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アオアイの町21 涼鱗視点
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「まあ……今回蘭紗は初めてだったんだ、ご祝儀を持たせたくて色々手を抜いてくださったんだろうよ……」
「そうなのだろうか……」
蘭紗が難しい顔をして私を見たのは馬車の中、紗国の宿である迎賓館に帰宅途中だ。
すでに夕刻前になっている、何も事情を知らせないまま昨日からほったらかしにしてしまっているお互いの嫁のことを考えずにはいられない。
……が、それよりも、今回蘭紗がラルカで手にした賭け事の戦利品があまりにもすごすぎて、蘭紗は少々困惑気味なのだ。
一番大盤振る舞いをしたのは我が父ラハーム国王で、戦利品はなんと海岸だ。
もう一度言う……海岸だ。
割と大きめの砂浜で、港ではないため直接国民の生活などには全く影響はないし、あの辺りは普段は穏やかなのだが、冬になると荒れ狂い、誰も近寄れない地域なので住民もいない。
だが……だからといって、領地を賭け事に賭けていいのか父よ。
そういえば……もう10年も前に我が国の霊山とされていた山が、妖精王シャオリー様の持ち物になったのだが、それは今でもシャオリー様の領地となっている。
霊山だけあって妖力のたまり場だったその山は、長年のうちに荒れ果てていたが、シャオリー様の力で恵みが多くなり魔物もなりを潜め、更には山には緑も増えなんとも風光明媚な観光地になってしまっている。
結局収まるところに収まったというか……他国の王に我が領地の世話をやらせていると思えなくもない……
ああ、そういえば離宮が瀬国王の持ち物になった時は、冗談半分に一晩お泊りにいらして、その後権利を手放して戻してくださったと聞いたときは、瀬国王の粋な取り計らいに少し感動もしたが……
実際のところ、離宮といえば父の妾や姫、幼い王子が住まう場所なので、宿泊とは……と世界中の注目の的になったらしい。
実際には王同士で夜遅くまで2人きりの宴会で盛り上がっただけとかなんとか……
どこからどこまでが本当なのかもうわからない……
今回は、ルカリスト王がサスラス王子の件での負い目からか、傍から見てもわざとらしさ抜群の負け方で蘭紗に勝たせ、困惑を隠しきれない蘭紗にルカリスト名産のサンドラ岩塩今後10年分採掘権と、ルカリスト遺跡の神殿所有権を今後100年という目録をもらってしまっている。
その上に……これはもはや公然の秘密となってしまっているが……サスラス王子の件での賠償問題もあるので、ルカリスト王の心中はいかに……と思ってしまうが。
意外にもルカリスト王ガンザ様ははじめから終わりまで楽しそうに過ごして、蘭紗とも語り合い背を叩いて激励などもしていた。
おそらくだが……阿羅国の件でかなりの信頼をおいてくださったのではないかと思われる。
あの国は質実剛健が一番良いとされる国だ。
今回の蘭紗の活躍、その後の処し方、どれを取っても完璧なものだっただろう。
その影には、喜紗殿の巧みな根回しや数々の暗躍のおかげでもあるし、国一丸となって薫の救出に向かえたのも良かった。
まあ、とりあえず、蘭紗は王になって初めての国際会議の場で世界中から喝采を浴びたわけだ。
さすが私が主と決めた男だ。
「とにかくだ……ラハームの海岸は何をすればいいのかなど、ちょっと後で細かくだな」
「ああ、わかった。喜紗どのやサヌ羅殿もいるのだ、蘭紗がそこまで考えなくても大丈夫だよ」
「そうか……」
蘭紗はようやく背を椅子の背もたれに沈め、フウと溜息をつく。
「しかしこんなに遅くなるとは……」
「ああ、私達の嫁達は怒っていないだろうか?一応新婚旅行も兼ねているというのに」
「全くだな」
2人で顔を見合わせククと笑う。
ちょうど馬車は館に着き、侍従長自らの出迎えを受ける。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま、薫らは?」
「ご招待をお受けになって、お茶会に出かけられました」
