狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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瑞兆

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 2人で迎えた初めての朝から、周りは大騒ぎになった。
一夜にして我の尾は3本に増えるし、薫はいきなり空を飛んだ。
まあ、我にしてみれば予測できる範囲内だったが、周りはそうは思わなかったようで。
朝の散歩を終えて60階の庭に降り立つや、真っ青な顔をした侍従と侍女に囲まれ難儀した。

もう少し二人きりでいたかった気持ちが強く、はっきり言って外野は邪魔だったが……そうも言っておられぬ。
これらが我の生活を支えているのだがら。

「陛下! まさかそのようにお供も連れずに空へなど!」
「我が遮蔽魔法と防御壁を発動させているうえに、結界からは出ておらぬのだから、何も心配いらぬであろうが?」
「いえ、そういうことではございませぬ! ……っと!な!なんですと! 陛下!尾が!尾が!!」

普段は冷静沈着な侍従長が大声で髪を振り乱している。

我は少々辟易したが、薫がおろおろしているのがかわいそうで、薫を右腕の中に抱き寄せ、安心させるように髪を梳いた。

「皆、落ち着くんだ。我は昨夜薫と褥を共にした。その効果で魔力の安定が得られたばかりか、その魔力により尾が3本になった。……お嫁様を得た王が最終的に9尾になるということは、我ら王族には言い伝えられていたことなのだが……そなたらが知らなかったとしても仕方ないことだ。……であるから、これは何もおかしなことではない。そのように騒がず平常心を心がけよ」

ざわざわしていた周囲が一瞬にしてシンと静まり返り、サっと一斉に臣下の礼をした。

「取り乱し、申し訳もございません。ですが陛下、身の安全には十分にご注意いただきたく。最近我が国には阿羅人の流入が数多くございました。……何があるかわかりませぬ。お嫁様の御身の為にも、なにとぞ」
「ふむ……まあ。そう心配せずとも。ああ、薫付きの侍女たち、薫の世話を頼んだ。……我は少々忙しくなる」

腕の中の薫が一瞬ぴくっとした。

「大丈夫だよ薫、今夜食事を一緒に取れるよう手配するから、それまでゆるりとするのだぞ」

薫はかわいらしく首を傾げて見上げてきた。

「お忙しいのでしたら、無理しないでくださいね。僕は、お勉強とかやることあるのでさみしくなんていないですから」
「うむ……」

薫の額に触れるだけの口付けをし、色めき立ちホクホクした様子の薫付きの侍女たちに合図をし、薫を連れて戻らせた。

「陛下、まだ少々早うございますが、どうなさいます?」
「うむ。そなたの言うようにまだ早いというのに、どうしてお前たちは起きて我の寝所でバタバタしておったのだ」
「……陛下、恐れながら。お気づきでないのかもしれませんが。お二人の魔力が満ちたゆえ城内では少々騒ぎになっておりまして」
「なんだって?騒ぎ?」

我は執務に向かう前に朝食をと思い、侍女達に軽い物を用意するよう指示し、侍従長にさらに問うた。

「なんだその、騒ぎとやらは」

執務用の装束が用意され、それに着替え始めるが、侍従長は深いため息とともに少し首を傾げ、遠い目をしていた。

「だから、早く言うのだ、なにがあった」
「……陛下。……陛下と薫様がおやすみになられた頃にでございますね。まず最初に厩舎で騒ぎが起こりました。馬たちが皆興奮し騒ぎ出したのですが、それだけではなく、自ら発光しはじめ、あげくは翼を生やした馬も3体ございます」
「は?なんだと?翼が生えただと!?まさか天馬になったというのか?なんだそれは……」

侍従長は我の装束の結び目を直しながら、なおも話す。

「で、次にですね」
「……まだあるのか?」
「はい、ございます。……厩舎でそのような騒ぎが起こっていることを知らずに、お休みでございました王族の皆さまが次々と飛び起きられまして、それぞれの部屋付きからの報告をまとめますと、王族の皆様もそれぞれ発光現象が起き、魔力が普通の倍ほどにまで急に成長なさったとか。そのことで触りが起こった方もおられまして、現在皆さま自室にてお休みになっておられます。医師らによると、大方は大事ないとのことですが。あとですね……」
「っと、ちょっとまて……なんだって!王族たちの魔力が増えたと、それは本当か?」
「はい、医者が言うにはそれは若いほど顕著でありまして、その証拠に留紗様がかなり苦しまれまして、現在も高い熱を出しておられます。この件に関しましては急ぎ留紗様の伴侶候補を見つけ傍に置かねば危険かもしれないとのことでした。喜紗様が次の間にいらしておられますので、どうぞお話しください」

我はさすがに声も出せずに呆然としたが、ふと我に返り侍従長に先を促した。

「その他のことも続けて述べよ」
「はい、後は些末なことでございます。庭に湧き水が湧いたとか、城下町に突如温泉が湧いたとか、あとは……つがいの鳳凰が飛ぶのを見たという流言が市井で出ておりましてですね……これはおそらく、お散歩なさっておいでだったお二人のお姿だったのでは?と私は思いますが……」

頭が痛くなってきたが、ここでこうしているわけにもいかなかった。

「叔父上が来ておるのだな?」
「はい、それからサヌ羅様もお待ちです」
「うむ」
「しかし陛下、尾のことはどうされるのです?」
「ああ、今はこれは内密にしておこう、まあ……あまり急激な変化というのもあれだから」
「できるのです?」

