童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第四章

聖剣グランバルトは好き嫌いが激しいようです

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 僕達が連れて行かれた王子たちの宿泊する宿屋は恐らくこの街で一番の最高級ホテルだった。ホールに入った瞬間から絨毯はふかふかで、周りを見渡しても僕達のようなカジュアルな服装をしている者は誰もいない。
 そもそも僕達冒険者風情が宿泊するようなホテルではない事は一目瞭然で、周りからの視線が痛い。
 ホテル自体が上品で粛然としていて子供が騒ぐ事もなければ、大声で騒ぐ下品な酔っぱらいなんかもいる訳がなく、僕達のいかにも冒険者という出で立ちを見た宿泊客の「下賤の輩がなんでこんな所に……」なんてひそひそ声が丸聞こえだ。
 そんな中でも王子達一行はその視線を気にする様子もなくて強いなと思う。
 そしてホテルスタッフは眉を顰めたりもせず僕達を普通にもてなしてくれるあたりは、さすがに一流だなと思わざるを得ない。
 僕達が案内された部屋は恐らくこのホテルでも一番値段の高いスイートルームだと思われる部屋。いや、部屋というかその広さを考えると、もう家と言っても差支えない部屋に通されて僕達はぽかんとしてしまう。
 だって、どう考えてもその部屋はメイズで僕達が暮らしていた家よりも広いのだ、家具や調度品も高級そうなものが一通り揃っていて一泊が幾らくらいするのか考えるだけで恐ろしい。
 かけてくれと勧められたソファーに腰掛けるとふかっと身体が沈んでしまって、それだけの事でもう僕はソワソワが止まらない。

「なんて言うか、落ち着かねぇな……」

 ぼそりと零したアランの呟きに僕は頷く。そしてそれはロイドと小太郎も同じだったようで、平然としているのはルーファウスだけだ。

「それで、レオンハルト王太子殿下は何故このような場所においでなのですか? 国の後継ぎがろくに供もつけず庶民に混じり定食屋で食事だなんて、あまり褒められた行動ではありませんね」
「何故? 王というのは国民あってこその国王だろう? 庶民の生活を知らずして王は国を治める事はできないと私は考えている。まだ国王になっていない今だからこそ私はこういった機会を逃さないようにしているのさ。私はむしろ王家の人間はもっと国民に寄り添うべきだと思うけれど?」

 あれ? なんかこの人意外とまともな事言うな……女にうつつを抜かして諸国漫遊なんて話を聞いてたからもっとぼんくら王子だと思ってたのに、先入観だけで人を判断してはいけないなと僕は反省する。

「私達はね、現在世直しの旅をしているのだよ。城に籠っているだけでは知り得なかった庶民の生活をこの目で見て国を立て直す為に私達は旅をしているのさ」
「まぁ、あたしのレベル上げのついでだけどね」

 なんか、王子様がいい事言った風な感じなのに横やりが入って、皆が「え?」と王子の横に座り退屈そうにしている茉莉を見やる。

「なに驚いたような顔してんの? この箱入り王子がそれだけの為に旅なんかする訳ないじゃん、あたしの聖女としてのレベルが足りないからレベル上げるために各地を旅して、ついでに問題を解決して回ってるだけ。それというのも全部コタ、あんたが勇者としての役目を放り出して逃げ出したせいだかんね!」
「ええええ……」

 突然の責任転嫁に小太郎が困惑気味な声を上げる。

「あんたはこっち来てすぐどっか行っちゃったから知らないと思うけど、この世界ではもうじき100年に一回の災厄が訪れるんだって! その災厄を退ける役としてあたしとあんたが召喚されたのに、あんた一人で勝手に逃げ出すからこんな事になってんの! 勇者と聖女二人揃ってればその災厄ってのにもそのまま対処できたのかも知れないけど、聖女一人でどうにかなる訳ないじゃない、だからあたしのレベル上げと、ついでにこのドM王子は勇者の代わり、あんたの代役!」
「その災厄というのは魔物の大暴走スタンピードの事ですか?」
「あら、お兄さんは知ってるんだ、それよ、それ! あとコタ、あんたが持ってった聖剣グランバルト! あれも必要なんだから返して!」
「えっと、それって……あの時ボクが渡された……?」
「そうだって言ってんでしょ! まさか失くしたなんて言わないでしょうね!?」

