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第九章 永遠に
ある港町の事情 2
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門矢様から託されたのは、3人の幼児。
3歳ぐらいの幼い子たち。
僕はあの後、美しい貴族の服を着せられて、一通りのマナーも躾けられた。
そう、6か月もの間、読み書き、そして、食事や挨拶も徹底的に仕込まれた。
「おにいちゃま」
「あにちゃま」
ーー豪華客船の一室
3人の幼児は僕の手をうれしそうに取る。
すっかり親しんだ彼らは僕の弟として連れている。
ここには門矢様は直接はいらっしゃらない。
僕の監視役には黒づくめのヒリヤという男が付いている、表向きは僕の執事という役割だ。
冷たい視線のヒリヤは一見僕にかしずいているように見せかけ、僕を操るのだ。
同室にされた3人の幼児の世話は僕が一人で行う。
食事も着替えも、ヒリヤが運び入れるものを自分も食べ、子どもたちにも与える。
まだちゃんと食べられない子の世話は大変だ。
骨が折れることだが、僕は一生懸命に彼らの世話を焼いた。
「賢丸様、そろそろです」
ヒリヤが僕に話しかけた。
そう、僕の名は『賢丸』門矢様がつけてくださった名、僕は彼の長男となった。
「相手は……」
「お客様のことはランブドール様とお呼びください、賢丸様、おわかりでしょうが、本名や国の名を聞き出すようなことはなさらないように、くれぐれも」
俺はごくりとつばを飲み込み、そしてうなずく。
「では、子の準備を。3番です」
「了解した」
僕は3番と呼ばれた一番幼い男子を抱き上げると、頬についたクッキーのカスを取った。
「お前、幸せになれよ」
「あにちゃま」
あどけない笑顔を見つめ、胸が締め付けられた。
しかし、思いに浸っている暇はない。
彼を豪華な部屋に設えられた風呂に入れ、身なりを整える。
髪を乾かし、整え、タオルに巻いて部屋に抱いて戻ると、ソファーの上に豪華な箱が置かれていた。
僕はその蓋を取り、中にある服を取り出した。
……これは、客から3番への贈り物。
タオルに包まれてニコリとほほ笑む彼にそれを淡々と着せていく。
色素が薄く赤い目の3番は、背に鱗がある、つまり蛇族だ。
この子はラハーム王国の出身なのだろうとわかる。
着せ終わり、周りを片づけ、3番の手を引き部屋を出ると、ヒリヤが立っていた。
「行きましょう」
ヒリヤの冷たい声で3番がポカンと口を開けた。
「どこいくの?あにちゃま」
「うん、大丈夫だよ」
豪華客船の長い廊下、歩くたびにふわふわの絨毯を足が踏む。
3番の手を引き、静かに歩く、2回、人と行き交った。
貴族らしい夫婦と、船のメイドだ。
彼らはほほえましいものを見るように僕を見て、にこりと微笑んだ。
幼い弟の手を引く貴族の子息、僕はそういう風に見られているはずだ。
僕もそつのない笑顔を返す。
「ここでございますよ、少々お待ちを」
ヒリヤは大きな扉の前で止まると、そこに控えていた護衛に声をかけ、名乗りを上げた。
護衛はちらと僕を見て、そして3番をじっと見た。
「ご主人様から伺っております、どうぞ」
現れた白髪の執事に招かれ、僕は3番の手をきつく握ったまま入室した。
「ああ……まあまあ……絵姿よりもさらに、麗しいではないか……なあ?」
一番奥まった豪華な部屋に寝そべるその男は、側にいる半裸の若者に話しかけた。
「ええ、ご主人様」
半裸の若者は、真っ赤に火照った顔をこちらに向け、赤い舌でぺろりと唇を舐めた。
僕は背筋がぞくりとし、思わず3番を抱きかかえた。
「ああ、君、そう、門矢の息子だったね、君でもいいんだけど、さすがにダメかあ」
にたりと締まりのない顔で笑うこの男が、ランブドールなのだろう。
熟れきって腐りかけた……そんな印象の太った男だった。
「さあさあ、こちらへ、ぼうや」
ヒリヤは3番の手を僕から離すと、抱き上げ、ランブドールの寝そべるベッドに座らせた。
「うむ……かわいいのう」
ランブドールは3番の頭を撫で、笑顔になった。
3番は不思議そうにランブドールを見ている。
「あの……3番は」
僕は思わずそんな言葉を口にしてしまった。
「門矢の息子よ、心配するな、この子はうちの子として育てるのだよ。大丈夫何一つ不自由はさせぬよ」
どろりとした笑みは僕を震わせた。
「では、お支払いを」
ヒリヤは盆に乗せた契約書を掲げた。
ランブドールは寝そべったままそれを確認し署名をすると、ヒリヤに返し、そしてもう一度僕に話しかけた。
「門矢の息子、良ければこの後食事でもどうかな?」
「申し訳ありません、この後は予定がありまして」
「そうか、残念だ、父上によろしくな」
「はい、かしこまりました」
ヒリヤは僕に退室を促した。
僕は最後、もう一度3番を見た。
かわいい小さな……ほんの数か月しか一緒ではなかったものの……たしかに僕の弟だった。
鼻の奥がツンとした。
涙が出る……そう感じた僕は急いで扉の外へ出た。
扉が閉まる瞬間、3番の声が聞えた。
「あにちゃま、どこいくの!」
広い室内を駆けるように歩き、再び廊下に戻った僕は、涙が溢れるまま歩き出した。
あきれたように見るヒリヤをにらみつけ、「前を向け」と厳しく言いつけた。
