童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第四章

僕が食べたかったのは刺身なのだけど……

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 剣の鑑定と小太郎の身分証の作成を終えて店を後にした僕達が次に向かう先は鮮魚市場だ! 何と言っても僕はこれを一番楽しみにこの街へとやって来たのだから自然と足も軽くなる。
 そんな僕とは対照的に足取りが重くなっているのは鑑定の結果、とんでもなく高価だと判明した剣を腰に佩いたロイドである。

「いやもうホント、無理無理無理。俺がこんな高級品を日常遣いって、絶対に分が過ぎますって!」
「だったらその剣、売りますか? 呪いの剣ではないと判明したので恐らく販売は可能かと思いますが、現状その剣に気に入られている、つまり、剣の意志に沿っている状態の貴方にはその剣は無害であるはずです。ですが一方でその剣を手離す事をその剣が良しとしない場合、その剣はどこまでも貴方を追ってくる。場合によってはその剣に刺される覚悟もおありで?」

 ルーファウスのそんな言葉にロイドが言葉を失くす。その傍らでアランは「その剣、まるで惚れた相手に粘着するストーカーみたいだな。愛してくれないのなら、お前を殺して俺も死ぬ! みたいな?」と、ゲラゲラと笑うのでロイドの眉間の皺は深まる一方だ。

「まぁ、ロイド君もさ、呪われてる訳でもなくて剣自体は凄く良い物なんだし、そこはラッキーだったと思ってもいいんじゃないかな?」
「タケルまでそんな事……」

 困ったような表情でロイドが溜息を零すと、そんな彼の傍らで相変らず彼の服の端を掴んでいた小太郎が「あの、本当に申し訳ないと思ってるんだけど、ボクには絶対それは使いこなせないし、使ってもらえるとボクも助かる」と、小さくもごもご呟いた。

「それで、できればボクがちゃんと自立するまで、その剣で守ってもらえるとすごく助かる……」
「ぐ……」

 ロイドが小太郎の言葉に声を詰まらせた。なんか、気持ち彼の耳赤くない?
 ロイドって元々お兄ちゃん気質というか、たぶん周りに頼られたいタイプだと思うんだよね。そんな彼にそのお願い、完全に心にクリーンヒットしちゃった気がするのだけど気のせいかな? 小太郎君って天然なのかな? もしこれを計算ずくでやってるなら、あざとさ全開だよ、小太郎君!

「お、男なら、自分の身くらい自分で守れっ!」
「うぅ……そうだよね、ごめん――」

 しょんぼりしてしまった小太郎にロイドが困惑顔でこちらを見やる。いや、そんな顔で見られても僕も困るんだけど?

「僕がちゃんと小太郎君のこと守るから大丈夫だよ。うちのパーティーメンバーは皆すっごく強いんだ。だから心配いらないからね」

 僕が仕方がないなという気持ちで紡いだ言葉に小太郎がホッとしたように頷いた。恐らく小太郎も僕と同じチーターだろうから、本当は自分の身くらい自分で守れるのだろうけど、まだ彼は現在自分にどんな才能が眠っているのか全く分かっていないようなので仕方がない。
 彼が自分の身を自分で守れるようになるまでは僕が頑張って彼を支えよう、なにせ同郷のよしみだからね。

 ※ ※ ※

 僕達が鮮魚市場に辿り着くと、そこには色とりどりのカラフルな魚が売られていた。これは果たして本当に食べられるのか? というような色をしたものまで平気で売られているのだけど、ところ変われば魚の種類だってもちろん変わるよな。この辺の黄色いのとか、よく見れば熱帯魚みたいに見えなくもないかな、牙生えてるけど。
 僕はどの魚がどのように食べられるのかをリサーチしながらカラフルな魚を物色していく。煮物がいい、こちらは揚げると美味い、旬の野菜と一緒に食せば絶品だ等々、色々教えて貰えるのだけどやはり刺身の情報は出てこない。

「あの、質問なんですけど、ここリブル湖では刺身、えっと生食で魚は食べられないんですか?」
「あ? 生魚を食うって? そんなゲテモノ食い、普通はしないだろう? 生魚を食べるのなんて『わんにゃん亭』の客くらいなものだ」
「わんにゃん亭? って、お店ですか?」
「ああ、獣人御用達の定食屋で人はほとんど寄り付かないがな」

 ほう、獣人御用達、そんな店があるのか。アランは半獣人だけど、今までずっと僕達と同じ物を食べている、けれど生粋の獣人となると食べる物も異なるのか?
 そんな素朴な疑問をアランにぶつけてみたら「基本的な所は人と変わらないはずだが」と前置きしつつ「父親はそういえば生の食肉も好んで食べていたな」と教えてくれた。アランの父親はグリズリー種の熊の獣人だそうなので、やはり半獣人に比べて生粋の獣人は野生に近いのかもしれない。

「僕、わんにゃん亭に行ってみたいです」
「だが獣人御用達なんだろう? 食えるものが何もない可能性もあるぞ?」
「でもアランのお父さんだってアランと同じものも食べてたんですよね? だったら全くないという事はないと思うんですよ。それに、その時はその時です」

 僕がどうしてもと、わんにゃん亭行きを切望すると、僕に甘い面々は皆渋々と言った感じで折れてくれた。今まで食べられなかった刺身がもしかしたらあるかもしれないと思うと僕はもうルンルンである。
 もしかして、もしかしたら海鮮丼みたいなものもあるかもしれない、いや、ここは期待しすぎは良くないか? でも、でも、今まで食べた事のない料理が出てくるであろうことは間違いない!
 足取り軽く僕達はわんにゃん亭へと向かう。道行く人にわんにゃん亭への道を聞くと一様に怪訝な表情をされたが気にしない。この世界、人も獣人もみんな仲良くやってるんだから、異文化交流だってしないとだよね!

