狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
110 / 317

出会い3

しおりを挟む
 僕の出迎えをするために立たされている子どもたちに近づき、一番前にいた子に話しかけてみた。

「君のお名前は?」

とても痩せているが8歳ぐらいに見える。
その子は突然僕に話しかけられ、一瞬ビクッとしてから目を逸した。
言葉は……通じてると思うけど、怖がってる?

「あの、怖がらないでね、僕はあなた達が必要なものが何なのか見に来たんだよ」
「王妃様っ! どうぞ応接間に……子どもたちに貴方様とお話できるような躾はしておりませんのでっ!」

院長が大げさに叫んだのでびっくりして振り向いた。
カジャルさんは溜息をついてその院長を制した。

「子供に話しかけてはいけないとは聞いていないぞ?この方のなさることに注文をつけようというのか?」
「……そ、そんな!……ただ、失礼があってはと……」
「失礼もなにもありませんよ、もし何かあっても子供のすることなんです、そんなこと気にしません。それに僕は今日、子供の話を聞きに来ました、あなたとお茶を飲みに来たのではありません。それとも、応接間に子供を集めるんですか?全員入れます?」
「……いえ……」

院長は頭を下げたままこちらを見ずに言葉を述べる。
これって普通なの?やりにくい……

「では、君達が普段いるお部屋に案内してもらっていいかな?」

子供たちはビクビクした様子でお互いを顔を見合って何も言わない。
そのうちこちらをじっと見ている一番後にいた子と目があった。

「大丈夫、怒ったりしないよ?ね?」

その子は顔を真赤にして恥ずかしそうに頷いて指を差した。
表玄関とは違うその方向だ。

「じゃあ、行こうか、中を見せてくれる?」

僕が子供らと歩き出すと、もう一度院長が抵抗しようとしたので、今度は近衛がガッチリとガードしてくれた。
院長は「あうあう」と言葉にならない声を発してなおも案内させまいとした。
その様子の奇妙さにカジャルさんも近衛も顔をしかめた。

ますますこれはおかしい……何なのこの態度。

「王妃様!」

今度は、後ろに控えていた管轄の役人だ、焦った声をかけてくる。

「あなたも一緒に来てください、現状を把握してください」

僕はその役人に厳しく言いつけた。
役人はごくりと唾を飲み込み、顔面蒼白となった。

この人は、何か知ってるのかな……

子供らに囲まれて暫く歩くと、石造りの館の横から粗末な木で作られたドアが見えてきた。
補修はされているがこれでは暴風雨に耐えられないだろう……

僕は何も言わず案内されるがまま笑顔を絶やさずに子どもたちを観察していた。

子供達は、僕が怒ったりしない様子に少し安心したのか、ほっとしたような表情でそのドアを開ける。
キーキーと油を差したほうが良さそうな音がしてドアが開くと、長く薄暗い廊下が見えた。
石造りの上に元々何の目的で建てられたのか、廊下には全く採光がないのだ。

ちょっとお化け屋敷風味なそれに一瞬たじろぐが、子供たちは皆さっさと入って部屋に向かおうとするので、意を決してその後を追う。

「明かりを用意しろ」

後ろでカジャルさんが院長に命じているのが聞こえる。

「十分が油がありませんので、こんな昼間に明かりをつけるような余裕は……」
「……後から補充してやるから、いますぐつけるんだ」

役人の焦った声も聞こえる。

僕は明かりも灯されていない暗い廊下をおっかなびっくり進んでいたが、やがて悪臭に気づき始めた。
これは……洗っていない人の臭い……

日本にも路上で寝ている人が時々いた。
そんな人が漂わせるあの臭いは強烈かつ不快で、すぐさまの場から移動したものだが……
ここではそんな態度はできない。
外の温かい日差しが嘘のような、湿ったひんやりした空気に……この臭い……
嫌な予感しかしない。

「あの……ここ」

子供らの誰かが目の前のドアに手をかけるのが薄っすらと見えた。
そのドアは……とても頑丈で、もしかして裏口めいた木のドアよりも頑丈かもしれない、というかそうだろう、だって、触って気がついたのだが、鉄製だった。

