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友の願い1
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アオアイ王国は、戦国時代で世が荒れている頃から中立を貫いた稀有な国として知られる。
勇猛果敢が褒め言葉だった時代には「腰抜け」などと罵倒されたこともあったらしい。
腰抜けだなんてひどいよね……中立であり続けるって言葉通りのきれいごとでは済まない面だってあるはずなのに。
だけど、平和の国日本から来た僕からしたら、アオアイはとても馴染みやすい国なのではないかな。
そんなふうに思って勝手に親近感を持ってしまう。
そのアオアイは島国なのだ。どこの国からも海を隔ててでしか隣り合わない。
そんな立地も日本を思い起こさせる。
国土の広さは紗国とほぼ同格で、南北に散らばる小さな諸島も含め全てアオアイ国家なのだという。
僕たちは予定通りの日程で無事到着した。
凪いだ海を安全に、ほとんど揺れることすらなく航海はスムーズだった。
だけど……朝早くに到着した僕たちは、まだ入国はできずに審査を待ってる。
なにしろ各国がそれぞれ護衛の軍艦を連れて入港しているのだ。
これを全部捌くのは相当時間がかかるよねぇ。
僕はカジャルさんと甲板に出て周りを眺めていた。
各国が王族を乗せる一番立派な客船を出していてそれが勢ぞろい。
島国なので港は各島にあるが、アオアイの首都の港は大渋滞となっていた。
だれもがここで我が王族を下ろしたいわけだ。
「ねえ、これって上陸はいつになると思う?」
「んー考えたくないね」
カジャルさんと僕は実は眠れずにずっとここにいたのだ。
蘭紗様と涼鱗さんは、外務の最高責任者のサヌ羅さんと宰相の喜紗さん、そして波羽彦さんと再び会議で……だから余りの僕たちはポケーと他国の豪華客船を見学しているというわけ。
各国の船の甲板では船員たちがゆっくりと仕事をしている中、僕たちのように見学している王族らしき人たちの姿も見える。
「ぴーっと飛んでいけないもの?」
「審査も済んでないのに入ったら罰せられるぞ」
「まあそうですよねえ」
僕とカジャルさんは何度目かの溜息をついた。
「薫様、カジャル様、まだお早いですが朝食はいかがでしょう?よろしければここで召し上がれるようにいたしましょうか?」
「ん、いいね」
僕とカジャルさんは暇すぎて、なんだかずっと食べてる気もするけど、遅れてやってきた成長期の僕とまだ若いカジャルさんは、だいたいいつもお腹を空かせているのでちょうどよかった。
プール横にある籐のテーブルセットには、僕の好きなオープンサンドが並べられた。
固めのかりかりしたパンの上に乗るのはイクラっぽい魚卵だったり、カルパッチョだったり、ゆで卵だったり、おいしそうな生ハムだったりする。
美しい切り方の色とりどりの野菜がそれらを飾っていて、見た目も栄養もばっちりだ。
シェフは洋上でも贅をこらしたおいしくて素敵なお料理をいつも用意してくれる。
「日本では……その……体があまり動かなくて走ったりしたことなかったって言ってたよな?」
「そうですよ、すぐに心臓がつらくなったり、眩暈を起こしたり酸欠みたいになって気を失ったりとか」
「……薫様は確かに痩せているが……今ではそんな話聞いても信じられないな」
「んと、それは僕も思います、この世界の空気が本当に合ってます!」
「空気というか……蘭紗様のいる世界だから……なんだろうな」
「そうですね、蘭紗様もそういえばそんなことを話していましたね、僕がこの地に降り立った時に急に体が軽くなって息がしやすくなったと」
「……ふむ……」
カジャルさんは何かを考えるように黙り込んでしまった。
「どうかしました?」
「……いや、阿羅彦のことを考えていたんだ」
