童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第七章

やはり旅には冒険が必要です

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 僕とアルバートさんの二人旅はあまり旅という感じがしないものだった。それというのも、昼間は街道旅をしていても夜にはエルフの里の自宅に帰って普通に生活をしながらの旅だからだ。
 あれ? これって旅って言える? なんて思わなくもないのだけど、宿の心配や食事の心配をしなくてもいい旅は快適そのもの、里の人達も僕達が実は里の外を旅してるなんて気付いてないんじゃないか? という感じである。
 転移魔法は自分の行った事のある場所にしか行く事が出来ない。それは魔術で場所をマーキングしていくようなやり方で、やり方は人それぞれ。
 僕は元々シュルクの街を知っているので、もしかしたらそのまま行けるかも? なんて思ったりもしたのだけれど、それは駄目だった。
 あの頃の僕はまだ転移魔法を使う事ができなかったし、勿論マーキングなんてしていないのだから当然といえば当然だ。
 帰る場所はエルフの里のそれぞれの自室に魔法陣を描き固定、こうしておけば保有魔力量がギリギリになってしまっても家に帰る事ができるので安心だ。
 転移魔法は距離が離れれば離れるほど消費魔力量が多くなるようなので、その辺の加減は旅をしながら少しずつ身に付けていく事になった。

「今日も平和だなぁ」

 ほてほてと歩きながらアルバートさんがつまらなそうにそんな事を言う。

「平和な事は良い事では?」
「いい事かもしれないが、私は冒険がしたくて旅に出たんだ、こう何もないと冒険をしているという気が全くしない」

 それを言われてしまうと僕も否定しずらい所ではある。なにせ今回の旅は僕にとっても今までで一番楽な旅である。
 やはり冒険は苦労してこその冒険なのだろうな。
 僕達が一番最初に向かったのは僕の時代ではグランバルト王国の首都と呼ばれていた土地だった。
 そこはアルバートさんに言われていた通りさほど大きくもない田舎町で、シュルクの街を思い出させた。
 あの頃には立派に聳え立っていたお城なんてものは当然ないし、お店も個人で経営しているような小さなものばかりで、これがあそこまで発展するのか……と、僕は少しばかり感慨深い。
 少なくとも僕がいたあの時代はこの時代より300年程先の時代になるわけで、東京だって300年前ならまだその辺を武士が走り回っていた時代だ、そりゃ変わるよなと変に納得してしまった。
 ちなみにその小さな町には冒険者ギルドがあった。というか、この時代から既に冒険者ギルドはあるんだなとそちらに感心してしまう。
 けれど、冒険者ギルドは冒険者ギルドでも僕の知っている冒険者ギルドとはやはり少しばかり赴きは違っていた。

「え、依頼ってその町で受けたものはその町でしか報告受付してくれないんですか?」
「は? お前は何を当たり前の事を言っている? 当然だろう?」

 受付に立つ強面のおじさんが意味が分からないというような表情で僕を見る。僕が知っている限り冒険者ギルドの受付は可愛いお姉さんである事が多かったので、これもこれで新鮮だ。
 冒険者ギルドはギルドの看板を下げてはいるが、建物の中は飲み屋のような感じで仕事の斡旋は二の次という雰囲気を醸し出している。

「あれ? 依頼にランク表記が、ない?」

 僕の時代、冒険の依頼は冒険者ランクごとに分かれていて、ランクの低い冒険者は高ランクの請け負う仕事はそもそも受ける事もできなかったのだけれど、依頼書を見る限りそんなランクの表記もない。

「坊主は冒険者なのか? 何処で冒険者をやっていた? 都会の方じゃ冒険者のランク分けなんて制度も始まってるらしいけどな、うちみたいな小さい所じゃそんなもんはねぇよ」

 そうなのか! この時代、まだ冒険者ランクという制度自体が出始めたばかりで場所によっては機能していないのか! それは驚きだ。

「タケル、ここで依頼を受けるのか?」
「そうですね、依頼を受けながら旅ができればと思ったんですけど、どうもそれはできそうにありません」

 僕達は旅をする時、出発の冒険者ギルドで依頼を受け、その道中で依頼を完了させて着いた先の冒険者ギルドで依頼の報告と依頼料の支払いをしてもらうという形で今まで旅をしてきた。それが当たり前で当然だと思っていたのだけれど、どうやらまだこの時代そのシステムは確立されていないらしい。
 ついでに言えば冒険者ギルドカードなどという物も存在していないようで、依頼は誰でも受けられるらしい。冒険者ランクもないくらいだ、ここは冒険者ギルドとは名ばかりの、なんでも屋の依頼窓口といった感じなのだろう。

「仕事をしたいってんなら、坊主にはこんなのはどうだ?」

 そう言って強面のおじさんが僕に差し出したのは、町の中での配達仕事で、どう見ても冒険者の仕事ではない。子供のお手伝いだ。
 やれと言われればどんな仕事でもやるのだけれど、少なくともDランク冒険者の僕ではなく、もっと初心者に割りふるべき仕事だろう。

