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出会い2
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「この……歴代の伴侶候補の方々がなさっていたという、孤児院の慰問の件ですが」
「ああ、カジャルから話があったか?」
「はい、船の上でも少しだけ、なにしろ時間がありましたし……でも、カジャルさんも実際にはほんの数回程度のしかも数刻だけの滞在で、よくわからないとのことで」
「そうだな……カジャルが伴侶候補であったのは子供の頃からだが、その活動を始める時期にそれどころではない事態が色々あったしな」
それはおそらく、アオアイ留学と先代王が亡くなった時期のことだろう。
蘭紗様の苦しみを思って、僕の胸は締め付けられた。
「あの……この孤児院のことは、王妃の僕でも権限がありますか?」
「もちろんだ。予算の権利もある、そもそもお嫁様をお迎えできることのほうが少なかったので、伴侶の役割だっただけで、実際は王妃が主導でやるべきことだ、他国でもそうではないかな」
「そうですか……」
「薫様、何かお考えがあるのでは?」
横で書類仕事をしていた喜紗さんも顔をあげてこちらを伺っている。
「いえ、考え……というほどではありませんが、孤児院は割と城から近い位置にあるので……嵐が本格化する前に、一度顔を出して建物の様子などを確認したいなと思いまして」
「ほう!さすが薫様……なんという慈悲深さ……」
喜紗さんが大げさに喜んでくれるので恥ずかしくなる。
喜紗さんの後にいる高官までキラキラした目で見つめてくるのはやめてほしい……
「いえいえ……そんな慈悲深いとかそういうのではなくて……子どもたちが心配なんです、嵐が吹き荒れる中、親がいないというのは、きっととても心細いことでしょうから、せめて建物を確認して身の安全はきちんと保証してあげたいのです」
「……確かにそうだな……結構長年手入れされていないかもしれん」
「そうですね、カジャル様が伺ったのは昨年ですが、一緒に行った担当役人も建物のことなどは言及していなかったように思いますね。大丈夫だったのか、それとも興味がなかったのか……」
「ふむ……我が国の大事な子らなのだ、親がなくとも、きちんとしてやりたいと思う薫の心はとても尊いな……では、薫、予算のことは財務の者らに良く取り計らうよう伝えておくので、心ゆくまで施してやってくれ、頼むぞ」
「はい」
僕はさっそく勘定最高責任者の佐佐さんと予算のことを取り決め、もしかして大幅な修繕が必要かもしれないという予感を伝えておいた。
どうしてかわからないけど、とても気になるのだ。
こういうカンはなんだか無視できない。
佐佐さんはにこにこと優しい笑顔でうんうんと頷いて、「今まで孤児院に心を砕いてくださる方がいなかったので、私も嬉しく思います」と快くわりと大きめの予算をだしてくれた。
そして翌日になって、僕はカジャルさんと一緒に馬車に乗って孤児院に向かうことになった。
空の高いところではすでに強風が吹きはじめていて、雲の流れていく様がとても早い。
それを見ていると心がざわざわと不安になってくるようだ。
「まあ、そんな不安そうにしなくても、本格的な嵐が来るのはまだ先だぞ?」
「そうですか……でも飛翔も禁止されましたけど」
「それは……薫様だけであって、俺らはまだ普通に飛べるが……」
「……え」
僕はびっくりしてカジャルさんを見つめた。
カジャルさんは笑いをこらえた変顔でこちらを見つめている。
「きっとあれだろ?蘭紗様が過保護になってるだけだろ?俺らが飛ぶのはそんな高くないんだから、これぐらいの気象だとまだまだ平気だ」
「……ぇぇぇ」
今朝だって、蘭紗様は空の門から馬車止まりまで飛んでいこうとした僕を止めて、空間移動で一階まで送ってくださったのに……
ああ、過保護……ああ、過保護とは……
「僕、平気なのに……女の子でもないし……」
「ああそれなのだけど、薫様どうやら、女子だと思われているらしいぞ」
「へ?」
「アオアイでもそう思った民衆は多かったらしい、こういうのが出回っている」
そうやって一枚の折りたたんだ紙を懐から取り出して僕に渡してきた。
開いてみるとそれは、アオアイの屋台で売られていた『しどけない蘭紗様と涼鱗さん』の間にもたれかかった僕そっくりのあられもない姿……可愛らしい膨らみの胸は着物からもう少しで見えそうな……いや、見えてはいないのだが、もう少しで見えそうな……うむ、悩ましい……これか!これがチラリズムか!
って違う!
僕は胸なんか膨らんでないし!
