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第一章

鑑定スキルを使ってみました

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 僕はもう日課になってしまった薬草採取に勤しむためにいつもの草原へとやって来た。そこには相変らずスライムもいるけれど、今となってはもう顔馴染みで「おはよう」と声をかけるとぴょんぴょんと寄って来るくらいだ。
 スライムってやっぱりちょっと可愛いよな。
 そういえば教会で自分のステータスを見た時に記載されていた『駆け出し従魔師』という職業はその後どうなっているのだろう? どうやら身分証に記載されるのはステータスに表示された一番目の職業だけのようなので、僕はその後その記載がどうなっているのか分からない。
 ちなみに身分証に記載されていた職業『冒険者』の頭に付いてた『迷子の』は気付いたらいつの間にか消えていた。代わりにしばらくの間『居候の』が付いていたのを僕は見逃さなかったけどな!
 部屋をちゃんと自分で借りられるようになって居候ではなくなった翌日からはただの『Gランク冒険者』になったけど、この職業記載、一体誰が管理してるんだろうな? 細かすぎだろう。
 そんな訳だから僕は『駆け出し従魔師』がどのように変化したのか少し気になっていた。案外もう消えてたりするのかな、従魔師らしい事何もしていないし。
 「ステータス・オープン!」を言い渋ってここまで自分のステータスを確認してこなかったけれど、自分の事が色々と目で確認できてしまうと、それはそれで気になってしまう。
 鑑定スキルはレアスキルだというのも聞いているので、あまり人目のある所でやるのはどうかと思っていたのだけど、今日はこの世界に来て初めて僕は一人だ。
 そういえばこの世界に来てから僕は孤独を感じた事がない。何故なら成り行きで知り合っただけのはずの二人、アランとルーファウスがいつも傍に居てくれたからだ。
 僕が冒険者たちのシェアハウスに暮らすようになってからは、二人以外にも僕の周りには常に誰かがいてくれた、だからこんな右も左も分からない異世界で孤独を感じる暇もなかった。
 前の生では家族や職場の同僚が周りに居ても、常に一人ぼっちだという気持ちが付いて回っていたのに不思議な事だ。
 僕は深呼吸をして心を落ち着ける。前回鑑定スキルを使った時は周り全ての人や物にウィンドウ画面が出てきて、世界がバグったような状態になってしまった。初めての事であの時は驚いたが、きっとこれも慣れだろう。
 「鑑定、ステータス」と心の中で唱えると、前回とは違い目の前に大きな一枚のウィンドウ画面が開いた。そこには教会で見たのと同じように、僕の個人情報が並んでいる。
 名前、年齢は変わらず、変わっているのは職業欄、ずいぶん職種が増えている。一番手前に表記された職業は「Gランク冒険者」それはもう分かっていたけれど、二番目に表記されているのが「従魔師」ではなく「魔術師の弟子」だ。
 確かに今の僕はルーファウスの弟子なのだから間違っていない。三番目が「小さなコック」だったのには首を傾げたけれど。
 コックって料理人って事だよな? シェアハウスで皆に料理を振舞っているからか? 職業にしたつもりはなかったのだけど、あれで小遣い稼ぎをしているのだから職業と言われてしまえばその通りか……
 次いで四番目にようやく「従魔師」が出てきた。表記は駆け出しのままだった。どうやら職業は消える事はないらしい。
 そういえば、教会で見たステータスには称号が表記されなかった事を思い出し、僕は称号欄を探す。隠蔽スキルで隠されているのでは? と言われていたのだけど、僕はその隠蔽スキルも持ってたよ。スキル欄に色が反転している文字があって、その中に隠蔽も入ってた。
 色が反転している文字や数字に関しては教会で見た記憶がないので、それがもしかしたら隠蔽されている部分なのかもしれない。というのも、色が反転してるスキルがとんでもないものばっかりだ。
 体力限界突破とか魔力限界突破とかナニコレ? 教会で見た体力ゲージと魔力ゲージの後ろ、括弧で括って桁違いの数字が反転文字で記されている。
 これはもしかして、僕はちょっとやそっとの事では死なない身体になってるのかもしれないな。
 そういえば無属性魔法も反転文字になってた。しかもスキルレベル10だった。MAXじゃん、無敵だろこれ。チート過ぎて笑うしかない。
 そして肝心の称号はと言えば『異世界からの転生者』
 ああ、そうだね。そりゃ隠した方がいいだろうね、うん。
 他にも『神々に愛されし者』『創造神の寵児』だとか色々と異世界と神様を連想させる、不都合そうな文言が並んでいたので隠して正解だと思う。
 その中で『西方の街シュルクの住人』という称号だけ見られるようになってた。たぶん増えたんだろうね、まぁ、教会ではこれだけ見れたら充分だろう。
 ステータスを色々と確認して僕はウィンドウ画面を閉じる。結果、自分のステータスがとんでもない事になってるって事くらいしか分からなかったけどね。
 有難いけど、神様盛りすぎだよ……このステータスならきっとこれからの人生どう生きようとも楽勝なんだろうな。
 ゲームのチート機能、使えば楽なのだろうけど僕は今まで使った事がない。僕はどちらかと言えばコツコツと積み上げていく作業が好きで、最初から何もせずに無敵に楽勝なんて、そんなゲームの何が楽しいのか僕には分からなかった。
 レベル上げなんて時間の無駄だと友人に言われた事もあるけれど、それでも僕はそんな無駄な時間が好きだったのだ。
 今後このステータス画面はあまり見ないようにしようと僕は心に決める。こんな最強のステータスを眺めていたら自分が無敵な何者かになれた気がして奢ってしまいそうな自分が嫌だ。
 これはあくまで神様が僕に与えてくれたモノであって、僕自身が自分の力で得た能力ではない、それに頼り切った生活は僕の中の何か大切な部分を壊してしまいそうな気がして、僕はステータスの封印を決めた。
 まぁ、それでも使える能力は活用していこうとは思っているのだけれど。
 というのも、僕は薬草採取をしていてずっと考えていたのだ、もしかして鑑定スキルを使ったら薬草を見付けるのが楽になるのでは……? って。
 いつもはルーファウスがいるから確認しながら摘んでいく薬草、自分でもだいぶ見分けられるようになったけれど、それでもまだ間違える事はある。
 そこで鑑定スキルの出番だ。僕は目の前の草原を鑑定する、するとまた世界がバグったかのようにウィンドウ画面が辺り一面に広がった。

「やっぱりこれってチートだよなぁ……」

 僕が草原を見渡すと、もう既に何処に摘むべき薬草があるのかすぐに検知できてしまう。とても便利……
 チート機能はあまり好きではない、けれど薬草採取は現在僕の生活の基盤でもあるのだ。基本的には自分で探す、だけど要所要所で使うべき時には使うという自分の中での指針を決めて僕は今日も薬草採取を始める事にした。

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