狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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アオアイの町10 かつての少年たち

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 俺と友人は授業をさぼって岩の上に腰掛けている。
友人の名は波羽彦……悪名高い阿羅国の王子だ。

阿羅国は、謎が多すぎて近寄ると碌なことがないというのが世界の共通認識で、父王などは同級生に阿羅国王子がいるとわかったとたんに「仲良くするのはやめておけ」とまで言った。

だが……世界の王侯貴族が集まるアオアイ学園なのに、珍しいことに俺の学年には王族はたった3人しかいない。

ルカリスト王国第二王子の俺と、波羽彦、そして瀬国第3王女のカレドゥ。

それでも、各国から爵位持ちの貴族の子も集まっているので人数は他の学年と差異はない。
しかし、いくらアオアイでは身分の差がなく同じ子供として扱うとはいえ、王族と貴族ではそもそも持つ能力が違いすぎる。

自然と王族は王族とのみ群れることとなるのだが……
俺たちは瀬国王女カレドゥには近寄らず、いつも2人でいた。
俺たちはまだ12才のガキだ、女に優しくして取り入ろうなど考えもしなかったんだ。

「なあ、2個下のラハームの王子……何て名前か……思い出せねえが……あいつ早速、キドノ洞窟の授業で獣化しちまって問題になってるらしいじゃないか、馬鹿なのかな」
「……馬鹿ではないだろう……私が思うに、彼は聡明だ」
「どこがだよ!王族なのに人前で獣化なんて馬鹿だろう?」
「……それは違うだろう。その場にいた皆を守るための獣化だよ。あの場にそぐわない強い魔物が出て襲われたうえに、先生ともはぐれていたっていうんだ。何もできないで震えるだけの同級生を守るためにはそれしかないだろう」
「そう?なのかな……」

俺は波羽彦を見た。
少し黄みがかったような肌はアオアイの陽射しに焼けてすっかり浅黒くなっていて、髪も目も黒いこの男を余計平凡に見せている。
世界中の者が嫌悪する阿羅国がどれ程のモノなのか知らないが、俺はこいつが嫌いじゃない。
女子はこいつのことを少し匂うと言って嫌がっているのも知っているが、むさくるしい熊族に囲まれて育った俺にはさほど匂いも感じない。
そしてこいつは何より、頭がいい、それもずば抜けて。
魔力は王族の平均といったところだし、種族は人間なので獣化も無いとなれば戦闘能力は低い方だろうが……この頭の良さはなかなかに素晴らしい。
俺はこいつを友として生涯仲良くできるやつだと確信しているのだ。

だが……二年間一緒に学んできた学友のはずが、今一歩のところでこちらを拒否するようなところがある。
こちらが無理に近寄っていかねばすぐにでも遠くにいってしまいそうな……そんな気配を見せる。

一体どうしてそんなに一人になりたがるのか……

「で……お前が授業をさぼるなんて……珍しいよな。なにがあったんだ?」
「ん……」

波羽彦はひたすらキドノ草原を見ている。
アオアイの学園島の端だ、草原の向こうには海が少し見える。
この日も晴れていて、そして気持ちの良い風が吹いているのだが……

その目は空虚で何も映していないように見えるのは気のせいなのか?

「紗国の……」
「え?」
「……いや、紗国の王子だが……」
「あー……えっとあれか、お嫁様伝説の国だな」

そう言われて、この世で一番歴史の長い国を思い出した。
この国の王は、お嫁様という魂の片割れが異世界から渡ってくるのを、ひたすら待つのだ。
ずいぶんとおかしな習わしをしているものだ。
そのお嫁様が来ない場合は、自分の魔力の質に近くて魔力量も高めの男子を伴侶とし、一生を添い遂げるという……そんな変な国だ。

くだらないお伽噺に振り回されて、馬鹿な奴らだとしか思えない。

昨年、紗国王がアオアイの会議に訪れた際、すでにアオアイで学んでいた俺は父王に呼ばれ、他の王たちに紹介されたことがあった……その中に紗国王もいたのだが……それは見事な銀髪の輝く美しい王であった。
厳しい強い視線で俺を見て、少しだけ口を微笑ませた。

「我の息子はサスラス王子の二つ下となるようだな、あれは魔力が高く安定しないので心配なのだ。サスラス王子も先輩として見守ってやってほしい」

見守る?
俺が?

