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運命に祝福を
混沌 ①
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『ママぁ~! ママぁぁ~!!』
泣きながら暗闇で母を呼んでいる子供がいる、けれど周りには誰もない。ぐずって座り込み泣き続けていると、小さな赤毛の男の子が『大丈夫?』と、顔を覗き込んできた。
『だぁれ?』
その子が誰だか分からなくて小首を傾げると、その子は『ユリは泣き虫だなぁ』と言って笑みを見せる。その姿は、少しずつ成長していき、綺麗な男性とも女性とも判断のつかない姿へと変わっていき『もう大丈夫だよ』と、私の身体を抱きあげた。
私は抱きあげられた事に驚いて辺りを見回し、再びその顔を見上げると、今度はその人の姿は逞しい体躯の大男に変わっていた。
『あ……』
『ユリウス、何をこんな所で泣いているのですか? お兄ちゃんがそんな事では恥ずかしいですよ?』
それはたぶん私の父親の姿。
今度は私の身体が少しずつ成長していき、そんな彼の腕の中から飛び降りた。
一体ここはどこだろう? いつの間にか大きな体躯の男の姿も、綺麗で中性的な人の姿も周りには人の気配がない。
『私は一体……』
訳も分からず立ち尽くしているとどこかで私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
『ユリ兄……』
私を兄と呼ぶ、その声は一体誰のものだろう? 思い出そうとするのだが、記憶はどうにもおぼろげで、たくさんの人々の顔が次々に浮かんでは消える。その一人一人が誰だったのか、今の私にはそれも分からなくて、気持ちが悪いと頭を振った。
「……ウス、ユリウス、大丈夫か?」
「あ……セイさん」
どうやらすっかり眠り込んでいたのだろう私に声をかけてきたのは私の幼馴染を名乗る男、セイ。私は額に浮かぶ汗を拭って「大丈夫です」と、頷いた。
どうやらあまり楽しくない夢を見ていたようだ。起きてしまえばその夢の輪郭は非常に曖昧であまり覚えてもいないのだが、どうにももやもやする。
セイはまだ心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいて、私はもう一度「大丈夫です」と、頷いた。
セイは何かと私や私の番相手ミーアを気にかけてくれる。スランの長の鶴の一声で、私はスランから連れ出されたのだが、ミーアは一緒に来られなかった。
ミーアの腹の中には私の子供が居て、そんな彼女を連れ出す訳にはいかないのも分かっているのだが、彼女がいないとどうにも私の気持ちは不安定に揺れ動く。
それはきっと彼女も同じはずで、早く帰りたいとそう思った。
「セイさん、私達は一体何処へ向かっているのですか……?」
「メルクードだよ、ユリウス」
メルクード、一体それは何処だっただろうか? 揺れる馬車に長時間揺られているとどうにも頭が痛んで仕方がない。そんな痛む頭を抱えて私は幌の外を見やった。
「何故、私達はそんな場所に向かっているのでしょうか?」
「それは……」
「王族の人間を皆殺しにする為だ、ユリウス」
馬車の一番奥、暗がりで目を瞑っていた男が一人そう言った。彼はスランの長、アギト。
「王族の人間……では、私も殺される側ですかね……?」
「あ? お前は何を言っている?」
「だって、私にはメリア王家の血が……」
「ユリウス! それは言わなくていい!」
血相を変えたセイさんに言葉を遮られた。
「ですが……」
「おい、そいつのソレはどういう意味だ?」
長が瞳を細めてセイさんを睨む。セイさんは「ユリウスは記憶が混乱していると言ったはずだ」と言い訳めいた事を言って私を黙らせた。
でも、これはセイさん自身が私に教えた事実であるのに、それを長に隠すのは一体何故だ? 私の身体に流れるこの王家の特別な血そして力で私達は王族の人間を滅ぼそうと……
己の思考に矛盾を感じる、何故王家の力でもって王家を滅ばす、なのだろう? 私は本当に王家に関わりのある人間なのだろうか? けれどセイさんの言う事に間違いなどないはずだ、たぶん恐らく、ないのだと……
頭が痛い、私はセイさんに貰った煙草を取り出し火を点けた。煙を吸い込み息を吐くと、ようやく少しだけ頭痛が和らいだ。
