俺が出会ったのは、淫魔だった

真白 桐羽

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第四章  阿羅国

王妃

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 宮殿の二階、一番奥まったところに執務室はある。
窓からは自らが作り上げた緑の大地が美しく見える。
だが、まだまだ草原といったところだ。
これからはここを発展させていかねばならない。
いったい、何年かかることだろう。

俺は思わず苦笑した。
まあ、何年かかったとしても、俺には関係のないことだ。
過ぎゆく年月を感じない体なのだから。

「阿羅彦様、まいりました」

凛とした声が響き、入室してきたのはユーチェンだ。
この地の王子を一番はじめに産んでくれた人だ。

「ああ、ユーチェンすまないな、忙しいのに」
「いえ、何をおっしゃいます、我が王のお召しとあらば、いつなんどきでも」

そういって微笑む。

貴族の娘らしく心の内を簡単には見せない。
そういう生き方を幼いころから徹底的に教えられたのか……いや、もしくは、それが生きる術だったのか。

「アオアイの件だが」
「はい」
「そなたも連れて行こうと思うんだよ」
「え?」

目を丸くして驚いたユーチェンはしばらく固まって動かなかった。
こんなふうに取り乱す彼女を見たのは初めてで、少し笑ってしまった。

「なぜそんなに驚く?」
「なぜって阿羅彦様……」
「ん?」
「……わたくし……がですか?ほんとうに?」

一言一言かみしめるようにゆっくりとそうつぶやいて、それからしばらく考え込んでしまった。

「……ユーチェン、自覚はないのか?王妃なんだぞ?」

クレイダがいつまでも動かないユーチェンの手を引いて、強引に椅子に座らせ、茶を持たせた。

「いえ……ですが……その、え、私……王妃?なんですの?」
「お前はアタシとイバンの次にこの地に来たんだよ、だから、適任じゃないか、アラトの息子だって産んだんだからさ」
「ですが……私は……実家に何も言わずに出て来たのですよ、その私が突然一国の王妃となって表舞台になど出たら……その、なんというか」
「ああ、そういうことか」
「そなただけでなく、由利彦も連れて行こうと思っているのだがな、気が進まぬか?」
「……お待ちくださいませ、冷静に考えましたら、どうやってアオアイまで行くというのです?私も由利彦も飛翔はできませんよ?」
「ああ、それなのだが、俺が由利彦を背負って飛ぶよ、だが、ユーチェンそなたには自力で飛んでもらいたいのだ、だから飛翔の訓練をしてもらいたいんだが、どうだ」
「ええええ」

腰を抜かさんばかりに驚いて、思わずのけぞったユーチェンを見て、俺もクレイダも思わず声を出して笑ってしまった。
彼女はいつも完璧に淑女で、こんな風に感情を表すのは珍しいのだ。

「そなた、気づいておらぬのか?ものすごく魔力が強くなっているぞ。ここで暮らし俺のそばにいる間にな」
「え?どうして?」
「どうしてかと言われたら……んー説明は難しい、俺にもわからんからな」
「そんな……適当なことおっしゃって!」
「適当などではないぞ、アタシから見てもユーチェンはかなり魔力が強くなっている。それだけの力があれば連続で飛翔して森を抜けれるぞ」

クレイダのその一言でユーチェンは再び固まり、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
そして思い出したようにさきほど渡された茶をごくりと飲んだ。
彼女らしくもなく、音をたてて。

「私がアオアイに行かねばならない理由は何でしょう?」
「俺が王で、そなたが王妃で、由利彦が王子だからだ」

それを聞いて、フウとため息をついた。

「わかりました。私らしくもなく取り乱してしまい、お恥ずかしい」
「腹が決まったか?」
「ええ、そうですね、私、いつの間にか王妃になっていたみたいなので、仕方ありません。受けて立ちましょう」
「そうか、頼もしいな」
「しかし、もしも落ちたらと思いますと……地面から足を離すのは初めてですから」
「恐ろしいのはわかる、だが心配するな、森を出るまでは片方の手を俺が、もう一方の手をクレイダがしっかりと握るよ」
「クレイダ?」

ユーチェンはクレイダを凝視して、またしばし止まった。

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