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第五章 アオアイへ
訪れ1
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ならず者たちがアオアイの宴に来る。
口さがない者達はそう噂を流した。
いかに沈滞石があろうとも、この程度の悪意はやはり巷を駆け巡る。
それが誰かの嫉妬からなる単なる悪口であろうと、或いは真実であろうと、そんなことはどちらでも良いのだ。
人という者は何か面白いネタがあると見ると、こっそりとそれに注目する。
皆は、今滞在している『阿羅国』という者達を監視しているのだ。
「お誘いは喜ばしいことなのですが……」
ユーチェンは憂い顔で手を顎にあてた。
「どうかしたか?」
「私もクレイダも、ですよね?百合彦もですか?」
「そう考えているよ」
「こういう場での正式なマナーを身につけられているのは、私と玲陽くらいなものです、百合彦は子供だから許される面もあるかもしれませんが、クレイダやその他の面々は貴族ではありません」
「うむ……」
その事は阿羅国での大きな課題だ。
他の国から馬鹿にされている理由の一つでもある。
だが、日本という国で生まれた俺からすると、そもそも階級社会というものに馴染めない。
貴族がどうしたというのだ、同じ人間じゃないかと、どうしてもそう思ってしまうのだ。
「まあ、その国々によって常識は違って当たり前だろう。こちらにはこちらの流儀があるのだと胸を張れないか?」
「はぁ……」
クレイダはなおも晴れない顔で俺の体に晩餐用の衣装を着せていく。
アオアイは南にある島国で常夏だ。
それに合わせた薄い透ける着物を重ねていく、透けているので下の模様が美しく透ける。
金糸の織り込まれた軽い帯を結び、その上に張りのある袴を付けた。
「阿羅国には王冠を作る予定はございますか?」
「王冠か……」
考えもしなかったが、こういう場には必要だったかもしれない。
「もしもお考えならば、腕のいい細工職人が紗国におります。そこに注文なさるのは?」
「うむ……だが、作るとすれば、俺は阿羅国で待っているあいつらに頼みたいぞ」
俺の脳裏に浮かんだのは、主に武器などの加工をしてくれている者たちの顔だ。
ファンタジーの世界でいうところの、いわゆるドワーフだ、彼らは実物も背が低くずんぐりとした体型で、長い髭をたくわえている。
持っている技術は素晴らしいもので、阿羅国で彼らが作った剣などは売れ筋だ、さらには装飾品を得意とするものもいる。
「なるほど、彼らにですか」
「ああ、何か思うところがあるのか?」
「いえ……まあ……そうですねえ、少しなんというか」
「ん?」
俺は、着付けを終えて片付ける悩み顔のユーチェンをじっと見つめた。
「彼ら、少しなんというか……無骨すぎましてね。装飾品が得意な女性であっても紗国やラハームなどの瀟洒な意匠とは程遠いかと。いえ……品質は折り紙付きなのはわかりますけどね」
俺は思わず笑って、ユーチェンの手を取った。
「そこまでこだわりたいのなら、そなたがやってみてはどうだ?」
「え、私が?」
「そうだ、絵も元々描けるんだ、こういうものをと描いて彼らに見せればいい」
「はぁ……しかし彼らは受け入れてくれますでしょうか」
「大丈夫だよ、そなたは自分が思っている以上に国の皆に信頼されている。そもそも、阿羅国の織物が好評なのも、そなたの手柄だ」
ユーチェンは頬を染めて目を泳がせた。
「そ……そんないきなり……私をお褒めになるなんて」
「そうか?いきなりではないぞ、いつも思っていた。まあ、俺にそれほどこだわりがあるわけではないし、任せるよ」
「わかりました。責任をもってお受けいたします」
その時、扉が控えめにノックされた。
「どうした?」
美しいレリーフのついた白い扉が開かれ、迎賓館付きの小さな使用人が美しい所作で礼をして、笑顔で報告してきた。
「ラハームの樹家の方がご挨拶にとお見えでございます」
