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12.アインスside
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シューンのいないこの世界は酷く虚無だ。なにもない。ただ先の見えない真っ暗な闇が延々と広がっているように感じる。
ベッドから目を覚ましたとき、隣で眠っていたはずのシューンの姿は、すでにそこにはなかった。寝ていた場所に手を伸ばしてみても、残っているのは冷え切ったシーツだけで、温もりはどこにもなかった。
きっと、俺が起きる何時間も前に部屋を出て行ったのだろう。テーブルの上にはシューンの手書きの手紙が、何通か置いてあった。
手紙に目を通せば、今までの俺への感謝と謝罪の言葉で埋められていた。
「紙切れ数枚で、また俺たちの関係を終わらせようとするなんて......。ははっ、これで二回目だね。」
乾いた笑いが漏れた。これで俺たちの夫夫生活を終わらせられると思ってるシューンも、愛おしいけどね。
いずれにせよ、シューンは、何も考えずに衝動的に行動するような人間じゃない。おそらく何年も前からこのときのために準備していたに違いない。俺が起きなかったのも、唇を重ねたときに速溶性のある睡眠薬か何かを盛られたからだろうな。俺としたことが、少し油断したな。
もっとも、だからと言って慌てる必要もない。居場所は、俺が渡した指輪をシューンが外さない限り、把握できるようになっている。連れ戻そうと思えば簡単だ。
それに、逃亡先を選ぶとしたら、どこの国へ行くにも不便のないダリアーーおそらくここを目指すはずだ。
だけど、今すぐ連れ戻したところで、シューンの不安は何も消えない。それでは、ただ現状維持したままで、その場で足踏みをしているだけだ。
シューンがいなくなった原因の目星はついている。ーーそれは父上だ。
おそらく、何かシューンに吹き込んだのだろう。そうでもなければ、シューンが俺の前から姿を消す理由がない。
ラウドからも報告があったが、シューンと父上が何度か二人きりで話しているところを見かけたと言っていたから、その可能性は高い。
父上は、俺とシューンの結婚を快く思っていなかった。だからこそ強硬手段に出たのだろうな。
隠居している以上、俺たちのことに関して口出しはあまりしてこないだろうと、踏んでいたのだが、予想は外れた。もっと早くに潰しておくべきだったか。
シューンと結婚できたことが嬉しくて、つい浮かれていたのかもしれない。足元を掬われたような感覚に虫の居所が悪くなった。
加えて、シューンがいなくなったタイミングも、明らかに計算されているようで余計に俺を苛立たせた。
まずは、この父上をどうにかしなければ、シューンを連れ戻しても意味はない。
ーー辺境伯にでも行ってもらうか......。
辺境伯に送るのは、そう簡単なことではないが、口実と手はずは、すでに整っている。父上が宰相だった時代、そして隠居後も続けている不貞行為についての情報は、セフィラとラウドから証拠とともに報告されている。
それに、シューンが姿を消した日から俺は事前に偽の情報を流すように指示している。
「マーシュ。ラウド。セフィラ。シューンは今、病で床に伏せていると皆に伝えてほしい。シューンは必ず俺の元に連れて帰る。」
「承知いたしました。もともとシューン様の従者は私一人しかおりませんから。お任せください。」
「んじゃ、俺とセフィラでお前の親父のことを徹底的に洗えばいいんだな。」
「あぁ、頼んだ。」
「アインス。あんま、シューンのこといじめてやるなよ。」
「......分かってる、」
シューンに怒りを感じているのも事実だった。俺の愛を信じてくれなかったこと。何より相談さえしてくれなかったことが悲しかった。同時に、己の未熟さを痛感した。
ーーこうなるくらいなら、いっそのこと監禁でもしてしまえばよかったか......。
ーーなんてね。こんな考え、シューンには隠し通さないと。学生時代にあんなに手を回してやっと一緒になれたんだ......。せっかく、ここまで積み重ねてきたものが、俺のせいで恐怖を植え付けでもしてしまえば、すべてが泡となって消えてしまう。
今はーー父上をどう貶めるか。
そういえば、以前シューンが公務中に気がかりな点があると父上に相談したことがあったらしい。
けれど、返ってきた言葉は「気にしなくて良い」の一言だけで、聞く耳をまったくもたれなかったと、ぼやいていたときがあった。
証拠としては弱いが、シューンに勘付かれていた時点で、あなたは詰んでいたんですよ。
この話をまずは、説得力の高いセフィラとラウドに流してもらった。マーシュにも周囲のメイドたちへ、父の情報をそれとなく漏らすように指示している。
その甲斐あって、今、王宮内は父上を支持する旧派と、俺を支持する新派に二分されていた。この事実を、父上はまだ知らないはずだ。......俺の情報統制が、うまく機能していたらの話だけど。
そして、一年が経ち、ようやく父上の悪事をすべて洗い出し、裁判にかける手はずが整い始めた頃ーー俺は父上から呼び出しを受けた。
