運命に花束を

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番外編:お嫁においでよ

お留守番

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 ナダールが仕事でいない朝、いつもなら目を覚ませば彼の腕の中幸せな気持ちで目覚めるのに、どうにも寂しくてやりきれない。
 1日2日ならちょっと清々した気分、3日を過ぎると段々気持ちが落ち込み、1週間を過ぎると目覚めた瞬間から人肌が恋しくなり、悲しくなる。
 そして2週間を過ぎると寂しくて、悲しくて寝られなくなってしまうのだ。
 1人の夜は怖い、もうだいぶ癒えた筈の傷口が膿みを零し始め、生活の何もかもが手に付かなくなり始める3週間目……

「ナダール、いつになったら帰って来るんだよ……」

 泣き言のひとつも零れ落ち、己の女々しさに苦笑する。
 それでもまだ子供達を抱きしめて一緒に寝ていれば寂しさは軽減されるのだが、やってきてしまった発情期ヒートに子供達を隣家に預けて1人ベッドで丸くなる。
 彼の仕事は期間が決まっている訳ではない。張り付いている人物や事件が1段落すれば戻ってくるのだが、今回は待てど暮らせど帰ってこない。
 ヒートの前までには帰ってくると約束していたのに、今回は特別てこずっているのか連絡も途絶えがちだ。
 元々自分は長い事1人で生きてきた、たかだか数週間……とも思うのだが、それが長くて長くて仕方がない。彼のいない一日は長くてどうにも時間をもてあましてしまう。
 ナダールがいる時はいつもべったりで、ナダールがグノーを離さないという風に傍目には見えるかもしれないが、それはまったく違っていて、本当の所は自分が彼に甘えているのだ。
 ナダールの方が愛着が深く見えるように仕向けているだけで、ナダールもそれが分かっているから付き合ってくれているだけなのだ。
 彼は優しい。
 夜ともなれば幸せに馴れない自分が不安で押しつぶされないように、3日と開けず抱いてくれる。おかげで最近は夜が怖いなどと考える事もなくなっていた。
 彼の大きな手が自分の肌を滑る感触。それを真似て肌に指を這わせれば、ぞくりと快感が身の内を巡った。
 身体が熱い。慣れ親しんだヒートの感覚、けれどこの数年はいつでもナダールが傍に居た。彼のいないヒートは久しぶりで、どうやり過ごしていいかも分からない。

「あ……ナダール……」

 だが、応える声もなく悲しくなる。
 早く帰ってきて自分に触れて欲しい。泣いてもいいから滅茶苦茶に自分の中をかき回して欲しい。
 毛布に潜り込み、毛布に残る彼の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
 彼の服ももちろん準備済みで、お気に入りの一枚を胸に抱いて、彼だけを想う。
 自身に指を絡ませて、瞳を閉じた。
 自分がヒートの期間に入る事はナダールも了承している。彼も今頃同じような気持ちでいてくれたらいいけれど、もう自分の事など忘れてるかも…なんて後ろ向きな想いがむくむく頭の中に湧いてくる。
 そんな事はありえない、と頭の中からそんな暗い考えを追い払おうとするのだが、追い払っても追い払っても不安はむくむくと湧いてきて思わず涙ぐんでしまう。
 なんとも情けない。
 自分はいつからこんなに弱くなってしまったのだろう。
 思い出されるのは彼の笑顔ばかりで、頭の中はナダール一色だ。

「ナダール……ナダール……」

 意識を指に集中させて、彼の笑顔を思い出す。
 片方の手は前に、もう一方は後ろにつつと指を這わせた。
 彼の指よりも全然細い自分の指が、己を慰めるように窄まりを突く。そこは既にしとどに濡れていて受け入れ態勢は万全なのに、受け入れたい彼が今はここにいない。
 彼に出会うまではこの行為は恐ろしくて、こんな風に人肌が恋しくなってしまうなんて事があるとは思っていなかったのに、指はそろりと己の敏感な部分を撫で上げる。

