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第四章 阿羅国
籠の中
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あわただしく再び空へ飛び立った俺たちは、少しスピードをあげて飛んだ。
次の休憩は夜になる。
森の中なのだから獣がいるのは仕方がないが、獣人や魔族、そしてエルフたちがいて再び鉢合わせするのだけは避けたかった。
上空から探るだけではエルフやその他の魔獣たちの気配を100パーセント感じることはできない。
降りるたびに遭遇の危険性は増すわけだ。
それならば休憩の回数を減らすことでリスクを下げるほかない。
「阿羅彦様」
先頭を飛んでいた玲陽が俺の横に来た。
「どうした?」
「さきほどのようなことを避けるためにも、このまま休息を入れずに飛んだ方がよろしいのではないでしょうか?」
そういい終えてから、ちらりとユーチェンを見る。
「ああ、背負われている由利彦はまあ寝ていてくれたらそれでいいのだが」
昼を食べて満腹の由利彦は俺の背で寝ている。
起きている時も重さを感じるが可愛いものだ。
「私のことでしょう?」
ユーチェンがおずおずと話しかけてきた。
「私だって、両の手を阿羅彦様とクレイダに頼っているのですから、私は大丈夫ですよ」
「なあ、相談なんだが」
クレイダがユーチェンの向こうから話しかけてきた。
「アタシと、弟に一つ籠をくれたら、それにユーチェンを載せて運べると思うんだ、一度やらせてもらえないか?」
「籠だって?」
「ああ、荷物の中にあるはずなんだ、ちょうどよい大きさの籠だ、それをベルトで固定して弟と二人で持てばユーチェンなんて羽より軽いんだ、アタシらには負担にはならないぞ」
クレイダの弟は先頭の方で護衛の一人として同行している。
「なるほど、それならばユーチェンはそこで食事も寝ることだってできるということか」
「由利彦様もご一緒に入られたらどうなのです?」
「そうしてみるか?」
俺たちは頷きあった。
どこまでも続く眼下の森だったが、もう少し飛ぶと湖があるという。
そこでは飛翔隊も時折降り立つことがあるという。
ひとまずはその湖に降りて急ごしらえとなるが、二人の乗る籠を作ることにした。
夕暮れに差し掛かるころ、ちょうど湖が見えてきた。
それは日の光でキラキラと輝いていた。
湖のほとりは少し開けている。
木々の葉を気にすることもなく地面に降り立つと、命令を聞いていた者たちが籠を持ってきてくれた。
これは、クレイダの仲間の女らが得意とする細工で、木を薄く削いだものを乾燥させて紐にして編んだものだ。
そのうえから何度も漆を重ねて塗るのでとても丈夫だ。
この籠をいくつか持ってきているのは、紗国などでこれが良く売れるからだ。
今や路銀に困ることはないので、物を売りながら旅をする必要はないのだが、以前買い取ってもらった際に評判が良く、交易品となっている。
「しかし、これは商品なのでは?」
ユーチェンは眉を下げてクレイダに話しかけた。
「いや、大丈夫だよユーチェン、納品物はこれ一つではないのだ、ほかにもたくさんあるんだ」
「そう?」
見る間に籠には布が敷き詰められ、居心地がよくなっていく。
ユーチェンはそっと籠に入り、遠慮がちに座った、そしてねぼけ眼の由利彦をクレイダから受け取った。
「少々狭いかもしれんが、夜通し飛ぶにはその中にいてもらうしかない、我慢してくれ」
俺はユーチェンと由利彦にそう話しかけた。
「いえ、我慢だなんて。とんでもございません」
「おとうさまの背中もいいけど、この中もたのしそうです!」
由利彦は逆に喜んでいるようで、そういう姿を見ると自分の幼いころを思い出すようだ。
「ならば、水を補給したら飛び立つぞ」
「はい」
俺は玲陽とクレイダを呼んだ。
二人はすぐ後ろに控えていたので、そのまま言葉を伝える。
「籠でじっとしているのも苦痛には違いない。地面に接していないというのは、飛ぶことに慣れていない者には心もとないものだ。なるべく早く紗国に着くよう、速度を上げたいのだが」
「そうですね、それがよろしいでしょう」
「そうすべきだな、二人はこんな旅に慣れてないのだし」