「メリア王家といえば、先代の国王の一人娘がランティス王家に輿入れとはずいぶん時代も変わったものだ。最近では大きな争いは減っているとは言え、犬猿の仲の二国がねぇ……まだファルス王家との縁談の方が余程分かりやすい」
「メリア王家には既にファルス王家の血が入ってる、それで次はランティスだ……ある意味賢いやり方だろ、中から敵国を食い潰す、政略結婚なんてそんなモノだ」
「喰って喰われてってか……嫌だねぇ、家に居てすら寛ぐ事もできやしない」
「王族なんて頭のいかれた人間の集まりだからな」
そんな事を言って仲間は嗤う。
頭のいかれた人間……確かにそうだ。自分の頭もどうかしてしまっているし、もしかしたらこれは私の中のいかれた血がそうさせているのかもしれないと何とはなしに私は思う。
けれど、ミーアの腹の中の子の父になる為に私は強くならねばならぬ。こんな所で頭痛に呻いている訳にはいない。
「ユリウス、力は操れるようになったのか?」
「え……あぁ、たぶん大丈夫です」
私に宿る不思議な力。天候までも支配する、その力が私に与えられた特別な力。
「頼りない返答だな、お前のそれが今回の作戦の胆だと言うのに……」
長はそう言って眉間に皺を刻む。
「おい、セイ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ、ユリウスはやれば出来る男だ、今までもずっとそうだった」
今まで……その今までの事が分からない私は瞳を伏せる。時折断片的な記憶は蘇るのだ、確かにその蘇った記憶の中で自分が挫折したような記憶はあまりない。恐らくファルスにおいても私は人に指図をする立場に立っていた。年齢的にはまだ若造であるだろう自分なのに、何人も部下がいて私を取り巻いていた事はなんとなく覚えているのだ。
そういえば、彼等は何処に行ってしまったのだろう? 考えても記憶はおぼろげで、だが、ふと思い出す、そういえばセイさんも仲間の一人だった……
「あの、セイさん? 私の仲間は……私がファルスで共に過していた仲間は何処に行ってしまったのでしょう?」
「今はもう……俺とお前の2人だけだ」
2人だけ、それはどういう意味だろう? まさか死んだという事もないとは思うのだが。
「仲間など最初からいなかったんだよ、ユリウス。あいつ等は誰もお前の苦しみなんて理解しやしない、分かっているのは俺だけだ、だからお前は俺だけを信じていればいい」
「そうですか」と答えてみたものの、募っていくのは焦燥感。私はまたしても苛々と煙草を吹かす。そんな私をセイさんは少し困ったような哀しそうな瞳で見つめていた。
幌の外を流れていく風景。それはどこか穏やかで私達には似つかわしくない風景だ。でも、何故そう思うのだろう? そんな穏やかな景色に合った、穏やかな生活が出来ればいいと私は思うのだが、私達が今から向かうのはランティスの首都メルクード。そして私達はそこで革命を起すらしい。
「明日にはメルクードに到着するぞ、皆心構えは出来ているな?」
幌の中の仲間達は神妙な顔で頷いている。そんな中で私だけがどこか心虚ろにぼんやりしている。仲間達が己を鼓舞するように歌いだした歌。それは、集落で巫女が神託を行う時に歌われる祝詞。
それは私にとっては子守唄で、私はそれが不思議で仕方がないのだ。ミーアは言っていたのだ、この歌は神を鎮める子守唄であると。そんな歌を男達が荒々しく歌い上げる事が、私にはどうしても腑に落ちない。
母の歌った子守唄、穏やかに我が子の幸せを祈って歌う唄を、争いの場に持ち込むのは間違っている。
私がそんな彼等の歌声を傍らに、私の旋律でそれを口ずさむと、長は「気分が削がれる」と、不快を示した。
「そんな事を言われても、私にとってこの曲は、本来こう歌われていたのです。母の歌ってくれた子守唄なのです」
「お前の事など知った事ではない、この祝詞は元々我等のものだ、勝手に奪い勝手に変えるな、不愉快だ」
「けれど、この曲はメリアでは一般的に歌われている子守唄では……」
いや、本当にそうなのだろうか? 自分は恐らくメリアには暮らした事がないと思われる。母がメリアの人間なので、それはメリアの子守唄だと普通にそう思っていたが、もしかして違うのだろうか?
「これは呪詛だ」
「え……」
「我等の祖が、祝いから呪いに変えた呪詛なんだよ」
「呪詛……」
「我等の祖が土地を追われた時に、この唄に呪いをかけた。だからメリア人はこの唄を歌いはしない、この唄は我等の物だ」
唄に呪いを……? そんな事があるだろうか?