「ん……っく……」

 指を一本そこに挿し込み、そろりと動かしてみると背筋にはゾクリと快感が走り抜けたが全然足らない、ナダールはこんなモノではない。
 2本3本と指を増やしてみるが、やはり飢えは満足する事はなくて悲しくなる。
 それでも疼く身体はどうにもできなくて、少し乱暴に己の中をかき回すと下肢では卑猥なな水音が零れて耳をくすぐった。
 前もすっかり勃ち上がり、そこからも雫が零れ落ち始めているが、身体の疼きは静まるどころか増す一方だ。
それこそ3日と開けずに抱かれている身体が、この程度で満足するわけもない。
 通常時ならともかく今は発情期だ、身体の疼きは止まる事はない。
 まだ1日目、短ければ3日で終わるが長ければ1週間はこのままだ、最近はヒート時に抑制剤を飲む事もしなくなったので準備もない。
 こんな事ならちゃんと薬の準備もしておけば良かった、今となっては後の祭りだけれど。
 だが、どんなに身体が疼こうと彼以外の人間に助けを求めるのは論外で、触られるのだってもっての外だ。
 この疼きを鎮められるのはナダールだけ、だから今回は1人で耐えるしかない。

「っく、ナダール……早く……」
「呼びましたか?」

 突然の呑気な声に硬直する。
 今、なんか声とか聞こえたか? ついに幻聴まで聞こえるほど頭おかしくなったのか……と思ったのも束の間
 「ただいま、グノー」と被った毛布ごと上から圧し掛かられるように抱きしめられ、彼が帰ってきたのだと悟った。

「今回も立派な巣を作りましたね。今までで一番の出来じゃないですか?」

 その穏やかな声に泣いてしまいそうだ。
 帰ってきた、ナダールが帰ってきた。

「もう、会いたくて会いたくておかしくなりそうでしたよ。隠れてないで顔を見せてください」
「……無理……ダメ」

 それでもこんな自分が恥ずかしくて身を小さく丸める。
 嬉しくて仕方ないのに、恥ずかしくて顔が見られない。

「何故ですか? あなたに会いたくて大急ぎで帰ってきたのに、焦らさないでください」
「だって、俺、今酷い格好してる。少しだけ待ってて……」

 もぞもぞと毛布の中で涙を拭う。
 このままでは1人でやってた事までバレてしまう。

「格好なんかどうでもいいですよ、もうヒートに入っているんでしょう? 辛くないですか?」

 言ってナダールは俺の作った巣を少しづつ剥いでいく。

「う……ん、あ、待って、待って、ダメだってば…」
「そんなに隠すと何かやましい事でもあるのかと思ってしまいますよ? どうしたんですか?」
「どうもしない! けど、お前が気配まで消してくるから!」
「驚かそうと思ったんですよ。でも驚かせる前に名前、呼ばれてしまいましたからね。ほら、いい加減顔を見せて……泣いていたんですか?」

 ついにグノーにまで到達したナダールが驚いたようにそう言った。
 慌てたように顔を伏せるが、それは彼の手でやんわり上向けられ、視線が泳いだ。

「違っ……ちょっと最近、寝不足なだけ……」
「本当に? 何かあったんじゃないでしょうねぇ?」
「本当、全然何もない」
「だったら、ちゃんと私の顔を見なさい」

 厳しい視線にさらされておずおずと瞳を合わせると、そのまま噛み付くような勢いで口付けられた。

「んっ、んんっ……っふぁ……」

 苦しいのか、嬉しいのか色々な感情がせめぎあって、また涙が零れた。

「あなたに会いたかったのは私だけだったのでしょうか。3週間も会えなかったというのに、あなたは顔も見せてくれない」
「もう、見ただろ! 離せってば……」
「イ・ヤ・で・す」

 ナダールは言ってぎゅうぎゅうとグノーの身体を抱きしめてくる。
 ヒート中なので仕方がないとは言え、こんな情けない顔を見られただけでもとんでもなく恥ずかしいのに、更に着乱れた姿まで見られたら恥ずかしすぎてどうにかなってしまう。
 だが、そんな思いはナダールには分かりはしないようで、彼はすりすりと俺の肩口に額を摺り寄せてくる。
 俺は毛布を剥がれないように前で手繰り寄せる。