「……」

ギイイと嫌な音を立てながらその扉を子供が3人がかりで開ける。
見かねた近衛がそれを手伝うと、重いドアはもっと激しくギギギとなってついに開いた。

そしてその部屋の全貌が見えた。

思いがけず明るくて一瞬目がチカチカしたが、なんのことはない普通に窓があるから外の日差しが届いているだけだ。
それだけ廊下の暗さが異常だったことがわかる。

そして、臭いはますますキツくなるが、僕は必死に堪えた。
ここで僕が手を鼻にやるような仕草をしようものなら、子供がどう思うか……きっと傷つくだろう……

そして部屋の惨めさにめまいを感じた。
窓にかかるカーテンはビリビリに破け、もはやボロ布……
壊れかけの2段ベッドが壁沿いにズラッと並ぶが、そこに用意されているだろう布団がまず見えない……木がむき出しなのだ。
この子達は掛け布もなしに寝るというのか……
そしてこの臭い……
床がもので溢れているゴミ屋敷とかそういうのではない……床にはホコリしかない。
あふれる物さえないのだ、本当になにもない部屋。
各人の着替えなども見当たらない。
ならばこの臭いの正体は何なのか……

僕は部屋を見渡しその正体を探す。

だけど……その臭いの元凶は何もないと知って、そうかと思う……これは……普段お風呂もなしに過ごすこの子らの日常の臭いなんだ……
頭を殴られたような衝撃を受けた。

この子らは……こんな生活を強いられていたの?
どうして……

近衛とカジャルさんがさっと部屋に入り、窓に手をかける。
換気をしてくれるようだ。
大人3人がかりでようやく開いたその窓は、なんと釘で打たれていた。

逃走防止?なの?……

子供の一人が僕の手をそっと触ってきた。
僕はハッとして目線を下に向けてその子を見ると、僕の手をそっと触れてはいけないものに触るようにして嬉しそうな笑みを浮かべている。

「どうしたの?」

僕は座って目線を同じにして、話しかけてみた。
その子の瞳はキレイな水色で、よく見ると顔立ちもきれいだ。
女の子かもしれない。

「おうひさま……きれい」

かわいらしい声で一言そっと囁くように話したその子を、僕は何も言えないまま見つめるだけしかできない。

「ここは……あまり物が無いようだね……色々と困っているのでは?」
「?」

子どもたちは皆不思議そうな顔をして見つめてくる。
最初の警戒心は無くなったのでまだいいけど、うまく話ができていない感じがもどかしい。

「ここで着るものや、食べ物……それからお風呂……きちんとしてもらってる?一日どんな風に活動しているか教えてくれる?」

僕の手を握ったままの子は「えーっと」と言って話し出す。

「まず、朝起きたら畑いって、うまくできた子にはごほうびでパンもらえて……えとそれから、家畜の世話と……それから院の庭掃除と、おわったら夜で、寝る前に祈って寝ます」
「ちょっとまって、ご飯は……うまくできた子が朝にパンもらえるだけなの?」
「そうだよ」
「掃除もうまくできたらパンもらえる」
「でも……それでは、ずっともらえない子もいるんじゃ?……」

僕は胸がだんだん苦しくなってきて、必死に聞き出す。

「うん、もらえない子は弱って役に立たなくなるから、少しはもらえるよ」
「えっと時々スープももらえるよ!」
「そ……うなんだね……」
「でも昨日は、おうひさま来るからって皆パンもらえて体洗って寝たんだよ」

カジャルさんが僕の肩に手を置いた。
見上げると、悔しそうな顔で「すまない」と呟いた。

「俺は……数年前に一度ここに来ている。それなのに中は見なかった。外で院長の挨拶を受けてそれで戻ったんだ。視察なんてそんなものだと勝手に思っていて」
「カジャルさん……」
「とにかく、これは異常だ。近衛が院長を捕縛している。あと……まだなにか隠しているかもしれないから、俺と近衛が中を改めるから、薫様はどうか外へ」

カジャルさんは僕を悲し気に見つめた。

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...