「歌う者には不幸がふりかかる、この唄をお前の母がお前に歌って聞かせたのならば、お前は母に呪われていたのさ、お前、母親に愛されていなかったのではないか?」
頭から冷水をかけられたように一気に心が冷え切った。馬車の外、俄かに雲が渦を巻く。
「何故お前の母親がこの唄を知っていたのかは知らないが、お前は呪詛にかけられていたんだよ、最初から呪われた子供だったという事だ」
「そんな……」
『ママぁぁ! ママぁぁあぁぁ!!』
幼い自分が母親に縋りつく、けれど相手はやつれた表情で『お前は誰だ?』とそう言った。どこまでも冷めた瞳、私はその瞳を確かに覚えている。
「母に……呪われて、いた……」
「そうだ、お前は呪われていた。お前は誰にも必要とされない」
「やめろ! アギト!! ユリウス、しっかりしろ!」
馬車の幌に雨音が当たる音が聞こえ始めた。長は腹を抱えて笑い始める、私はそれが何故なのかも分からない。
「ユリウス、お前の母親は……」
「私を捨てて行ったのだ……まるで、存在しない者を見るように、そんな瞳で、私を……」
感情の制御が出来ない、大雨の気配に馬は戸惑ったのだろう馬車は動きを止める。雨音はなおも激しく幌を叩く。
「ユリウス!」
「私は、呪われていた……」
何かがすとんと腑に落ちた。愛されてなどいなかった、私は誰にも愛されない。いや、私に残されたのはミーアとミーアの腹の中にいる我が子だけだ。
訳も分からず流されて、迷いもあったが吹っ切れた。
傍らにいるセイさんの眉間の皺が深くなり、彼は長をぎりりと睨んだ。
「セイ? なんだ、その不満そうな顔は?」
「くっ、何でもない……だが、これ以上ユリウスを惑わすな、それこそあんたの手には負えなくなるぞ」
「はは、それも一興、だな」
「アギト!」
長の笑い声が響く、あぁ……早くミーアに会いたい。
馬車の幌を叩く雨音は、少しずつ小さく、そして消えていった。
※ ※ ※
煌びやかな夜会の席、またしても俺達はそんな場違いな席にお呼ばれだ。
『改めて婚約発表の仕切りなおしだって、君もおいでよ。美味しい物たくさん食べられるってよ』
そうカイトに言われ連れ出された夜会、美味しい食事に心惹かれたのは間違いないんだけど、そんな物に釣られて来るんじゃなかった……と、俺は今激しく後悔している。
カイトは前回の夜会で俺を防波堤にする事を覚えてしまい、自分の前に現れる客の相手をしようとしない。これ、完全に俺は利用されてるだけだろう?
「ロディがいると、助かるなぁ」なんて、にこにこしてんな! 自分に声をかけてきた相手くらい自分でなんとかしろ! なんなんだろう、こいつはこういう所が本当に強かだ。
「ツキノは?」
「今日はヒナノだよ、そのうち姫と一緒に来ると思う。それにしても今日は前回よりもお客さんの数が多そうだね。さすがに王子2人共が同時期にご婚約ってなったらこうなるか」
そう、実は今回のこの夜会、メインイベントはエリオット王子の婚約発表なのだが、それと同時にその弟マリオ王子がファルスから結婚相手を連れ帰ってきたと巷で大騒ぎなのだ。
そのお相手は、まだ公には発表されておらず、お相手が誰なのか? とそれにも皆興味津々だ。
「でもさ、ここにはベータの奴もいるだろう? 結婚相手が男で、しかもマリオ王子が嫁にいく側とか、理解できない人間もいるんじゃないのか?」
「上流階級の人間なんて、ほとんどがバース性の家系だから、問題ないだろうってツキノが言ってたよ。それよりも僕は、マリオ王子が僕の父さんと同じに後天性オメガだって事の方が驚きだよ、僕の父さんは変な薬の摂取のし過ぎでそうなったって聞いてるけど、ホントにあるんだねぇ……」
後天性オメガ、ベータに生まれてオメガに転じる、そんな不思議な事象もあるのだな……そんな人間から生まれた子供が目の前にいるのだから認めざるを得ないけれど。
「それにしてもノエル、どこまで行っちゃったんだろうねぇ……」
そして、そんなマリオ王子の話が飛び込んできたと同時に聞かされたのがノエルの話。どうやらうちの領民であるノエルは、マリオ王子達と面識があったらしい。
マリオ王子がその婚約者であるファルスのジャン王子を伴って帰城した時にはそれはもう城内は大慌てだったと聞いた。
それもそうだろう、なんの連絡もない突然の帰郷、しかも連れて来たのがファルスの王子様で、しかもベータであるはずのマリオ王子が「彼と結婚します」だなんて、まさに青天の霹靂だろう。
そして、当のジャン王子は「挨拶に来ただけで文句は聞かない、喧嘩を売るなら買うぞ、こら!」な態度で来たものだから、王家としても大慌てだ。
「そんな無礼な男に弟を嫁にやれるか!」と、喧嘩を言い値で買おうとしたエリオット王子、そんな彼を諌めたのは、今俺の目の前にいる彼、カイトだった。
『喧嘩を始める前に、まずはお互いの言い分をちゃんと腹を割って話し合うべきです。あなたは学習能力がないんですか? それで今までメリアとの関係を拗らせたり、国内外の安全を脅かしてきた事をまだ理解出来ないんですか?』
と、カイトは冷たく言い放ったらしい。息子のその冷めた視線に少しばかり冷静になったエリオット王子と、話せば分かるジャン王子はきっちり腹を割って話し合い、どうにか筋は通したのだそうだ。
そして、そんな話し合いの切っ掛けになったのが俺の幼馴染でもあるノエルの存在だった。ノエルはマリオ王子達と共にここメルクードへとやって来たらしいのだが、ここに彼の探し人がいないと分かるとその日の内にメルクードを発ってしまった。
そんな彼が友人であるウィルに残したメッセージが『ジャン王子は悪い人じゃない、敵でもないから、そんな所で無駄に人間関係を拗らせないように』というモノだった。ウィルはそれをカイトに伝え、カイトはそれを父親に伝えることで無駄な諍いは避けられたのだ。
ただでさえランティス国内は混乱している、無駄な諍いのひとつが早々に解決したのはノエルのお陰と言わざるを得ない。そしてそんな彼の現在の所在は不明、恐らく彼の恋人であるユリウスを探して旅をしているのだろう。
正直、俺には何故彼がそこまで恋人を求めるのかが分からない。自分を裏切った人間を追い求めて何になる? そんな奴はさっさと見限って次にいけと言いたいのだが、そんな事を思う俺は薄情な人間なのだろうか?