「あらとくん……」
僕は何とも言えない気持ちになって手がとまってしまった。
「あ、すまない……この話は避けた方がよかったか」
「いえ、そんなことないですよ、これから阿羅国のことを話し合うためにここに来てるんですしね」
「……そうだな」
「カジャルさんは何を考えてました?」
カジャルさんは手に持っていたサンドをポサッと口に入れてもぐもぐすると、アイスティーをぐぐっと飲んだ。
「あのさ……阿羅彦が自分が主張するようにお嫁様だったとしてさ、そのあれだよ……真湖紗王のためにこの世界に渡ってきたとして……そしたらさ、阿羅彦だって魂が半身だったわけだろ?薫様たちみたいに」
「ああ、そうですね……」
「それなのに、阿羅彦は日本でも普通に体力のある男だったっていうじゃないか」
「……ん、確かに。新人くんは日本にいるときサッカーという運動が大好きで毎日トレーニングに打ち込んでましたからね、あ、訓練ってことです」
「こちらに渡らずとも、生きていけたんだろうなあ」
僕はその言葉に声を詰まらせた。
「あ……あぁそうです、ね。僕はこっちに来てなかったら、確かに死んでいたかも」
カジャルさんはハッとなって焦って両手の手のひらを見せてひらひらさせた。
「いやいや、違う違う、薫様が死んでいたかもなんて、そんなこと言ってない」
「うん、わかってるけど、それぐらい僕はあっちでは生きていくのがつらい状態だったよ」
悲し気に目を伏せ、もう一度アイスティーを飲んだカジャルさんは僕をまっすぐ見つめた。
「だが今は違う、そうだな?」
「はい、元気ですよ」
「ならばどうして阿羅彦は日本でも元気だったんだろう?」
「……魂が半分というのが、僕には理解がむつかしいのですけど……その、半分のままでも十分強かった新人君を思うと、それがこっちの世界にきてさらに、強くなれたのでは?とは想像できますよ、例えてみれば日本にいるときの新人君は、今のカジャルさんのような感じで活発な男子でしたから」
カジャルさんは溜息をついて頷いた。
勇猛果敢が褒め言葉だった時代には「腰抜け」などと罵倒されたこともあったらしい。
腰抜けだなんてひどいよね……中立であり続けるって言葉通りのきれいごとでは済まない面だってあるはずなのに。
だけど、平和の国日本から来た僕からしたら、アオアイはとても馴染みやすい国なのではないかな。
そんなふうに思って勝手に親近感を持ってしまう。
そのアオアイは島国なのだ。どこの国からも海を隔ててでしか隣り合わない。
そんな立地も日本を思い起こさせる。
国土の広さは紗国とほぼ同格で、南北に散らばる小さな諸島も含め全てアオアイ国家なのだという。
僕たちは予定通りの日程で無事到着した。
凪いだ海を安全に、ほとんど揺れることすらなく航海はスムーズだった。
だけど……朝早くに到着した僕たちは、まだ入国はできずに審査を待ってる。
なにしろ各国がそれぞれ護衛の軍艦を連れて入港しているのだ。
これを全部捌くのは相当時間がかかるよねぇ。
僕はカジャルさんと甲板に出て周りを眺めていた。
各国が王族を乗せる一番立派な客船を出していてそれが勢ぞろい。
島国なので港は各島にあるが、アオアイの首都の港は大渋滞となっていた。
だれもがここで我が王族を下ろしたいわけだ。
「ねえ、これって上陸はいつになると思う?」
「んー考えたくないね」
カジャルさんと僕は実は眠れずにずっとここにいたのだ。
蘭紗様と涼鱗さんは、外務の最高責任者のサヌ羅さんと宰相の喜紗さん、そして波羽彦さんと再び会議で……だから余りの僕たちはポケーと他国の豪華客船を見学しているというわけ。
各国の船の甲板では船員たちがゆっくりと仕事をしている中、僕たちのように見学している王族らしき人たちの姿も見える。
「ぴーっと飛んでいけないもの?」
「審査も済んでないのに入ったら罰せられるぞ」