何言ってんだ?と思いながら一応ぎこちなく礼をしてその場を辞した……
まあ、たったそれだけといえばそれだけなのだが……なんだか気に入らなくて俺はそれ以来紗国というのが苦手だ。

「で、何なのだ?紗国の王子が」
「あいつ、やっぱりすごい魔力量だな……私など平凡な男は近寄るのも遠慮したいぐらいだ」
「そうなのか?」

相変わらず真っすぐ草原を見やる波羽彦の横顔は表情がなく、何を考えているのかさっぱりわからない。

「だが、魔力量といえばラハームのあいつ」
「ああ、涼鱗王子だな……蘭紗の友人のようだ」
「らんじゃ?」
「……知らないのか?紗国王子の名だ」

一瞬だけ無表情のまま俺の顔を見た波羽彦はまたすぐに視線を逸らした。

「で、その紗国王子がどうしたんだ、強いだけならほかにもいるってのに、なんでそんなあいつが気になる?」

その時一瞬だけ心をひどく乱されたような表情をした波羽彦は、慌てて咳ばらいをして立ち上がり、おもむろに飛翔した。
俺は慌てて波羽彦を追った。

「おい!波羽彦!」
「キドノ草原は大丈夫だ、飛翔してもいいんだから」
「そうじゃない!なんだっていうんだ?なんかあったのか?らんじゃって王子と」
「……別に」
「何もないわけないだろう?言えよ!心配事なら俺が聞いてやるから!」

波羽彦は飛翔の速度を緩め、空中にぴたりと止まって俺を睨んだ。

「サスラス……お前はなぜ、私のようなものに付き纏う? 今だって、授業時間なのになぜここにいるんだ? お前の為にならない、私のそばにいないで教室に戻れ」
「まて波羽彦……急になんなのだ? 付き纏うって……友達じゃないか」
「……ハッ……ともだち……」

波羽彦は面白そうにククっと静かに笑って俺をなおも睨む。

「いいかサスラス、私と一緒にいれば悪い方向に行ってしまうぞ。なぜなら私は罪人となることが決まっているんだ、そういう運命なのだ」
「は?」
「今はわからずともいい、だが覚えておいてほしい、私は必ず世界中から非難を浴びる罪人となる。だから私のそばにいることはお前のためにならない。一人にしておいてくれ」
「だから!ちょっとまて!なぜそんなことを……お前は何をしようとしているんだ」

波羽彦は唇を噛んで顔をゆがめた。
普段表情を出さずに子供らしい顔を見せないやつなのに、酷く感情を揺さぶられている……そんな様子を見せる。

「他の奴らに言わないと約束するんだ、いいか?」
「え?何を?……いや……約束しよう。俺はお前を唯一の親友として認めているんだ。お前の秘密を言ったりしないよ」

波羽彦は俺から一瞬視線を外し、少しだけ見える学園の塔を見た。

「私には予知という異能がある。将来の出来事がわかるのだ」
「え?」
「……これは……本国でも父とその他数名しか知らないことだ」
「……なんだって?なぜ?なぜ言っちゃダメなんだ? 予知なんて……素晴らしい能力じゃないか!」
「素晴らしすぎるんだよ」

波羽彦は微笑んだ、見たことのない悲しい顔で。

「自分の終わりまで、見えるんだからな」
「……」

何も言えない俺は一瞬のゆるんだ気持ちが出てしまって、空中でバランスを崩してしまい落下しそうになった。
慌てたが、波羽彦が咄嗟に俺の腕を掴んで引っ張り上げてくれた。

「すまない……」
「いいさ……それより、このことは誰にも言わないと約束してくれ」
「……言わない。それより……お前の、その、最後って……」
「……サスラス……今は言えないよ……いずれ、言えるときが来たら……」

波羽彦は俺の腕から手を離すと、そのままふわりとした柔らかい笑顔で俺の背中をポンポンと叩いた。

「ありがとうサスラス、お前だけだ、俺にちゃんと向き合ってくれたのは」
「これからもそうだ、お前には俺がいるんだ、頼れ」
「……あぁ」
「なら、帰ろう」

俺は自分より小さな波羽彦の手を取って、そして学園に向かって飛翔した。

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