童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第七章

オルデ村との関わり方

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 僕達が山間の集落、オルデ村の住人と交流をするようになって村の生活は劇的に変わった。
 村長とアルバートさんとの話し合いは数日に及び、その結果、二者間の取引はお互い納得した上できちんと成立したらしい。ちなみにその話し合いに僕は一切口を挟ませて貰う事はできず、取引は粛々と二人の間で締結されていたので、内容は全て事後報告だ。
 彼等の姿を変える幻影魔法を使えるのは僕だけなのに、その僕を置き去りにした事後報告もどうかとは思うのだけどね!
 僕達がまず一番初めにしたのは彼等にまともな生活を送るだけの生活必需品を提供する事だった。
 『衣』『食』『住』これは生きていく上で絶対に必要になるもので、まずその辺りを整える事は急務だった。
 なにせ彼等の生活はその衣食住の全てが必要最低限、衣類は辛うじて肌を覆う程度で暑さ寒さをしのぐ事はできなさそうだったし防護機能だってまったくない。食事は自生する山菜と魔物肉が主食で蓄えなどもなく、その日食べる事だけを考えるだけの食生活だった。
 住環境は一応小屋が幾つか立っているのだけれど、それもかなり簡素な物で雨が降れば雨漏り、風が吹けば隙間風が吹き込む。大型の魔物に襲われたら一溜りもない程度の物だった。
 寒い時期は洞窟を探してその中に引き籠るのだと聞いて、確かにその方が安全そうだと思った程度に住環境としては最低限だった。
 そんな状況だったので僕達はまず街に出て食料と衣類を買い込んだ。勿論その代金は村人達が持ってきた宝石や魔石を売った金で賄った。
 まだ研磨もしていない原石だったが、輝石の質が良いと悟った商人達はこぞってその石を買ってくれたし、喜んで商品を売ってくれた。
 その石を一体何処で見付けたのかと目を爛々とさせた商人達に詰め寄られもしたけれど、アルバートさんはそれを「企業秘密」で貫き通した。そして、それらの石を今後も提供して欲しかったら「良いお取引をいたしましょう」と、綺麗な笑みを浮かべて見せた。
 ちなみにそれらの商人との話し合いにも僕は一切の口出しを禁止されていた。まあ、海千山千の商人と渡り合うには僕の交渉スキルはあまりにもお粗末すぎるようなので仕方がない。狐と狸の化かしあいはアルバートさんにお任せだよ。
 村人たちに衣類を渡して、腹いっぱいに食事を与える。それだけで村人たちの瞳には生気が宿った。皆が皆、死んだ魚のような目をしていただけに、その変化は見ていてとても嬉しかった。
 そして続いて取りかかるのは住環境、建築に関してなら適任者がエルフの里に居るからな。
 転移魔法でペリトスさんをオルデ村に連れて来ると、彼の修復魔法で掘っ立て小屋はすぐに綺麗な家に生まれ変わった。
 いつ壊れても不思議ではない掘っ立て小屋をみるみるうちに立派な一軒家へと『修復』していったペリトスさん。そんな彼を見る村人たちの目はそれこそ神様でも崇めているようなまなざしで、今でこそ多少改善はしたものの、エルフの里では石潰し扱いしかされてこなかったペリトスさんは多いに困惑していた。

「いや、これはそこまで感謝されるような魔法ではなく一般的な生活魔法で、たぶん習得すればあんた達にだってできると、いや、本当に貢物とか要らないから!」

 村人たちは何故か感謝を何かを貢ぐ事で表したがる。元々山神様に生贄を捧げてこの山に住まわせてもらっているつもりだった彼等の頭には、そうする事でしか感謝を表す術がないようで、自分達にはそれしかないからと己を差し出そうとする者までいる。
 これにはペリトスさんも僕達も困惑しきりだ。
 村長曰くここの村人たちは奴隷商の元から逃げ出してきた者達だという事で、騙されて売り払われてきた者も多かった。この世の中は無償で施される事などない、対価を支払わなければ何か大変な事になるという考え方があるようで、僕達の前には更に魔石と宝石が積み上げられる事になるのは必然だった。

