狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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友の願い2

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「それから……聞いただろう?あの黒幕の男の話だ」
「ああ、陰で国を牛耳っていたとかいう、あの人どこにいるんです?」
「あいつならあっちさ」

カジャルさんは僕たちの乗る船の後を指さした。
そこには二隻の軍艦が僕たちを護るためにドンと存在している。

「なんか……異能を持ってるとか言ってけど、大丈夫なのかな、逃げないかな」
「ん、今回は僑先生がいるだろ?先生が20人の囚人たちの意識を失くす処置をしているらしい、どうやってかは知らないけど」

肩を竦めて恐ろし気に話すカジャルさんに僕も笑った。
僑先生は……なんていうかあれだよね、マッドサイエンティスト的な側面を感じるよね!
まあ、危険がないならそれでよしかな……

「でな、その黒幕の男の供述によると、あれだろ?阿羅彦の体から染み出る黒い液体を間違って被ったら、次の日から体が若返り異能を手に入れ、さらには長寿になって今150才位だっていうけど、どう見たって30くらいにしか見えないというかな……あれはもしかして不老不死に関係してるってことじゃないのか?」

僕はカジャルさんの言葉に固まってしまった。

「……確かに、不死はわかりませんが……不老というか若返り……ですね、しかも年を取るのを遅くさせるとなると……」
「今回、そのことについてと阿羅国の色々を、医学的見地から僑先生は発表するらしいぞ、場合によっては今まで治らないと思われていた病気なんかも治せるかもってことだ」
「し、知らなかったです、それ」

蘭紗様は僕に何も言わないんだから!

「まあ、周りは薫様にすごく気を使ってるからな、俺らにとってみれば長年の敵だが、薫様にとってみれば友人だったわけなんだから、しかも数年前までな……だから、どこまで話せばいいのかわからないんだよ」

僕は何とも言えない気持ちになって傍に控える真野に、温かいミルクティーを注文した。
なんとなく、寒い気がして。
いや、気温は寒くないんだけど……

「それで、俺……」

カジャルさんが急に言葉に詰まったので、不思議に思ってカジャルさんを見つめた。

「俺もさ、その原理でなんとか延命できないかなって……そう思ってさ」
「……」

僕は何も言えないで見つめ返した。
ああ、そうなのだ……僕と蘭紗様、そして涼鱗さんは200年以上の年月を生きるのに、カジャルさんだけが普通の人としての人生分しかない。
一人だけ先にいくことを憂いているのだ。

「俺はまだ22だ、普通に考えりゃまだ若者だし……死ぬまでには何十年も時間があるんだ、今から死ぬことを考える必要なんてないんだがな……どうしたって、俺が先に行った後……あいつ……大丈夫かなとか……つい、余計な心配ばっかしてしまうんだ……って!なんでお前が泣くんだよ!……ばか、ふけ、ふけ」

カジャルさんは慌てて懐から出してきた手拭いを押し付けてきた。
僕はいつの間にかあふれていた涙をそっと拭いた。
僕だって、この世界一番の友が先にいっちゃうことを今から知ってるんだ、そのことを考えたら悲しくなるよね。

「……ごめ、……あのさ……僑先生に相談は?」
「うん、今回の旅で話せたらって思ってたんだよな、でも、先生こっちこないから、ずっと軍艦の方だ」
「確かにそうだね」
「研究が進めばもしかして……とか、俺の体で実験してもらってとか、頼もうかなって」
「ちょ、ちょっとまって!」

僕は思わず立ち上がってカジャルさんの手を取った。

「ねえ、自分で実験とか何言ってるの?自分を大事にしてよ!」
「……! いや……粗末にしてるつもりはないよ、今はもう涼鱗の為に生きたいと願ってるだけだ」

ああ確かに、この人は僕のせいで一度絶望を味わっているのだ。

「だけど、俺……出来ることは全部したいんだ。もし僑先生の処置でたとえば今捕まってるあいつらみたいに150年生きれたとしたら……う、うれしいだろ。お前らとも、涼鱗とも……一緒にいれるなら」

僕は拭いた涙が再び流れるのを感じた。

「……絶対に、安全だって分かってからにして、お願いだから」
「……うん、まあ……だが何だって絶対はないだろ?」
「だけど! 確率的にっていうか!」
「わかったよ……その、無理はしないから……でもこのことは、まだ涼鱗たちには黙っててほしいんだ」

僕は瞠目した。
え?
パートナーに言わずにそんな大事なことをしようと?

「絶対止められるから、涼鱗は俺にそんな実験まがいなことさせたがらないから」
「わかってるなら、やめ……」
「やめない」

カジャルさんは強い眼光を宿した。

「俺が涼鱗にしてやれることは……一緒に生きてやるってことだけなんだ」

僕は何も言えなくなって握りこんだ友の手を見る。
節くれだって小さな傷もあるその手は、つねに鍛錬を怠らないまじめなカジャルさんの力強さを感じる。
この人のまっすぐな思いを、僕は否定できない。
ほんとなら、危ないことをしてほしくない。
でもそれは僕の勝手な思いであって……友の本当の願いではないのだ。

「わかった。僕の胸にしまっておくよ……でも約束してほしいんだ。そのことが具体化して、やるってことになったら、その時僕を付き添いにして」
「え?」
「僕ぐらい傍にいさせてほしい」

カジャルさんは小さく笑うと、「わかったよ」と言って、カジャルさんの手を離さない僕の手をさらに上から握りこんで、ぽんぽんと優しく叩いた。

アオアイの空はどこまでも青くて、朝の爽やかな潮風が吹いてくる。
どうか、僕の友に幸あれと願わずにいられなかった。

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