「こんないい匂いをさせておきながら、私を拒むというのはどういう了見ですか。まさか浮気なんてしてないでしょうね?」
「する訳ないだろ、馬鹿! いいから離せってば」
「私はあなたに会いたくて、会いたくて気が変になりそうだったんですよ……なのにあなたは全然平気だったんですか?」
「平気……な訳あるか。俺だってすごく会いたかった」
「だったらいい加減この邪魔は毛布、剥いでもいいですよね?」
「駄目だってばっ……少しでいいから待ってくれ」
「一体何なんですか?」

 不審げな顔のナダールにもう一度「離せ」と呟き、その手が弛んだ隙にシャツの前を掻き合わせたのだが…

「うわぁっ、見るなってばっ!!」

 毛布から手が放れた隙に逆に毛布を剥がれ、結局その着乱れた姿を晒すはめに。

「これはまた、色っぽい格好していますねぇ」

 かろうじてシャツは羽織っているが、それ以外は何も身に付けていない状態だ。だから嫌だったのに……
 ナダールの瞳が舐めるように身体を這っていくのが分かる。

「だから、見るなってば!」
「このシャツ、私のですよね?」
「…………」
「1人でしてた?」
「…………」
「私の事、呼んでくれましたよね?」
「もうっ、意地悪っっ」

 あまりの恥ずかしさに毛布を奪い返し、またそれに潜り込む。こんな姿絶対見られたくなかったのに。

「ねぇ、グノー、今の私の気持ち分かりますか?」

 彼は毛布越しに俺の頭を撫でる。だが、自分の浅ましさに声も出せず俺は更に身を縮こませた。
 何もこんな時に帰ってこなくてもいいじゃないか……と彼のタイミングの悪さを呪う。

「ねぇ、グノー、隠れてないで出てきてください」
「…………」
「ねぇ、グノー……」
「会いたかった」
「ん……?」
「会いたくて、会いたくて、寂しくて、触って欲しくて、抱いて欲しくて……俺もう本当にお前がいないと駄目みたい。みっともないな、こんな姿で1人で乱れて、こんなやらしい自分大嫌いだ」
「私は……大好きですよ?」
「今はいいかもしんねぇけど、俺男だもん。そのうちもっさいおっさんになってもそんな事言えるわけ?」

 ナダールはベッドに腰掛け、また俺の頭を撫でる。

「あなたが歳をとったら、私も歳をとりますよ。あなたがおっさんなら、私はもっとおっさんです、それでも私はあなたが大好きだと思いますけど?」

 ナダールはまたしても毛布ごと俺を抱きしめ、抱え上げた。
 それでも俺は拗ねたように毛布の中に身を隠す。

「グノー、また少し痩せたでしょう?ちゃんと私がいない間も食事摂ってました? 子供達にだけ食べさせればいいなんて考えは言語道断ですよ」
「食べてた、ちゃんと3食」

 味なんかほとんどしなくて、ナダールがいないとこんな所にも影響が出てくるのかと思った程度には紙でも食むような気持ちでちゃんと食べてた。
 でも、そう言えば子供を預けてからは食べてない、かも……?

「本当ですか? あなたちょっと軽すぎですよ」
「軽くねぇもん、標準だもん」
「嘘おっしゃい、こんなにガリガリのくせに」

 言って毛布の中手を突っ込まれ、腰をわしっと掴まれた。

「掴むなよっ! って……馬鹿、どこ触って……っや」
「いつまでも拗ねてる人にはお仕置きです。ちゃんと顔を出して私に言う事あるでしょう?」
「何? やっ……ダメ、っあ……」
「もう濡れているんですね? さっきまで自分でいじってたんでしょ、ここ」

 触られてあっという間に反応を返してしまった自分には返す言葉もなく、その手を退けようとするのだが、逆に手を取られ、自分のモノに指を絡めるようにして、その上から手を握りこまれてしまう。

「どうやっていたか教えてください。あなたの恥ずかしい姿、私に見せてください」
「やっ……やだ、離せっ……っん」
「触って欲しかったんでしょう? 抱いて欲しいというのは嘘ですか?」
「やめっ、ナダール……やだっ」
「私、すごく嬉しかったんですよ。あなたが1人で自分を慰めるほどに私の事を欲しいと思ってくれてるなんて思っていませんでしたから」
「んっ、ふ……駄目、もう、ナダール……離してっ」
「達っていいですよ。私の腕の中でもっと乱れて、もっと私を欲しがってください」
「あっ、やあっっっ、あっ、あぁっ」