「これ、貰い過ぎでは……」
「しっ! タケルは余計な事は言わなくていい!」

 いや、それにしてもこんもり目の前に積み上がった輝石は最初に積み上げられた物の三倍くらいありそうだし、これだけあったら当分村人たちは何もせずとも暮らしていけるくらいの一財産なのではないかと思うのだ。
 僕達がこれを受け取ってしまったら、それこそ僕達の方が搾取する側の人間になってしまう気がして、僕はそのたくさんの輝石を受け取るのはどうかと躊躇した。
 けれど交渉役のアルバートさんはやはり僕に黙れという。

「でも!」
「交渉は私に一任する約束だったはずだ」
「ですが、これはあまりにも横暴では――」
「タケル、少し俺と話をしようか」

 どうにも不信感を露わにした表情をアルバートさんに向けてしまう僕にそう言って連れ出したのは僕達二人のやり取りを傍観していたペリトスさんだった。彼は山中に分け入り、辺りに人気がないのを確認してから口を開いた。

「タケル、お前は今アルバートを自分の利ばかりを追及する人情のない奴だと思っているだろう?」
「それは、だって、その通りですよね?」

 だって明らかに僕達の懐に入っている金額の方が与えている物に対して大きすぎる。けれど、ペリトスさんはそんな僕の反応に対して首を振り「確かに一見そう見えるかもしれないが、それは違う。アルバートはそんな暴利をむさぼるような事をする奴じゃない」とそう言った。

「でも……」

 けれどそんな事を言われても僕には納得がいかない。だって僕達は明らかに対価を貰い過ぎている。

「これはお前が望んだ事でもある」
「でも僕は彼等を搾取する事を望んではいません」
「それは短期的な物の見方なんだよ、タケル。俺達エルフの寿命は長い、アルバートに関して言えばたぶんここにいる誰よりも長いのは分かるよな?」

 僕はそれには頷いたのだが、ペリトスさんが何を言い出したのかが分からなくて首を傾げた。

「魔石はともかくとして、宝石というのはいずれ枯渇する資源だという事はタケルも分かっていると思う」
「それは……そうですね」
「この山には一体どれくらいの宝石の原石があると思う?」
「――分かりません」

 ペリトスさんが僕に何を伝えたいのかが分からない。枯渇してしまうかもしれない資源だから回収できるうちに回収しておかなければダメだとか、そんな話なのか?

「そうだな、俺達にもそれは分らない。タケル、もしもそんな資源がすぐに枯渇してしまったらお前達はこの村から手を引くのか?」
「えっと、それは、できればしたくありません」
「それは何故?」
「だって彼等は人里に降りられません、僕達が手を引いてしまえばまた元の貧しい生活に戻ってしまいます」

 ペリトスさんはひとつ頷く。

「そうだな、そうなった時、彼等はどうすると思う? 一度知ってしまった贅沢を手放すというのはなかなかに勇気がいるモノだ」

 確かにそれはそうだろう、僕達は彼らには普通に当たり前の生活をして欲しいと思うけれど、それは彼等の今までの生活からしたら贅沢には違いない。

「彼等は街に出たいといいだすかもしれません」
「そうだな。その場合に考えられる事は色々あるが、上手く人族との関係を結べているのなら、そもそも彼等はこんな場所に隠れ住んではいないんだ。俺達エルフの里もそうだが、一度知ってしまった文明からは離れられない。どうにかその恩恵に預かりたいと望んでしまう。そうなった時、望まれるのはお前の力、つまりは闇魔法だ。アルバートはそれを望んでいない、それは俺も同じだ。闇魔法なんてのは使わなくていいのなら使うべきじゃない」
「…………でも、そんなすぐに資源が枯渇するとも思えませんし、それとこれとは話が別です。現時点では明らかに僕達は対価を貰い過ぎで……僕だってダメだと言われる事は基本的にはしたくないです。確かに資源の枯渇の事は考えていませんでしたが、だったらもっと別の方法で村人たちの生活基盤を作る事だって……」

