童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
24 / 222
第一章

討伐依頼を受けてみました

しおりを挟む
 少年剣士のロイドと交流を始めて数日、僕は今日初めてスライム討伐の依頼を受けた。
 スライムの討伐をするのならば皮の胴着が必須装備だと聞いていたので、その胴着を購入するまでは受けられないとロイドに言ったら彼が自分のおさがりを譲ってくれると言ってくれたのだ。

「ってかさ、胴着なんかなくてもスライムなんか攻撃される前にパパっと倒せば良くね? あいつ等攻撃されればすぐ逃げてくんだぞ、襲われるなんてよっぽど鈍くさい奴だけだろ。しかもお前は魔術師だろ、近付かずに倒せばいいじゃないか」
「…………」

 正論過ぎて何も言えない。確かにスライムの生態を知れば知るほどロイドの言う事は正しいと分かるのだ。スライムは基本的に貧弱で臆病だ、そんなスライムに襲われるなんてそうそうない事らしい。
 最初に僕が襲われたのは仲間を攫われたと思ったスライムのせめても反撃であったのだろう。そして僕はそれに反撃する術を持っていない無知な子供であったというだけ。そもそもそスライムの攻撃だって命を奪えるようなものではなく、衣服の繊維を溶かすだけだ。
 アランは皮の胴着が必要だと言ったが、それは本当に何も知らない子供には必要だと言っただけに過ぎない。本当はそんな事は分かっていた、分かっていて僕は討伐依頼を今まで受けずにいたのだ。
 冒険者ランクを上げるためには採取依頼と討伐依頼、どちらも一度は受ける必要がある。だけど僕が今までスライム討伐の依頼を受けずにいたのはやはり心のどこかでスライムを殺したくないという気持ちがあったからだと思う。
 もし意味もなく襲われたのなら反撃はできる、けれど無抵抗な相手を攻撃する事には抵抗があった。けれどスライムが増えすぎればこの草原の草という草は食い尽くされてしまうだろう、それを防ぐためにはスライム討伐は必須。

「よしっ!」

 僕は意を決してスライム達を見やる。今日も僕の周りにはいつものようにスライム達がぴょんぴょんと飛び回っている。

「……うぅ」
「なに情けない顔してんだよ?」
「だって、こいつ等可愛いだろ!? ちょっと食べ過ぎるだけで悪さする訳じゃないのに、何も殺さなくたって……」

 意を決してスライムに対峙してみたものの、やはり僕は無邪気に飛び跳ねているスライムを攻撃する事ができない。
 スライム討伐依頼の証明にはスライムを倒した後に残る核を回収してギルドに提出する必要がある。もしその核を回収できなければ討伐依頼は失敗したとみなされて罰金ペナルティもあるらしい。

「そうは言ったって一回は討伐依頼受けとかないと冒険者ランク上げられない上に、Gランクで受けられる討伐依頼なんてスライムくらいなんだから思い切っていっとけよ!」
「でも……」

 座り込んでしまった僕の周りをいつもの少し緑がかった小さなスライムが飛び跳ね、僕の胸に飛び込んできた。

「うぅ、無理! 僕にはこの子を討伐なんてできないよ!」

 すっかり懐いてしまったスライムを抱き締めて、僕は依頼はもうキャンセルでいいと心に決めた。だって無理、こんな可愛い子を殺すなんて絶対できない!

「でも、討伐できなけりゃ、お前ずっとGランクのままだぞ! あ、それか……」
「?」
「そいつを従魔にすりゃ、一応一匹倒したって扱いにしてもらえるはず、確か」
「! それ、どうすればいい!?」
「どうって、俺、従魔師じゃないし、知らね。でも、なんかそいつお前にすっげぇ懐いてるみたいだし、こう、何とかすればできんじゃね?」

 その「何とか」が分からないから聞いてるのに……僕はスライムを抱き上げて、そのぷにっとした身体に額をくっ付けた。

「僕は君と一緒に居たい、ねぇ、君は?」

 小さなスライムは僕の掌の中でプルプル震えているだけ。以前はそれを肯定と勝手に信じて連れて行こうとして他の仲間に攻撃されたんだよな。僕は首を横に振る。やっぱり僕にはどうすればこの子を連れて行けるのかが分からない。
 こんな事ならちゃんとどうやったら魔物を従魔に出来るのか勉強しておけば良かった。
 腕の中のスライムがプルプル振るえて僕の腕から逃げ出した。