 彼と自分の手の中で、張りつめたモノが解き放たれて身を震わす。

「グノー……」
「……んっ、やっ」
「……すみません、もう限界」

 言って彼は力づくで身を隠していた毛布を剥ぎ取り、驚く間もなく俺の身体をひっくり返して押さえ込み、そのまま彼自身をねじ込んでくる。

「……っあ、お……まえ、っく、ひどっ」
「すみません、でもあなたも悪いんですよ、3週間も禁欲生活で耐えていたのに、姿は見せれくれないし、色っぽい姿でいい声で誘うんですから……」
「っあ、あっ、あん、やぁぁ……ナダール、もっと……」

 反論しようと開いた口からは抗議の声が出る前に嬌声が零れて、喘ぎと誘惑の言葉しか出てこない。

「ここも自分でしていたんですね、何もしていなのにぬるぬるで抵抗もない」
「言うな、あぅ、もう……」

 無理やり突っ込まれたのに、快感ばかりが先走って痛みも何も感じない。
 自分の指では満足できなかったその快楽に激しく溺れる。
 己の中を掻きまわされ、圧迫されているというのに苦痛の1つも感じない自分はおかしいのではなかろうか?

「あぁ、ナダール、もう俺、変っ……」

 おかしくなる、何も見えなくなる、お前しか、お前しか見えない……

「あぁっっ……!」

 熱い奔流が身の内を焼く。熱い、熱い、熱い。
 身体を返され、更に激しく彼のモノを突き立てられた。それでももっと、もっとと彼を求める貪欲な自分がいて、彼の背中に腕を回して縋り付いた。
 何度も何度も彼の熱を自分の中で受け止めて、終わった頃には動けなくなっていた。

「すみません、大丈夫ですか?」
「大丈夫くない……動けねぇ……」

 起き上がろうにも手足に力は入らないし、完全に腰砕け状態だ。

「あぁ……なんかすごい腹減ってきたかも……」

 ナダールがいない間、子供達と食べる食事は賑やかだけれど落ち着かなくて、そういえば最近腹が減るなどという感覚もしばらく忘れていた。

「そう言われると私も……何か軽く作ってきますので、一緒に食べましょう」

 にっこり笑ってナダールは部屋を出て行く、元気良すぎ……
 あいつ仕事から帰ってきたばっかりだよな? そんでもって今散々やったよな? なのになんであんなに元気なわけ?
 しばらくするとナダールはサンドウィッチ片手に戻ってきた。

「グノー、ちゃんとまじめに食事してました? 食材なんにも無いじゃないですか。駄目ですよ、ちゃんと食べないと」
「だって、どのみちヒートの間はろくすっぽ食べれないんだから、食材準備するだけもったいないだろ」
「だからって食べないという選択肢はありません」

 苦笑しながらそう言って、ナダールはその手に持ったサンドウィッチを手渡してくれる。

「起きられますか?」
「ん……なんとか」

 身を起こすと、彼の放ったモノが腿を伝って滴り落ちた。
 後でちゃんと掻き出しておかないと……などと思いつつ、だいぶ大きめなナダールのシャツを手繰り寄せて羽織り、一息吐いた。

「それにしても……やらしい格好ですねぇ」

 ナダールはぼそりと呟く。

「どこ見てんだよ、スケベっ!」
「心外ですね。私が強要したわけでなし、そんな格好をしているあなたが私を誘惑しているんですよ」
「してねぇもん、元々見せるつもりもなかったのに、お前が無理やり見たんだろ」
「そりゃあねぇ、3週間ですよ3週間!私の忍耐だってキレますよ。なのにあなたは隠れたまま出てこようとしないし、おかえりも言ってくれない」

 あ……しまった。そういえばまだ言ってない。

「でもまぁ、こんなやらしい姿見られたんで、ラッキーでしたけどね」
「だから見るなってば!」
「いいじゃないですか、減るもんじゃなし。なんか下手に裸でいるよりよっぽどエロくていいですよね」

 言ってナダールは裾を摘んで捲り上げる。

「馬っ……!こら、ナダールっ!」
「このちらリズムがどうにも……」

 裾から伸びる足につつつ……と指が這わされ、また背中にゾクリと震えが走った。

「このっ、助平っっ!!」
「えぇ、えぇ、助平で結構。男なんて皆そんなもんでしょう?」

 開き直られて唖然とする。こいつこんな奴だっけ?

