狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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とまどい・1

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 僕は今焦っている。
嫌な汗が出てくるし、めまいもする。
 
この状況はなんなの?
 
僕は不安な気持ちが隠せなかった。
ただ、つないだ小さな幼児の手が柔らかくて温かくて、少し心が安らいではいたけれど……
 
そして、連れられて森を抜けたところで、僕は思わず唖然とした。
目の前にいきなり背の高い建物がそびえ立っていたから。
さっきまでは木の葉の影になって全容が見えなかったのだ。
 
……そして今僕は、その一室にて僕は今待機させられている。
 
なにを待ってるかって?
ん、僕が教えてほしい……
 
というか、先ほどスマホを取り出して電源をつけてみたのだけど、やはりというかしっかり圏外だった。
状況を僕なりに整理してみようとうんうん唸るが、はっきり言ってお手上げだ。
 
あの幼児は確かに言ったんだ。
 
『空間の裂け目より出た……』と。
 
ちょっと待ってくれと言いたくもなるが……
移動した覚えもないのに突然知らない場所に自分がいたこと。
ここにいる人達には皆、ケモ耳としっぽがあること。
それらを総合すると、やっぱりこれ違う世界なんだろうなと納得も出来てくる。
 
それにこの建物だ。
 
神社のように見えたのは一階部分の雰囲気だけで、何十階もあるある高層ビルだ。
こんな変わったものがもしも東京にあったなら、知らないわけがないからね。
 
圧巻だったのは入口の扉だ。
美しい朱色の大きな扉には、繊細な彫刻が施され、かなりの年代物のようだったけれど磨き抜かれていた。
そこには幼児に恭しく敬礼する門兵すらいた。
 
あのね、武装した和服姿の門兵なんてね、普通は時代劇以外で見ないものだよね……
 
そして中に入ってみると長い廊下の先に、講堂があり、そこに大きな狐の像があった。
その前にはきれいな花がいけられ、お供えものまである。
狐の像はものすごく大きくて、奈良の大仏のようだと思わず目を見張った……でもまあ狐なんだけど。
 
僕は奥まった場所にある部屋に案内された。
長い長い廊下をひたすら歩いて到着したので、正直疲れ果てていた。
 
予想した畳とは違い意外にもフローリングで、そこにヨーロッパ風の瀟洒なソファーセットが置いてあった。
 
そして僕は今、そのソファーに座って待たされている。
きょろきょろ周りを見渡すが、壁は無く障子と襖に区切られ、その上には見事な欄間がある。
 
「失礼します」
 
小さな高い声がふと聞こえて、廊下側の障子がそっと開いた。
 
「お茶のご用意が整いました。お嫁様の好みがどのようなものかわかりませんが、もしもお口に合わなければおっしゃってくださいね」
 
「あの……お嫁様っていったいどういう?! 僕は男だからね、お嫁様じゃないと思うんだよ?」
 
お盆を持って入ってきたのは、10歳くらいに見える女の子だった。
なんとなくふと妹のことを思い出した。
 
妹は13才だ。
かわいがっているのだが、生まれつき心臓が悪く難しい手術が控えている。
嫌な予感が当たって、もしここが異世界とかでもう帰れないというのなら、そばにいてやれないことが心の底から悔やまれる。
 
「……?」
 
女の子は解せないという顔を一瞬見せたが、すぐに恥ずかし気に視線を外し、お茶を丁寧な仕草でテーブルに置いた。
 
意外なことにお茶はティーカップに入った紅茶だった。
 
「ありがとう」
 
僕が礼を言うと、女の子は安心したように笑顔になった。
 
「いえ、お口に合うかわかりませんが。……それから、蘭紗様は先ほどお戻りになりましたから、もう来られるかと」
「その、らんじゃさまってのは?」
「えっと」
 
女の子はものすごく緊張しているようで、下を向いて固まってしまった。
 
「あ、いや、怖がらせたのならごめんなさい。僕はなにも事情がわからなくて困ってるんだ、できたら質問に答えてくれたら嬉しいのだけど」
 
怖がらせないようゆっくりと静かな話し方で諭すように尋ねた。
 
「あ、はい!えと、蘭紗様はこの国の国王陛下でいらっしゃいます」
「国王?!」
 
今度はこちらが固まる番だ。
 
え、王様なの?
僕、王様に会うの?
 
その時、するりと襖が開いた。
 
「おまたせしております、蘭紗様はただいまお戻りで、支度をなさっておいでです。それまで私がお相手しますので、何かご質問がございましたら」
 
優しげな声で話す老人が若者を連れて入ってきた。
若者は鋭い目つきでこちらを睨んでくる……正直怖い。
だがやはり彼らもまた、ケモ耳ふさふさしっぽ付きだ、荒ぶるワンコと思えば大丈夫かもしれない……
 
「私は、サヌ羅と申します。こちらは我が息子カジャルでございます。腕が立ちますので、お嫁様がまことお嫁様であられるなら、いずれお嫁様の護衛となる者かもしれませぬ」
 
息子なのか、と思って視線をやると、フッとそらされた。
 
……なんだか初対面でここまでされると傷つくよね。
 
「お前、蘭紗様がいらしたらお茶を入れて、下がりなさい、我々には茶はいらないよ」
 
女の子は隅で控えていたが、サヌ羅にそう言われて小さく返事をしていた。
 
「お嫁様は、こちらにおいでになった経緯を理解なさっておいでかな?」
「い、いえ! というかそのお嫁様という呼び方をやめてもらえませんか? 僕は男ですから、お嫁にはなれませんよ?」
 
僕がそう言うと、カジャルが目を見開き豪快な舌打ちをした。
 
「お前がそんなで蘭紗様を支えられるわけないだろ?どの世界から来たのか知らないが、なんでお前なんかがこの栄誉を手にした!」
「カジャル、やめなさい。無礼にも程があるぞ」
「しかし父上、納得できません!伴侶は俺ではなかったのですか?!」
 
は?
ちょっといま、爆弾発言がありましたよねぇ!?
 
「すみません、本当に基本的なことお伺いしてよろしいでしょうか?」
 
僕は小さく右手をあげて恐る恐るサヌ羅さんという人に問うた。
おやおや?という風に僕に向き直った老人はもちろんと言うように頷いてくれた。
 
「この国は、日本ではありませんね? 日本には男が男のお嫁様になることはありません。あ、いや、最近は同性同士でも結婚はできるように世界的にはなってきていますが、それでもお嫁とは呼ばないです……さきほどカジャルさんが表現したように、伴侶とは言うかもしれませんが……」
「……ふむ、ニホン、それがお国のお名前ということですかな? 美しい響きですね…… それから、お察しのようにここはお嫁様がおられた世界とは違う世界です。国が違うだけではございません。どうやって異なる世界を渡ってこられたのかは、私には見当もつきませぬが……それはもう神の仕業としか言いようがございません」
 
サヌ羅という老人は穏やかな笑みを浮かべてうなずいて僕を安心させようとしてくれた。
 
「それから『お嫁様』という呼び方でございますが、これはもう変えられませぬ。王のお嫁様であるからあなたは世界を渡られた。それが全てでございますから」
 
その言葉は僕の心配を拭うどころかさらに混乱させる力があった。
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