狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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今宵褥を共に

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 この国のことはまだ全然わかっていないし、慣れてもいない。
しかし、そこかしこに日本の名残があって不思議とそれほど遠くに来てしまったという気持ちにはならない。
だから思いのほか僕は元気だ。

はじめて蘭紗様に会った時に言われたように、近くに「魂の片割れ」がいるのも大きいのかもしれない。

生まれて初めてといっていいぐらい、調子がいいのだ。
この世界の空気が優しく感じる。
体は軽くどこまでも走って行きたくなる。

ひとたび本を開けば、侍女達がお茶だ食事だと話しかけてくるまで、疲れ知らずでずっと本を読みふけってしまう。
かつてないくらいに意欲的に動けていた。

日本にいた頃はスポーツができないのなら勉強をと、かなり頑張っていたのだが、勉強だって長時間は出来なかった。
机に座ってるだけで目眩を感じ強烈な頭痛が起こることも多かったからだ。
それでもかなり成績は良くて、親が喜ぶ大学にも入れた。
我ながら、頑張ってやっていたなぁとしみじみ思う。

……そして蘭紗様の笑顔を思い浮かべてみた。
食事に向かう時、二人で並んで歩いた長い廊下、見惚れる僕に気付いてふっと微笑んで「薫はかわいいな」と言ってくれた。

ぼ、ぼくは、19才男子なんですけど!
でもなんていうかあの人からもらう言葉はなんでも嬉しい。
勝手に顔がぽっぽと熱くなる。

「薫さま、お風呂のお時間でございます」

またもや声掛けしてもらった。
そうかもうそんな時間か。
開けられた丸い窓から城下町が見えるが、茜色に染まり今にも墨色に変わろうとしているかのようだった。

というかここが、ビルのように高い神社のなんと60階だなんて……誰も教えてくれなかったよね!
ここに案内される時に、横移動しかしてないつもりだった僕は、一階にいると思っていたのだが、知らぬ間に魔力で動くエレベーターみたいなものに乗っていたらしいのだ。

そしてその60階には王とその伴侶のみしか住んでいない。

つまり、僕と蘭紗様だけ!

50階あたりに住むのがその他の王族で、喜紗や留紗もそこに住まいがあるという。
で、その60階から見る景色がまたすごい。

東京のように高層ビルがたくさんあるわけではないので、視界をさえぎるものがない。
街並みは、京都のように碁盤の目とはいかないまでも、それなりに規則正しく並んだ民家が果てしなく続いていて、この都市の賑わいを感じさせる。
暗くなり始めるので、そろそろあちこちで明かりが灯りつつあるのが、またきれいだった。

「うん、行くよ、今日も露天風呂でいいから!」
「お気に入りでございますね」

仙と里亜が微笑みながら着替えを用意してくれた。

「では、ごゆっくり」

4人に部屋を出たところで見送られながら、露天風呂に渡る廊下を歩き出した。
廊下は日本庭園風になっていて素晴らしい。

僕は調子よくひょいひょいと歩き、露天風呂に到着し、さっさと着物を脱いでサクサク体を洗って岩風呂に入る。

「今日も用意してくれている、ほんとに気が利いてるよなあ」

僕は岩風呂の横の四阿に飲み物が置いてあるのを発見した。
初日に湯につかりすぎてのぼせてしまったときは、これをありがたく頂戴した。

それにしても良い天気だし、良い夕焼けだし。

「ふう……」

僕はスイーっと、平泳ぎをして湯に浮かんでみた。
余裕で泳げるこの大きさ、ほんとに大きい。

「んー……一人じゃもったいないみたい……」

「そうだな、薫、ずっと一人にさせてすまなかった」
「へ???」

僕は慌てすぎてブクブクと湯に水没してしまった。

「か、薫!!」
「プハッ!!」

一度ツルっと底の岩で足が滑ったけど、何とか踏ん張って湯の中に立ち上がりケホケホした。
その瞬間、蘭紗様に抱きしめられた。

「すまぬ! 驚かせてしまったようだ、大事無いか?」

そういって、体のあちこちを触って……

「あ、えと!!」
「大丈夫なようだ、薫、すまなかった、君の姿を見つけてつい嬉しくなってしまい」
「いえ、どうしてそんな謝ってばかり! 何も悪いことしてないですよ?」
「そうかな?」

