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第八章 紗国の悪夢
帰国
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春らしい明るい日差しの中、大きなカバンを弟子に持たせた医師が3人やってきた。
俺は彼らの到着を待って、日本から来た少年の診察の様子を見守り、そして、彼が運ばれていくのを見届けた。
ついに目は覚まさなかったが、王のもとに到着すれば、きっと、目覚めるだろう。
なぜかはわからないが、そう確信があった。
「我らは去ることにするよ、斉井、色々と世話になった」
「私は何のお役にも立てておりません……本当ならば、紗国は阿羅国に深く感謝をせねばなりませんのに」
「いいのだ……それはお前のせいではない。それに、紗国王が今後どうするかは、まだ未知数だ。なんせ城から出ず知る人も少ないというのだし」
「ええ、我々も、探りつつというところですよ」
斉井は深い溜息をついた。
初めて会った時よりも、小さくなったように感じる、彼の立場は他の貴族とは違うものになってしまった。
娘が新興国の王妃に、そこには彼の孫もいる、その孫は王子だ。
「あの少年の名さえ、聞けなかったな。心残りはあるが、長居は良くないだろう。このまま行くことにする」
「阿羅彦様は、不思議なお方ですな。玖羅紗様が生きておられたら、盟友として仲良くなされたでしょうに、残念でなりません」
「玖羅紗殿は良い方だったな」
「ええ、あの方は本当に、良くできた方でした」
「斉井、ユーチェンの具合はまだはっきりしないが、ここに置いておくわけにはいかなくなった、すまないが連れていくよ」
「ええ、娘は阿羅国の王妃、例え実家であろうとも……危険があるでしょう」
悔し気に、そして悲しさをにじませて斉井は微笑んだ。
「では、行くとするよ」
俺は立ち上がり、斉井と共に慣れてきた城石の家を歩いた。
使用人は皆、廊下に並び頭を下げている。
「阿羅彦様」
ふいに呼び止められ、振り向くと、斉井の妻が厳しい顔で立っていた。
ユーチェンとの折り合いが悪く、阿羅国にも良い感情を持っていないのだろう、今まで一度も俺に面会を求めたことはなかった。
「ユーチェンを、娘をどうぞ、大切にしてくださいませ」
「娘……と言うか」
俺は意外な思いで彼女を見た、白いものが混ざり始めた長い髪を複雑に結いあげ、地味な色合いながらも光沢の美しい上質な着物をまとっている。
貴族の娘であって、14で斉井と結婚したと聞いていた。
堂々たる女主人の風格に、ユーチェンを重ねた。
「ええ、私の息子たちとは半分血が繋がっておりますもの、この家の子は皆、私の子です」
「……ユーチェンのことは心配いらないよ、それよりもその言葉を直接彼女に伝えてみてはいかがか?」
斉井の妻は少し目を見開いて、それから首を横に振った。
「いいえ、どの顔をして会えばよいものか、もはやわかりません」
そういって、自嘲の笑みを浮かべた。
「私もまだ若く、色々な失敗を重ねてしまいました。彼女をずいぶんと傷つけてしまいましたもの。ですが、老い先短くなって思うこともございます。それとこれをどうぞお持ちになってください」
差し出した小さな桐箱を俺は受け取り、玲陽に渡した。
「あの子の母の、形見となります」
そして、頭を下げた。
「幾久しく、幸運が阿羅国にありますよう、お祈りいたします」
「わかった、そなたも斉井をよく支えてやってくれ」
斉井は何も言わず、妻の姿を見つめていたが、俺が歩き出すとまた共に進んだ。
「今日は良い天気となりましたな、出立には良い日です」
「ああ、本当にな」
玄関に向かう庭を歩きながら、植木を見る。
手入れの行き届いた庭は、春の花々が咲き、蝶が舞っていた。
門を出ると、阿羅国の馬車が用意されていた。
「では、達者で、斉井」
「阿羅彦様も……」
うなずき、そして馬車に乗り込む、次にアレクシスと、玲陽が一緒に乗り込んできた。
ユーチェンは後ろにつながる別の馬車に乗っている、座面を広げ、横になれるようしつらえたものだ。
サリヴィスは、彼の部下とともに大きな馬にまたがり、馬車の周りを囲んだ。
馬は魔馬ではなく、紗国の馬だが、体の大きな彼らにふさわしい立派な馬だった。