「あっ……」

 僕の腕から飛び出したスライムは別のスライムに体当たりしていく。すると、何故かそのスライムが融合するようにして一回り大きくなった。

「え……」

 一回り大きくなったスライムはまた別のスライムにぶつかって仲間をどんどん取り込み大きく膨らんでいく。

「ちょ、これ、ヤバくね? どんどんでかくなってくんだけど……」

 ロイドが狼狽えたように後退る、そんな事をしている間にもスライムは合体を続けどんどん膨らんでいく。

「これっ、ヤバいって! 逃げようぜ、タケル!」
「でも、これはあの子だ、あの子は僕に何かを伝えようとしている」
「んなのっ! スライムだって魔物だぞ、魔物は人を襲うもんだ!」
「そんな事ない、あの子は無意味に僕達を襲うような子じゃない!」

 いつも無邪気に僕の周りを飛び回っていた可愛い子だ、なのにそんな、あり得ないよ。

「ねぇ、なんで? 君は何をしようとしてる? 僕は君の敵じゃない」
『……ボクもちがうよ』

 不意に頭の中に響いた声。

「え……?」
『つれてって、タケル』

 そんな声と共に巨大に育ったスライムが僕に突撃してきた。

「え、ちょ……まっ、むぐっ」

 完全にスライムの巨体に押しつぶされて僕は息もできない。これは、攻撃? まさか本当に命を狙われ……

『わあ、ごめん!』

 慌てたような声と共に胸元でスライムがシュルシュルと縮んでいく。

『いつものくせで飛びついちゃった』
「お前……」

 僕の腕の中にはいつものあの小さなスライムがいつもと変わらぬサイズで収まっている。さっきまでの現象は目の錯覚? いや、そんなはずはない、その証拠に完全に腰を抜かしたロイドがフリーズしている。

「僕と一緒に居てくれるの?」
『うん、ボク、タケルと一緒がいい』

 腕の中で少し緑がかった小さなスライムがまたプルプルと身体を震わせた。

「お、おい、タケル、それ、大丈夫なのか?」
「うん、なんか従魔にできたみたい」
『タケル、まだだよ』

 腕の中のスライムがまたプルプルと震えている。

「? まだ? ダメ?」
『ボクのな・ま・えは? タケルがつけるんだよ』
「名前? 君の名前を僕が付けるの?」
『うん!』

 腕の中のスライムは伸びたり縮んだりソワソワした様子で、僕の命名を待っている。

「おい、タケル。お前さっきから何一人でぶつぶつ言ってんだ?」

 ロイドが恐る恐ると言った感じに僕の腕の中のスライムを覗き込んだ。どうやら彼にはスライムの声が聞こえていないみたいだ。

「なんか、名前付けろって……えっと、どうしよう、スライム、スラ? いや、ライム……ライムでどう?」
『あんちょく~』

 思いっきりスライムにダメ出しされた!

『でも、いいよ。ボクのなまえはライム、よろしくね、タケル!』

 あれ? いいのか?
 安直と命名をディスったくせに、スライムはとても嬉しそうにプルプルしていて、そのうちにキラキラと光り始めた。そして、その発光が終わったら、またいつものスライムに戻りぴょんぴょんと跳ねまわり始めた。

「おい、タケル、さっきの何だったんだ?」
「さあ? 僕にも分からないよ。だけどどうやら上手くいったみたい。ライム、おいで」

 僕が名前を呼ぶとライムは飛び跳ねながら僕の腕の中に戻ってくる。やっぱりスライムって凄く可愛い。
 こうして僕は初めて受けた討伐依頼をなんとかクリアする事に成功した。
 冒険者ギルドでスライムを従魔にしたと告げたら少し笑われたけど、別にいいんだ。強くなくたってライムは存在してるだけで可愛いから!
 ライム、一生大事にするからな!

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...