うんうん頷く僕を見て、蘭紗様はフフと笑ってもう一度僕を抱きしめてきた。
僕の顔が一気に熱くなる。

「あ、あの」

「ん?なんだ?」

薄目を開けて見下ろされた。
長くまっすぐな銀色のサラサラヘアーは洗い立てで濡れていて……えっと、その……壮絶な色気がダダ漏れです。

「そこに座ろうか?」

蘭紗様は、なんと僕をお姫様だっこして湯船の縁にある大きめの岩に座った。
僕は膝の上に置かれて、そしてやさしく抱きしめられる。

「我は幸せだ。薫が腕の中にいるだけで、こんなに力が湧いてくるとは」

やさしいまなざしを向けられて僕は体が甘い痺れでうまく動かず、溶けてしまいそうな気持ちよさを感じる。

「薫も力が湧いて意欲的になるのを感じているのではないかな?」

僕は声を出さずにただ頷いた。
この世界に来てから感じていた調子の良さ、そして……今のこの心地よさ、疲れが癒える感覚、そしてそれとは別の狂おしいまでの相手を欲しいと思う感情。
何もかもが初めての経験だ。

「そんな顔で見つめられたら、我は我慢できなくなるが良いのか?」
「え……」

湯にのぼせたわけでもないのに真っ赤になった僕の頬に、そっとすべすべの手が添えられた。
綺麗な銀色の瞳を至近距離で見つめていると……それがどんどん近寄ってきて、やがて唇に柔らかい蘭紗様の唇が触れた。

触れ合うだけの軽いキスだったけど、初めてのキスだ。

だけどそれで終わらなかった。
何度も何度も蘭紗様の唇が触れてきて、その感触がなんだか嬉しくて少し舌を出してペろっと蘭紗様の唇をなめてみた。
そしてイタズラが成功してクスっと笑うと、蘭紗様も楽しそうに微笑んだ。

「かわいいね、薫」
「僕、生まれて初めてキスをしました」
「キス?とは、口づけのことかな」

答える前にまた口づけられて、今度は僕の唇を軽く噛んできた。
僕は楽しくなってお返しにこちらからも唇を甘噛みしてみる。
わざと困ったような顔をして蘭紗が見つめてくる。

そして次は舌がするりと入ってきた。
僕はその感触で体がふるふる震えた、なんて気持ちいいんだろう。

その瞬間

「はっくしゅ!」
「はっ、すまぬ薫、風邪をひいてしまう……湯につかろう」

ゆっくりと湯に沈めてくれる蘭紗のお姫様を扱うかのような優しい動作にまた笑ってしまう。
何度もいうようですが、僕、19才男子なんですけどね!

「ね、蘭紗様、僕、女の子じゃないから、そんなに大事に扱わなくても!」
「何を言う世界で一人だけの愛する薫を、我の魂の片割れを大事にせずに、何を大事にするというのだ」
「あ……うん」

まっすぐに愛を告げられることに慣れてないから……
とにかく恥ずかしいんですよね……

「お湯、気持ちよいですね」
「もし、嫌でなければ今宵……褥を我と共に……だめか?」

ドキンっと心臓が跳ねて、お湯にぶくぶく沈みそうになってしまった。

えー!
褥!しとね!!
ってあのー、あれですよね!

「う、うん。えっと、はい。お願いします」

もうお湯に沈んでしまいたい!
恥ずかしいけど嬉しい……

「では、我は今から自室にて執務の続きをするのだが……軽食を用意させるのでこちらへ来ぬか?」
「蘭紗様のお部屋へ?お邪魔では?」
「そんな事あるわけがない、そなたがいてくれればより早く終わりそうだよ、それに共に時間を過ごしたいのだ」
「あ……う、嬉しいです。分かりました、支度してまいりますね」
「ああ、待っている」

蘭紗様の声がすごくうれしそうだった。

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