絶句する僕の横でケラケラ笑い転げるカジャルさんを盛大に睨んでいると、近衛隊長の柵が孤児院に到着したことを告げに来た。
僕は溜息をつきながらそのチラリズムイラストを小さく畳んで胸にしまった。
「まあ、気にするな!女子と思われているのは気になるだろうが……多くの王族はそうやって絵姿にされるものだ」
「……気にならないわけないでしょっ!」
「薫様?」
近衛の柵は手を差し出したまま不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「具合でもお悪いのでしょうか?」
「いえ、そんなことはありません、ちょっと雑談していただけです、護衛ありがとうございます」
僕は柵に礼を言って遠慮なく手を借りて馬車を降りる。
今日の僕の衣装は簡素で、着物も袴も紺色だ。
余計な飾りも付けずに、子供たちが距離をおかないように気をつけたつもり……なんだけど。
「……」
降りてまず言葉を失った。
孤児院であるというその建物は教会めいた作りの古い建物で、石造りだ。
苔むした外観から長い年月ここにあるんだろうと推測できる。
元々はそこそこ立派なものだったのかもしれない……
そしてその建物の前に子供達が20人ほど並ばされている。
子供達は僕が来るということで、おそらくこれでも小綺麗にしたんだろう……とは思うけど。
色あせたサイズの合わない着物を、間に合わせで着せられた痩せた子供達は、目を輝かせることもなくうつろに立っている。
息を呑んで立ち尽くす僕の背中に手を置いて、耳元でカジャルさんが囁いた。
「これくらいで驚いてどうするんだ?まだこれでも屋根のある家で食事のある生活を保証されているだけでこの子たちは幸せなんだ」
僕はカジャルさんの方へ視線を動かした。
先程のふざけた様子は鳴りを潜め、真面目な顔で無表情だ。
「親がないというのはこういうことだ」
僕は体が震えるのを必死で抑えて、努めて明るく子らの前で僕らにひれ伏している孤児院長に声をかけた。
「……王妃の薫です、来るのが遅くなってしまいましたが……ここの事は僕が責任を負いますので、困ったことがあれば伝えてほしいのですが」
「……そんな……もったいないお言葉です……はぁぁぁ」
ますます恐縮して額を地面に擦り付ける院長に僕は困って、思わず手を差し伸べ立たせる。
「良いですか?僕はここにひれ伏してほしくて伺ったのではないのです、ここの現状の視察と必要なものが何なのか見極めに来ました。あなたがここの院長様ですよね?ならばきちんと話してください、よろしいですか?」
院長はようやく顔を上げて僕を見てくれた。
視線を微妙にずらして真っ直ぐには見てくれないけど……
とにかく問題だらけな予感しかしない場所で、嵐の前にどれだけのことができるのか……
僕は途方に暮れながらもう一度子供らを見渡した。
「ああ、カジャルから話があったか?」
「はい、船の上でも少しだけ、なにしろ時間がありましたし……でも、カジャルさんも実際にはほんの数回程度のしかも数刻だけの滞在で、よくわからないとのことで」
「そうだな……カジャルが伴侶候補であったのは子供の頃からだが、その活動を始める時期にそれどころではない事態が色々あったしな」
それはおそらく、アオアイ留学と先代王が亡くなった時期のことだろう。
蘭紗様の苦しみを思って、僕の胸は締め付けられた。
「あの……この孤児院のことは、王妃の僕でも権限がありますか?」
「もちろんだ。予算の権利もある、そもそもお嫁様をお迎えできることのほうが少なかったので、伴侶の役割だっただけで、実際は王妃が主導でやるべきことだ、他国でもそうではないかな」
「そうですか……」
「薫様、何かお考えがあるのでは?」
横で書類仕事をしていた喜紗さんも顔をあげてこちらを伺っている。
「いえ、考え……というほどではありませんが、孤児院は割と城から近い位置にあるので……嵐が本格化する前に、一度顔を出して建物の様子などを確認したいなと思いまして」
「ほう!さすが薫様……なんという慈悲深さ……」
喜紗さんが大げさに喜んでくれるので恥ずかしくなる。
喜紗さんの後にいる高官までキラキラした目で見つめてくるのはやめてほしい……
「いえいえ……そんな慈悲深いとかそういうのではなくて……子どもたちが心配なんです、嵐が吹き荒れる中、親がいないというのは、きっととても心細いことでしょうから、せめて建物を確認して身の安全はきちんと保証してあげたいのです」
「……確かにそうだな……結構長年手入れされていないかもしれん」
「そうですね、カジャル様が伺ったのは昨年ですが、一緒に行った担当役人も建物のことなどは言及していなかったように思いますね。大丈夫だったのか、それとも興味がなかったのか……」
「ふむ……我が国の大事な子らなのだ、親がなくとも、きちんとしてやりたいと思う薫の心はとても尊いな……では、薫、予算のことは財務の者らに良く取り計らうよう伝えておくので、心ゆくまで施してやってくれ、頼むぞ」
