狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
80 / 317

アイデン王2

しおりを挟む
その時、バタバタと船室から喜紗さんとサヌ羅さんが走ってくるのが見えた。
 
「いやいやいやいや!これは!何事かと思いましたら、アイデン王陛下では!」
「なにゆえこの船へ」
「ああ、我が許可した、でかい図体で空にいられても邪魔だ」
「なんということをおっしゃる!……ああ、アイデン王、こちらへさささ」
 
アイデン王は2人に連れられて船室へ入って行った。
 
「なあ、あいつは入国審査の書類どうすんの?」
 
カジャルさんが呆然と聞く。
 
「お付きの者が用意するだろうさ」
「で、そのお付きとやらは?」
「まだ見えぬな……」
 
僕たちは遠い空を見やるが、その他の龍が飛んでいる気配はない。
 
「一人ぶっちぎって飛んできたんだろうねえ……相変わらずむちゃくちゃだねえ、ほんと龍族って苦手なんだよ私は」
 
涼鱗さんは両手で自分を抱きしめプルっと体を震わせた。
カジャルさんが心配そうに見つめる。
僕は一人だけ事態が理解できていなくて不安になったけど、例え自分が知ってようとも何もできない場合は、大袈裟に騒ぐ事はもっともやってはいけない行いだ。
 
「ああ、薫……心配せずとも……龍族は千年とも万年ともいわれる寿命ゆえに我らとは相容れぬのだが、一応あちらもこちらを立てて邪魔はしてこない……だから危害を加えられたりもしない」
「喜紗さんに教えてもらったところによると、ヴァヴェルは平和を誓っていないともありましたが、心配はいらないのですね」
「うむ、まああちらはそういうのは興味ないだろう。あやつらは一度眠ると300年ぐらいは起きないのだ、前の王がちょうど眠りに入ったころに平和の誓いがアオアイで行われたのでな……誓わなかったのではなく、眠っていて来れなかったのだよ……」
 
蘭紗様は何とも言えない顔をして僕の頭に手をおいてポンポンした。
子供扱い!
 
「では……好戦的ということはないのですよね?……なんだか背筋が寒くなるような気配がしましたけど……」
「そうだよねえ……わかるよ薫……私も本当に苦手だよ」
 
涼鱗さんは寒そうに体を震わせるばかりで、声もいつもより小さい……なぜこんなに恐れるの?
 
「まあ、夕食にしよう……用意はできているのか?」
 
蘭紗様に頷く侍女たちによって僕たちは船の一番大きなメインダイニングに案内される。
設えは洋風で美しい白亜の柱が並び、そこに上品なマホガニー色のテーブルセットがある。
南側に開かれた窓からは美しいアオアイの島々が見え、今や茜色に染まり切った絵のような景色が計算したかのようにダイニングを彩っていた。
 
「本日は、アオアイの漁船から新鮮なお魚を多く仕入れられましたので、前菜は生魚仕立てのサラダ、スープは魚介たっぷりのクリームスープです。メインはお魚とバファ肉のグリルでございます、お出ししてよろしいですか?」
 
船のシェフは金髪碧眼のでっぷり肥えたイケオヤジなんだけど……
痩せたら絶対ハリウッド俳優みたいになる……よね。
いや、今でもマフィアのボス役できそうなんだよね……
色々想像しちゃう。
 
「ああ、両方もらおう、皆にも同じものを」
 
僕たちは頷いて食前酒をいただいた。
ああ、おいしい!苺の香りがしますよ!
 
「お酒……大丈夫になったの?」
ちょっと心配気に涼鱗さんが伺ってくる。
 
「うーん……食前酒ぐらいなら大丈夫かと……徐々に慣れなきゃだし……」
「まあ、我がここにいるのだ、離れないから大丈夫だよ、好きなだけ飲むと良い」
 
蘭紗様もにっこりだ。
 
「龍さんたちの国は阿羅国に近いんですよね?帰る時に通ったような……」
「ああ、はっきりと国境はないのだ、あの辺りの森すべてがそうだな。龍にはハグレも多いから、どこにいるのか把握しきれんが、龍の気配は恐ろしく大きいのだ。鈍感な者でも気づくくらいにな。だからあの森辺り全てがヴァヴェルということになっている」
「だいたいさあ、ヴァヴェルってのもこっちが勝手につけた愛称だからね、人と初めて話した龍がヴァヴェルって名前だったから、そのまま国の名前になったってだけで、あいつらは国なんてものを意識して作ってはいないんだよねえ」
「どうして涼鱗さんは龍さんを恐れるんです?」
 
僕は前菜の美しいサラダをつつきながら聞いた。
 
「……ふん……いや、なんていうか……蛇と龍は実は同じ出自だって言われてるんだよねえ、どこで別れたかわからないけど……あっちが原種でこちらは亜種みたいなものと思うんだけど……私たち蛇族が普通より力が強いのも寿命が長いのも、あいつらの血が混ざっているからと言われてて……だからなんというか、押さえつけられるような居心地の悪さを感じるんだよね、完全なる上位互換に出会ったみたいな……」
 
涼鱗さんは悔しそうに顔をゆがめた。
 
「なるほど……わかるようなわからないような……」
「しかしあっちは何も考えておらぬだろう?単なる同級生として接していると思うが」
「まあそうなんだけど……」
「え?同級生?」
 
3人の顔が一斉にこちらを向いた。
 
「ああ、そうなのだよ、アイデンはたぶん今100才ちょっと?なんだけどね、龍の子は生まれてから人の形が取れるようになるまでほとんど寝て過ごすんだよねえ、そしてきちんと覚醒して動けるようになった時期と、私たちがアオアイに留学した年が偶然一緒でねえ」
 
涼鱗さんは溜息をついた。
 
「まあ、同級生ってことになったんだよ、だから一緒に学んだんだよ」
 
カジャルさんは楽しそうに笑っていた。
 
「別に悪い奴じゃないぜ?癖はあるけどさ……細かいことは気にしないし身分の上下も関係なく接するし、俺は結構仲良くしてたよ」
「龍族もアオアイ学園で学んでいたなんて」
「そうなんだよ、歴史上初めてらしいよ……ていうかまあ……龍族に赤子が生まれることが数千年に一度らしいからね……」
 
僕は遠い目になった。
なるほどこれは……他の種と一緒に時間を過ごすのはむつかしいだろう……
 
「まあ、学友なので気安く声もかけてきたんだろうが……普通は他国の王族の船に軽々しく上がったりしないのだよ?」
「まあ、この船の中は紗国の領域なのだからな。今回は我が許可したからあいつも上がったわけだ」
「……はあ」
 
アイデン王の内面は普通の子供?みたいな感じを受けたので、あの……人を圧するような気配さえ気にしなければ、仲良くなれそうな気がしないでもない。
 
「取りあえず、もうすぐ上陸できると喜紗も言っていたしな、食事をしたら少し休もう」
「そうだねぇ……あ、給仕、私にもう少し強めの酒を」
 
涼鱗さんは無表情でお酒をお代わりしている。
 
僕は墨色が広がってきたアオアイの海を眺めた。
美しいこの国はどんなところなのか……今からワクワクが止まらない。
カジャルさんには街を案内してもらうつもりでいるので、お買い物もしてみたいしね。
 
運ばれてきた牛肉に似たバファ肉を口にいれながら、僕は蘭紗様に微笑んだ。

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

処理中です...