら、俺は眠りに落ちた。

 一週間後、講堂の前にはすでに人だかりができていた。そこは試験の結果に一喜一憂する学生たちで、騒々しい空間になっていた。

 俺の結果は......まぁ、今さら気にしても仕方ないか。

 そう思い、掲示板には目もくれず、そのまま教室へ向かったーーのだが、この日はなぜか、いつも以上に視線を感じた。

(......俺、なんか恨みでも買ったかな。)

 視線に居心地の悪さを感じつつ、俺は放課後になるのを待った。

 けれど、アルト......第一王子は愚か......まだ、誰とも会えてはいなかった。

 ーーこうなったら

「手当たり次第に教室を回るか。」

 まだ学生が残る時間帯、何十もの教室を片っ端から覗いて回る。しかし、どこにもアルトの姿はない。

 そのとき、背後から声がかかった。

「ヴェリタス君。この後、少しお話いいかしら?」

 振り返ると、見慣れた笑顔の先生ーーだが、どこかぎこちなく、妙に硬い。

「は、はい......大丈夫です」

「よかったわ。そんなに長く時間は取らないから、空き教室に行きましょうか。」

 ......ひぇっ。先生の笑顔が妙に胡散臭く見えた。

 俺、なんかやらかしたか?
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