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第一章
少年剣士ロイド
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僕は今日も草を摘む。この僕が摘んだ薬草が煎じられて加工され、冒険者達の体力回復や魔力回復の薬に変わるのだから、最低ランクの仕事とはいえ疎かには出来ない。
薬草の種類をちゃんと覚えておけば、いざという時自分で煎じるという方法も取れるし、そのまま齧っても多少の体力や魔力の回復が見込める。そういう意味でこの仕事は回り回って自分の役にも立つ仕事だと僕は考えている。
冒険者になって一番最初の仕事としてこの仕事が与えられているのはそういう意味もあるのだろうなと僕は思うのだ。
良薬は口に苦しと言うけれど、ポポン草の花は美味しいし、それ以外にも食用に向いた植物は幾つも自生している、そんな植物を覚えていくのも楽しい作業のひとつだ。
「お前、いつまでそんな依頼ばっかやってるつもりだ」
僕が薬草採取をしていると必ずというほど僕の前に現れる人物がいる。それは冒険者登録試験からすっかり目の敵にされてしまっている少年剣士のロイド君だ。もう一人の魔術師アリスさんは、たまにしか見かけないから、毎日のように現れる彼はもう故意に僕の前に現れているとしか思えない。
「こんにちは、ロイド君。今日もスライム退治ご苦労様」
喧嘩腰に声をかけられるのはもう日常で、腹を立てても仕方がないので僕は普通に挨拶を返す。
「やってもやっても減らないんだよ、ここのスライム! お前も手伝えよ!」
「本当にそうだよね、毎日ロイド君が倒す傍から分裂してるから、大変だなって思っていつも見てるよ」
ロイドが「ちっ!」と盛大な舌打ちを打った。
「だけど、スライム達は分裂すると小さくなるし、小さくなると食べる量が減ってるみたいだから無駄じゃないよね。薬草まで食べ尽くされると僕も困る」
「その割にはお前はいつもスライムを周りに侍らせてるよな」
「だって、スライムって可愛くない?」
僕の膝の上にぴょこんと乗っかってくる小さなスライムは、最近僕の周りをよく飛び跳ねている個体だと思う。スライムの姿形はほぼ同一で見分けはつかないのだけど、淡い水色のスライムの中でこの子だけは少し色味が緑がかっているので何となく見分けが付いている。
「それでもスライムは魔物だ」
「うん、そうなんだけどね」
だけどやっぱり懐かれると悪い気はしないんだよな。連れて行ってまた他のスライムに襲われたら堪らないので連れ帰る事はしないけれど、できればこの子には長生きして欲しいと僕は思っている。
「そういえばお前、今日はあの人達と一緒じゃないのか?」
「あの人達? ルーファウスさんとアランさん?」
「ああ、ってか、お前あの人達の何なんだよっ! 低ランク冒険者の癖に高ランクの二人に金魚の糞みたいべったり付いて回って、向こうの迷惑も考えろ!」
あ、傍目にはそう見えてるのか。実際の所は二人が僕の後を付いて回っていたのだけど、それよりも僕の方が二人に付き纏ってるって方が傍からは納得いくんだな。なにせ二人は有名人だし、かたや僕は無名の低ランク冒険者なんだから。
「僕、ルーファウスさんの弟子になったんですよ」
「は?」
「魔術師の弟子として魔術について色々教えてもらっています」
「はああぁ!? 何だよっ! どういう事だよっ! 白銀の魔術師が弟子取ってるなんて話聞いてない! だったら俺だって疾風のアランの弟子になりたい!」
「白銀の魔術師? 疾風のアラン……?」
聞き慣れない単語が出てきて僕は首を傾げる。
「お前知らないのかよっ! 知らないで付き纏ってるってどういう了見だ!」
いや、だから僕が付き纏ってた訳じゃないんだよ……それに知ってたからって付き纏っていいって話でもなくないか?