「……なるほど」
俺の後ろでユーチェンが息をのむのがわかった。
口さがない者達はそう噂を流した。
いかに沈滞石があろうとも、この程度の悪意はやはり巷を駆け巡る。
それが誰かの嫉妬からなる単なる悪口であろうと、或いは真実であろうと、そんなことはどちらでも良いのだ。
人という者は何か面白いネタがあると見ると、こっそりとそれに注目する。
皆は、今滞在している『阿羅国』という者達を監視しているのだ。
「お誘いは喜ばしいことなのですが……」
ユーチェンは憂い顔で手を顎にあてた。
「どうかしたか?」
「私もクレイダも、ですよね?百合彦もですか?」
「そう考えているよ」
「こういう場での正式なマナーを身につけられているのは、私と玲陽くらいなものです、百合彦は子供だから許される面もあるかもしれませんが、クレイダやその他の面々は貴族ではありません」
「うむ……」
その事は阿羅国での大きな課題だ。
他の国から馬鹿にされている理由の一つでもある。
だが、日本という国で生まれた俺からすると、そもそも階級社会というものに馴染めない。
貴族がどうしたというのだ、同じ人間じゃないかと、どうしてもそう思ってしまうのだ。
「まあ、その国々によって常識は違って当たり前だろう。こちらにはこちらの流儀があるのだと胸を張れないか?」
「はぁ……」
クレイダはなおも晴れない顔で俺の体に晩餐用の衣装を着せていく。
アオアイは南にある島国で常夏だ。
それに合わせた薄い透ける着物を重ねていく、透けているので下の模様が美しく透ける。
金糸の織り込まれた軽い帯を結び、その上に張りのある袴を付けた。
「阿羅国には王冠を作る予定はございますか?」
「王冠か……」
考えもしなかったが、こういう場には必要だったかもしれない。
「もしもお考えならば、腕のいい細工職人が紗国におります。そこに注文なさるのは?」
「うむ……だが、作るとすれば、俺は阿羅国で待っているあいつらに頼みたいぞ」
俺の脳裏に浮かんだのは、主に武器などの加工をしてくれている者たちの顔だ。
ファンタジーの世界でいうところの、いわゆるドワーフだ、彼らは実物も背が低くずんぐりとした体型で、長い髭をたくわえている。
持っている技術は素晴らしいもので、阿羅国で彼らが作った剣などは売れ筋だ、さらには装飾品を得意とするものもいる。
「なるほど、彼らにですか」
「ああ、何か思うところがあるのか?」
「いえ……まあ……そうですねえ、少しなんというか」
「ん?」
俺は、着付けを終えて片付ける悩み顔のユーチェンをじっと見つめた。
「彼ら、少しなんというか……無骨すぎましてね。装飾品が得意な女性であっても紗国やラハームなどの瀟洒な意匠とは程遠いかと。いえ……品質は折り紙付きなのはわかりますけどね」
俺は思わず笑って、ユーチェンの手を取った。
「そこまでこだわりたいのなら、そなたがやってみてはどうだ?」
「え、私が?」
「そうだ、絵も元々描けるんだ、こういうものをと描いて彼らに見せればいい」
「はぁ……しかし彼らは受け入れてくれますでしょうか」
「大丈夫だよ、そなたは自分が思っている以上に国の皆に信頼されている。そもそも、阿羅国の織物が好評なのも、そなたの手柄だ」
ユーチェンは頬を染めて目を泳がせた。
「そ……そんないきなり……私をお褒めになるなんて」
「そうか?いきなりではないぞ、いつも思っていた。まあ、俺にそれほどこだわりがあるわけではないし、任せるよ」
「わかりました。責任をもってお受けいたします」
その時、扉が控えめにノックされた。
「どうした?」
美しいレリーフのついた白い扉が開かれ、迎賓館付きの小さな使用人が美しい所作で礼をして、笑顔で報告してきた。
「ラハームの樹家の方がご挨拶にとお見えでございます」
「……なるほど」
俺の後ろでユーチェンが息をのむのがわかった。
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