狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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俺の愛する人2 ・ カジャル視点

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 窓の外で鳥が羽ばたいた。
それに目をやり、思わず自分の口元に指を這わせた。


……あの時のまだ幼かった王子の柔らかな唇の感触を思い出すように。

水を求めて吸い付くように王子の柔らかな唇は動いた。
渇きを潤そうと必死に。
あの時俺は初めて体の芯が熱くなるのを感じた。
この儚い尊き人を俺の腕に閉じ込めておきたい、そう感じた。

しばらくして見守る俺を静かに見つめて王子は言った。
「もう落ち着いたから大丈夫だ、ありがとう」
夕陽に照らされて銀色の光り輝く髪の毛が少し茜色に染まっていた。
本当に美しかった。

それ以来、風呂では飲み物を上手なタイミングで用意できるようになったが、俺は少しでも王子がふらついたら即座に抱きしめ腰掛けで休憩させた。

火照った顔で「我の体はなぜこうなのだろう、風呂をもっと楽しみたいのだが」などと溜息まじりに呟く王子をそばで見守った。
請われれば口移しに水を飲ませ、柔らかな唇の感触に打ち震え、そのたびに熱い思いと体を持て余した。





「あの方をこれまで側で守ってきたのは俺なのに」





……言っても仕方ない言葉だ。

ふらりと足を縺れさせるようにして自分のベッドに腰かけ背中を丸めた。
6才の時に出て以来、16年ぶりの我が家だ。

出る時はあれほど恋しかったのに、今となってはすでにここが我が家だという感覚もない。

いつの間にかこのベッドは大人用になっている。
俺がいつ帰ってきてもいいように、母が心を砕いていたのだと父に聞いたが。
そんな母の思いを聞いても…… 俺にとって「帰る」と言えば城のあの部屋なのだ。



……3年前、まだ40才だった前王が亡くなった。



蘭紗様が学園の卒業をあと数ヶ月後に控えた……そんな時期だった。
まさに青天の霹靂だ。

蘭紗様は蒼白な顔だったが泣くこともせず、淡々とやるべきことをし粛々と国王におなりになった。
学園からの帰国後すぐの即位式から国葬まで、顔色一つ変えずに立派にお勤めになり各国からの使者ともうまく渡り合い、名君になりそうだとの評判を広めた。
国民もみな新しい君主を快く受け入れた。

特に動じる事もなく、ともすれば冷徹に見えるその姿だったが、2人きりになった寝室では違っていた。
今までにない高い発熱も毎晩だったし、情緒も不安定だったので泣く事も多かった。

その時支えたのも俺だ。
医者も乳母も侍女も誰も役には立たなかった。
ほかの誰にもその姿を見せようとしなかったから。

幾晩も静かにただ涙をこぼすあの方をこの胸に抱き、止まらぬ涙に口づけ、同じベッドで抱きしめて寝た。
そうすることで落ち着かせられるのは俺だけだった。
一言も話さない蘭紗様…… 涙さえも美しいあの方。
そうなのだ…… お慰めできるのは、俺だけだったのに。



「薫」という名前の男の姿を思い出した。

……あいつではない。

ギラリと光る眼をまっすぐに城の方へ向けた。

……あんな頼りなげな少年に勤まるわけがない、蘭紗様と共に生きていけるのは、俺だけなのだ。

ぐっと握った拳からはいつの間にか血が滴っていた。
自らの爪が己の手のひらに食い込んでいることも気づいていなかった。
ただただ、憎かった。

愛する方を、俺がいるべき地位を奪ったあの少年が。
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