狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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光り射す場所 波羽彦視点2

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「まざり……だと」

私は拳をぎゅっと握りしめ背中に汗を感じた。

『まざり』はたまに出現するのだがほとんどが赤子の時に死ぬ。
どうやってそれが出現するのかはわからない、突然生まれるのだ。

普通は他族同士で結婚しても生まれてくるのは、どちらかの種の特徴を強く引く子で、獣化すればその子がどの血を継いだのかよく分かるし、もちろん体に問題はない。

むしろ強い子が生まれたりする……カジャルのようにだ。

しかし『まざり』の場合、あらゆる種の特徴をバラバラに体に備え、もはや何族か判別はできず、更には内臓に問題がある場合が多く、うまくは生きられない。

私は病床にある時に、波成が言ったことを思い出す、『僕は病気なのでこれ以上育ちません』……病気とは……まざりのことだったわけか……

「僕はなんとか大人になりました、そして医師にもなれましたが……それは跳光ちょうこう家のおかげなのです、僕は生まれて間もなくへその緒がついた状態で、跳光家の玄関先に置かれていたそうです。そんな僕を育て学校にまで行かせてくれたのがあの家の方です、ずっと大事に育てていただいて、そして偶然ですが……跳光家の当主様につけていただいた『波成』という名の一文字が波羽彦様と同じ字だというのも何かの縁かと思います」
「そうか、あの跳光家で育ったのか……」

波成はしっかりと私の目を見てゆっくりと話した、その瞳をじっと見ると薄っすらとオレンジ色に光る中に灰色や水色も混ざり、なんとも複雑な瞳の色をしている。
見る角度で何色にも見えるような。

美しいなと思ってじっと見ていると、照れたように顔を紅潮させて俯いてしまった。

「……波成、阿羅国は……飛翔せねば入国できぬのだが……つまり飛翔することができる程度に魔力があるということなのだろうか?」
「はい、僕は獣化はできませんが、魔力はかなり高いのです、はじめ跳光の方々も僕を暗殺部隊に育てるつもりだったようですが……なんせ体がうまく育ちませんでしたので、暗殺部隊には不都合でした。強靭な体が必要ですから……で、僕は僑先生に憧れておりましたので、当主様に頼んで医師になるべく学校に行かせてもらったのです」
「そうか……」
「それに、僕は波羽彦様のお近くで……その……お支えしたいと思っております」
「私を支える?」
「はい……波羽彦様が手術した時からずっとおそばにおりまして、僕ははじめて、こんなに離れがたい人がいるのだと、そう思いました」
「というと……」

メイドが静かに入室してきて、美しい所作でお茶を出してくれて、テーブルには見た目の美しい菓子とフルーツを並べてくれた。
私は感謝を述べ、しばしの人払いを頼んだ。

「……で、離れがたいとは……そなたはそこまで私に忠義を思うようなことが何かあっただろうか?」
「それはもう!……ずっとお一人で……苦しまれてきて……。お父上のことも、予知という異能のことも含め、あなたは十分に苦しまれました。お世話していて気づいたのです、死を覚悟していらしたのだと言うことも、そしてそれを望んでいたことも……そんなにまでして守りたかったものは、薫様のことだけではありませんでしょう?あなたはもっと大きなものを見ていたのでは?」
「……」
「あなたはきっと、この世界から不安要素を取り除きたかったのではないでしょうか?自分の代でこんなことは終わりにしたかった、そうではありませんか?……それは薫様のためでもありましたでしょうが……」
「そなたはなぜ、私が薫様のことを守りたかったとわかるのだ?」
「あなたの目を見ていればわかります。波羽彦様の目は、薫様を見つめるときだけ、本当にとろけるようにお優しい目になるのです」
「……な」
「僕は、ずっと波羽彦様のその様子を見て、薫様を愛しておられるのだろうとすぐにわかりました……予知で幼い頃に薫様をご覧になっていたと、そうおっしゃっていたので、きっとその頃からなんだろうなあと」
「……それは……」

察しが良すぎるだろう……と思わず顔に熱が集まるのを感じた。

一瞬視線を外したがすぐに波成に戻すと、ふふっと意外にも妖艶な表情で笑っていた。
姿は子供のようなのに、溢れ出る色香が大人のそれだ……
思わず息を飲んで目を外せなくなる。

「僕は……体がうまく成長できなかっただけではありません、おそらく寿命も短いでしょう。その残り少ない時間を波羽彦様に捧げさせてください。僕はあなたのお優しいお心、そして何より一生懸命に周りを守ろうとするその生き方が好きです。どうかおそばに置いてください。『まざり』という卑しい身分ですが……」
「卑しいなどと……」

卑しいいうのは私のような者が言われる言葉だ……

「そなたは気にならぬのか?今回の世界会議で一応……私は許されたが……それでも悪名高き阿羅国の極悪王の波羽彦だ……これ以上の悪評はあるまいとまで言われた私だぞ」
「僕には……あなたはお優しい心を持つ一人の青年にしか見えないのです……王に向かって不敬ですが……」

思わず伸ばした左手を、波成は微笑みながら握り返してくれた。

「お近くに行っても?」

可愛らしい鈴を転がすような声が耳をくすぐる。
私は反射的に頷き、テーブルを回って静かに近寄る波成を引き寄せ、抱きしめた。
柔らかいふわふわの髪が頬を撫で、腕の中にある頼りない大きさのぬくもりが心を満たしてくれる。

誰からも愛されず、求められず、そして期待もされず。
そしてそれらを渇望しながらもあきらめ、私はずっと一人で生きてきた。
それを自覚すれば死にたくなるのがわかっていたから、わざとそこから目を逸し、懸命に悪ぶって……

「好きです、波羽彦様」

腕の中の可愛らしい声の主は、私を見上げてうっとりとつぶやいて、柔らかい頬を私の胸に擦り付ける。
たまらず力を込めて抱きしめ、そのぬくもりを離すまいとした。

「ならば……私とともに参ろう……私の国へ」
「はい」

まもなく夕刻という時間……部屋の中にも美しいオレンジの光が差し込んでくる。
その光は私達2人を優しく包み、いつまでも抱き合う2人を一つの影にした。

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