狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
77 / 317

友の願い1

しおりを挟む
 アオアイ王国は、戦国時代で世が荒れている頃から中立を貫いた稀有な国として知られる。

勇猛果敢が褒め言葉だった時代には「腰抜け」などと罵倒されたこともあったらしい。
腰抜けだなんてひどいよね……中立であり続けるって言葉通りのきれいごとでは済まない面だってあるはずなのに。

だけど、平和の国日本から来た僕からしたら、アオアイはとても馴染みやすい国なのではないかな。
そんなふうに思って勝手に親近感を持ってしまう。

そのアオアイは島国なのだ。どこの国からも海を隔ててでしか隣り合わない。
そんな立地も日本を思い起こさせる。
国土の広さは紗国とほぼ同格で、南北に散らばる小さな諸島も含め全てアオアイ国家なのだという。

僕たちは予定通りの日程で無事到着した。
凪いだ海を安全に、ほとんど揺れることすらなく航海はスムーズだった。

だけど……朝早くに到着した僕たちは、まだ入国はできずに審査を待ってる。
なにしろ各国がそれぞれ護衛の軍艦を連れて入港しているのだ。
これを全部捌くのは相当時間がかかるよねぇ。

僕はカジャルさんと甲板に出て周りを眺めていた。

各国が王族を乗せる一番立派な客船を出していてそれが勢ぞろい。
島国なので港は各島にあるが、アオアイの首都の港は大渋滞となっていた。
だれもがここで我が王族を下ろしたいわけだ。

「ねえ、これって上陸はいつになると思う?」
「んー考えたくないね」

カジャルさんと僕は実は眠れずにずっとここにいたのだ。
蘭紗様と涼鱗さんは、外務の最高責任者のサヌ羅さんと宰相の喜紗さん、そして波羽彦さんと再び会議で……だから余りの僕たちはポケーと他国の豪華客船を見学しているというわけ。

各国の船の甲板では船員たちがゆっくりと仕事をしている中、僕たちのように見学している王族らしき人たちの姿も見える。

「ぴーっと飛んでいけないもの?」
「審査も済んでないのに入ったら罰せられるぞ」
「まあそうですよねえ」

僕とカジャルさんは何度目かの溜息をついた。

「薫様、カジャル様、まだお早いですが朝食はいかがでしょう?よろしければここで召し上がれるようにいたしましょうか?」
「ん、いいね」

僕とカジャルさんは暇すぎて、なんだかずっと食べてる気もするけど、遅れてやってきた成長期の僕とまだ若いカジャルさんは、だいたいいつもお腹を空かせているのでちょうどよかった。

プール横にある籐のテーブルセットには、僕の好きなオープンサンドが並べられた。
固めのかりかりしたパンの上に乗るのはイクラっぽい魚卵だったり、カルパッチョだったり、ゆで卵だったり、おいしそうな生ハムだったりする。
美しい切り方の色とりどりの野菜がそれらを飾っていて、見た目も栄養もばっちりだ。
シェフは洋上でも贅をこらしたおいしくて素敵なお料理をいつも用意してくれる。

「日本では……その……体があまり動かなくて走ったりしたことなかったって言ってたよな?」
「そうですよ、すぐに心臓がつらくなったり、眩暈を起こしたり酸欠みたいになって気を失ったりとか」
「……薫様は確かに痩せているが……今ではそんな話聞いても信じられないな」
「んと、それは僕も思います、この世界の空気が本当に合ってます!」
「空気というか……蘭紗様のいる世界だから……なんだろうな」
「そうですね、蘭紗様もそういえばそんなことを話していましたね、僕がこの地に降り立った時に急に体が軽くなって息がしやすくなったと」
「……ふむ……」

カジャルさんは何かを考えるように黙り込んでしまった。

「どうかしました?」
「……いや、阿羅彦のことを考えていたんだ」
「あらとくん……」

僕は何とも言えない気持ちになって手がとまってしまった。

「あ、すまない……この話は避けた方がよかったか」
「いえ、そんなことないですよ、これから阿羅国のことを話し合うためにここに来てるんですしね」
「……そうだな」
「カジャルさんは何を考えてました?」

カジャルさんは手に持っていたサンドをポサッと口に入れてもぐもぐすると、アイスティーをぐぐっと飲んだ。

「あのさ……阿羅彦が自分が主張するようにお嫁様だったとしてさ、そのあれだよ……真湖紗王のためにこの世界に渡ってきたとして……そしたらさ、阿羅彦だって魂が半身だったわけだろ?薫様たちみたいに」
「ああ、そうですね……」
「それなのに、阿羅彦は日本でも普通に体力のある男だったっていうじゃないか」
「……ん、確かに。新人くんは日本にいるときサッカーという運動が大好きで毎日トレーニングに打ち込んでましたからね、あ、訓練ってことです」
「こちらに渡らずとも、生きていけたんだろうなあ」

僕はその言葉に声を詰まらせた。

「あ……あぁそうです、ね。僕はこっちに来てなかったら、確かに死んでいたかも」

カジャルさんはハッとなって焦って両手の手のひらを見せてひらひらさせた。

「いやいや、違う違う、薫様が死んでいたかもなんて、そんなこと言ってない」
「うん、わかってるけど、それぐらい僕はあっちでは生きていくのがつらい状態だったよ」

悲し気に目を伏せ、もう一度アイスティーを飲んだカジャルさんは僕をまっすぐ見つめた。

「だが今は違う、そうだな?」
「はい、元気ですよ」
「ならばどうして阿羅彦は日本でも元気だったんだろう?」
「……魂が半分というのが、僕には理解がむつかしいのですけど……その、半分のままでも十分強かった新人君を思うと、それがこっちの世界にきてさらに、強くなれたのでは?とは想像できますよ、例えてみれば日本にいるときの新人君は、今のカジャルさんのような感じで活発な男子でしたから」

カジャルさんは溜息をついて頷いた。


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

処理中です...