「あ、雨……」
何とはなしに窓の外を眺めていたカイトが呟いた。夕方には雨が降りそうな天気ではなかったと思うのだが、雨粒がぽつぽつと窓を叩いた。
「嫌だな、湿気ると僕の髪、ホントに収拾つかないくらい跳ねるのに……」
俺と同じような金色の髪、その毛先はゆるくウェーブしていて、わざとやっているのかと思いきや、そういう訳でもなかったらしい。カイトは困ったように自身の髪を撫でつけた。
その時、室内に閃光が走り、そして続いた大きな雷鳴にカイトはびくっ! と身を竦ませる。
「雷か……」
客人の何人かも不安そうな顔で窓の外を見ている。雨足が段々強まって、豪雨と言っていいほどのどしゃ降りに変わった。めでたい婚約発表の席でこの嵐。不吉さも増すというものだ。
まぁ、そうは言ってもマリオ王子の方はともかく、エリオット王子の方は完全に陰謀渦巻く婚約で、この天候にお似合いなシュチュエーションと言えなくもない。
そんな中、会場の空気がざわりと揺れた。見れば会場の入り口には前回同様綺麗な笑みを浮かべた女性が今回は王子を伴い美しい会釈を見せた。
レイシア姫の今日のドレスは真紅のドレス。綺麗に結い上げられた赤髪とお揃いのそのドレスもまた、彼女によく似合っていた。金色の髪飾りがよく映えている。
そして、その背後から続くのは、やはりふりふりのドレスを着せられたツキノ……と思いきや、そんな彼の姿がない。その背後に付き従うのは姫の執事、アレクセイさんだ。
「あれ? ツキノは?」
王子と姫はすぐに招待客に囲まれてしまい、ツキノの所在を聞くことも出来ない。ツキノの不在に気が付いたカイトも俄かに表情を曇らせた。
「僕、ちょっと見てくるよ」
そう言ってカイトが行こうとしたその瞬間、またしても眩しいくらいの閃光に瞳を細めた。続く雷鳴は先程の比でなく床を揺らすほどに爆音で、ご婦人の幾人かから小さく悲鳴が上がった。
「もしかして、落ちた……?」
不安そうに窓の外を見やる人々、カイトはそんな雷に驚いたような表情を見せたものの、すぐに気を取り直してツキノを探しに出て行った。俺はその場に残り窓の外を見やる。
雨足がどんどん強くなる、窓の外が見えなくなるほどの大雨、けれどそれを見ていたら街の方が不自然に明るくなった。
「え……」
またしても雷が鳴る。立て続けに何度も何度も。そんな嵐に恐れをなした人々が皆固まって身を寄せ合い始めた。
「こんな成婚は神が認めない、神が怒っておいでなのだ!」
誰かが放った一言に王子と姫への視線が集中する。
「まぁ、大袈裟ね。神様まで持ち出して、私と彼の仲を認めないおつもりですの?」
姫は扇子で口元を隠し、不敵に笑う。
「王子、雷、恐ろしいですわね」と、彼女はエリオット王子にそっと寄り添うのだが、その表情に恐れの色など見えやしない。相変わらず肝の据わった女性だ。
王子はそんな彼女に反して演技も碌に出来ていない引き攣ったような笑みを浮かべている。
「このメリアの女狐め!」
あぁ、またこのパターンか……などと思った時に、会場の扉がばたん! と派手な音を立てて開き、びしょ濡れの男が1人叫んだ。
「街が! メルクードの街が燃えている!!」
先程、街の方が不自然に明るいと思ったのだ、あれはもしかして炎の明かりであったのか!