「では、そのように皆に申し伝えます」
玲陽は俺の目をしっかりと見て頷いた。
次の休憩は夜になる。
森の中なのだから獣がいるのは仕方がないが、獣人や魔族、そしてエルフたちがいて再び鉢合わせするのだけは避けたかった。
上空から探るだけではエルフやその他の魔獣たちの気配を100パーセント感じることはできない。
降りるたびに遭遇の危険性は増すわけだ。
それならば休憩の回数を減らすことでリスクを下げるほかない。
「阿羅彦様」
先頭を飛んでいた玲陽が俺の横に来た。
「どうした?」
「さきほどのようなことを避けるためにも、このまま休息を入れずに飛んだ方がよろしいのではないでしょうか?」
そういい終えてから、ちらりとユーチェンを見る。
「ああ、背負われている由利彦はまあ寝ていてくれたらそれでいいのだが」
昼を食べて満腹の由利彦は俺の背で寝ている。
起きている時も重さを感じるが可愛いものだ。
「私のことでしょう?」
ユーチェンがおずおずと話しかけてきた。
「私だって、両の手を阿羅彦様とクレイダに頼っているのですから、私は大丈夫ですよ」
「なあ、相談なんだが」
クレイダがユーチェンの向こうから話しかけてきた。
「アタシと、弟に一つ籠をくれたら、それにユーチェンを載せて運べると思うんだ、一度やらせてもらえないか?」
「籠だって?」
「ああ、荷物の中にあるはずなんだ、ちょうどよい大きさの籠だ、それをベルトで固定して弟と二人で持てばユーチェンなんて羽より軽いんだ、アタシらには負担にはならないぞ」
クレイダの弟は先頭の方で護衛の一人として同行している。
「なるほど、それならばユーチェンはそこで食事も寝ることだってできるということか」
「由利彦様もご一緒に入られたらどうなのです?」
「そうしてみるか?」
俺たちは頷きあった。
どこまでも続く眼下の森だったが、もう少し飛ぶと湖があるという。
そこでは飛翔隊も時折降り立つことがあるという。
ひとまずはその湖に降りて急ごしらえとなるが、二人の乗る籠を作ることにした。
夕暮れに差し掛かるころ、ちょうど湖が見えてきた。
それは日の光でキラキラと輝いていた。
湖のほとりは少し開けている。
木々の葉を気にすることもなく地面に降り立つと、命令を聞いていた者たちが籠を持ってきてくれた。
これは、クレイダの仲間の女らが得意とする細工で、木を薄く削いだものを乾燥させて紐にして編んだものだ。
そのうえから何度も漆を重ねて塗るのでとても丈夫だ。
この籠をいくつか持ってきているのは、紗国などでこれが良く売れるからだ。
今や路銀に困ることはないので、物を売りながら旅をする必要はないのだが、以前買い取ってもらった際に評判が良く、交易品となっている。
「しかし、これは商品なのでは?」
ユーチェンは眉を下げてクレイダに話しかけた。
「いや、大丈夫だよユーチェン、納品物はこれ一つではないのだ、ほかにもたくさんあるんだ」
「そう?」
見る間に籠には布が敷き詰められ、居心地がよくなっていく。
ユーチェンはそっと籠に入り、遠慮がちに座った、そしてねぼけ眼の由利彦をクレイダから受け取った。
「少々狭いかもしれんが、夜通し飛ぶにはその中にいてもらうしかない、我慢してくれ」
俺はユーチェンと由利彦にそう話しかけた。
「いえ、我慢だなんて。とんでもございません」
「おとうさまの背中もいいけど、この中もたのしそうです!」
由利彦は逆に喜んでいるようで、そういう姿を見ると自分の幼いころを思い出すようだ。
「ならば、水を補給したら飛び立つぞ」
「はい」
俺は玲陽とクレイダを呼んだ。
二人はすぐ後ろに控えていたので、そのまま言葉を伝える。
「籠でじっとしているのも苦痛には違いない。地面に接していないというのは、飛ぶことに慣れていない者には心もとないものだ。なるべく早く紗国に着くよう、速度を上げたいのだが」
「そうですね、それがよろしいでしょう」
「そうすべきだな、二人はこんな旅に慣れてないのだし」
「では、そのように皆に申し伝えます」
玲陽は俺の目をしっかりと見て頷いた。
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