狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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アオアイの町4 目覚め

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 美しい白樺の林……おじいさまの別荘の裏庭で、僕は久しぶりに一人で遊んでいた。
ふと見ると、いつも僕が寝ているお部屋が見える。
あの白い枠の窓から「早くお外に行きたいなあ」って、眺めていた景色。
僕はこの風景が大好きなんだ。

……そしていつものあの場所に、その子は寝ていた。

「ねえ、君はどうしていつもここにいるの?」

僕は手を伸ばして……でも、ハッとしてその手を引っ込めた。

……そうだった、触っちゃいけませんっておばあさまに言われたのだった……
でもでも!とってもふわふわでかわいらしいきつねさんなのですよ!

きつねさんはずっとすやすやとおやすみで、僕のことに気づく様子もない。
お腹がすいている感じでもなく、ただここでまったりと過ごしているだけみたいなんだ。

「んー……かあいいなあ」

僕はにこにこ笑顔できつねさんを見守ります。
おばあさまは、きつねさんには病気持ちが多いからと僕を注意したけど。
本当なのかな?

「君はお父さまとお母さまはいないの?」

……寂しくないの?

僕よりもちっちゃくてまだ赤ちゃんみたいなのに、いつも一人だったとしたら、ごはんはどうしているのかな。

僕は周りを見回してみた。
ここらはスズランという可愛いベルの形のお花の「ぐんせいち」。
そのスズランの匂いが優しくここまで届いてくるよ。

「いいにおいですね」

僕はおやすみ中のきつねさんに微笑みかけた。
その時、ふと……きつねさんの目が開いて薄目で僕を見つめてきた。





「……ん」
「……薫!」
「え?」

僕は驚いて体を起こして、周りを見回した。
隣に蘭紗様がいることは分かっても、ここがどこかわからない。
いつの間にかベッドに入っていた?みたい?
えーっと何か夢を……見ていたような……

「ん?」

ぎゅっと強く抱きしめられて息が一瞬できなくなって、グハっとなった。

「薫!どうしてそなたは!」
「ん……えっと……く、くるしい」
「っ……すまない、だいじょうぶか!」

とたんに力を緩め、腕を握ったまま僕から少し離れる蘭紗様。
顔を覗き込んできて、瞳を見つめられる。
本当にいつ見ても輝く美しい銀色だな……えへへ

「僑を呼んでくる」
「……」

あ……
思い出した。
アーメ王子とお茶を飲んでケーキを食べて?
力が入らなくなって、カジャルさんもなんだか様子がおかしくなってて?

開けられたままだった扉からバタバタと僑先生と蘭紗様が入って来た。
僑先生の後ろには阿羅国で見た助手さんの姿も2人いるようだ。

「薫様、どこか痛いところは?」
「ありません」
「気持ち悪いなど、異変はございませんか?」
「……しいていえば、のどがかわいたか……な」
「すぐに水を」

食い気味に助手に指示を出す僑先生。
王様である蘭紗様が差し出す椅子に、何も言わずに座って僕の手を取り、ブツブツ言いながら人差し指で手のひらから手首まで触っていく。
少しチクチクするけど、何をされているのかさっぱりわからない。
阿羅国でもこれをされた気がするけど……脈でも見ているのだろうか?

その次に首筋、そして目の中、それから……着物を脱がされて細かく胸とお腹を人差し指でツツツと触られていく。
僕はこういう診察方法に慣れてないけど、医師独特の雰囲気を僑先生から感じて完全にお任せ状態で、されるがままに上半身裸だ。

ふと蘭紗様を見ると。
何かに耐えているような苦悶の表情をしている。
滅多に見ない顔……というか初めてみる顔に、僕は心配かけちゃったんだなあとちょっと反省する。

でもね、蘭紗様の学生の時の友達である上に、この国の王子さまにお招きされて断るなんて出来ます?

僑先生はバタバタと助手たちに言いつけてメモを取らせている。
そのままベッドに寝かされて、今度は下腹あたりまで下着をずらされて、念入りに腸の辺りを調べているようだ。

でも、もしかしてこれ、魔力を使って体の中を見れるってことなのかな?
今度先生がお暇なときに話しかけてみよう……
生きるCTスキャン的な!

「では、背中を」

今度は裏返されて背中をツツツと触られる。肩甲骨辺りの下から念入りにお尻の割れ目のところまで。
こそばい!!……医療行為なんだから、しかたないのだ。
こういうものだ!……耐えるんだ僕!

「はい、終わりましたよ」

僑先生ののんびりした声で、蘭紗様はササっと僕に被さるように飛びついてきて着物を急いできっちり着せていく。
蘭紗様お世話がうまくなった気がするんですよ、僕がどんくさいから……えへ。

「……ゴホン……で、どうなのだ?僑」
「……そうですねえ……今のところ異常はないですよ、ホントに単なる睡眠効果だけの薄い薬だったようで、痕跡すら探せません……カジャルさんよりも目覚めが遅かったのはおそらく種族の問題かと思いますがね」
「種族間で効き目が違うということか?」
「そうですね、人間の、更には体重の軽い人は少しの薬でも敏感に反応したりしますから。薫様は背も低くてお痩せになってるので、作用が強く出たんでしょう。まあ、とにかくもう大丈夫です、迎賓館にお戻りになって分析結果を待っていてください」