「魔物討伐の仕事とかないんですか?」
「坊主は魔物を倒せるのか?」
「まあ、それなりには」

 現在僕の攻撃力は前に比べて格段に下がっている。さすがにリヴァイアサンをもう一度倒せと言われても無理なのだけれど、町近くに出るような小物ならば恐らく倒せると思うのだ。
 ライム一号のような攻撃力をまだ発揮していないライム二号に戦闘経験の実績を積ませたいので、できれば討伐依頼を受けたい所だ。

「だったら魔の森の魔物を狩ってくるって依頼もあるけどなぁ、今あそこは……」
「あ~……」

 魔の森、それはエルフの里の周辺の森の事を指す。その依頼を受けたら、ここまで来た意味もなく逆戻りになってしまうので僕はどうしようかと少し迷った。
 転移魔法で行って帰ってくるだけならすぐなので、受けても問題ないのかもしれないけれど、それなら依頼を受けるより少しでも道を先に進んだ方が建設的だ。

「やっぱり駄目か。なんせあそこは今となっては魔王の領地って話だしな、賢明な奴等は誰も行きたがらない。知っているか? 魔王ってのは巨大な獣の姿をしているらしいぞ、坊主なんか一飲みで食われちまうかもしれねぇな、ハハハ」

 なんか変な噂が拡散されてる!
 強面のおじさんは冗談だと笑っているけど、そうやって間違った噂はどんどん広まって行くのだろうな。
 だけど、噂を聞く限り僕の目論見は完全に成功していると言っていい。冒険者達も寄り付かないのならば、当分はエルフの里も安泰だ。良かった良かった。

「ん~今回は依頼の受諾はやめておきます。魔物素材の買取はどこの冒険者ギルドでも受けてくれますよね?」
「ああ、それはな」

 おじさんが肯定の意を示したので僕はそれに頷いて、旅の間は重点的に魔物素材の収集をする事に決めた。なにせ旅をするのには金がいるのだ。
 ちなみに僕の鞄の中には僕の今までの稼ぎが丸っと収められていて、旅費には恐らく困らないと楽観的に考えていたら駄目だった。
 商店で差し出した僕の持つ硬貨はこの地で現在流通している物ではなく、グランバルト王国が建国されてから新しく流通し始めた硬貨であると判明し、全く使えなかったのだ。
 現代日本で流通しているお金が江戸時代には全く価値を持たないのと同じ理屈だ。
 けれど、僕の持つ硬貨はそのものの金額としては使えないが、金属として両替は出来た。何処の国の硬貨かは分からないが細工が細かくて良い物だと、コレクション的に購入してくれる人もいて、当面の旅費に当てる事はできたのだけれど、金額的には大損なのでできれば両替したくない僕はやはり仕事をするしかなかったのだ。
 こうなってくると、宿代と食事代を節約できる今回の旅は本当に有難いと言わざるを得ない。覚えて良かった転移魔法。

「なんだ、結局依頼は受けないのか」

 アルバートさんが少しつまらなさそうだけれど、効率的な依頼の受諾ができないのだから仕方がない。その辺の制度も王国が設立されてから少しずつ整備されていったのだろう。
 国王陛下が元冒険者なだけにその辺はぬかりがなさそうなので今後の展開に期待だな。
 僕達は魔物を狩りながら旅を続ける。僕は自力の魔法攻撃とライムを使っての魔法攻撃、アルバートさんは弓での攻撃と僕と同じ魔法攻撃が主な攻撃方法で、実は二人ともが近接戦闘には向いていない。
 僕にはアランから教わった対戦格闘術が少しだけと、アルバートさんは短刀での軽い近接戦闘技術はあるそうだけれど、どちらも攻撃力としてはいまいちなので僕達はいつでも遠くから獲物を狙い撃ちだ。
 外すと近接戦闘に持ち込まれて不利なので慎重に慎重を重ねている。
 こう思うとやはり僕達4人、アラン・ルーファウス・ロイドのパーティーは組み合わせが良かったと今更ながらに思わずにはいられなかった。
 街道を歩き続けて数週間、今度は僕の時代では観光都市と呼ばれていたリブル湖畔まで辿り着く。
 僕が以前この街を訪れた時に説明された街の概要は観光都市リブルは美食と宝飾の街と呼ばれているという事。実際街に入ればあちこちで宝飾品の商店が立ち並んでいたし、湖の近くには魚を売る漁師で賑わっていた。
 けれど現在のリブルは町どころか村レベルの小さな漁村だった。