執事長が置いていった書類に目を通す。そこに記されていたのはーー”縁談”の内容だった。
ベッドから目を覚ましたとき、隣で眠っていたはずのシューンの姿は、すでにそこにはなかった。寝ていた場所に手を伸ばしてみても、残っているのは冷え切ったシーツだけで、温もりはどこにもなかった。
きっと、俺が起きる何時間も前に部屋を出て行ったのだろう。テーブルの上にはシューンの手書きの手紙が、何通か置いてあった。
手紙に目を通せば、今までの俺への感謝と謝罪の言葉で埋められていた。
「紙切れ数枚で、また俺たちの関係を終わらせようとするなんて......。ははっ、これで二回目だね。」
乾いた笑いが漏れた。これで俺たちの夫夫生活を終わらせられると思ってるシューンも、愛おしいけどね。
いずれにせよ、シューンは、何も考えずに衝動的に行動するような人間じゃない。おそらく何年も前からこのときのために準備していたに違いない。俺が起きなかったのも、唇を重ねたときに速溶性のある睡眠薬か何かを盛られたからだろうな。俺としたことが、少し油断したな。
もっとも、だからと言って慌てる必要もない。居場所は、俺が渡した指輪をシューンが外さない限り、把握できるようになっている。連れ戻そうと思えば簡単だ。
それに、逃亡先を選ぶとしたら、どこの国へ行くにも不便のないダリアーーおそらくここを目指すはずだ。
だけど、今すぐ連れ戻したところで、シューンの不安は何も消えない。それでは、ただ現状維持したままで、その場で足踏みをしているだけだ。
シューンがいなくなった原因の目星はついている。ーーそれは父上だ。
おそらく、何かシューンに吹き込んだのだろう。そうでもなければ、シューンが俺の前から姿を消す理由がない。
ラウドからも報告があったが、シューンと父上が何度か二人きりで話しているところを見かけたと言っていたから、その可能性は高い。
父上は、俺とシューンの結婚を快く思っていなかった。だからこそ強硬手段に出たのだろうな。
隠居している以上、俺たちのことに関して口出しはあまりしてこないだろうと、踏んでいたのだが、予想は外れた。もっと早くに潰しておくべきだったか。
シューンと結婚できたことが嬉しくて、つい浮かれていたのかもしれない。足元を掬われたような感覚に虫の居所が悪くなった。
加えて、シューンがいなくなったタイミングも、明らかに計算されているようで余計に俺を苛立たせた。
まずは、この父上をどうにかしなければ、シューンを連れ戻しても意味はない。
ーー辺境伯にでも行ってもらうか......。
辺境伯に送るのは、そう簡単なことではないが、口実と手はずは、すでに整っている。父上が宰相だった時代、そして隠居後も続けている不貞行為についての情報は、セフィラとラウドから証拠とともに報告されている。
それに、シューンが姿を消した日から俺は事前に偽の情報を流すように指示している。
「マーシュ。ラウド。セフィラ。シューンは今、病で床に伏せていると皆に伝えてほしい。シューンは必ず俺の元に連れて帰る。」
「承知いたしました。もともとシューン様の従者は私一人しかおりませんから。お任せください。」
「んじゃ、俺とセフィラでお前の親父のことを徹底的に洗えばいいんだな。」
「あぁ、頼んだ。」
「アインス。あんま、シューンのこといじめてやるなよ。」
「......分かってる、」
シューンに怒りを感じているのも事実だった。俺の愛を信じてくれなかったこと。何より相談さえしてくれなかったことが悲しかった。同時に、己の未熟さを痛感した。
ーーこうなるくらいなら、いっそのこと監禁でもしてしまえばよかったか......。
ーーなんてね。こんな考え、シューンには隠し通さないと。学生時代にあんなに手を回してやっと一緒になれたんだ......。せっかく、ここまで積み重ねてきたものが、俺のせいで恐怖を植え付けでもしてしまえば、すべてが泡となって消えてしまう。
今はーー父上をどう貶めるか。
そういえば、以前シューンが公務中に気がかりな点があると父上に相談したことがあったらしい。
けれど、返ってきた言葉は「気にしなくて良い」の一言だけで、聞く耳をまったくもたれなかったと、ぼやいていたときがあった。
証拠としては弱いが、シューンに勘付かれていた時点で、あなたは詰んでいたんですよ。
この話をまずは、説得力の高いセフィラとラウドに流してもらった。マーシュにも周囲のメイドたちへ、父の情報をそれとなく漏らすように指示している。
その甲斐あって、今、王宮内は父上を支持する旧派と、俺を支持する新派に二分されていた。この事実を、父上はまだ知らないはずだ。......俺の情報統制が、うまく機能していたらの話だけど。
そして、一年が経ち、ようやく父上の悪事をすべて洗い出し、裁判にかける手はずが整い始めた頃ーー俺は父上から呼び出しを受けた。
執事長が置いていった書類に目を通す。そこに記されていたのはーー”縁談”の内容だった。
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