「なんか、もしかして機嫌悪い?」
「あなたがそう思うのなら、そうなのでしょう」

 なんで? どうして? 心が凍える。ナダールに嫌われたら生きていけない。
 それ程までに自分の中はナダールで一杯なのに、どうしていいのか分からない。

「俺、なんか怒らせるような事、した?」
「してませんよ、あなたは何も悪くない」

 でも、だったらなんでそんな仏頂面……気付いてしまって悲しくなる。

「……すみません、そんな顔しないでください。私が勝手に怒っているだけで、あなたは何も悪くないんですよ」
「なんで? 仕事で何かあった?」
「……あなたのそんな姿を見てたら」
「え?」

 彼は怒ったようにそっぽを向く。

「何で自分はあなたを置いて仕事に出ないといけないのか、とか考えてみたり、そんな格好自分以外の人間に見られたら危ないじゃないか、と思ってみたり、でもそんな姿で自分を欲しがってくれるのは嬉しくて……けれども自分のいない間に攫われでもしたらどうしてくれるんだ……とこう理不尽な怒りがふつふつと……」
「……馬鹿?」
「どうせ馬鹿ですよっ」

 いいんです、放っておいてください、とナダールは完全に拗ねて背を向けてしまう。

「そんな俺を攫おうとするような奇特な人間、お前くらいしかいないから大丈夫だよ」
「分からないじゃないですか、この村では特にあなたモテモテでしょう!」
「あぁ……でも俺、強いし」
「知ってますよ、それでも不安なものは不安なんです!」
「心配性」

 言って彼の背中に背中を預ける。

「いつも言っているでしょう、私は全てにおいてあなた最優先なだけです」
「うん、ありがと」
「……ねぇグノー、寂しかったですか?」
「寂しかった、本気で寝らんなくなって、どうしようかと思った」
「昔みたいに?」
「そう、昔みたいに……って、なんだよ。何かおかしいか?」

 口元に手を当てて肩を揺らす彼に気が付いて、むっと眉を寄せた。

「嬉しくて。それって、私、必要とされているって事ですよね?」
「……お前のいない生活は、世界のすべてが色を失ったみたいだったよ」
「グノー……これ以上私を喜ばせると、また際限もなくあなたの事泣かせてしまいますよ?」
「……お前のその活力は一体どこからくるんだ?」

 夜通しやってこっちは足腰立たなくなっているというのに、こいつまだやる気なのか。
 もしかして精力絶倫?

「健全な体と邪な心からですかね、ちなみに機動力は『愛』です」
「…………」
「なんか呆れてます?」
「いや、なんかお前らしい」

 くすくす笑って、ナダールの首に腕を絡ませる。

「おかえり、ナダール。会いたくて、寂しくて、気が狂うかと思ったぞ」
「私もですよ」

 言って口付け、瞳を見合わせにっこり笑う。どうにか仕切り直しができたようだ。

「まだヒート始まったばっかりだし、思う存分気が済むまで可愛がって」

 耳元で囁くと「そんな事を言うと知りませんよ」と彼は笑った。
 やはりナダールの腕の中が一番落ち着く。
 俺は久しぶりの睡魔に襲われ、温かい腕の中で眠りに落ちた。
 目覚めたらまた彼の腕の中だと分かっているから、安心して眠る事ができる、幸せ。



 後日、ナダールは彼のシャツ一枚でいる俺がいたく気に入ったとみえ、何かに付け彼の上着を俺に着せ掛けようとするようになってしまった。
 俺は少し閉口しつつもそんな彼が可笑しいやら、可愛いやらでつい甘やかしてしまい、色々と恥ずかしい目にあったりもしたのだが、それはまた別の話。

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