狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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夏祭り1

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 今日はお祭りの日!
昨夜は二人で遅くまで起きていたから、疲れてるかも?と思ったけどなぜか全然疲れていない。
朝もばっちり起きて、そして朝食を食べている。

聞けば、蘭紗様も僕がこちらに来てから疲れるということが無くなって、なんでも精力的にこなせるようになったとか。

僕たち本当に体が強くなっちゃってるみたいですよ!

蘭紗様は一足先に起きて護衛達と打ちあわせをしたり、涼鱗王子からの使者にお返事をしているそうだ。

うん、僕だけなんかのんびりしすぎじゃないの?
でも大丈夫、いちいちこういうことを考えすぎちゃったら余計に皆さんに迷惑がかかるんですよね!

「薫様、お召し物なんですが」

声をかけてくれた侍女の真野とサヨを振り返る。

「どうしたの?いつものように決めてくれていいんだよ」
「そうなのですが、本日は街になじむために庶民の着物のご用意をということで、涼鱗王子殿下から先ほど届きまして」
「へ?」

見てみると、2人とも大きなお盆をそれぞれ持っていて、その上に白色と薄い水色の着物がふんわりたたまれているのが載っている。

「それがそうなの?まあ、涼鱗王子がそういうのなら間違いないのかな?あ、蘭紗様には?」
「陛下にも届いているようで、お部屋でお支度なさっておいでです」

僕が頷くと、二人は着物をさっと広げてくれた。
それを見て僕は一瞬頭がこんがらがった。

「あ、あのこれは」
「ええ、そうですねぇ」
「ですか、やはり」
「しかし……お似合いになるでしょうし、なにより目くらましにちょうど良いということなのかもしれませんしね」
「そういうことか、仮装ということかな……」
「でしょう……ね」

僕のつぶやきに真野も少し困ったようだったが、「目くらまし」という言葉に「なるほど……」と思い当たり、おふざけっぽいけどこういうのも必要かもと気を取り直し、素直に着替えることにした。

でもまあ……やっぱり恥ずかしいなこれ……

着付けが終わり、鏡が出される、それに写る僕は。

びっくりするぐらい女の子……

白地の花の織柄の着物に、うすいラベンダーの半襟が覗いていて、その半襟には白い花が刺繍されている。
そして、水色の細めのプリーツの袴にも白とラベンダーのお花の飛び柄が刺繍されている。
ウエストにはかわいらしいリボンが巻かれて、その先端にはレース編みの花が付いていた。

ガツンとショックを受ける僕を落ち着かせるように座らせ、真野は手早く粉をはたき、頬に紅を差し、瞼につめたい感触の筆を走らせ、眉の形をととのえ、唇にも筆が走る。

目を開けると、はじめてメイクされた自分の顔に驚愕した。
女の子にしか見えない!
鏡の中に、僕によく似た女の子がポケッと座っているのが見えて、ひたすらうろたえる。

「うそー……うそー……」

僕のためらいを置いてけぼりにして、真野はヘアに取り掛かる。
いつものように油を使い、櫛できれいに梳き、前髪を降ろし横に流す。
そしてこめかみから耳周りの髪の毛を掬い取り、後にねじ上げ、お盆の上にあった箱から白い花を取り出し、そこに付けた、

「これ、いるの?ねえ、お花、頭につける男子って……」

顔を動かすと、リンと鈴の音がなった。
どうやら髪飾りには鈴も仕込まれているようだ。

真野はコホンと咳ばらいを一つした。

「本日の薫様は私の最高傑作でございます。これほど美しいのですからいつかはと思っておりましたが……願望が叶いました。真野渾身のお化粧も決まっております、お美しいです」
「いや……そうではなくてね」
「はい、大変美しいですよ、うっとりいたします」
「サヨもね、何を言ってるのかな?僕はね男なんだよ?」
「しかし、こんなにお美しいのに何をそうこだわっていらっしゃるのですか?」

サヨの不思議顔に困惑した。

……う、はずかしい、これであの3人の前に行くのはちょっと……

言い合ううちに、蘭紗様から支度の準備ができたら空の門へと報せが来た。

「えー」
「薫様、まだ言ってらっしゃるのですか?本日は薫様がご所望されたお祭りの日じゃないですか、楽しんできてくださいませ」

ほらほら、と先を促され、恥ずかしい気持ちを隠せないままアタフタと空の門に急ぐ。
途中すれ違う侍女や侍従たちが目を丸くしてハッとして棒立ちになり、いつものように頭を下げるのも忘れているようだ。
いや、違うんだよ、頭を下げてほしいわけではなくてね!
あの訓練された人たちでさえ凝視してしまうほど僕は今、素っ頓狂な姿なのではないの?

はずかしい!

ざわざわする廊下を走り抜け空の門に到着すると、護衛と打ちあわせをしている蘭紗様の後ろ姿が見えた。

いつも長く垂らしている輝く銀色の髪を高い位置でポニーテールにして、黒い紐で結んでいる、それが朝日に輝き辺りを照らすかのように眩しかった。
着物は袴を付けないシンプルな藍色の着物の着流しスタイルで、帯はからし色だ。
その帯には結び目に狐のチャームをぶら下げている。
浴衣スタイルっぽくて、日本の夏祭りに出かける日本男子そのものだ。
違うのはそれにふさふさの尾が揺れていること。

んーかっこいい!
僕の恋する人は本当にスタイルが良くてかっこいいんです!

そして蘭紗様と話していた近衛部隊も皆蘭紗様と同じような浴衣スタイルで、なるほどこれが市井での標準スタイルなのだなと納得する。

え?……だったら僕もこれで良くない?ねえ!

ふと、近衛隊長が僕を見つけ、目をまん丸にする。
普段感情を出さない人なので、その姿に僕の方が驚く。

近衛隊長と話していた蘭紗様は「ん?」と言いながらゆっくり振り向く。

そして、蘭紗様の目がきらりと……ほんとにきらりと光って、そして次の瞬間あんぐりと口を開けて固まってしまった。

……ちょっと待って、普段そんなことをしない人たちが揃ってこの調子!はずかしい!

「や、やっぱり、き、着替えてきますから!ちょっと待っててくださいね!」

恥ずかしさマックスの僕が急いで踵を返して部屋に戻ろうとしたら、左手を捕まれてうしろに倒れた。
そして、ポスっと蘭紗様の胸に収まる。

「薫だよな?」
「は、はい……おふざけで、涼鱗王子からこんな着物が届きまして、今すぐきがえ……」
「いや、そのままでよい、というか、素晴らしく美しいな、薫」

スッと横抱きにされ頬にキスをされた。
顔が真っ赤になってしまった。

「えっとえっと」
「では、このまま参ろう、隊長、あとは手はず通りに」
「ハッ」


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