 わんにゃん亭は鮮魚市場から然程遠くはなかったが、あまり人通りのない街の外れに店舗を構えていた。店の周りをうろついているのも獣人ばかりで、普通の人達では少し気後れしてしまうかもしれない雰囲気だったが、僕は気にせず店の扉を開けると「いらっしゃいませにゃー!」と元気な店員の声が店に響き渡った。
 店員さんは見るからに猫という見た目のブチの毛皮の猫獣人、器用に後ろ足二本で立っていて、身長は僕より少し低いくらいかな? 見た目はとても可愛らしく、エプロン姿が似合っている。しかも語尾がニャーなのが愛くるしい。

「おやおや、お客さまはお店をお間違えかにゃ? 当店は獣人御用達のお店で人族のお客様が来るようなお店ではにゃいですよ、それとも誰かと待ち合わせですかにゃ?」
「いえ、普通に客ですよ。ここでは生魚を食べさせてもらえると聞いて来たのですけど……」
「お魚にゃ? 今日は新鮮なのが入っているにゃよ。でも、お客さんは生魚を食べるのにゃ? 人族なのに変わっているのにゃ」

 そう言いながらも店員は、僕達が客であると判断し空いている席へと案内してくれた。店内の客はやはり獣人御用達と言うだけあって、右を見ても左を見ても獣人ばかり。半獣人の姿もあまり見かけないので、まるで獣人の見本市のようだ。
 そしてそんな獣人ばかりの店内は少し獣臭くもあり、生臭くもある。まぁ、でもそのくらいは許容範囲、平気平気。

「改めまして、わんにゃん亭へようこそなのにゃ! ご注文は全員生魚で良いのかにゃ?」
「すみません、私は生魚はちょっと……」

 ルーファウスが申し訳なさそうに片手をあげる。

「俺もどうせ食べるなら肉の方がいいな、肉はあるか?」
「もちろんにゃ、今日は新鮮なカウカウの肉が入荷しているにゃよ」

 カウカウと言うのは牛に似た魔物で肉質も牛に似ている。魔物と言っても性質は穏やかで、場所によっては牛と同じように飼育・繁殖をしている畜産場もあるらしいと聞いた事がある。

「それじゃ俺はそれで」
「生がいいかにゃ? それとも焼くにゃ? 焼き方の調節もできるにゃよ」
「ふむ、そうだな……じゃあ、ミディアム……いや、レアで!」
「ミディアム? レア?」

 アランの注文にロイドが首を傾げると「肉の焼き方。親父はレアが好きだったんだが、お袋は俺達子供には食わせてくれなかったんだよな、だからちょっと試してみた、お前等はウェルダンが良いと思うぞ。というか、うちのお袋は子供はウェルダン一択だって言ってたな」とそう言った。
 確かに肉の生食は自己責任みたいなところあるし、子供にレアはちょっと危険? なのかな。でも、その辺の好みは好き好きだよなぁ。
 こっちの世界に来てから僕も良く料理をしているけど、向こうとは衛生管理が違うからできるだけ肉も魚もよく火を通すようにしている。だけど生肉を出せるという事は、生食できる肉があるという事だ。だったらきっと生魚もちゃんとしたものだと期待は高まる。
 「それではカウカウの肉をウェルダンで」とロイドが注文して、オロチが『俺様は生肉がいい』と一言、僕はそれも注文して、ルーファウスと小太郎はどうするのかと聞いたら、ルーファウスは「私は結構です」と首を振った。

「小太郎君はどうする?」
「ボクも今はまだお腹空いてないので……」

 と、少しだけ強張った表情を見せ首を振った。
 この店は獣人御用達と言われているだけあって周りの客は全員獣人だ、そんな中に僕達みたいな人族の客が来たら当然注目の的で、小太郎はそんな獣人達の視線に居心地の悪さを感じているみたいだ。小太郎はまだこちらの世界にも慣れていないし、こういう雰囲気は苦手なのだろう。
 僕なんか冒険者の人達に揉まれているうちにいつの間にかすっかり慣れちゃったけれど。

「は~い、お待たせにゃ! 新鮮な生魚にゃよ、存分に召し上がれ」
「え……?」

 しばらくすると運ばれてきた皿を見て僕はしばし硬直する、その皿には確かに新鮮な魚が乗っていた、なんならぴちぴちと尻尾が動いているくらいの新鮮さだ。だけど、魚だ、そのまま魚。活け造りとかですらなく、そこにはただ活きのいい魚が大皿に乗っていた。

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