我は魔力を鎮めるよう呼吸を整え、しばし目を瞑った。
そして再び目を開けると、瞠目する侍従長が我の尻の方を凝視していた。

「なんだその目は……」
「なんだ?じゃございませんよ! まさか出し入れ自由とは」
「その出し入れ自由という言い方をよせ。これは魔力が集まって形を取ったものだから、扱い次第でこのようにごまかすことはできるようだ。ゆうべ一人で奮闘し色々わかった」

侍従長はなんとも言えない顔をしたが、すぐにキリっとし、「では参りましょう」と先を促した。
我は頷くと、足早に2人の元へと向かった。

書斎へ向かうと、通された2人が頭を垂れ待っていた。

「急ぐので、そういうのは良い、まず叔父上、留紗はどうなのだ?」

喜紗は切羽詰まったように顔を上げた。

「蘭紗様、留紗はあまり良くない状態です。発熱し体温は高く水も飲めない有様でして、今は意識がありません。魔力を少しずつ溢れさせておりますので、侍女の中には近寄れないものもおりまして、妻か私が枕元に詰めております」
「何?そんなに悪いのか? ちょっと待て、今魔力が少し溢れておると言ったな」
「はい」
「ならば今がよかろう。本人が意識せずともそれに近寄れるものや相性の良い者を選別できる。良家の子を集め、急ぎ城へ集めるよう手配しろ」

ハッと返事をして侍従の一人が下がって行った。

「蘭紗様、私は王族でありながら結界も張れない半端者で……魔力での苦しみを知りません。どうすれば楽になりましょう?」

喜紗の顔を見やると、苦しげな様子でため息をつきシナシナとソファーにかけた。

「……まあ、伴侶候補を得れば、それなりに落ち着くだろうがな……こんなに急激な変化というのは我も経験していない故な」
「なぜこのようなことが?一体何がおこったというのでしょうか?私はそれほどの影響もなく済みましたが、陛下の姉上方も寝込んでおられますし、私の娘たちも起きれずにおります……蘭紗様はご無事なので?」

我は言葉に詰まり思わず侍従長を見たが、ふと目を逸らされた。

……。

「まあ、慶事ではないのか? 王族みなの力が強まったのならば我が国には良いことばかりではないか? あと我は大丈夫だ」
「それはようございました……これはお嫁様……薫様のお力でございましょうか?」
「喜紗どの、それは私も考えておりましたぞ、王族の皆さま方だけでなく、奇跡のようなことが城のみならず城下町にまで広がっておりますゆえ」
サヌ羅が拳を握り勢いよく話し出した。
「なに! ほかにどんなことが」

勝手に盛り上がりはじめたサヌ羅と喜紗を見やり、ため息をついた。

「そなたらに内密にすることもないから、伝えるが。我と薫は昨夜褥を共にしたのだが、その際にそれらのことが起こったようだ」

2人の丸い目が同時にこちらに向いた。

「な、なんと! いやはやそれはまぁめでたいことながら、しかし陛下、薫様はまだお越しになられたばかりだというのに大丈夫でありましょうか? ご負担ではありませんでしたか?」
「いやいや、喜紗様。お二人は魂を分かつ運命のお相手同士でありますぞ、お互いを癒すことはあれどもご負担などにはなりますまい」
「それもそうであるな、しかし凄まじい奇跡を起こされましたな。馬が何頭か天馬になったとか聞きましたぞ」
「実は先ほど私も実際確かめてまいりましたが、なんとも立派な翼の天馬が三頭おりましたぞ」
「なんと」

我は段々頭痛がひどくなりはじめてきたので、2人の言葉を遮り、控えていた者に先ほど注文した朝食を彼らの分も用意するよう伝えた。

「このように早い時間だ……そなたらも何も食べておらぬのではないか?共に食すが良い。……そして取りあえず落ち着いてくれ」

2人は恥じ入るように頭を垂れた。

「でな。これを見てくれ」
「は?」

2人は不思議そうに頭を上げ、そして「ひっ!」と小さくどちらかが叫んだ。
ガタンと音がしたが、サヌ羅が後のサイドテーブルに手をついたのであろう。
ヨロヨロするのなら、座ってくれ。

「へ! 陛下!! 尾が、尾が3本ありますが!」
「ああ、その通りだ、というかサヌ羅が驚くのはわかるが、なぜ叔父上までそこまで驚かれる?我ら王族には伝えられておっただろうが」
「いやいや、そんなそれは単なる伝説かと!」
「……つくづく叔父上はお嫁様の件をお伽噺だと思い込んでおったようだな」
「よもや、本当にこのような奇跡が」
「まあ、これは魔力が集まり形を成しているので、変幻自在というか、いまのところ普通の姿に戻れるので、隠しておこうとすればできるのだが、どうするべきかな」

サヌ羅は目を見開いてしげしげと尾を見つめ、ほうほうと唸っている。

「陛下、あまりにも神々しくていらしてまぶしいお姿で!そのお姿をお見せになれば国民みな喜ぶかと思いますので、ぜひそのお姿のままおられる方がよろしいかと」
「そうか」

サヌ羅も喜紗もうんうんと頷きあっている。
……この二人はこんなに通じ合う2人だっただろうか?

そうこうするうちに食事の用意がされ、2人と共に手早く食べ、その後は次々と仕事に追われた。

昼を少し過ぎたあたりに、侍従の一人が「留紗の伴侶候補が集まった」と知らせに来た。
我はとりあえず仕事を置いて、急ぎ留紗の元へ行くことにした。

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