僕は歩いた。
きっと……幸せになってくれるはず……
そう願いながら。
3歳ぐらいの幼い子たち。
僕はあの後、美しい貴族の服を着せられて、一通りのマナーも躾けられた。
そう、6か月もの間、読み書き、そして、食事や挨拶も徹底的に仕込まれた。
「おにいちゃま」
「あにちゃま」
ーー豪華客船の一室
3人の幼児は僕の手をうれしそうに取る。
すっかり親しんだ彼らは僕の弟として連れている。
ここには門矢様は直接はいらっしゃらない。
僕の監視役には黒づくめのヒリヤという男が付いている、表向きは僕の執事という役割だ。
冷たい視線のヒリヤは一見僕にかしずいているように見せかけ、僕を操るのだ。
同室にされた3人の幼児の世話は僕が一人で行う。
食事も着替えも、ヒリヤが運び入れるものを自分も食べ、子どもたちにも与える。
まだちゃんと食べられない子の世話は大変だ。
骨が折れることだが、僕は一生懸命に彼らの世話を焼いた。
「賢丸様、そろそろです」
ヒリヤが僕に話しかけた。
そう、僕の名は『賢丸』門矢様がつけてくださった名、僕は彼の長男となった。
「相手は……」
「お客様のことはランブドール様とお呼びください、賢丸様、おわかりでしょうが、本名や国の名を聞き出すようなことはなさらないように、くれぐれも」
俺はごくりとつばを飲み込み、そしてうなずく。
「では、子の準備を。3番です」
「了解した」
僕は3番と呼ばれた一番幼い男子を抱き上げると、頬についたクッキーのカスを取った。
「お前、幸せになれよ」
「あにちゃま」
あどけない笑顔を見つめ、胸が締め付けられた。
しかし、思いに浸っている暇はない。
彼を豪華な部屋に設えられた風呂に入れ、身なりを整える。
髪を乾かし、整え、タオルに巻いて部屋に抱いて戻ると、ソファーの上に豪華な箱が置かれていた。
僕はその蓋を取り、中にある服を取り出した。
……これは、客から3番への贈り物。
タオルに包まれてニコリとほほ笑む彼にそれを淡々と着せていく。
色素が薄く赤い目の3番は、背に鱗がある、つまり蛇族だ。
この子はラハーム王国の出身なのだろうとわかる。
着せ終わり、周りを片づけ、3番の手を引き部屋を出ると、ヒリヤが立っていた。
「行きましょう」
ヒリヤの冷たい声で3番がポカンと口を開けた。
「どこいくの?あにちゃま」
「うん、大丈夫だよ」
豪華客船の長い廊下、歩くたびにふわふわの絨毯を足が踏む。
3番の手を引き、静かに歩く、2回、人と行き交った。
貴族らしい夫婦と、船のメイドだ。
彼らはほほえましいものを見るように僕を見て、にこりと微笑んだ。
幼い弟の手を引く貴族の子息、僕はそういう風に見られているはずだ。
僕もそつのない笑顔を返す。
「ここでございますよ、少々お待ちを」
ヒリヤは大きな扉の前で止まると、そこに控えていた護衛に声をかけ、名乗りを上げた。
護衛はちらと僕を見て、そして3番をじっと見た。
「ご主人様から伺っております、どうぞ」
現れた白髪の執事に招かれ、僕は3番の手をきつく握ったまま入室した。
「ああ……まあまあ……絵姿よりもさらに、麗しいではないか……なあ?」
一番奥まった豪華な部屋に寝そべるその男は、側にいる半裸の若者に話しかけた。
「ええ、ご主人様」
半裸の若者は、真っ赤に火照った顔をこちらに向け、赤い舌でぺろりと唇を舐めた。
僕は背筋がぞくりとし、思わず3番を抱きかかえた。
「ああ、君、そう、門矢の息子だったね、君でもいいんだけど、さすがにダメかあ」
にたりと締まりのない顔で笑うこの男が、ランブドールなのだろう。
熟れきって腐りかけた……そんな印象の太った男だった。
「さあさあ、こちらへ、ぼうや」
ヒリヤは3番の手を僕から離すと、抱き上げ、ランブドールの寝そべるベッドに座らせた。
「うむ……かわいいのう」
ランブドールは3番の頭を撫で、笑顔になった。
3番は不思議そうにランブドールを見ている。
「あの……3番は」
僕は思わずそんな言葉を口にしてしまった。
「門矢の息子よ、心配するな、この子はうちの子として育てるのだよ。大丈夫何一つ不自由はさせぬよ」
どろりとした笑みは僕を震わせた。
「では、お支払いを」
ヒリヤは盆に乗せた契約書を掲げた。
ランブドールは寝そべったままそれを確認し署名をすると、ヒリヤに返し、そしてもう一度僕に話しかけた。
「門矢の息子、良ければこの後食事でもどうかな?」
「申し訳ありません、この後は予定がありまして」
「そうか、残念だ、父上によろしくな」
「はい、かしこまりました」
ヒリヤは僕に退室を促した。
僕は最後、もう一度3番を見た。
かわいい小さな……ほんの数か月しか一緒ではなかったものの……たしかに僕の弟だった。
鼻の奥がツンとした。
涙が出る……そう感じた僕は急いで扉の外へ出た。
扉が閉まる瞬間、3番の声が聞えた。
「あにちゃま、どこいくの!」
広い室内を駆けるように歩き、再び廊下に戻った僕は、涙が溢れるまま歩き出した。
あきれたように見るヒリヤをにらみつけ、「前を向け」と厳しく言いつけた。
僕は歩いた。
きっと……幸せになってくれるはず……
そう願いながら。
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