 ペリトスさんがまたひとつ頷いた。

「そうだな、タケル。村人たちの生活基盤を築くにはどうすればいいと思う?」
「えっと、まずは食料を手に入れるためには畑を作ったりとか、魔物が襲ってきても太刀打ちできるような装備も。服とかも自分達で作れるようになれば自給自足もできるようになるかも」
「そうだな。その為にはまずこの村に水を引いたり土地を整えたりする必要がある。それには金が必要だ。そこで質問なんだが、タケル、お前の魔法を一切使わず、それらを過不足なく整えるのにあの宝石で足りると思うか?」

 え……っと、それはどうなのだろう? 確かにあれだけの量であれば確実に一財産であるし、当面は暮らしていけるだろうけれど、そう言った事も加味すると正直少し心許ない。普通に何もなくても一生涯という訳にはいかないように思う。
 それに僕の魔法を使えば割と何でもできてしまうけれど、それを使う事を禁じられてしまえばそのひとつひとつの作業には相応の対価は発生するだろう。

「俺達エルフの寿命は長い、恐らく今後この村の者達が代替わりしたとしても、少なくともアルバートは生きているだろう」
「それは、そうですね」
「この村の者達の子や孫の代になって資源が枯渇したとして、その時になって代価が払えないからと彼等を見捨てる事などもはやできない。お前がそれを望んだからな」
「っ……」

 ペリトスさんは僅かに笑みを浮かべて「あいつは優しい奴だから」と続ける。

「タケルが死に、この村の現在の住民たちが死に絶えた後までアルバートが彼等の面倒を見る必要なんて別にないんだ。だけどな、一度深く関わってしまった以上、見捨てる事なんてあいつには出来ない。そういう性分なんだよ、アルバートは」

 僕はそこまで考えていなかった、見えているのは目の前の問題だけで、自分が死んだ後の事なんて全く考えてもいなかった。
 確かにエルフであるアルバートさんはまだ若い、少なくともここからまだ300年以上の時を生き、彼等と関わっていく事になるのだろう。そんな未来の事まで僕の考えは及んでいなかった。

「僕の考えが浅慮でした、ごめんなさい」
「まあ、アルバートがこの状況を楽しんでいないか? と問われたら、それもあながち間違っていない気もするんだがな」
「え?」
「基本的に俺達エルフは里の外に出る事がない。代わり映えのない生活は平穏ではあるけど刺激に乏しい。外の情報を知識として蓄えてはいるものの実践する事はほぼない訳で、貧しいこの村を豊かにする作業をアルバートがゲームをするような感覚で楽しんでいる節もない訳ではない」
「え~……」

 ペリトスさんが腕を組んで思案顔をして見せる。せっかく反省したのに良い話が台無しだよ。

「それでもアルバートは彼等を悪いようにはしないはずだ。だからアルバートのやる事を信じてやってはくれないか? なにせ里長の伴侶に選ばれるくらいには優秀で自慢の俺の弟だからな」

 そう言ってペリトスさんは弟を慈しむ兄の顔で笑顔を見せた。
 そうか、そうなんだな。僕の視野はまだまだ狭い。人助けというのは目の前の問題だけを片付ければ良いという訳にはいかないのだ。
 それは土地を繁栄させていくという統治者の視点で、僕には備わっていない視点でもある。
 アルバートさんはエルフの里を牽引していく立場の人でもあるので、もちろんそう言った未来さきの事も見えているのだと気付いた僕は短絡的な思考に恥いった。
 そもそも生きている年季も彼等と僕とでは桁違いに違うのだ、僕の短慮な考えを諫める事は彼等にとっては子供の成長を見守る親視点といった所か。
 敵わないな……
 そう感じた僕は「分かりました」と頷く事しかできなかった。
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