皆の視線が窓の外へと向いた、そして大きな悲鳴が上がる。
「な……なんだこれは……」
炎が天に昇っている、それはまるで嵐の中を荒ぶる真紅のドラゴン。その炎の竜は街をなめるように這い回る、誰もがそれに言葉を失い、ただ呆然と目を奪われていた。
泣きながら暗闇で母を呼んでいる子供がいる、けれど周りには誰もない。ぐずって座り込み泣き続けていると、小さな赤毛の男の子が『大丈夫?』と、顔を覗き込んできた。
『だぁれ?』
その子が誰だか分からなくて小首を傾げると、その子は『ユリは泣き虫だなぁ』と言って笑みを見せる。その姿は、少しずつ成長していき、綺麗な男性とも女性とも判断のつかない姿へと変わっていき『もう大丈夫だよ』と、私の身体を抱きあげた。
私は抱きあげられた事に驚いて辺りを見回し、再びその顔を見上げると、今度はその人の姿は逞しい体躯の大男に変わっていた。
『あ……』
『ユリウス、何をこんな所で泣いているのですか? お兄ちゃんがそんな事では恥ずかしいですよ?』
それはたぶん私の父親の姿。
今度は私の身体が少しずつ成長していき、そんな彼の腕の中から飛び降りた。
一体ここはどこだろう? いつの間にか大きな体躯の男の姿も、綺麗で中性的な人の姿も周りには人の気配がない。
『私は一体……』
訳も分からず立ち尽くしているとどこかで私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
『ユリ兄……』
私を兄と呼ぶ、その声は一体誰のものだろう? 思い出そうとするのだが、記憶はどうにもおぼろげで、たくさんの人々の顔が次々に浮かんでは消える。その一人一人が誰だったのか、今の私にはそれも分からなくて、気持ちが悪いと頭を振った。
「……ウス、ユリウス、大丈夫か?」
「あ……セイさん」
どうやらすっかり眠り込んでいたのだろう私に声をかけてきたのは私の幼馴染を名乗る男、セイ。私は額に浮かぶ汗を拭って「大丈夫です」と、頷いた。
どうやらあまり楽しくない夢を見ていたようだ。起きてしまえばその夢の輪郭は非常に曖昧であまり覚えてもいないのだが、どうにももやもやする。
セイはまだ心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいて、私はもう一度「大丈夫です」と、頷いた。
セイは何かと私や私の番相手ミーアを気にかけてくれる。スランの長の鶴の一声で、私はスランから連れ出されたのだが、ミーアは一緒に来られなかった。
ミーアの腹の中には私の子供が居て、そんな彼女を連れ出す訳にはいかないのも分かっているのだが、彼女がいないとどうにも私の気持ちは不安定に揺れ動く。
それはきっと彼女も同じはずで、早く帰りたいとそう思った。
「セイさん、私達は一体何処へ向かっているのですか……?」
「メルクードだよ、ユリウス」
メルクード、一体それは何処だっただろうか? 揺れる馬車に長時間揺られているとどうにも頭が痛んで仕方がない。そんな痛む頭を抱えて私は幌の外を見やった。
「何故、私達はそんな場所に向かっているのでしょうか?」
「それは……」
「王族の人間を皆殺しにする為だ、ユリウス」
馬車の一番奥、暗がりで目を瞑っていた男が一人そう言った。彼はスランの長、アギト。
「王族の人間……では、私も殺される側ですかね……?」
「あ? お前は何を言っている?」
「だって、私にはメリア王家の血が……」
「ユリウス! それは言わなくていい!」
血相を変えたセイさんに言葉を遮られた。
「ですが……」
「おい、そいつのソレはどういう意味だ?」
長が瞳を細めてセイさんを睨む。セイさんは「ユリウスは記憶が混乱していると言ったはずだ」と言い訳めいた事を言って私を黙らせた。
でも、これはセイさん自身が私に教えた事実であるのに、それを長に隠すのは一体何故だ? 私の身体に流れるこの王家の特別な血そして力で私達は王族の人間を滅ぼそうと……
己の思考に矛盾を感じる、何故王家の力でもって王家を滅ばす、なのだろう? 私は本当に王家に関わりのある人間なのだろうか? けれどセイさんの言う事に間違いなどないはずだ、たぶん恐らく、ないのだと……
頭が痛い、私はセイさんに貰った煙草を取り出し火を点けた。煙を吸い込み息を吐くと、ようやく少しだけ頭痛が和らいだ。