「なんか、思ってたのと違う……」
「あ? 何が?」

 現在の地図を見てもリブル湖とリブルという地名の記載があるので、ここまで変わっているとは想像もしていなくて、僕は呆然としてしまう。

「僕が知っているリブルはもっと大きな街だったので、一体何があったのかと……」
「へぇ、何かがあったというより、これから何かがあるんだろう。心当たりはないのか?」
「分かりません。でも、僕の時代にはリブルは美食と宝飾の街って呼ばれていました。王都から近いので貴族の別荘なんかもたくさん建っていたんですよ」

 アルバートさんは僕の話に耳を傾けつつ「宝飾か」と、ひとつ頷いた。

「もしかしてこの近くで何か宝石が発掘されたとか、そんな事はないか?」
「あ! そういえば宝石と魔石もたくさん手に入るんだって誰かが言ってた気がします!」
「なるほどな。だとすると、その宝石の採掘現場を見付けだせたら一財産稼げるかもしれないな!」

 アルバートの目がきらりと光った。
 あ、そういえばこの人、この土地に別邸持ってる人だった。
 ルーファウスはこの地に建てられた別邸で育っている、これはもしやこの地で何かが起こるのかも? というか、アルバートさんがもしかしてこの街を発展させた立役者の可能性、ある?

「探してみます?」
「お前はいいのか? 私としてはもう勝つと分かっている賭けに乗ったようなものだから是非探してみたいところだが、急いでいるんだろう? 人の生というのはエルフと違って短いからな」

 確かに彼の言う通りではあるのだが、焦った所で何かが変わる訳ではない。ルーファウスの誕生にはアルバートの存在が必要不可欠で、そんな彼が興味を示した事を否定すると未来が変わる可能性だってあるのだ。
 僕達はしばらくの間、このリブルでの滞在を決めた。とはいえ現在のリブルは小さな漁村だ、僕の時代には観光地として整備されていて宿もお店もたくさんあったけれど、今現在は何もない。
 村の人達もこんな辺鄙な土地に余所者がいる事に不審気な表情を見せていたのだけれど、ここでアルバートさんが意外な行動にでた。
 それは自分の綺麗な顔面を最大限に利用した村人たちの懐柔策だ。
 ルーファウスと面差しの似ているアルバートさんがにこりと笑みを浮かべると、それだけで村の女達は皆彼に見惚れてしまう。そこに彼は畳みかけるように語りかけるのだ。

「私達はとある情報筋からこの土地の近くに宝石の採掘できる鉱脈があるという情報を得たのですが、心当たりはありませんか?」
「鉱脈? 宝石? それはこういったキラキラした石の事かい?」

 そう言って女性の一人が差し出したのは鎖で繋がれた小さな石。研磨も何もされていないその石は無骨な形をしていたが、確かに僅かに光を放っている。

「そうです! これは何処に!?」
「向こうの山に落ちてるらしいよ。ただあの山は魔物も多く住んでるからねぇ、地元の者は余程寄り付かない。これは若い頃うちの亭主が度胸試しに行って取って来た戦利品だよ」

 それだ! と、内心で僕もアルバートさんもガッツポーズをしていたと思う。恐らくその山は宝石の採掘できる鉱山だ。これは早速向かって確認してみなければいけないだろう。

「だけど、あの山に行くのはやめた方が良い。普通に魔物が多くて危険というのもあるけれど、あそこには『山神様』がいらっしゃるからね。今までも冒険者が何人も挑んでは命を落としている、無謀な事はするもんじゃない」
「山神様? それは魔物なんですか? それとも神様?」

 なんだか不穏な名称が出てきたな。魔物なのか神様なのか、どっちだ?

「山神様も魔物は魔物なんだろうねぇ」
「具体的にどんな魔物なのか分かりますか?」
「聞いた話によると相当大きくて凶悪な魔物らしいとは聞いているけど、どんな魔物かまでは分からないねぇ。ただ山に近付きさえしなければ害はないから私らは山神様って呼んで祀っているんだよ」

 なるほど、そういうのは日本の昔話でもよく聞く話だ。災厄をもたらすモノであってもそれを祀って平穏を祈る。
 たぶん『山神様』という単語自体は僕の自動翻訳機能が分かりやすい言葉に変換してくれているのだろうけど、触らぬ神に祟りなしって感じで恐らく今までその山は手付かずだったのだろう。

「悪い事は言わないから、あんた達もあそこには近寄るんじゃないよ」

 なんて村の女達に釘を刺されたけれど、僕達には行かないという選択肢はなかった。だって、これこそがアルバートさんが求めていた冒険そのものなのだから。

「ふふふ、ようやく楽しくなってきたなぁ!」

 アルバートさんが心底楽しそうだ。

「でも本当に危険な魔物がいるかもしれませんよ?」
「それは行ってみなければ分からんだろうが! さあ、行くぞ相棒!」

 なんかいつの間にか相棒にされてる。別にいいけど。
 こうして僕達はリブル近郊の宝石が発掘できるのであろう山へと足を向けたのだった。

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