僑先生は蘭紗様に一礼すると助手たちと忙し気にバタバタ部屋を出て行った。
このまま軍艦に戻り、そこで分析を続けるそうだ。
なんでもキャビン一室を研究所仕立てにしてあるそうで……やるなぁ……

部屋で二人きりになった僕は抱きしめてきて離さない蘭紗様を見上げた。

「ご心配おかけしました、蘭紗様……」
「……まったく……生きた心地がしなかった」
「でも、眠っていただけのようで……」
「ああ、不思議だな……周りの者から悪意も感じぬし……しかもここはアオアイだ」
「というと?」

蘭紗様は僕の顔を両手で挟み、一度ちゅっとキスしてからまた抱きしめた。

「アオアイは……平和な国なのだ争いも悪意もほとんどない……とはいえ、つまらぬ嫉妬やよこしまな考えを起こすぐらいは普通にあろうが……悪事を働くまでには至らないのだ。それは、争いを好まないアオアイ国民の穏やかな気質ももちろんその一因なのだが……それとは別にこの国のあちこちに、沈滞石という特殊な石が使われていてな。例えば道の敷石や、屋台のテントの支柱、そしてテーブルや台座など、あらゆるものに使われているんだ」

僕はピンときた。
沈滞石に聞き覚えがあったのだ。
留紗と一緒の聴講の時、喜紗さんが話してくれたあれだ。

「あれですね、魔力や異能を出させないようにするっていう特殊な石」
「そうだ……アオアイは基本的にどの国の者であろうと入国できる。入国審査はとても厳しいので犯罪者などは勿論入れぬが、荒くれ国家の人間だってきちんと手続きを踏めば入国できるんだ。……なのにずっと何も事件が起きていないのは、国中に使われた沈滞石が、人々の心を鎮める効果を発揮しているからだ」
「人々の心を……鎮静効果ってことでしょうか?そんな効果まであるんですか……」

蘭紗様は深く頷いた。

「なるほど……何千年も平和を守るって……そういうことですか……すごい」
「そうだな……だが、我はこの国を信用しているんだ、もしも万が一何かやらかした場合の罰則は世界一厳しいしな……」

僕はぶるっと身を震わせた。
しかし、納得もする。
世界中の王族が自らの後継者らを留学させたり、王自ら足を運び会議をしたりするには、アオアイ以上の適任地はないだろう。

「ってことは……この僕が気を失ったのは、偶然なのでしょうか?」
「……そうかもしれぬし……まあ分析結果を待とう。さて迎賓館に戻るぞ」

蘭紗様はやっと笑顔になって僕を見つめてくれた。
ああ、この表情が一番好き。
優しく横抱きにされて僕は素直に頬を蘭紗様の鍛えた胸に寄せた。
ああ、いい匂い。

「薫様!」

聞き覚えのある少し高めの声がして顔を上げると、アーメ王子が心配気にこちらに駆けてくるところだった。

「お目覚めになったのですね!良かった」

アーメ王子は取り乱してハラハラと涙を流し始めた。
僕はびっくりして両手で手のひらをひらひらさせた。

「いやいやアーメ王子……やめてください!王子は何も悪くないですから!」
「しかし……私が余計なことをしたばっかりに……」
「違いますよ、まだ何もわかってないのですから、とにかく僕は大丈夫でしたし、泣かないでください!」

アーメ王子は細く小さな体を震わせながらグビグビ泣き続けるので、僕は困った。
蘭紗様も溜息をつきながら少し笑って慰めるのだが、一向に泣き止まないし、僕たちを離そうとしないので、咳ばらいをしたこの家の執事が力任せにアーメ王子を捕まえて廊下の隅においやった。

「……この度は飛んだご迷惑を……お帰りの馬車はもう到着しております、どうぞお気をつけてお戻りくださいませ」

執事は優雅に礼をするとまだ泣いている王子の背をバンと強めに叩き「ウッ」となった王子もようやく「気を付けてねぇ……」と言って玄関先までお見送りしてくれた。

馬車の窓からはいつまでも手を振る王子が見えて、その小さな姿がなんだかだんだん可愛くなってきてしまう。

「アーメはあれだな、もう少し強くならねばな」

蘭紗様は苦笑する。

「でも気持ちはわかりますよ。自分の家で招いた客が昏睡しちゃったら、誰でも慌てますって」

僕も笑う。
笑うぐらい元気になってよかったと蘭紗様は僕をまた抱きしめてきた。

「ごめんなさい、本当に……なんだかいつも心配かけてる気がする……」
「……ん、だが……薫は少しも悪くないぞ」
「……そういえばカジャルさんは?」
「カジャルは一足先に涼鱗とともに戻った、先に目が覚めたからな……そなたのことを心配していた」
「そうですよね……僕が目覚めたことすぐに知らせてあげてください」
「ああ、そうしよう」

ずっと僕を離さない蘭紗様は馬車の中でもひたすら僕を甘やかして、色んな所を撫でたりキスしたり……それはそれは……えーっと……ラブラブ!なのですよ!

このところずっと忙しかった蘭紗様と久しぶりに向き合えた気がして嬉しいとすら感じてしまう自分がいた。
心配させてしまった自分が悪いのに……

あ、でもこの場合は僕が完全に悪いってわけでもないんだっけ?
まあ、いいや。
今夜は蘭紗様とゆっくりおやすみできそうです!

僕は蘭紗様の手をそっと握って手の甲にそっとキスをした。
愛情と感謝をたっぷりをこめて。


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