「まあそうですよねえ」
僕とカジャルさんは何度目かの溜息をついた。
「薫様、カジャル様、まだお早いですが朝食はいかがでしょう?よろしければここで召し上がれるようにいたしましょうか?」
「ん、いいね」
僕とカジャルさんは暇すぎて、なんだかずっと食べてる気もするけど、遅れてやってきた成長期の僕とまだ若いカジャルさんは、だいたいいつもお腹を空かせているのでちょうどよかった。
プール横にある籐のテーブルセットには、僕の好きなオープンサンドが並べられた。
固めのかりかりしたパンの上に乗るのはイクラっぽい魚卵だったり、カルパッチョだったり、ゆで卵だったり、おいしそうな生ハムだったりする。
美しい切り方の色とりどりの野菜がそれらを飾っていて、見た目も栄養もばっちりだ。
シェフは洋上でも贅をこらしたおいしくて素敵なお料理をいつも用意してくれる。
「日本では……その……体があまり動かなくて走ったりしたことなかったって言ってたよな?」
「そうですよ、すぐに心臓がつらくなったり、眩暈を起こしたり酸欠みたいになって気を失ったりとか」
「……薫様は確かに痩せているが……今ではそんな話聞いても信じられないな」
「んと、それは僕も思います、この世界の空気が本当に合ってます!」
「空気というか……蘭紗様のいる世界だから……なんだろうな」
「そうですね、蘭紗様もそういえばそんなことを話していましたね、僕がこの地に降り立った時に急に体が軽くなって息がしやすくなったと」
「……ふむ……」
カジャルさんは何かを考えるように黙り込んでしまった。
「どうかしました?」
「……いや、阿羅彦のことを考えていたんだ」
「あらとくん……」
僕は何とも言えない気持ちになって手がとまってしまった。
「あ、すまない……この話は避けた方がよかったか」
「いえ、そんなことないですよ、これから阿羅国のことを話し合うためにここに来てるんですしね」
「……そうだな」
「カジャルさんは何を考えてました?」
カジャルさんは手に持っていたサンドをポサッと口に入れてもぐもぐすると、アイスティーをぐぐっと飲んだ。
「あのさ……阿羅彦が自分が主張するようにお嫁様だったとしてさ、そのあれだよ……真湖紗王のためにこの世界に渡ってきたとして……そしたらさ、阿羅彦だって魂が半身だったわけだろ?薫様たちみたいに」
「ああ、そうですね……」
「それなのに、阿羅彦は日本でも普通に体力のある男だったっていうじゃないか」
「……ん、確かに。新人くんは日本にいるときサッカーという運動が大好きで毎日トレーニングに打ち込んでましたからね、あ、訓練ってことです」
「こちらに渡らずとも、生きていけたんだろうなあ」
僕はその言葉に声を詰まらせた。
「あ……あぁそうです、ね。僕はこっちに来てなかったら、確かに死んでいたかも」
カジャルさんはハッとなって焦って両手の手のひらを見せてひらひらさせた。
「いやいや、違う違う、薫様が死んでいたかもなんて、そんなこと言ってない」
「うん、わかってるけど、それぐらい僕はあっちでは生きていくのがつらい状態だったよ」
悲し気に目を伏せ、もう一度アイスティーを飲んだカジャルさんは僕をまっすぐ見つめた。
「だが今は違う、そうだな?」
「はい、元気ですよ」
「ならばどうして阿羅彦は日本でも元気だったんだろう?」
「……魂が半分というのが、僕には理解がむつかしいのですけど……その、半分のままでも十分強かった新人君を思うと、それがこっちの世界にきてさらに、強くなれたのでは?とは想像できますよ、例えてみれば日本にいるときの新人君は、今のカジャルさんのような感じで活発な男子でしたから」
カジャルさんは溜息をついて頷いた。
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