「お茶会?」
私達の声が重なる。
「どこからの招待だ?」
「ラハーム王国の王妃様でございます」
「うちの母か……」
母のいつまでも若々しい顔を思い起こす。
近寄りがたいとさえ言われる美貌の母は、その容姿から冷たくみられがちだが、実はとても優しくて心配りのできる人だ。
「ん……まあ、うちなら悪くない訪問先だな……それにこういうときは王妃同士よくお茶会を開くものだしな」
「薫は負担ではないだろうか?」
蘭紗は眉を下げて心配げに侍女に話しかけている。
「いえ、薫様は招待状をお受けになってからそれはもう生き生きとお支度をされて、お土産を厳選されて、王妃様らしくしておいででしたよ」
「そうか」
ちょっと困ったような顔で少しうつむく蘭紗を見て、「あー」と思う。
これはなんというか……嫉妬に近い感じだな……
『我がいなくても薫は困らず独り立ちしていくのだな……』みたいなあれだ。
溺愛もここまで来ると笑えるねぇ……
「まあ、2人が楽しんでいるのなら、我々は湯を使ったり体を休めて晩餐に備えようではないか、今宵は紗国の要人の慰労会もあるのだから」
「そうだな」
私達はさっさと別れて部屋に向かう。
与えられた部屋は王族が使う仕様のものだ。
蘭紗たちの部屋の次に広い。
私は紗国では準王族扱いなのだ、元々ラハーム王国の王子というものある。
「白渚」という氏ももらっている、これは私が妾を取り子を産ませば継いで行くこともできるが、私にはもちろんそんな気はない。
カジャルとともに生きていけるその間も、カジャルが私を置いて逝ってしまった後も。
白渚家は私で終わりだ。
せっかく美しい氏をいただいたのだがな……
根白川家から「白」と私が生まれた宮殿の別名「美渚」から「渚」を取って。
私は独り言ちてベッドに座り込む。
世話するために侍女が2人いるので湯の準備をさせ、着替えも用意させる。
私は幼い頃から身の回りのことを使用人にすべて任せているため、風呂も自分ひとりでは入らない。
カジャルが来てからは2人で入ることにしているが。
当然のように侍女たちが私の着物を取り、泡立てた石鹸できれいに洗う。
体をきれいにして湯に浸かり、深呼吸をしながら天井を眺める。
この館は隅から隅まで美しい。
南国特有の強い日差しに似合うよう、白亜の石造りなのだが意匠はとても細やかで素晴らしい。
この湯殿も天井は硝子がはめられ、その上を覆い隠すように木が枝を張り、ちょうどいい木陰になっている。
ラハームは寒さが厳しい国なので、こういう開放的な造りの館はない。
暑さは嫌いだがこの国のこういうところはとても好ましいと思う。
◆
……チャポンと水滴の落ちる音で、私はしばらく湯に浸かって寝ていたことに気づいて慌てて出ようとする。
侍女達は体を洗った後は一人になりたいと引き払ったので、一人だ。
「涼鱗、帰ってたんだね」
「ん?カジャル」
振り向くと、そこに体を洗い終えたカジャルが引き締まった裸体を晒して立っていた。
水滴はカジャルから落ちていたのか。
カジャルの方も私がいることに気が付かなったようで、驚いている。
湯殿にも植物が配されているので、死角があるのだ。
「まさか、寝てたのか?湯の中で?」
「ああ、そうらしいねえ」
私は両手を広げてカジャルにおいでをした。
カジャルは素直に腕の中に入ってくる。
弾力のあるよく鍛えられた体は、筋肉だけを見ると私よりもあるようだが、どこか少年めいているその体はとてもしなやかで、そんなところもかわいい。
「どうした?」
私の顔をじっと見るカジャルに問いかけた。
「いや、すごく疲れてるみたいだ」
「ああ」
私は思わず笑ってしまう。
それはもう、思わず風呂で寝てしまうぐらいには疲れている。
最近は殆ど寝ていないほどだ。
「まあ、そうかもしれないけどねえ、今宵は慰労会もあるしもうひと踏ん張り?かな」
カジャルは腕を首に巻き付けてギュウと抱きしめてくる。
私もカジャルの背に回した手をゆっくりと上下させ擦りながら、心地よい感触に目をつむる。
「俺の前では力を抜けよ」
「うん、そうだね、カジャルはどうなの?疲れてないの?」
