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第四章  阿羅国

スレイスルウ

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 エルフ……

昔、ジルの妹にエルフの作ったものだという甘い蜜をもらったことがある。
懐かしく感じたのは、その匂いを覚えていたからなのか。

「お前はなぜここにいて我らを見ていたのだ?」

俺はなるべく高圧的にならないよう、静かに問うた。
エルフの目は一瞬迷いを写した。

「……逆に聞きたい、お前たちこそ、ここで何をしてるんだ?」

エルフはキッと睨んで言い返してきた。
俺もじっと見つめ返して、そしてもう一度彼の姿を観察した。
彼らの種族が普段どういう服装をしているかはわからないが、今の彼はあきらかに戦闘に適しているであろう装束だ。
軽そうだがしっかりとした鎧を付け、肩当ても肘当ても膝当ても付いている。
そのどれもが滑らかに鞣されて、美しい文様がエンボス加工で施されていることに気づいて思わず観察してしまった。

だが、周囲に彼の味方が潜んでいる気配はない。
ならばなぜ、闘いに適した姿でここにいたのか?が疑問だ。

「我らは、旅の途中だ、目的のためにこの森を飛翔で抜けようとしていて、今は休憩のために降り立った、ただ、それだけだ。答えになっただろうか?」

俺は言い終えると彼の目を見つめた。
独特の、何色にも見えるような美しい瞳には、少しだけ迷いが見える。

信じていいものか?
だが、言葉に嘘が見えない、と、まあ、こんなふうにでも思っているのだろう。

「さあ、お前の番だ」

そう言うと、所在無げに少し俯いてそして意を決したように話し出した。

「ここは……俺たちの大切な畑がある、この場所は秘密にされているし、近寄るものに悪意がある場合、排除せよ言われている……つまり俺はエルフの約束事に忠実にここを守っているにすぎない。意図してそなたらを見つけたのでもなければ、攻撃しようともしていない」
「畑とは?」
「スレイスルウだ、今は花の時期ではないから、お前らがちょっと見ただけではわからぬだろうが」
「スレイスルウ?」

俺は初めて聞く言葉に首を傾げた。

「アラト、スレイスルウは森の雫の原料だ」
「森の雫?」
「そうだ、アラトは知らぬかもしれないが、森の雫はエルフにしか作れない最高の甘味だよ、滋養もあって、ひとなめすれば疲れが取れる」

それを聞いて、ジルの妹にもらったあれを思い出した。

「あれか……確かに甘かったし、即時体調が復活したような……」
「そうか、アラトも知っていたか」

クレイダはエルフを捕捉したまま、ニカっと微笑んだ。

「ああ、以前淫魔にもらったことがある」
「淫魔……ああ、そうかお前、淫魔か……いや、淫魔? 違うな半魔かお前……うっ!」

その言葉を聞いてクレイダは拘束を強めた。
エルフは苦痛に顔をゆがめた。

「クレイダ、拘束を解け、彼は逃げないだろう」

俺がそういうと、クレイダは渋々拘束の手を緩めた。

「……っ…… なんて馬鹿力なんだ」
「……」

クレイダはジロリと睨んだだけで何も言い返さなかった。
エルフは肩は腕をさすりながら俺を見つめた。

「で、お前たちはいったいなんの集団なんだ、これほどバラバラな種族が集まって何をしようとしている」
「うむ……まあ、奇異に見えるか?」
「だな」
「我らは阿羅国という国の者だ、あちら側の荒地を耕し領土とした。俺はその国の代表、阿羅彦だ」
「あらこく?」

エルフは目を瞬かせた。
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