「メリア王家といえば、先代の国王の一人娘がランティス王家に輿入れとはずいぶん時代も変わったものだ。最近では大きな争いは減っているとは言え、犬猿の仲の二国がねぇ……まだファルス王家との縁談の方が余程分かりやすい」
「メリア王家には既にファルス王家の血が入ってる、それで次はランティスだ……ある意味賢いやり方だろ、中から敵国を食い潰す、政略結婚なんてそんなモノだ」
「喰って喰われてってか……嫌だねぇ、家に居てすら寛ぐ事もできやしない」
「王族なんて頭のいかれた人間の集まりだからな」
そんな事を言って仲間は嗤う。
頭のいかれた人間……確かにそうだ。自分の頭もどうかしてしまっているし、もしかしたらこれは私の中のいかれた血がそうさせているのかもしれないと何とはなしに私は思う。
けれど、ミーアの腹の中の子の父になる為に私は強くならねばならぬ。こんな所で頭痛に呻いている訳にはいない。
「ユリウス、力は操れるようになったのか?」
「え……あぁ、たぶん大丈夫です」
私に宿る不思議な力。天候までも支配する、その力が私に与えられた特別な力。
「頼りない返答だな、お前のそれが今回の作戦の胆だと言うのに……」
長はそう言って眉間に皺を刻む。
「おい、セイ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ、ユリウスはやれば出来る男だ、今までもずっとそうだった」
今まで……その今までの事が分からない私は瞳を伏せる。時折断片的な記憶は蘇るのだ、確かにその蘇った記憶の中で自分が挫折したような記憶はあまりない。恐らくファルスにおいても私は人に指図をする立場に立っていた。年齢的にはまだ若造であるだろう自分なのに、何人も部下がいて私を取り巻いていた事はなんとなく覚えているのだ。
そういえば、彼等は何処に行ってしまったのだろう? 考えても記憶はおぼろげで、だが、ふと思い出す、そういえばセイさんも仲間の一人だった……
「あの、セイさん? 私の仲間は……私がファルスで共に過していた仲間は何処に行ってしまったのでしょう?」
「今はもう……俺とお前の2人だけだ」
2人だけ、それはどういう意味だろう? まさか死んだという事もないとは思うのだが。
「仲間など最初からいなかったんだよ、ユリウス。あいつ等は誰もお前の苦しみなんて理解しやしない、分かっているのは俺だけだ、だからお前は俺だけを信じていればいい」
「そうですか」と答えてみたものの、募っていくのは焦燥感。私はまたしても苛々と煙草を吹かす。そんな私をセイさんは少し困ったような哀しそうな瞳で見つめていた。
幌の外を流れていく風景。それはどこか穏やかで私達には似つかわしくない風景だ。でも、何故そう思うのだろう? そんな穏やかな景色に合った、穏やかな生活が出来ればいいと私は思うのだが、私達が今から向かうのはランティスの首都メルクード。そして私達はそこで革命を起すらしい。
「明日にはメルクードに到着するぞ、皆心構えは出来ているな?」
幌の中の仲間達は神妙な顔で頷いている。そんな中で私だけがどこか心虚ろにぼんやりしている。仲間達が己を鼓舞するように歌いだした歌。それは、集落で巫女が神託を行う時に歌われる祝詞。
それは私にとっては子守唄で、私はそれが不思議で仕方がないのだ。ミーアは言っていたのだ、この歌は神を鎮める子守唄であると。そんな歌を男達が荒々しく歌い上げる事が、私にはどうしても腑に落ちない。
母の歌った子守唄、穏やかに我が子の幸せを祈って歌う唄を、争いの場に持ち込むのは間違っている。
私がそんな彼等の歌声を傍らに、私の旋律でそれを口ずさむと、長は「気分が削がれる」と、不快を示した。
「そんな事を言われても、私にとってこの曲は、本来こう歌われていたのです。母の歌ってくれた子守唄なのです」
「お前の事など知った事ではない、この祝詞は元々我等のものだ、勝手に奪い勝手に変えるな、不愉快だ」
「けれど、この曲はメリアでは一般的に歌われている子守唄では……」
いや、本当にそうなのだろうか? 自分は恐らくメリアには暮らした事がないと思われる。母がメリアの人間なので、それはメリアの子守唄だと普通にそう思っていたが、もしかして違うのだろうか?
「これは呪詛だ」
「え……」
「我等の祖が、祝いから呪いに変えた呪詛なんだよ」
「呪詛……」
「我等の祖が土地を追われた時に、この唄に呪いをかけた。だからメリア人はこの唄を歌いはしない、この唄は我等の物だ」
唄に呪いを……? そんな事があるだろうか?
