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アオアイの町9 王 涼鱗視点
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瀬国王は、静かに話した。
「よいか?悪いのはどう考えてもそなたの息子だガンザ……というか、そなたの二番目の息子は悪い噂しか耳に入ってこぬぞ?アオアイ学園も素行不良で退学となりついに卒業しておらんというではないか……その息子を庇って紗国王を敵に回すのはどう考えても得策ではないぞ。……それに、なにゆえあのように問題行動のある息子を、今回連れて参ったのだ?」
蘭紗は額に汗しながら魔力を引っ込め深呼吸をして目を閉じた。
「サスラスは……アオアイ学園では波羽彦王と同じ学年だったのだ。それでどうしても、波羽彦の行く末が気になるので今回の会議に参加したいと言いよってな……本当にそれだけだ」
「ならばすぐに謝罪し場を治めることだな、そして犯した罪は罪だ。ここはアオアイなのだ、我ら王族であっても逃げられぬぞ。第二王子はアオアイの法で裁いてもらうがいい、そうすべきだと私は思うぞ」
「王族であるからこそ、罰は必要でございましょうな」
獅子王の後に、護衛のように立ったままだった瀬国の軍師マドゥ・サンが獅子王の言葉を援護した。
研究所で開いたささやかなパーティー以来だが、こうしてみると目元の面差しがカジャルに似ているように思える。
そしてそのパーティーでの言葉を思い出す。『我は瀬国の軍師だがそちらに何かあればいつでも駆けつけよう』というあの心強い言葉を。
「紗国王蘭紗殿、ルカリスト王国第二王子サスラスの件は、私アオアイ王に一任いただいてよろしいかな?」
「もちろんでございます、ここはアオアイですから」
小さい体のアオアイ王はうんうんと頷いて、さらさらと署名しているようだ。
そしてその書類を執事に渡した。
「これに署名を、ルカリスト王ガンザ殿」
「これは?」
執事から書類を受け取り中をあらためるルカリスト王は顔色を変えた。
「それは我が国の法に照らし合わせ、更には相手が他国の王妃だったこと、罪人自身もまた民の手本であるべき王族であったことなどから、厳しいようだがそのような結果となるので、その書類を裁判所に王子と共に出向き提出してくだされ、しかし今回は公開裁判にはせず賠償で場を治めたい、どうかな?」
「な……一方的すぎやしませぬか?本当に息子はただ……」
「悪気がなければ何をやってもいいということにはなりませぬぞ、ルカリスト王ガンザ殿。……私はね、この国の王として本当にこれはいつも思うのです……」
アオアイ王は一拍おいて更につづけた。
「罪を犯したものは悪気がなかったと皆必ず言うが、それは何の言い訳にもならないということをお忘れなく。人としてやってはならないことを王子はしたのだ。規則違反は罰せられる。これが世界の規律ですからな……」
それから蘭紗をジッと見つめて穏やかな表情になって話した。
「それから、何か勘違いされているようだが……罪というものはしてしまった後でいくら無かったことにしようとも、すでに被害者がいるのだ……つまり紗国側がルカリスト王国を訴えて裁判に持ち込んだら、これ……もう秘密裏に国外に王子を逃がすことはできませぬぞ?公にしたくないのはそちらではないかな?」
ルカリスト王はしばし書類をめくって読んでいるようだったが、やがてのそりと立ち上がり、皆の顔を順に見てから蘭紗の目の前に歩いていき、頭を下げた。
「愚息が……迷惑をかけた。『規則を守らねば王族ではいられぬ』……アオアイ学園での教えを今更ながら私も思い出したよ。あやつは私が責任を持って国に戻す。だから安心されよ……皆も……私を正気に戻してくれてありがとう。明日の会議は私もきちんと出席するのでご安心を……では失礼する」