「ああ、俺は……まあ薫様が次々に色々と起こすから、振り回されてはいるが……別にあれはわざとではないしな」
その答えには声を上げて笑うしかない。
異世界の人だけあって薫には誰にも持っていない不思議な力を感じてはいたが、ここに来てそれが次々と花開いていってるような気がする。
「まあ、それぞれ皆が大変だったというわけだねえ」
「今日もな、お前の母親の前でクーちゃんが突然出現してしまってな」
「クーちゃん?」
「鳳凰だよ」
「ちょっとまって……そんな名前どこから出てきたの」
「薫様が付けた」
「……」
ポカンとする私にフフと笑いながら今日の出来事を教えてくれた。
「つまり……母と霧香の前で……鳳凰が突然でてきたのか?曲の途中で」
「ああ、そうだ」
カジャルはおかしそうにクククと笑って私を見つめる。
その笑顔に目を奪われる。
ああ、君は本当にきれいだね。
「で、その後は」
「慌てた薫様が『クーちゃん小さくなって!』って叫んだら小鳥になって薫様の肩に納まった」
「……で、母は?」
「まあ、おとなしく帰してくれるわけないよなあ」
「そうだな」
「この美しい鳥は……まさか鳳凰では?と問われて、薫様が『鳳凰のクーちゃんです』とご紹介されて、それから霧香様とともに目を輝かせて愛でられて……とりあえずまだご内密にお願いしますとは一言申し上げたが……」
「……まあ……ご苦労だったねカジャル」
私はカジャルの端正な顔をじっと見ながら抱きしめて口付けをした。
「大丈夫だよ、あの人は絶対に無理はなさらないから」
「ああ、涼鱗の母上なのだから安心していいだろうと薫様にも伝えたよ」
私は微笑んで腕の中のカジャルに頬を寄せて幸せな瞬間を噛み締めた。
「ああ、幸せだよカジャル」
「……おい……のぼせるぞ、そろそろ出て支度を」
「……そう……だね」
この後の用事さえなければこのまま……なのだが。
「その分……今夜は、逃さないからね」
カジャルは恥ずかしそうに目をそらしてから「ああ」と小さく呟いて湯に沈んだ。
いつまでたっても照れ屋でかわいい。
湯の中で気持ちよさそうにゆらゆら浮かぶカジャルを見ながら私は幸せを満喫していた。
「そうなのだろうか……」
蘭紗が難しい顔をして私を見たのは馬車の中、紗国の宿である迎賓館に帰宅途中だ。
すでに夕刻前になっている、何も事情を知らせないまま昨日からほったらかしにしてしまっているお互いの嫁のことを考えずにはいられない。
……が、それよりも、今回蘭紗がラルカで手にした賭け事の戦利品があまりにもすごすぎて、蘭紗は少々困惑気味なのだ。
一番大盤振る舞いをしたのは我が父ラハーム国王で、戦利品はなんと海岸だ。
もう一度言う……海岸だ。
割と大きめの砂浜で、港ではないため直接国民の生活などには全く影響はないし、あの辺りは普段は穏やかなのだが、冬になると荒れ狂い、誰も近寄れない地域なので住民もいない。
だが……だからといって、領地を賭け事に賭けていいのか父よ。
そういえば……もう10年も前に我が国の霊山とされていた山が、妖精王シャオリー様の持ち物になったのだが、それは今でもシャオリー様の領地となっている。
霊山だけあって妖力のたまり場だったその山は、長年のうちに荒れ果てていたが、シャオリー様の力で恵みが多くなり魔物もなりを潜め、更には山には緑も増えなんとも風光明媚な観光地になってしまっている。
結局収まるところに収まったというか……他国の王に我が領地の世話をやらせていると思えなくもない……
ああ、そういえば離宮が瀬国王の持ち物になった時は、冗談半分に一晩お泊りにいらして、その後権利を手放して戻してくださったと聞いたときは、瀬国王の粋な取り計らいに少し感動もしたが……
実際のところ、離宮といえば父の妾や姫、幼い王子が住まう場所なので、宿泊とは……と世界中の注目の的になったらしい。
実際には王同士で夜遅くまで2人きりの宴会で盛り上がっただけとかなんとか……
どこからどこまでが本当なのかもうわからない……