「あの二人はこの辺りでは無敵の黄金コンビ、白銀の魔術師ルーファウスと疾風のアランって有名なんだからな! 俺等みたいなガキなんか相手にもされないって、俺より先に冒険者になった友達達だって遠巻きにしてたってのに……」
いや、知らんし。
そもそも相手にされないって、そんな訳あるか。今までも声かけてくる人がいれば普通に相手してたし握手にも応じてたぞ。その度に二人は有名人なんだなと思ってたけど、そこまで低ランク冒険者たちに崇拝される対象だとは思ってなかったよ。
「そんなに気になるなら普通に声かけたら良くない? 二人とも全然怖くないよ?」
「怖いとか怖くないの問題じゃない! お前には人を敬う心がないのか!」
そんな事言われても、二人はもう今となっては敬う対象じゃなくて同居人、家族みたいなものだからな。
「なんなら僕、紹介しようか?」
「え……」
「ルーファウスさんは今ちょっと仕事で街を出てるけど、アランさんならいつでも紹介できるよ。あ! 今度皆で一緒にご飯食べに行くのもいいかもね!」
「ちょ……待て待て待て、勝手に決めんな!」
急に慌てだしたロイド、交流したいのか、したくないのかどっちだよ。
「お前、何なの? 俺、今までお前に嫌がらせしかしてこなかったのに……」
「嫌がらせ?」
僕が首を傾げたらロイドは大きく溜息を吐いた。
「もういい。でも、疾風に紹介は絶対だかんな!」
「うん、いいよ。今日会いに行く?」
「っ……俺にも心の準備をさせろ!」
そんなに緊張する事ないと思うのだけど、ロイドがすぐには無理だと言うので交流会は日を改める事になった。アランにも予定があるだろうし、今晩アランの予定も聞いておこう。
薬草の種類をちゃんと覚えておけば、いざという時自分で煎じるという方法も取れるし、そのまま齧っても多少の体力や魔力の回復が見込める。そういう意味でこの仕事は回り回って自分の役にも立つ仕事だと僕は考えている。
冒険者になって一番最初の仕事としてこの仕事が与えられているのはそういう意味もあるのだろうなと僕は思うのだ。
良薬は口に苦しと言うけれど、ポポン草の花は美味しいし、それ以外にも食用に向いた植物は幾つも自生している、そんな植物を覚えていくのも楽しい作業のひとつだ。
「お前、いつまでそんな依頼ばっかやってるつもりだ」
僕が薬草採取をしていると必ずというほど僕の前に現れる人物がいる。それは冒険者登録試験からすっかり目の敵にされてしまっている少年剣士のロイド君だ。もう一人の魔術師アリスさんは、たまにしか見かけないから、毎日のように現れる彼はもう故意に僕の前に現れているとしか思えない。
「こんにちは、ロイド君。今日もスライム退治ご苦労様」
喧嘩腰に声をかけられるのはもう日常で、腹を立てても仕方がないので僕は普通に挨拶を返す。
「やってもやっても減らないんだよ、ここのスライム! お前も手伝えよ!」
「本当にそうだよね、毎日ロイド君が倒す傍から分裂してるから、大変だなって思っていつも見てるよ」
ロイドが「ちっ!」と盛大な舌打ちを打った。
「だけど、スライム達は分裂すると小さくなるし、小さくなると食べる量が減ってるみたいだから無駄じゃないよね。薬草まで食べ尽くされると僕も困る」
「その割にはお前はいつもスライムを周りに侍らせてるよな」
「だって、スライムって可愛くない?」
僕の膝の上にぴょこんと乗っかってくる小さなスライムは、最近僕の周りをよく飛び跳ねている個体だと思う。スライムの姿形はほぼ同一で見分けはつかないのだけど、淡い水色のスライムの中でこの子だけは少し色味が緑がかっているので何となく見分けが付いている。
「それでもスライムは魔物だ」
「うん、そうなんだけどね」
だけどやっぱり懐かれると悪い気はしないんだよな。連れて行ってまた他のスライムに襲われたら堪らないので連れ帰る事はしないけれど、できればこの子には長生きして欲しいと僕は思っている。
「そういえばお前、今日はあの人達と一緒じゃないのか?」
「あの人達? ルーファウスさんとアランさん?」
「ああ、ってか、お前あの人達の何なんだよっ! 低ランク冒険者の癖に高ランクの二人に金魚の糞みたいべったり付いて回って、向こうの迷惑も考えろ!」
あ、傍目にはそう見えてるのか。実際の所は二人が僕の後を付いて回っていたのだけど、それよりも僕の方が二人に付き纏ってるって方が傍からは納得いくんだな。なにせ二人は有名人だし、かたや僕は無名の低ランク冒険者なんだから。
「僕、ルーファウスさんの弟子になったんですよ」
「は?」
「魔術師の弟子として魔術について色々教えてもらっています」
「はああぁ!? 何だよっ! どういう事だよっ! 白銀の魔術師が弟子取ってるなんて話聞いてない! だったら俺だって疾風のアランの弟子になりたい!」
「白銀の魔術師? 疾風のアラン……?」
聞き慣れない単語が出てきて僕は首を傾げる。
「お前知らないのかよっ! 知らないで付き纏ってるってどういう了見だ!」
いや、だから僕が付き纏ってた訳じゃないんだよ……それに知ってたからって付き纏っていいって話でもなくないか?
「あの二人はこの辺りでは無敵の黄金コンビ、白銀の魔術師ルーファウスと疾風のアランって有名なんだからな! 俺等みたいなガキなんか相手にもされないって、俺より先に冒険者になった友達達だって遠巻きにしてたってのに……」
いや、知らんし。
そもそも相手にされないって、そんな訳あるか。今までも声かけてくる人がいれば普通に相手してたし握手にも応じてたぞ。その度に二人は有名人なんだなと思ってたけど、そこまで低ランク冒険者たちに崇拝される対象だとは思ってなかったよ。
「そんなに気になるなら普通に声かけたら良くない? 二人とも全然怖くないよ?」
「怖いとか怖くないの問題じゃない! お前には人を敬う心がないのか!」
そんな事言われても、二人はもう今となっては敬う対象じゃなくて同居人、家族みたいなものだからな。
「なんなら僕、紹介しようか?」
「え……」
「ルーファウスさんは今ちょっと仕事で街を出てるけど、アランさんならいつでも紹介できるよ。あ! 今度皆で一緒にご飯食べに行くのもいいかもね!」
「ちょ……待て待て待て、勝手に決めんな!」
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「嫌がらせ?」
僕が首を傾げたらロイドは大きく溜息を吐いた。
「もういい。でも、疾風に紹介は絶対だかんな!」
「うん、いいよ。今日会いに行く?」
「っ……俺にも心の準備をさせろ!」
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