「はい」
僕はさっそく勘定最高責任者の佐佐さんと予算のことを取り決め、もしかして大幅な修繕が必要かもしれないという予感を伝えておいた。
どうしてかわからないけど、とても気になるのだ。
こういうカンはなんだか無視できない。
佐佐さんはにこにこと優しい笑顔でうんうんと頷いて、「今まで孤児院に心を砕いてくださる方がいなかったので、私も嬉しく思います」と快くわりと大きめの予算をだしてくれた。
そして翌日になって、僕はカジャルさんと一緒に馬車に乗って孤児院に向かうことになった。
空の高いところではすでに強風が吹きはじめていて、雲の流れていく様がとても早い。
それを見ていると心がざわざわと不安になってくるようだ。
「まあ、そんな不安そうにしなくても、本格的な嵐が来るのはまだ先だぞ?」
「そうですか……でも飛翔も禁止されましたけど」
「それは……薫様だけであって、俺らはまだ普通に飛べるが……」
「……え」
僕はびっくりしてカジャルさんを見つめた。
カジャルさんは笑いをこらえた変顔でこちらを見つめている。
「きっとあれだろ?蘭紗様が過保護になってるだけだろ?俺らが飛ぶのはそんな高くないんだから、これぐらいの気象だとまだまだ平気だ」
「……ぇぇぇ」
今朝だって、蘭紗様は空の門から馬車止まりまで飛んでいこうとした僕を止めて、空間移動で一階まで送ってくださったのに……
ああ、過保護……ああ、過保護とは……
「僕、平気なのに……女の子でもないし……」
「ああそれなのだけど、薫様どうやら、女子だと思われているらしいぞ」
「へ?」
「アオアイでもそう思った民衆は多かったらしい、こういうのが出回っている」
そうやって一枚の折りたたんだ紙を懐から取り出して僕に渡してきた。
開いてみるとそれは、アオアイの屋台で売られていた『しどけない蘭紗様と涼鱗さん』の間にもたれかかった僕そっくりのあられもない姿……可愛らしい膨らみの胸は着物からもう少しで見えそうな……いや、見えてはいないのだが、もう少しで見えそうな……うむ、悩ましい……これか!これがチラリズムか!
って違う!
僕は胸なんか膨らんでないし!
絶句する僕の横でケラケラ笑い転げるカジャルさんを盛大に睨んでいると、近衛隊長の柵が孤児院に到着したことを告げに来た。
僕は溜息をつきながらそのチラリズムイラストを小さく畳んで胸にしまった。
「まあ、気にするな!女子と思われているのは気になるだろうが……多くの王族はそうやって絵姿にされるものだ」
「……気にならないわけないでしょっ!」
「薫様?」
近衛の柵は手を差し出したまま不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「具合でもお悪いのでしょうか?」
「いえ、そんなことはありません、ちょっと雑談していただけです、護衛ありがとうございます」
僕は柵に礼を言って遠慮なく手を借りて馬車を降りる。
今日の僕の衣装は簡素で、着物も袴も紺色だ。
余計な飾りも付けずに、子供たちが距離をおかないように気をつけたつもり……なんだけど。
「……」
降りてまず言葉を失った。
孤児院であるというその建物は教会めいた作りの古い建物で、石造りだ。
苔むした外観から長い年月ここにあるんだろうと推測できる。
元々はそこそこ立派なものだったのかもしれない……
そしてその建物の前に子供達が20人ほど並ばされている。
子供達は僕が来るということで、おそらくこれでも小綺麗にしたんだろう……とは思うけど。
色あせたサイズの合わない着物を、間に合わせで着せられた痩せた子供達は、目を輝かせることもなくうつろに立っている。
息を呑んで立ち尽くす僕の背中に手を置いて、耳元でカジャルさんが囁いた。
「これくらいで驚いてどうするんだ?まだこれでも屋根のある家で食事のある生活を保証されているだけでこの子たちは幸せなんだ」
僕はカジャルさんの方へ視線を動かした。
先程のふざけた様子は鳴りを潜め、真面目な顔で無表情だ。
「親がないというのはこういうことだ」
僕は体が震えるのを必死で抑えて、努めて明るく子らの前で僕らにひれ伏している孤児院長に声をかけた。
「……王妃の薫です、来るのが遅くなってしまいましたが……ここの事は僕が責任を負いますので、困ったことがあれば伝えてほしいのですが」
「……そんな……もったいないお言葉です……はぁぁぁ」
ますます恐縮して額を地面に擦り付ける院長に僕は困って、思わず手を差し伸べ立たせる。
「良いですか?僕はここにひれ伏してほしくて伺ったのではないのです、ここの現状の視察と必要なものが何なのか見極めに来ました。あなたがここの院長様ですよね?ならばきちんと話してください、よろしいですか?」
院長はようやく顔を上げて僕を見てくれた。
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