アディショナルタイム~皇子叙事~

サイケ ミカ

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魔力継承の末を厭う

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 ランタンが飛ばされ、夜空に吸い込まれると大広間での宴も終演になる。

 僕が表に戻ると、

『ガルゥヲン殿下!』

 中奥の庭から表に帰した近達が走って来る。王弟将軍である父の宰相、カハラの息子だ。

 この近達も律儀だなと、どこか他人事な視線を彼の紺髪に投げながら、僕は思った。

「ありがとう。ああ、中奥でちゃんと僕もランタン飛ばしたから大丈夫。父上は何処かな。」

 彼の近達は、僕の真の姿は知らないが、かなり心を許した仲を築いてきた。

『将軍は側室方と前に。先ほどランタンにて宴の終わりを、来賓に告げられておりました。』

 だから、皆まで聞かずとも知りたい事を端的に告げてくれる。
 近達は所謂取り巻きなのだが将来、城を取り仕切る役が付く大事な側近候補だ。

 彼の近達も将来、本当は僕の宰相にと思っていたが、それも、もう叶わない。

「君はちゃんと、アラリャス王子に目出度く覚えてもらえたか?」

 父親である将軍の方へ歩きながら、僕は彼の近達に言葉を続けたけれど、彼はヤンワリ笑みを湛えるだけだ。

 明日僕は、このウーリウ衛星島を出て本土に入城する。
 そうすれば、新しい本土の護衛と近達が付くだろう。
 何故なら、僕の周りを囲む者を、全てウーリウ衛星島に置いて行くのだから。

「次期ウーリウ衛星島将軍はアラリャス王子に成る。君は優秀だから、彼を支えて欲しい。」

 そう指示をするのを近達は目線を外して、その場所を知らせる。

『いいましても、アラリャス王子は現状、次なる側妃候補選びに注視される考えの様ですよ。』

 おどける様に伝える彼の近達。

 確かに示された場所では花に集る蝶が如く、本土貴族の子女達が、花心のアラリャスを取り囲んで見えた。

「何処でも選り取り見取りだな。」

 綺羅びやかなシャンデリアの下。真紅の絨毯に咲くは、

「虫食花と知って、よくまあ。」

 虫酸が走る。

 アラリャス王子は『元皇子』だ。

 カフカス王帝領国皇帝、第一継承の権をかつて
持っていた紛れ無く、正当なる王族血筋から政略結婚を成し、正妃の腹から生まれた現皇帝の第1子。

『本土には正式なる婚約者もございましょうに。お若くして何人側室、愛妾を持つつもりか。』

 近達が呆れるのも無理ない。アラリャスは僕と1つしか年齢が変わらない16才。

 カフカス王帝領国はじめ、外周国に於いても成人の年齢は15才だ。
 此れを早いと言うのかは僕には分からないが、正妃婚約者だけで無く、側妃や公妾の候補がいるのは
異常だと、僕なら反吐が出る。

「アラリャス王子は魔力が豊富な上に、血統も王族筋で1番なのだから仕方ない。羨ましいね。」

 僕は心にも無い事を、周りに聞こえる様言葉にした。
 大丈夫。彼の近達は、僕の本心を間違えないのだから。

『皇帝の子種は外周国でさえ、姫君を縁付けるほどの優秀さとは理解して存じますが、、』

 公にされる本土の政略恋愛事情に、嫌悪感を隠しながら言葉を濁して、近達は宴が終わり尚、色香の声を上げるアラリャス達を見ている。

 民でさえ巡礼にかこつけて、カフカス王帝領国民の魔力を欲して伴侶を得んと渡って来る程なのだ。
 ましてや、その最高位に座する皇帝の魔力はどれ程の価値があるのか?

 正妃の他に側妃を5人、公妾が3人いる現皇帝には
、王子や姫君が10人以上いる現状で察する。

 落胤でも何でも、喉から手が出る程欲しい力の子種に、見目麗しい者。技量に優れた者が群がる様に、本土の宮廷魔窟を出入りする。

 アラリャス自身今、本土から離れた島だと羽目を外し閨事の候補を、きっと数人侍らせているのだから、、

「アラリャス王子の優秀さは、ウーリウ衛星島が主になられても健在であられる予兆さ。」

 僕には理解できない。

「おや、ガルゥヲン皇子。途中で姿が見えなくなったから心配したぞ。此れから本土から、わざわざ来てくれた者とサロンに行くが君もどうだい。」

 対外的な台詞を後ろの近達に話ているつもりが、いつの間にか割り込むアラリャスの声で留められた。

 僕は、両腕に蝶を抱く声の主を向く。

「いや、積もる話もあるだろう。僕は父上に用事があるから。」

 すげなく応えるとアラリャスは、意地の悪い光を目に宿す。

「そういえば、君が席を外す間に将軍が聖女と踊られたぞ?君、父上に聖女を取られるじゃ?どうやら、異世界者が好みのようだからなあ?え?」

 暗に魔力無しは、相手にされない事を揶揄してくる。

「やめてくれないか?例え衛星島の次期主にアラリャス王子が引き継がれるとは言え、父上の息子は僕だ。父上への不躾な言葉は、僕が許さない。」

 僕の叱責にアラリャスも、僕の顔を睨み付ける。

 本当に折り合いが悪い間な上、神託による皇帝継承権の入れ替えからは、僕とアラリャスとの確執はどんどん表面化している。

 お互いが無言で見合うのを、

『ガルゥヲン殿下、御父上が会場より執務室に、先ほど入られましたから、参りましょう。』

 近達と護衛が、ヤンワリと衝突を回避に入った。

「分かった。すまない。」

 僕は来賓が移動しはじめる大広間を見回し、父上の姿が既に無い事を認めて、出口へと踵を返す。

 ウーリウ衛星島が、、

 本土と繋がる期間は極めて短い。

 本土なら夜通し開かれる宴も、この衛星島では時間を決めて、内外交に当てる。

 帝弟将軍への謁見や交渉が今度は執務の間で行われるのだ。

『アラリャス殿下も、サロンへ私達と参りましょう。』

 高い声を上げて、本土貴族子女達も気を利かせ、アラリャスの手を取りサロンへと促す。

 僕とアラリャス。お互い交差した時、アラリャスが僕に囁いたのは、

「解消した婚約者は、置いてくなら、俺がもらっていいな?」

 爛れた下衆の胸糞悪い 嫌がらせ。

「好きにしろ。」

 僕は、端的にアラリャスに吐いて捨てた。

 夜通し灯されるシャンデリアの下、真紅の絨毯を蹴る様に執務室へ歩く。

『ガルゥヲン殿下、、』

 後ろから来る護衛は、気が付いているんだろう。

 ウーリウ衛星島の城は、いつも潮の香りが吹く。

 その風に混じって金気匂いがした事に。

 その出所が僕の握り締める掌で、怒りに赤い血筋が流れ落ちているのを。
 
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