のしのしと退室したルカリスト王ガンザを、蘭紗は頭を軽く下げただけで何も言わずに見送った。
「しかし……問題児を抱えていると、父としては困るな、ほんとうに」
私の父が余計なことを言い出して兄も苦笑している。
「誰のことです!」
「ふん、誰の事だろうねえ?息子が学園時代に……何度この長男をここに保護者として駆けつけさせたか……なあ、水鱗覚えているか?」
「父上……はて?何度でしたかな?末弟が問題児で私も往生しましたが……今は……まあ多少は……落ち着いたようでございます」
クスリと笑ってこちらをチラチラ見やる兄を睨みつけてやると、アハハと声を出して笑いだした。
「私は別に他害はしておりませんでしょう?!問題の質が違いますからね!」
「まあそうだろうが……」
「あれか、思い出したぞ……勝手に同級生と下級生を引き連れ洞窟探検に潜ったとか……ああ、そういえば、飛翔禁止区域で大勢を従えて皆で飛んだとか……」
「父上、そういえば……同級生らと一緒に温泉を掘ると申して寮の庭をボコボコにした……などもございましたなあ」
「無茶をなさる……我が国の軍師の義甥は……なかなかですな」
瀬国の獅子王も微笑しながら紅茶のおかわりをいただいている。
「しかし、そのような明るい話題の問題児ならば、成長を見守ることもできますな……現にこのように立派にお育ちになっておる……しかし、サスラス王子のような暴若無人な振る舞いをするものが王族というのは……なんとも締まりませぬな……ガンザはどうするつもりか……蘭紗殿が辛抱なさらねば国際問題になっていたかもしれぬのに」
「元々、我らとは相容れぬところがありますからなあ……まあ、ガンザも悪いやつではないのだが……」
長年王として君臨している者同士、思うところもあるのだろう。
それぞれが思いやる姿は美しいと言えなくもない……が。
そろそろうちの若き王は限界だろうと……横を伺う。
「……そろそろ、館に戻り、妻の様子をみたいのだが……」
「そうですな、蘭紗殿。今回はアオアイの地でこのような事が起こり、申し訳なかった。それから……結婚の記念の旅に我が国を選んでくれたことは誇りに思いますぞ」
アオアイ王はちょこちょこと歩いてきて小さく丸い顔に笑みを浮かべ、同じく立ち上がった蘭紗の手を取った。
「そなたは明日が本番じゃ、心は少し乱れたかもしれぬが……波羽彦殿の為にもどうか頑張ってほしい……何しろ長年の懸念であった阿羅彦を倒した男なのだ、これからも期待しておるよ」
蘭紗もにこやかに笑って礼をすると、私の父と兄それから獅子王とカジャルの伯父と挨拶をして、私たちはようやく解放された。
「こんなことになるなんてな」
「全くだ……ガンザ殿はきちんと帰国させると約束してくださったが……」
「お前を煽るような一面を見せたが……あの人だって馬鹿じゃないんだ……公にならないよう秘密裡に処理してくれたあの面々に感謝していると思うよ?だからきちんと約束は守るさ」
待っていた馬車に乗り、私たちは迎賓館に急いだ。
先ほどアオアイ王がルカリスト王に渡した書類の写しが私の手元にもある。
確認用だと渡されたのだが……これを見ると紗国に対して賠償として金額が記載してある。
「結構な金額だな……」
「だが……こちらは薫を危険な目に遭わされたのだぞ?これぐらいなんでもないだろう」
「ルカリスト王が帰国した際に、これで揉めなければいいがな」
「揉めるのなら、揉めればいいさ……」
「蘭紗……」
子供みたいな態度で口を閉ざして窓の外を見ている様子から見ても、納得していない様子で少し心配になる。
だが、蘭紗は……アオアイ王が紗国に精一杯の賠償と薫の安全を確保してくれたこと。
また、ルカリスト王に恩を売りながら実質もみ消した手腕に気づいていないわけはない。
ここで紗国が怒り狂って喧嘩を仕掛けるわけにはいかないのだ。
それを上手く取り計らってくれたことには感謝はしているだろう。
ただ、その怒りをどう沈めていいかわからないだけ……なんだろう。
