狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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プロローグ

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 紗国の優しい風に吹かれながら、僕は空を見上げた。
 きっと僕は、銀色に輝くあの人の元に帰るために、日本で必死に生きてきたんだね。
 蘭紗らんじゃ様、僕の中にある愛するという言葉は、すべてあなたに捧げます。












 ん……困ったことになった。

僕は呆気に取られて周りを見渡した。
目の前に大きな鳥居が見えるが、ここがどこだか全くわからない。

なぜなら、つい先ほどまで僕は大学に向かって歩いていたはずだからだ。
そこは東京の街だったはず。

だが今、見渡す限り森というか山奥と言うか、とにかく木々しか見えない。
それも鬱蒼としている。
目線の先に鳥居はあるのだが、僕の後ろには続く道が無い……本当にうっそうと茂る森だ。

 こういうのを神隠しって言うのかな?
 いやいや、まさかそんな現代に!

などとつらつらと考えているのだが。
一向に考えがまとまらない。
後ろと左右には森、目の前には鳥居。
その奥にはものすごく大きな建物があるようで、覆いかぶさる葉の隙間から薄ら見える。
色合いからして神社?のようにも見えるけど……

 幻想的だなぁ。

などと現実逃避して楽しむようにその神社を見やる。

僕が生まれたのも育ったのも東京だ。
東京には神社仏閣や森がないわけではないけれど……

アーケードを歩いていて急に森になったりはしない。

 ここ、やっぱ東京じゃないよね。

右手に持っていたトートバッグをしっかりと持ち直し、尻餅をついていたため下生えの草でしっとり湿ってしまったジーンズをパンパンと払いながら立ち上がる。

「……行くか」

僕は覚悟を決めてその鳥居を目指して歩いた。
後ろ側に広がる森の中へ突入するより、とりあえず神社に行って助けを求めた方がいいに決まってるからね。

 鳥居はとても大きく今まで見た中でも一番大きいかな?と感心して見上げる。

「っえ?!」

僕は思わず小さく叫んだ。

その鳥居に腰掛けてる男の子がいたからだ。
見上げてみて初めて気がついた。
あんな高いところに幼児がどうやって登ったの?!

「ちょ! ちょっと危ないよ君!」

返事はないがこちらをじっと見ている。
年の頃は5歳くらいだ、慌てた様子はないのが救いに感じる、もしもバランスを崩して落ちてしまったら大変だ!

「どうやってそこに登ったの? お父さんは? お母さんは? なんでそんなところに?」

真剣な眼差しでなおもこっちを伺う幼児は、ゆっくりと立ち上がりって、あろうことかスタッと軽やかに宙を飛んだ。

「ひぇっ! ちょっ! ちょっとまって!!!」

あまりのことに僕は慌てて、着地点になるだろう地点に駆け寄るが、間に合わなかった。
慌てるあまりに心臓が高鳴って息が切れるが、慌てているのは僕だけだったみたいで、男の子は、なんでもないように地面にスクっと立ってこちらを振り向いた。

「そなたは誰?」

「は? え? あんなところから飛び降りて! 怪我とかしてないの?!」

駆け寄って男の子の体に触れようとした、しかし小さな手をこちらに向けて拒否されてしまった。

「聞いたことに答えるのじゃ、答えぬうちはこちらへ来るな!」

「…… ん」

面食らって目を見開いた。
男の子は舌足らずな話し方で僕を見つめながら、ジリジリと後ろへ下がっていく。

いや、なんだその……時代劇かのような話し方!
めちゃくちゃかわいい声なのに違和感しかない!

「な、何もしないよ、ただ心配だっただけだよ……僕は宮下薫という名前で、えっと、怪しいものじゃないから安心して、ケガはない?」

このまま変な人扱いされて通報されても困ると考えがよぎった。

とりあえず名前を伝えて早くここを立ち去ろう……鬱蒼とした森に入るのは気が進まないけど。

「ミヤシタカオル?……そなた、お嫁様か?」

「は? いや、え??お嫁様?」

僕はどこからどう見ても男子だろ?

「どこから参った? まさか阿羅彦の国ではあるまいな?」

なにやらぶつぶつと小さな声で呟く幼児はこちらをじっと観察している。
冷静になってよく見ると、この子は服も何かおかしい。
巫女さんのような着物姿だ。
しかも…… 頭にケモ耳が付いてる!
三角の犬のようなお耳がぴょこんと。
それから、体の後ろでふさふさ動いてるそれって……しっぽ……

えーと、ハロウィンではないよな、今は春だから。
それに、今時の小さな子は普通七五三でもなければ着物なんて着ないよね。

「えっとね、僕は大学に行く途中だったんだけどね、気が付いたら……なんでだかここに来てしまって、君は……」

「留紗さま!」

突然神社の方から慌てた様子で駆けてくる一団があった。

留紗るしゃさま! これは! こやつは一体!」
「下がれ! お前何者だ!」

駆けつけてきたのは4人の大人の男だったが、口々に僕のことを不審者扱いで警戒もあらわな言葉を投げつけてくる。
きらりと光る武器まで所有していて怖い……

「ですから!! ぼ、僕は、宮下薫と言います。東京に生まれた時から住んでいまして、なんだかわからないのですが迷ってるみたいなんですが」

「は?」
「なんだと? トウキョ?」

その時、幼児がとことこと僕の前に庇うように歩いてきた。

佐栁さなぎ、落ち着くのじゃ。我は見たぞ、この人は空間の割れ目より出たのだ。おそらくお嫁様だ。兄様が出立の際話しておられたであろう?お嫁様の気配がすると。……それを受けて我は空間の乱れを感じたここで監視しておったのじゃ」

聞かされた男たちは瞠目し、わなわなと口を震わせながら2、3歩後ろへ下がりきれいに揃った礼をした。
そして僕は気がついてしまった。
彼らにも三角のケモ耳としっぽ!

僕はなにも言えず口をパクパクするだけだが、幼児はゆっくり振り向いて声をかけてきた。

「あなたがお嫁様であるかどうかは、兄様に確かめてもらうしかないのだ。我についてまいれ」

いやいや、ちょっと待って!
という僕の気持ちなんてお構いなしに幼児は僕に寄り添い、ちょこんと小さな手で僕の手を取り歩き出すよう促した。

そして、幼児は繋いだ僕の手をじっと観察した。

「……ん。まぁ、十中八九そなたはお嫁様だ、案ずるでない、兄様はあなたをずっと待っているのだから」

あまりのことに頭が付いていけないまま、幼児に手を引かれ僕は鳥居をくぐった。



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