 皆の視線がロイドに集まる。まぁ、僕はアレが聖剣グランバルトだって事は知っていたんだけど、こんな形で正体がバレるとは思わなかったな。

「えっと、それってコレの事?」

 ロイドがベルトホルダーを外して机の上に剣を差し出す。それを見て茉莉は少し不思議そうな表情で「なんでこの人が持ってんの?」と首を傾げた。

「ソレ、怖いからロイドさんにあげた」
「はぁ!? あげたって、あんたコレ勇者の剣だよ!? 意味分かって言ってる!?」
「し、知らないよ! だってボク何も聞いてないもん!」
「それはあんたが話も聞かずにとんずらするから――!」
「ボ、ボクだって、なんで外に放り出されたのか分からないんだ! 逃げた逃げたって言うけど、ボクだってどうしてそうなったのか全然分からないのに、一方的に責めないでよ!」

 ようやくと言った感じで一気に言い切った小太郎ははぁはぁと肩で息をしている。確かに小太郎の方にだって言い分はあるだろうに先程から彼女は彼の言葉には全く耳を傾けようとしていなかったからな。

「あのぉ、聖剣グランバルトって、今、冒険者ギルドの方で捜索依頼出てますよね? 本当にこれが聖剣グランバルトで間違いないんですか? これ、元々コタローが持っていた時にはナイフで、俺が持ったら長剣に変わったんですけど、聖剣グランバルトってそういう剣なんですか?」

 おずおずと言った感じでロイドが茉莉に声をかけると「大臣がコタに渡したのがそうだって言うんだから、そうなんでしょう! 私だって知らないわよ! ねぇ、レオ、これ本当に本物なの?」と茉莉はレオンハルト王子に詰め寄った。

「ふぅむ、私の知っている聖剣グランバルトとは少し意匠が変わっている気がしなくもないのだけど、これはコタローが大臣に渡されたもので間違いない?」
「ボ、ボクがこっちの世界で手に入れた物なんてそれだけなんで、間違いないですよ! ようやく手離せたと思ったのになんなんですか! 欲しいなら勝手に持ってってください!」

 半ばやけくそ気味な小太郎の言葉に王子が剣に手を伸ばす。すると、剣が弾かれたようにその手を打ち払いガタガタと刀身を揺らした。

「おっと、これは……?」
「おやおや、王子はこの剣に嫌われたようですね」
「それはどういう事かな?」
「どうやらその剣は持ち主を自らの意志で選ぶようなのです。もし、それが本物の聖剣グランバルトだというのなら、勇者を自らの意志で選ぶ、といった所でしょうか。何故そこで彼が選ばれたのかは謎ですけれど、召喚勇者様もあまり勇者に向いているタイプには見えませんし、もしかするとこの剣のみが考える勇者としての価値基準というものが存在するのかもしれませんね」
「え、ちょっと待ってください! って事は俺には勇者になれる資質があるって事ですか!?」

 少々食い気味にルーファウスに尋ねるロイドに、ルーファウスは「あくまでその剣の意志ですので、私に断定はできません」とけんもほろろに切り捨てた。
 それにしても聖剣グランバルトは勇者の剣か、一度くらい僕も触ってみれば良かったな。だって、やっぱりそういうステータスの付いた武器って格好いい! 『選ばれし伝説の勇者』って、その響きが既に少年心をくすぐるってものだ。

「剣が人を選ぶって何様!? ってか、あたしにはその剣が必要なの! レオがその剣に嫌われてるって言うなら、あたしがその剣使うわよ!」

 今度は茉莉が剣に向かって手を伸ばす。すると今度は先程よりも極端に大きく反応が出た。というのも、剣がまるで磁石の対極かのように茉莉の手から逃げ出したのだ。茉莉が手を伸ばせば伸ばす程、剣がガタガタと刀身を揺らして逃げて行く、その光景は些か滑稽ですらある。