「なあ……薫の前でそんな顔するなよ?」
「……そんな顔とは、どんな顔だ」
「どんな顔って、その不満そうな不機嫌な顔だよ」
「……別に不満はない」
「うそつけ」
「……まあ、これ以上の落としどころはなかっただろう……ここがアオアイで良かった。アオアイ王は他国の王族であろうとも裁く権利を持っているのだから」
「確かにそうだな」
「だからまあ、納得はしているし、こんなモヤモヤを薫に見せたりはせんよ」
「本当にー??」
私は目を細めて蘭紗を眺める。
同じく細い目をして見つめ返されて我慢ができなくなってプっと吹きだしてしまった。
そうすると思いっきり額をぶたれてしまい「くー」と苦悶の声を出してしまう。
「痛いなあ、おい……」
「笑うな馬鹿」
「笑えよ馬鹿……薫に余計な心配させるんじゃないよ?」
「分かってるよ馬鹿」
蘭紗もとうとう笑い出して馬車はようやく我らの宿である館に着いた。
そして私たちは目撃したのだ。
笑顔の薫の横に鎮座する、輝きを放つ鳳凰を。
「よいか?悪いのはどう考えてもそなたの息子だガンザ……というか、そなたの二番目の息子は悪い噂しか耳に入ってこぬぞ?アオアイ学園も素行不良で退学となりついに卒業しておらんというではないか……その息子を庇って紗国王を敵に回すのはどう考えても得策ではないぞ。……それに、なにゆえあのように問題行動のある息子を、今回連れて参ったのだ?」
蘭紗は額に汗しながら魔力を引っ込め深呼吸をして目を閉じた。
「サスラスは……アオアイ学園では波羽彦王と同じ学年だったのだ。それでどうしても、波羽彦の行く末が気になるので今回の会議に参加したいと言いよってな……本当にそれだけだ」
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「王族であるからこそ、罰は必要でございましょうな」
獅子王の後に、護衛のように立ったままだった瀬国の軍師マドゥ・サンが獅子王の言葉を援護した。
研究所で開いたささやかなパーティー以来だが、こうしてみると目元の面差しがカジャルに似ているように思える。
そしてそのパーティーでの言葉を思い出す。『我は瀬国の軍師だがそちらに何かあればいつでも駆けつけよう』というあの心強い言葉を。
「紗国王蘭紗殿、ルカリスト王国第二王子サスラスの件は、私アオアイ王に一任いただいてよろしいかな?」
「もちろんでございます、ここはアオアイですから」
小さい体のアオアイ王はうんうんと頷いて、さらさらと署名しているようだ。
そしてその書類を執事に渡した。
「これに署名を、ルカリスト王ガンザ殿」
「これは?」
執事から書類を受け取り中をあらためるルカリスト王は顔色を変えた。
「それは我が国の法に照らし合わせ、更には相手が他国の王妃だったこと、罪人自身もまた民の手本であるべき王族であったことなどから、厳しいようだがそのような結果となるので、その書類を裁判所に王子と共に出向き提出してくだされ、しかし今回は公開裁判にはせず賠償で場を治めたい、どうかな?」
「な……一方的すぎやしませぬか?本当に息子はただ……」
「悪気がなければ何をやってもいいということにはなりませぬぞ、ルカリスト王ガンザ殿。……私はね、この国の王として本当にこれはいつも思うのです……」
アオアイ王は一拍おいて更につづけた。
「罪を犯したものは悪気がなかったと皆必ず言うが、それは何の言い訳にもならないということをお忘れなく。人としてやってはならないことを王子はしたのだ。規則違反は罰せられる。これが世界の規律ですからな……」
それから蘭紗をジッと見つめて穏やかな表情になって話した。
「それから、何か勘違いされているようだが……罪というものはしてしまった後でいくら無かったことにしようとも、すでに被害者がいるのだ……つまり紗国側がルカリスト王国を訴えて裁判に持ち込んだら、これ……もう秘密裏に国外に王子を逃がすことはできませぬぞ?公にしたくないのはそちらではないかな?」