ガラガラと馬車が動き出す、車窓から斉井を見つめた。
頭を下げ、顔は見えなかった。
俺は彼らの到着を待って、日本から来た少年の診察の様子を見守り、そして、彼が運ばれていくのを見届けた。
ついに目は覚まさなかったが、王のもとに到着すれば、きっと、目覚めるだろう。
なぜかはわからないが、そう確信があった。
「我らは去ることにするよ、斉井、色々と世話になった」
「私は何のお役にも立てておりません……本当ならば、紗国は阿羅国に深く感謝をせねばなりませんのに」
「いいのだ……それはお前のせいではない。それに、紗国王が今後どうするかは、まだ未知数だ。なんせ城から出ず知る人も少ないというのだし」
「ええ、我々も、探りつつというところですよ」
斉井は深い溜息をついた。
初めて会った時よりも、小さくなったように感じる、彼の立場は他の貴族とは違うものになってしまった。
娘が新興国の王妃に、そこには彼の孫もいる、その孫は王子だ。
「あの少年の名さえ、聞けなかったな。心残りはあるが、長居は良くないだろう。このまま行くことにする」
「阿羅彦様は、不思議なお方ですな。玖羅紗様が生きておられたら、盟友として仲良くなされたでしょうに、残念でなりません」
「玖羅紗殿は良い方だったな」
「ええ、あの方は本当に、良くできた方でした」
「斉井、ユーチェンの具合はまだはっきりしないが、ここに置いておくわけにはいかなくなった、すまないが連れていくよ」
「ええ、娘は阿羅国の王妃、例え実家であろうとも……危険があるでしょう」
悔し気に、そして悲しさをにじませて斉井は微笑んだ。
「では、行くとするよ」
俺は立ち上がり、斉井と共に慣れてきた城石の家を歩いた。
使用人は皆、廊下に並び頭を下げている。
「阿羅彦様」
ふいに呼び止められ、振り向くと、斉井の妻が厳しい顔で立っていた。
ユーチェンとの折り合いが悪く、阿羅国にも良い感情を持っていないのだろう、今まで一度も俺に面会を求めたことはなかった。
「ユーチェンを、娘をどうぞ、大切にしてくださいませ」
「娘……と言うか」
俺は意外な思いで彼女を見た、白いものが混ざり始めた長い髪を複雑に結いあげ、地味な色合いながらも光沢の美しい上質な着物をまとっている。
貴族の娘であって、14で斉井と結婚したと聞いていた。
堂々たる女主人の風格に、ユーチェンを重ねた。
「ええ、私の息子たちとは半分血が繋がっておりますもの、この家の子は皆、私の子です」
「……ユーチェンのことは心配いらないよ、それよりもその言葉を直接彼女に伝えてみてはいかがか?」
斉井の妻は少し目を見開いて、それから首を横に振った。
「いいえ、どの顔をして会えばよいものか、もはやわかりません」
そういって、自嘲の笑みを浮かべた。
「私もまだ若く、色々な失敗を重ねてしまいました。彼女をずいぶんと傷つけてしまいましたもの。ですが、老い先短くなって思うこともございます。それとこれをどうぞお持ちになってください」
差し出した小さな桐箱を俺は受け取り、玲陽に渡した。
「あの子の母の、形見となります」
そして、頭を下げた。
「幾久しく、幸運が阿羅国にありますよう、お祈りいたします」
「わかった、そなたも斉井をよく支えてやってくれ」
斉井は何も言わず、妻の姿を見つめていたが、俺が歩き出すとまた共に進んだ。
「今日は良い天気となりましたな、出立には良い日です」
「ああ、本当にな」
玄関に向かう庭を歩きながら、植木を見る。
手入れの行き届いた庭は、春の花々が咲き、蝶が舞っていた。
門を出ると、阿羅国の馬車が用意されていた。
「では、達者で、斉井」
「阿羅彦様も……」
うなずき、そして馬車に乗り込む、次にアレクシスと、玲陽が一緒に乗り込んできた。
ユーチェンは後ろにつながる別の馬車に乗っている、座面を広げ、横になれるようしつらえたものだ。
サリヴィスは、彼の部下とともに大きな馬にまたがり、馬車の周りを囲んだ。
馬は魔馬ではなく、紗国の馬だが、体の大きな彼らにふさわしい立派な馬だった。
ガラガラと馬車が動き出す、車窓から斉井を見つめた。
頭を下げ、顔は見えなかった。
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