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ゆっくりと目を開ける。視界にはどこか見慣れた、そして懐かしさを感じる天井が広がっていた。
......そうだ。僕、王国に帰ってきたんだった。それで......アインスに薬か何か盛られて......。そこからの記憶がごっそりと抜け落ちている。
ベッドから起き上がると、すぐそばの椅子にセフィラが腰かけていた。
「お、眠り姫やっと起きたか。気分はどうだ?」
「......特に何もない、かな。」
「そうか......。はぁ、だから言っただろ?アインスがお前のこと離す訳ないだろって。」
セフィラは一呼吸置き、呆れたようにふっと溜息をついた。
「うん......そうだね。」
自分がこの場所にまた戻って来られるなんて思ってもいなかった。現実感が湧かなくて、どこか夢を見ているような気さえする。
「あいつ、シューンがいないと情緒不安定に......。?どうした。やっぱまだ薬が抜けきってないのか?」
「ううん。そうじゃないんだ......。ただ、本当に戻って来れたんだなって。」
「あぁ、そういうこと。無理もないか。シューンもアルフレド様が亡くなったこと、不正行為の数々は知ってるだろ?」
「うん、ここに来る前に、記事で見たよ。......すごくびっくりした。まさか、亡くなるなんてね。」
セフィラはたぶん、アインスがお義父様を殺したことまでは知らないはず。だから、安易にこの話題をこれ以上深掘りするのはやめた方がいいーーそう判断した。
「そうか。じゃあ、ざっくりあいつが何したか話すとするか。あ、アインスがアルフレド様を殺したのは知ってるから、そこは気遣う必要ないからな。」
「......えっ、そ、そうなの?」
なんだか僕は拍子抜けしてしまった。こんなにあっさりしてていいものなのか。
「おう。でな、アインスはアルフレド様の不正に関わった重鎮たちを、騎士団引き連れて一掃してったんだよ。」
「騎士団ってことは......」
「そう。ラウドが率いてるからな。アインス側につくのは確実だった。それで、汚職まみれだった王宮内部を全部洗い直して......最後にシューンを連れ戻したってわけ。」
「......ま、その反応見る限り、ここに来る途中でアインスから聞いてたみたいだな。」
アインスの取る行動は僕のためとはいえ、時々、予想の遥か上をいくときがある。結婚してからも、度々暴走しそうな場面を何度も見てきたつもりだったけど、今回のことは、さすがに僕も驚きを隠せなかった。
きっと、セフィラもラウドも、止めたくても止められなかったのだろう。
そんな話をしているとーー静かに扉が開いた。
そこに立っていたのは、正装に身を包んだアインスだった。僕の姿を見るなり、アインスは駆け寄るような速さで、こちらへ向かってくる。
「お仕置きだなんて言って、酷いことしてごめん。でも、シューンも悪いんだからね。」
アインスは僕の頬にそっと手を添える。アインスの瞳はいつも通りで、この前感じた妙な違和感は消えていた。お仕置きって......そういえば、そんなことも言っていたような?
「おい、俺もいること忘れんなよ。第一、薬剤の調合割合間違えるとかほんと何やってんだよ。」
「うるさいな。事が事だったんだから、しょうがないでしょ。」
「はぁ......。シューンが絡むと、いつもお前は暴走するな。まぁ、いいわ。じゃあなシューン。それと......お帰り。」
「ありがとう、セフィラ。」
セフィラが去ったのを確認すると、アインスは僕のことを強く抱きしめてきた。まるで、僕という存在を確かめるかのように。
「シューンはさ......俺が怖くない?」
アインスは怒られる寸前の子どものような、うるうるとした瞳で僕のことを見てくる。その姿がなんだか可愛くてつい、表情が緩んでしまう。
「怖くないよ。セフィラもラウドもマーシュも、みんな僕のこと鈍感っていうけど......そういうところも含めて、僕はアインスのことが好きだよ。こういうの、重い?って言うんでしょ?」
「シューン!」
アインスは貪るように口づけてくる。僕は久しぶりの感覚に、眩暈がしそうだった。気持ちよくて、蕩けてしまいそうだ。
唇が離れると、アインスは名残惜しそうな表情を浮かべた。それは、僕も同じだった。
「ごめん。本当はもっとしてあげたいんだけど、陛下にシューンと一緒に王宮まで来いって言われてさ。」
「陛下に??分かった。あ、じゃあ今から支度しないとだよね。」
「あぁ、待って。支度するなら適任がいると思うよ。マーシュ。シューンのことを頼むよ。」
「かしこまりました。アインス様。お任せください。」
アインスの背後には、いつの間にか正装を抱えたマーシュが控えていた。アインスが部屋を出て行くと、マーシュは淡々と僕の支度を手伝ってくれる。
「......あのお手紙。屋敷の全員に宛てて書いていましたね。皆、喜んでおりましたよ。」
「......そっか。ごめんね、マーシュ。」
「いえ。私はシューン様に謝っていただきたいわけではございません。ただ、最後までシューン様はシューン様だったな、とこの身で実感したまでです。屋敷の者は皆、シューン様のお帰りを、ずっと心待ちにしておりましたから。」
「お帰りなさいませ。シューン様。」
マーシュの声は涙ぐんでいた。それにつられて、僕の声も少しだけ震えてしまった。
「......ただいま。マーシュ。」
マーシュは手際よく、僕の支度を済ませてくれた後、すぐに下がってしまった。もっと話したかったけれど、これから陛下との謁見が控えてるとなれば、しょうがないか。
すると、マーシュと入れ違いになる形で、アインスが部屋へ入ってきた。どうやら、僕の支度が終わるまで扉の前で待ってくれていたらしい。
「じゃあ、シューン。早速行こうか。」