ルカリスト王はしばし書類をめくって読んでいるようだったが、やがてのそりと立ち上がり、皆の顔を順に見てから蘭紗の目の前に歩いていき、頭を下げた。
「愚息が……迷惑をかけた。『規則を守らねば王族ではいられぬ』……アオアイ学園での教えを今更ながら私も思い出したよ。あやつは私が責任を持って国に戻す。だから安心されよ……皆も……私を正気に戻してくれてありがとう。明日の会議は私もきちんと出席するのでご安心を……では失礼する」
のしのしと退室したルカリスト王ガンザを、蘭紗は頭を軽く下げただけで何も言わずに見送った。
「しかし……問題児を抱えていると、父としては困るな、ほんとうに」
私の父が余計なことを言い出して兄も苦笑している。
「誰のことです!」
「ふん、誰の事だろうねえ?息子が学園時代に……何度この長男をここに保護者として駆けつけさせたか……なあ、水鱗覚えているか?」
「父上……はて?何度でしたかな?末弟が問題児で私も往生しましたが……今は……まあ多少は……落ち着いたようでございます」
クスリと笑ってこちらをチラチラ見やる兄を睨みつけてやると、アハハと声を出して笑いだした。
「私は別に他害はしておりませんでしょう?!問題の質が違いますからね!」
「まあそうだろうが……」
「あれか、思い出したぞ……勝手に同級生と下級生を引き連れ洞窟探検に潜ったとか……ああ、そういえば、飛翔禁止区域で大勢を従えて皆で飛んだとか……」
「父上、そういえば……同級生らと一緒に温泉を掘ると申して寮の庭をボコボコにした……などもございましたなあ」
「無茶をなさる……我が国の軍師の義甥は……なかなかですな」
瀬国の獅子王も微笑しながら紅茶のおかわりをいただいている。
「しかし、そのような明るい話題の問題児ならば、成長を見守ることもできますな……現にこのように立派にお育ちになっておる……しかし、サスラス王子のような暴若無人な振る舞いをするものが王族というのは……なんとも締まりませぬな……ガンザはどうするつもりか……蘭紗殿が辛抱なさらねば国際問題になっていたかもしれぬのに」
「元々、我らとは相容れぬところがありますからなあ……まあ、ガンザも悪いやつではないのだが……」
長年王として君臨している者同士、思うところもあるのだろう。
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「蘭紗……」
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また、ルカリスト王に恩を売りながら実質もみ消した手腕に気づいていないわけはない。
ここで紗国が怒り狂って喧嘩を仕掛けるわけにはいかないのだ。
それを上手く取り計らってくれたことには感謝はしているだろう。
ただ、その怒りをどう沈めていいかわからないだけ……なんだろう。
「なあ……薫の前でそんな顔するなよ?」
「……そんな顔とは、どんな顔だ」
「どんな顔って、その不満そうな不機嫌な顔だよ」
「……別に不満はない」
「うそつけ」
「……まあ、これ以上の落としどころはなかっただろう……ここがアオアイで良かった。アオアイ王は他国の王族であろうとも裁く権利を持っているのだから」
「確かにそうだな」
「だからまあ、納得はしているし、こんなモヤモヤを薫に見せたりはせんよ」
「本当にー??」
私は目を細めて蘭紗を眺める。
同じく細い目をして見つめ返されて我慢ができなくなってプっと吹きだしてしまった。
そうすると思いっきり額をぶたれてしまい「くー」と苦悶の声を出してしまう。
「痛いなあ、おい……」
「笑うな馬鹿」
「笑えよ馬鹿……薫に余計な心配させるんじゃないよ?」
「分かってるよ馬鹿」
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