「歌う者には不幸がふりかかる、この唄をお前の母がお前に歌って聞かせたのならば、お前は母に呪われていたのさ、お前、母親に愛されていなかったのではないか?」
頭から冷水をかけられたように一気に心が冷え切った。馬車の外、俄かに雲が渦を巻く。
「何故お前の母親がこの唄を知っていたのかは知らないが、お前は呪詛にかけられていたんだよ、最初から呪われた子供だったという事だ」
「そんな……」
『ママぁぁ! ママぁぁあぁぁ!!』
幼い自分が母親に縋りつく、けれど相手はやつれた表情で『お前は誰だ?』とそう言った。どこまでも冷めた瞳、私はその瞳を確かに覚えている。
「母に……呪われて、いた……」
「そうだ、お前は呪われていた。お前は誰にも必要とされない」
「やめろ! アギト!! ユリウス、しっかりしろ!」
馬車の幌に雨音が当たる音が聞こえ始めた。長は腹を抱えて笑い始める、私はそれが何故なのかも分からない。
「ユリウス、お前の母親は……」
「私を捨てて行ったのだ……まるで、存在しない者を見るように、そんな瞳で、私を……」
感情の制御が出来ない、大雨の気配に馬は戸惑ったのだろう馬車は動きを止める。雨音はなおも激しく幌を叩く。
「ユリウス!」
「私は、呪われていた……」
何かがすとんと腑に落ちた。愛されてなどいなかった、私は誰にも愛されない。いや、私に残されたのはミーアとミーアの腹の中にいる我が子だけだ。
訳も分からず流されて、迷いもあったが吹っ切れた。
傍らにいるセイさんの眉間の皺が深くなり、彼は長をぎりりと睨んだ。
「セイ? なんだ、その不満そうな顔は?」
「くっ、何でもない……だが、これ以上ユリウスを惑わすな、それこそあんたの手には負えなくなるぞ」
「はは、それも一興、だな」
「アギト!」
長の笑い声が響く、あぁ……早くミーアに会いたい。
馬車の幌を叩く雨音は、少しずつ小さく、そして消えていった。
※ ※ ※
煌びやかな夜会の席、またしても俺達はそんな場違いな席にお呼ばれだ。
『改めて婚約発表の仕切りなおしだって、君もおいでよ。美味しい物たくさん食べられるってよ』
そうカイトに言われ連れ出された夜会、美味しい食事に心惹かれたのは間違いないんだけど、そんな物に釣られて来るんじゃなかった……と、俺は今激しく後悔している。
カイトは前回の夜会で俺を防波堤にする事を覚えてしまい、自分の前に現れる客の相手をしようとしない。これ、完全に俺は利用されてるだけだろう?
「ロディがいると、助かるなぁ」なんて、にこにこしてんな! 自分に声をかけてきた相手くらい自分でなんとかしろ! なんなんだろう、こいつはこういう所が本当に強かだ。
「ツキノは?」
「今日はヒナノだよ、そのうち姫と一緒に来ると思う。それにしても今日は前回よりもお客さんの数が多そうだね。さすがに王子2人共が同時期にご婚約ってなったらこうなるか」
そう、実は今回のこの夜会、メインイベントはエリオット王子の婚約発表なのだが、それと同時にその弟マリオ王子がファルスから結婚相手を連れ帰ってきたと巷で大騒ぎなのだ。
そのお相手は、まだ公には発表されておらず、お相手が誰なのか? とそれにも皆興味津々だ。
「でもさ、ここにはベータの奴もいるだろう? 結婚相手が男で、しかもマリオ王子が嫁にいく側とか、理解できない人間もいるんじゃないのか?」
「上流階級の人間なんて、ほとんどがバース性の家系だから、問題ないだろうってツキノが言ってたよ。それよりも僕は、マリオ王子が僕の父さんと同じに後天性オメガだって事の方が驚きだよ、僕の父さんは変な薬の摂取のし過ぎでそうなったって聞いてるけど、ホントにあるんだねぇ……」
後天性オメガ、ベータに生まれてオメガに転じる、そんな不思議な事象もあるのだな……そんな人間から生まれた子供が目の前にいるのだから認めざるを得ないけれど。
「それにしてもノエル、どこまで行っちゃったんだろうねぇ……」
そして、そんなマリオ王子の話が飛び込んできたと同時に聞かされたのがノエルの話。どうやらうちの領民であるノエルは、マリオ王子達と面識があったらしい。
マリオ王子がその婚約者であるファルスのジャン王子を伴って帰城した時にはそれはもう城内は大慌てだったと聞いた。
それもそうだろう、なんの連絡もない突然の帰郷、しかも連れて来たのがファルスの王子様で、しかもベータであるはずのマリオ王子が「彼と結婚します」だなんて、まさに青天の霹靂だろう。
そして、当のジャン王子は「挨拶に来ただけで文句は聞かない、喧嘩を売るなら買うぞ、こら!」な態度で来たものだから、王家としても大慌てだ。
「そんな無礼な男に弟を嫁にやれるか!」と、喧嘩を言い値で買おうとしたエリオット王子、そんな彼を諌めたのは、今俺の目の前にいる彼、カイトだった。
『喧嘩を始める前に、まずはお互いの言い分をちゃんと腹を割って話し合うべきです。あなたは学習能力がないんですか? それで今までメリアとの関係を拗らせたり、国内外の安全を脅かしてきた事をまだ理解出来ないんですか?』
と、カイトは冷たく言い放ったらしい。息子のその冷めた視線に少しばかり冷静になったエリオット王子と、話せば分かるジャン王子はきっちり腹を割って話し合い、どうにか筋は通したのだそうだ。
そして、そんな話し合いの切っ掛けになったのが俺の幼馴染でもあるノエルの存在だった。ノエルはマリオ王子達と共にここメルクードへとやって来たらしいのだが、ここに彼の探し人がいないと分かるとその日の内にメルクードを発ってしまった。
そんな彼が友人であるウィルに残したメッセージが『ジャン王子は悪い人じゃない、敵でもないから、そんな所で無駄に人間関係を拗らせないように』というモノだった。ウィルはそれをカイトに伝え、カイトはそれを父親に伝えることで無駄な諍いは避けられたのだ。
ただでさえランティス国内は混乱している、無駄な諍いのひとつが早々に解決したのはノエルのお陰と言わざるを得ない。そしてそんな彼の現在の所在は不明、恐らく彼の恋人であるユリウスを探して旅をしているのだろう。
正直、俺には何故彼がそこまで恋人を求めるのかが分からない。自分を裏切った人間を追い求めて何になる? そんな奴はさっさと見限って次にいけと言いたいのだが、そんな事を思う俺は薄情な人間なのだろうか?