今回は、ルカリスト王がサスラス王子の件での負い目からか、傍から見てもわざとらしさ抜群の負け方で蘭紗に勝たせ、困惑を隠しきれない蘭紗にルカリスト名産のサンドラ岩塩今後10年分採掘権と、ルカリスト遺跡の神殿所有権を今後100年という目録をもらってしまっている。
その上に……これはもはや公然の秘密となってしまっているが……サスラス王子の件での賠償問題もあるので、ルカリスト王の心中はいかに……と思ってしまうが。
意外にもルカリスト王ガンザ様ははじめから終わりまで楽しそうに過ごして、蘭紗とも語り合い背を叩いて激励などもしていた。
おそらくだが……阿羅国の件でかなりの信頼をおいてくださったのではないかと思われる。
あの国は質実剛健が一番良いとされる国だ。
今回の蘭紗の活躍、その後の処し方、どれを取っても完璧なものだっただろう。
その影には、喜紗殿の巧みな根回しや数々の暗躍のおかげでもあるし、国一丸となって薫の救出に向かえたのも良かった。
まあ、とりあえず、蘭紗は王になって初めての国際会議の場で世界中から喝采を浴びたわけだ。
さすが私が主と決めた男だ。
「とにかくだ……ラハームの海岸は何をすればいいのかなど、ちょっと後で細かくだな」
「ああ、わかった。喜紗どのやサヌ羅殿もいるのだ、蘭紗がそこまで考えなくても大丈夫だよ」
「そうか……」
蘭紗はようやく背を椅子の背もたれに沈め、フウと溜息をつく。
「しかしこんなに遅くなるとは……」
「ああ、私達の嫁達は怒っていないだろうか?一応新婚旅行も兼ねているというのに」
「全くだな」
2人で顔を見合わせククと笑う。
ちょうど馬車は館に着き、侍従長自らの出迎えを受ける。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま、薫らは?」
「ご招待をお受けになって、お茶会に出かけられました」
「お茶会?」
私達の声が重なる。
「どこからの招待だ?」
「ラハーム王国の王妃様でございます」
「うちの母か……」
母のいつまでも若々しい顔を思い起こす。
近寄りがたいとさえ言われる美貌の母は、その容姿から冷たくみられがちだが、実はとても優しくて心配りのできる人だ。
「ん……まあ、うちなら悪くない訪問先だな……それにこういうときは王妃同士よくお茶会を開くものだしな」
「薫は負担ではないだろうか?」
蘭紗は眉を下げて心配げに侍女に話しかけている。
「いえ、薫様は招待状をお受けになってからそれはもう生き生きとお支度をされて、お土産を厳選されて、王妃様らしくしておいででしたよ」
「そうか」
ちょっと困ったような顔で少しうつむく蘭紗を見て、「あー」と思う。
これはなんというか……嫉妬に近い感じだな……
『我がいなくても薫は困らず独り立ちしていくのだな……』みたいなあれだ。
溺愛もここまで来ると笑えるねぇ……
「まあ、2人が楽しんでいるのなら、我々は湯を使ったり体を休めて晩餐に備えようではないか、今宵は紗国の要人の慰労会もあるのだから」
「そうだな」
私達はさっさと別れて部屋に向かう。
与えられた部屋は王族が使う仕様のものだ。
蘭紗たちの部屋の次に広い。
私は紗国では準王族扱いなのだ、元々ラハーム王国の王子というものある。
「白渚」という氏ももらっている、これは私が妾を取り子を産ませば継いで行くこともできるが、私にはもちろんそんな気はない。
カジャルとともに生きていけるその間も、カジャルが私を置いて逝ってしまった後も。
白渚家は私で終わりだ。
せっかく美しい氏をいただいたのだがな……
根白川家から「白」と私が生まれた宮殿の別名「美渚」から「渚」を取って。
私は独り言ちてベッドに座り込む。
世話するために侍女が2人いるので湯の準備をさせ、着替えも用意させる。
私は幼い頃から身の回りのことを使用人にすべて任せているため、風呂も自分ひとりでは入らない。
カジャルが来てからは2人で入ることにしているが。
当然のように侍女たちが私の着物を取り、泡立てた石鹸できれいに洗う。
体をきれいにして湯に浸かり、深呼吸をしながら天井を眺める。
この館は隅から隅まで美しい。
南国特有の強い日差しに似合うよう、白亜の石造りなのだが意匠はとても細やかで素晴らしい。
