死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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23.

「なぁ。お前は今の生活に、満足しているのか?」

 もう眠りに落ちそうで、うとうとしていたとき、不意にそう問われた。

「今の生活ですか? そうですね......あまり自分のことを考えたことはないですけど、不自由はしていないので。満足、していると思います。」

 質問の意図が分からない。果たして、答えになっているだろうか。

「ゼノは......誰かと結ばれたい、何かを成し遂げたい。そういう感情が、欲はないのか?」

 誰かと結ばれたい、成し遂げたい......。少し考えてから、俺は答えた。

「俺は、カリム様が幸せになってくだされば、それで満足です。」

「ふっ、そうか。なら、お前は俺と他の誰かと結ばれたらどう思う?」

「それは......。」

 言葉が詰まる。

 本来なら、カリムの幸せを願うはずなのに、なぜか胸の奥がざわついた。何かが引っかかって、素直に「嬉しい」と言えない。

 カリムは俺の反応を見て、指先を絡めてくる。

「......俺は、気づいたら、ずっとお前のこと考えていた。気に食わないし、苛立つのに、なぜか目が離せなかった。」

「だから......お前のことを好きになったんだろうな。」

 青天の霹靂だった。

 嬉しいとか驚きとかよりも、「なぜ俺なんだ」という戸惑いが先に来る。

「どうして、俺なんですか。」

「好きでもない相手に、わざわざ飯を持っていったり、好きなところを言わせるとかめんどくさいことをすると思うか?」

「もし、ここでお前がきっぱり答えていたら諦めるつもりだった......。でも、違うだろ?」

 真剣な眼差しだった。冗談ではない。

 ーー分かっている。この感情の正体は。

 それでも認めたくなかった。

 推しへの感情が、恋に変わっているなんて。

「一つ......俺の身の上話をさせてください。カリム様も気になっていたでしょう?」

 答えから逃げるように、話題を逸らす。カリムは無言で頷いた。

「俺は......記憶の限りでは、誰からも愛されたことがありません。いつも一人で、孤独で......生まれてきたことですら、祝福されることはありませんでした。」

「自分が忌み嫌われて、邪険にされるのはそういう宿命なんだと、自分に言い聞かせていました。」

「ですが、転機があったんです。」

「転機?」

「はい。アルトの存在です。学園に入学してから、彼だけが俺をぞんざいに扱うことなく、一人の人間として、対等に接してくれたんです。」

 気づけば、自然と言葉は溢れていた。自分でも驚くほど、勝手に言葉が浮かんでくる。

「こんな俺にも、心優しく関わってくれる人がいるんだと......嬉しかった。」

「......でも、アルトは俺だけにその優しさを向けてくれることは決してなかった。アルトの視線はいつも俺ではなく、カイラス様やカリム様に向いていた」

「......羨ましかったんです。そして、独り占めしたいと思ってしまったんです。」

「だからお前は、アルトに嫌がらせを?」

「仰る通りです。どんな形でもいいから、俺という存在を記憶に残したかったんです」

「結果的に、困らせるだけでしたけど。」

 視線を下げ、苦笑しながら話した。

「なら、なぜ三年生になってやめた?」

「......気づいたんです。何をやっても、埋まらないなって。」

 ぽつりと答える。

「この空いた穴は、たとえ、アルトの気持ちを独り占めしたとしても、誰にも埋められない。そう分かったんです。」

「過ちに気づいたからといって、いまさら許してもらおうとも思いません。......今のままで十分なんです。」

「きっと俺には、誰かを愛していい、愛される資格なんてない。でも、今のカリム様にあります。......とても眩しいです。」

「ですから、カリム様が添い遂げたいと思っている方がいるのであれば、俺はその人と結ばれるべきだと思います......。」

 ーー本当は、(その人と結ばれるべきです)なんて言いたくないくせに。

 心の奥で、何かが軋んだ。自分の気持ちが分からない。ぐちゃぐちゃだ。

「そうか......。お前はそういうやつだったな」

 カリムは独り言のように小さく呟いた。

「近づいたと思えば、またすぐに離れていく......。だから、すぐに死んでもいいなんて......。」

 最後の言葉は、よく聞き取れなかった。

「カリム様?」

 声が沈んでいくカリムのことが気になって、顔を向ける。

 すると、後頭部を引き寄せられ、唇が触れる。

 あまりにも突然で、思考が止まった。

 カリムに触れられた場所が一気に熱を帯びていく。

「......ゼノ。俺の前で泣くな。」

「何かあれば、俺を頼れ。分かったな。」

「......はい。」

 それだけ言うと、カリムは俺を抱き寄せたまま眠りに落ちた。

 俺はしばらく、動くこともできなかった。

 ーーいつの間に、泣いていたんだろう。頬に残る冷たい感触で、それを知った。

 カリムとのキスは、まるで甘いお菓子みたいだった。

 ......こんなに温かいんだな。このまま眠ろうと目を閉じる。

 ーーけど。

 ......この状態で、寝られるわけないだろ。
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