「あ、雨……」
何とはなしに窓の外を眺めていたカイトが呟いた。夕方には雨が降りそうな天気ではなかったと思うのだが、雨粒がぽつぽつと窓を叩いた。
「嫌だな、湿気ると僕の髪、ホントに収拾つかないくらい跳ねるのに……」
俺と同じような金色の髪、その毛先はゆるくウェーブしていて、わざとやっているのかと思いきや、そういう訳でもなかったらしい。カイトは困ったように自身の髪を撫でつけた。
その時、室内に閃光が走り、そして続いた大きな雷鳴にカイトはびくっ! と身を竦ませる。
「雷か……」
客人の何人かも不安そうな顔で窓の外を見ている。雨足が段々強まって、豪雨と言っていいほどのどしゃ降りに変わった。めでたい婚約発表の席でこの嵐。不吉さも増すというものだ。
まぁ、そうは言ってもマリオ王子の方はともかく、エリオット王子の方は完全に陰謀渦巻く婚約で、この天候にお似合いなシュチュエーションと言えなくもない。
そんな中、会場の空気がざわりと揺れた。見れば会場の入り口には前回同様綺麗な笑みを浮かべた女性が今回は王子を伴い美しい会釈を見せた。
レイシア姫の今日のドレスは真紅のドレス。綺麗に結い上げられた赤髪とお揃いのそのドレスもまた、彼女によく似合っていた。金色の髪飾りがよく映えている。
そして、その背後から続くのは、やはりふりふりのドレスを着せられたツキノ……と思いきや、そんな彼の姿がない。その背後に付き従うのは姫の執事、アレクセイさんだ。
「あれ? ツキノは?」
王子と姫はすぐに招待客に囲まれてしまい、ツキノの所在を聞くことも出来ない。ツキノの不在に気が付いたカイトも俄かに表情を曇らせた。
「僕、ちょっと見てくるよ」
そう言ってカイトが行こうとしたその瞬間、またしても眩しいくらいの閃光に瞳を細めた。続く雷鳴は先程の比でなく床を揺らすほどに爆音で、ご婦人の幾人かから小さく悲鳴が上がった。
「もしかして、落ちた……?」
不安そうに窓の外を見やる人々、カイトはそんな雷に驚いたような表情を見せたものの、すぐに気を取り直してツキノを探しに出て行った。俺はその場に残り窓の外を見やる。
雨足がどんどん強くなる、窓の外が見えなくなるほどの大雨、けれどそれを見ていたら街の方が不自然に明るくなった。
「え……」
またしても雷が鳴る。立て続けに何度も何度も。そんな嵐に恐れをなした人々が皆固まって身を寄せ合い始めた。
「こんな成婚は神が認めない、神が怒っておいでなのだ!」
誰かが放った一言に王子と姫への視線が集中する。
「まぁ、大袈裟ね。神様まで持ち出して、私と彼の仲を認めないおつもりですの?」
姫は扇子で口元を隠し、不敵に笑う。
「王子、雷、恐ろしいですわね」と、彼女はエリオット王子にそっと寄り添うのだが、その表情に恐れの色など見えやしない。相変わらず肝の据わった女性だ。
王子はそんな彼女に反して演技も碌に出来ていない引き攣ったような笑みを浮かべている。
「このメリアの女狐め!」
あぁ、またこのパターンか……などと思った時に、会場の扉がばたん! と派手な音を立てて開き、びしょ濡れの男が1人叫んだ。
「街が! メルクードの街が燃えている!!」
先程、街の方が不自然に明るいと思ったのだ、あれはもしかして炎の明かりであったのか!
皆の視線が窓の外へと向いた、そして大きな悲鳴が上がる。
「な……なんだこれは……」
炎が天に昇っている、それはまるで嵐の中を荒ぶる真紅のドラゴン。その炎の竜は街をなめるように這い回る、誰もがそれに言葉を失い、ただ呆然と目を奪われていた。
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