この湯殿も天井は硝子がはめられ、その上を覆い隠すように木が枝を張り、ちょうどいい木陰になっている。
ラハームは寒さが厳しい国なので、こういう開放的な造りの館はない。
暑さは嫌いだがこの国のこういうところはとても好ましいと思う。
◆
……チャポンと水滴の落ちる音で、私はしばらく湯に浸かって寝ていたことに気づいて慌てて出ようとする。
侍女達は体を洗った後は一人になりたいと引き払ったので、一人だ。
「涼鱗、帰ってたんだね」
「ん?カジャル」
振り向くと、そこに体を洗い終えたカジャルが引き締まった裸体を晒して立っていた。
水滴はカジャルから落ちていたのか。
カジャルの方も私がいることに気が付かなったようで、驚いている。
湯殿にも植物が配されているので、死角があるのだ。
「まさか、寝てたのか?湯の中で?」
「ああ、そうらしいねえ」
私は両手を広げてカジャルにおいでをした。
カジャルは素直に腕の中に入ってくる。
弾力のあるよく鍛えられた体は、筋肉だけを見ると私よりもあるようだが、どこか少年めいているその体はとてもしなやかで、そんなところもかわいい。
「どうした?」
私の顔をじっと見るカジャルに問いかけた。
「いや、すごく疲れてるみたいだ」
「ああ」
私は思わず笑ってしまう。
それはもう、思わず風呂で寝てしまうぐらいには疲れている。
最近は殆ど寝ていないほどだ。
「まあ、そうかもしれないけどねえ、今宵は慰労会もあるしもうひと踏ん張り?かな」
カジャルは腕を首に巻き付けてギュウと抱きしめてくる。
私もカジャルの背に回した手をゆっくりと上下させ擦りながら、心地よい感触に目をつむる。
「俺の前では力を抜けよ」
「うん、そうだね、カジャルはどうなの?疲れてないの?」
「ああ、俺は……まあ薫様が次々に色々と起こすから、振り回されてはいるが……別にあれはわざとではないしな」
その答えには声を上げて笑うしかない。
異世界の人だけあって薫には誰にも持っていない不思議な力を感じてはいたが、ここに来てそれが次々と花開いていってるような気がする。
「まあ、それぞれ皆が大変だったというわけだねえ」
「今日もな、お前の母親の前でクーちゃんが突然出現してしまってな」
「クーちゃん?」
「鳳凰だよ」
「ちょっとまって……そんな名前どこから出てきたの」
「薫様が付けた」
「……」
ポカンとする私にフフと笑いながら今日の出来事を教えてくれた。
「つまり……母と霧香の前で……鳳凰が突然でてきたのか?曲の途中で」
「ああ、そうだ」
カジャルはおかしそうにクククと笑って私を見つめる。
その笑顔に目を奪われる。
ああ、君は本当にきれいだね。
「で、その後は」
「慌てた薫様が『クーちゃん小さくなって!』って叫んだら小鳥になって薫様の肩に納まった」
「……で、母は?」
「まあ、おとなしく帰してくれるわけないよなあ」
「そうだな」
「この美しい鳥は……まさか鳳凰では?と問われて、薫様が『鳳凰のクーちゃんです』とご紹介されて、それから霧香様とともに目を輝かせて愛でられて……とりあえずまだご内密にお願いしますとは一言申し上げたが……」
「……まあ……ご苦労だったねカジャル」
私はカジャルの端正な顔をじっと見ながら抱きしめて口付けをした。
「大丈夫だよ、あの人は絶対に無理はなさらないから」
「ああ、涼鱗の母上なのだから安心していいだろうと薫様にも伝えたよ」
私は微笑んで腕の中のカジャルに頬を寄せて幸せな瞬間を噛み締めた。
「ああ、幸せだよカジャル」
「……おい……のぼせるぞ、そろそろ出て支度を」
「……そう……だね」
この後の用事さえなければこのまま……なのだが。
「その分……今夜は、逃さないからね」
カジャルは恥ずかしそうに目をそらしてから「ああ」と小さく呟いて湯に沈んだ。
いつまでたっても照れ屋でかわいい。
湯の中で気持ちよさそうにゆらゆら浮かぶカジャルを見ながら私は幸せを満喫していた。
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