アインスは僕の目の前に手を差し出す。僕は迷うことなくその手を取り、アインスに微笑み返した。
......そうだ。僕、王国に帰ってきたんだった。それで......アインスに薬か何か盛られて......。そこからの記憶がごっそりと抜け落ちている。
ベッドから起き上がると、すぐそばの椅子にセフィラが腰かけていた。
「お、眠り姫やっと起きたか。気分はどうだ?」
「......特に何もない、かな。」
「そうか......。はぁ、だから言っただろ?アインスがお前のこと離す訳ないだろって。」
セフィラは一呼吸置き、呆れたようにふっと溜息をついた。
「うん......そうだね。」
自分がこの場所にまた戻って来られるなんて思ってもいなかった。現実感が湧かなくて、どこか夢を見ているような気さえする。
「あいつ、シューンがいないと情緒不安定に......。?どうした。やっぱまだ薬が抜けきってないのか?」
「ううん。そうじゃないんだ......。ただ、本当に戻って来れたんだなって。」
「あぁ、そういうこと。無理もないか。シューンもアルフレド様が亡くなったこと、不正行為の数々は知ってるだろ?」
「うん、ここに来る前に、記事で見たよ。......すごくびっくりした。まさか、亡くなるなんてね。」
セフィラはたぶん、アインスがお義父様を殺したことまでは知らないはず。だから、安易にこの話題をこれ以上深掘りするのはやめた方がいいーーそう判断した。
「そうか。じゃあ、ざっくりあいつが何したか話すとするか。あ、アインスがアルフレド様を殺したのは知ってるから、そこは気遣う必要ないからな。」
「......えっ、そ、そうなの?」
なんだか僕は拍子抜けしてしまった。こんなにあっさりしてていいものなのか。
「おう。でな、アインスはアルフレド様の不正に関わった重鎮たちを、騎士団引き連れて一掃してったんだよ。」
「騎士団ってことは......」
「そう。ラウドが率いてるからな。アインス側につくのは確実だった。それで、汚職まみれだった王宮内部を全部洗い直して......最後にシューンを連れ戻したってわけ。」
「......ま、その反応見る限り、ここに来る途中でアインスから聞いてたみたいだな。」
アインスの取る行動は僕のためとはいえ、時々、予想の遥か上をいくときがある。結婚してからも、度々暴走しそうな場面を何度も見てきたつもりだったけど、今回のことは、さすがに僕も驚きを隠せなかった。
きっと、セフィラもラウドも、止めたくても止められなかったのだろう。
そんな話をしているとーー静かに扉が開いた。
そこに立っていたのは、正装に身を包んだアインスだった。僕の姿を見るなり、アインスは駆け寄るような速さで、こちらへ向かってくる。
「お仕置きだなんて言って、酷いことしてごめん。でも、シューンも悪いんだからね。」
アインスは僕の頬にそっと手を添える。アインスの瞳はいつも通りで、この前感じた妙な違和感は消えていた。お仕置きって......そういえば、そんなことも言っていたような?
「おい、俺もいること忘れんなよ。第一、薬剤の調合割合間違えるとかほんと何やってんだよ。」
「うるさいな。事が事だったんだから、しょうがないでしょ。」
「はぁ......。シューンが絡むと、いつもお前は暴走するな。まぁ、いいわ。じゃあなシューン。それと......お帰り。」
「ありがとう、セフィラ。」
セフィラが去ったのを確認すると、アインスは僕のことを強く抱きしめてきた。まるで、僕という存在を確かめるかのように。
「シューンはさ......俺が怖くない?」
アインスは怒られる寸前の子どものような、うるうるとした瞳で僕のことを見てくる。その姿がなんだか可愛くてつい、表情が緩んでしまう。
「怖くないよ。セフィラもラウドもマーシュも、みんな僕のこと鈍感っていうけど......そういうところも含めて、僕はアインスのことが好きだよ。こういうの、重い?って言うんでしょ?」
「シューン!」
アインスは貪るように口づけてくる。僕は久しぶりの感覚に、眩暈がしそうだった。気持ちよくて、蕩けてしまいそうだ。
唇が離れると、アインスは名残惜しそうな表情を浮かべた。それは、僕も同じだった。
「ごめん。本当はもっとしてあげたいんだけど、陛下にシューンと一緒に王宮まで来いって言われてさ。」
「陛下に??分かった。あ、じゃあ今から支度しないとだよね。」
「あぁ、待って。支度するなら適任がいると思うよ。マーシュ。シューンのことを頼むよ。」
「かしこまりました。アインス様。お任せください。」
アインスの背後には、いつの間にか正装を抱えたマーシュが控えていた。アインスが部屋を出て行くと、マーシュは淡々と僕の支度を手伝ってくれる。
「......あのお手紙。屋敷の全員に宛てて書いていましたね。皆、喜んでおりましたよ。」
「......そっか。ごめんね、マーシュ。」
「いえ。私はシューン様に謝っていただきたいわけではございません。ただ、最後までシューン様はシューン様だったな、とこの身で実感したまでです。屋敷の者は皆、シューン様のお帰りを、ずっと心待ちにしておりましたから。」
「お帰りなさいませ。シューン様。」
マーシュの声は涙ぐんでいた。それにつられて、僕の声も少しだけ震えてしまった。
「......ただいま。マーシュ。」
マーシュは手際よく、僕の支度を済ませてくれた後、すぐに下がってしまった。もっと話したかったけれど、これから陛下との謁見が控えてるとなれば、しょうがないか。
すると、マーシュと入れ違いになる形で、アインスが部屋へ入ってきた。どうやら、僕の支度が終わるまで扉の前で待ってくれていたらしい。
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