「ちょっと、何なのよコレ! マジムカつく!!」

 しばらく聖剣グランバルトと追いかけっこをしていた茉莉がキレる。けれど僕達にはどうする事も出来ない。

「コタ! これ一体どういうこと!?」
「そ、それをボクに聞かれても分かる訳ないじゃん! この剣については茉莉ちゃんの方が詳しいんだろ!」
「コタの癖に生意気な口聞いてんじゃないわよ!」

 剣から離れて茉莉が小太郎の方に手を伸ばすと、聖剣グランバルトはまるで小太郎の危機を察したかのように茉莉と小太郎の間に割って入って、ポカポカと茉莉を攻撃し始めた。
 その攻撃は敵意はあるものの殺意があるという程ではなく、刀身は鞘から抜けてもいない。恐らくその剣は彼女を小太郎の前から追い払いたいだけという感じで、僕達は聖剣グランバルトのその動きをただあっけに取られて見守ってしまった。

「痛い、痛いってば! もう何なのよ、誰か助けなさいよ! どいつもこいつも使えない奴等ね!!」

 そんな彼女の言葉にハッとした様子のロイドが剣に手を伸ばすと、ロイドの手の中で剣はスンっと大人しくなった。

「ムカつく! ムカつく!! ムカつく~!!! 何なのよ! 何が勇者の剣よ! 勇者でもない奴のいう事ばっかり聞いて『勇者の剣』なんて気取ってんじゃないわよ! ああ、腹立つ!! それにどうすんのよ! こんなんじゃ魔物の大暴走スタンピードなんて止められないよ!」

 茉莉が今度は王子に矛先を向けて詰め寄っていく、そんな茉莉の様子に王子は「そうだねぇ……」と腕を組んでから「ここはやっぱりドラゴンかな」と、にぱっと笑みを見せた。

「ドラゴンかな、じゃねぇわ! そもそもそのドラゴンが何処に居るんだって話でしょ! この脳無し!!」

 僕はエリシア様の話を聞いて、王子様はとんでも聖女様に振り回されているものとばかり思い込んでいた。けれど、今、目の前でこの二人を見ていると、どうも振り回されているのは茉莉の方なのではないかという疑問が湧いてくる。

「召喚勇者は役立たず、勇者の剣は所在不明で、この世界が危機に瀕してるって言うからあたしがレベル上げまでして頑張ってやってんのに、何なの!? あたしのこと馬鹿にしてんの!? もういっそこんな世界滅びちゃえばいいのよ!!」
「どうどう、落ち着いてマツリ。まだ何もかも駄目だと決まった訳じゃないんだ、現に私達は触れる事は叶わくとも聖剣グランバルトも勇者殿も戻ってきた、私達は確実に前に進んでいる」
「その召喚勇者が勇者の剣は怖いから他人にあげたとか言ってんだよ!? それで前に進んだなんて言えんの!? こいつ戦う気全然ないじゃん! ってか、なんであたしが聖女でこいつが勇者なの!? 完全に人選間違ってんでしょうが! この世界の神様は馬鹿なのかぁぁ!!!」

 ぜぇぜぇと肩で息をする茉莉は一気に叫ぶとドカッとソファーに座り込み「やってらんない」と一言、「マリーお茶とお菓子! とびきり美味しいのじゃなきゃ許さないから!」と偉そうに護衛である女騎士のマリーに命令した。
 理不尽な命令を受けたマリーだったが、こんな事は日常茶飯事なのか彼女は黙々とお茶の準備をし始める。彼女のお勤めも大変そうだと僕は同情を禁じ得ない。
 マリーは茉莉の分だけではなく、僕たち全員にお茶の準備をしてくれる。そんなマリーの入れてくれたお茶を啜り、一度息を吐きだし気を取り直したように茉莉は「で、あんたはなんでリブルに居るわけ? この三年間ずっとここに潜伏してたの? 少しはスキルレベルも上げてあるんでしょうね?」と不機嫌顔を隠さずに小太郎に問う。

「さ、三年って何? タケルさんも前にそんな事言ってたけど、ボクはこの世界に来てまだ一ヵ月も経ってないよ……」
「はぁ!? あんた寝惚けてんの!? ふざけないで!」

 お茶の入った高そうなカップを音を立てて机に置き、またしても激昂する茉莉に小太郎は「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

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