狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
109 / 317

出会い2

しおりを挟む
「この……歴代の伴侶候補の方々がなさっていたという、孤児院の慰問の件ですが」
「ああ、カジャルから話があったか?」
「はい、船の上でも少しだけ、なにしろ時間がありましたし……でも、カジャルさんも実際にはほんの数回程度のしかも数刻だけの滞在で、よくわからないとのことで」
「そうだな……カジャルが伴侶候補であったのは子供の頃からだが、その活動を始める時期にそれどころではない事態が色々あったしな」

それはおそらく、アオアイ留学と先代王が亡くなった時期のことだろう。
蘭紗様の苦しみを思って、僕の胸は締め付けられた。

「あの……この孤児院のことは、王妃の僕でも権限がありますか?」
「もちろんだ。予算の権利もある、そもそもお嫁様をお迎えできることのほうが少なかったので、伴侶の役割だっただけで、実際は王妃が主導でやるべきことだ、他国でもそうではないかな」
「そうですか……」
「薫様、何かお考えがあるのでは?」

横で書類仕事をしていた喜紗さんも顔をあげてこちらを伺っている。

「いえ、考え……というほどではありませんが、孤児院は割と城から近い位置にあるので……嵐が本格化する前に、一度顔を出して建物の様子などを確認したいなと思いまして」
「ほう!さすが薫様……なんという慈悲深さ……」

喜紗さんが大げさに喜んでくれるので恥ずかしくなる。
喜紗さんの後にいる高官までキラキラした目で見つめてくるのはやめてほしい……

「いえいえ……そんな慈悲深いとかそういうのではなくて……子どもたちが心配なんです、嵐が吹き荒れる中、親がいないというのは、きっととても心細いことでしょうから、せめて建物を確認して身の安全はきちんと保証してあげたいのです」
「……確かにそうだな……結構長年手入れされていないかもしれん」
「そうですね、カジャル様が伺ったのは昨年ですが、一緒に行った担当役人も建物のことなどは言及していなかったように思いますね。大丈夫だったのか、それとも興味がなかったのか……」
「ふむ……我が国の大事な子らなのだ、親がなくとも、きちんとしてやりたいと思う薫の心はとても尊いな……では、薫、予算のことは財務の者らに良く取り計らうよう伝えておくので、心ゆくまで施してやってくれ、頼むぞ」
「はい」

僕はさっそく勘定最高責任者の佐佐さんと予算のことを取り決め、もしかして大幅な修繕が必要かもしれないという予感を伝えておいた。

どうしてかわからないけど、とても気になるのだ。

こういうカンはなんだか無視できない。
佐佐さんはにこにこと優しい笑顔でうんうんと頷いて、「今まで孤児院に心を砕いてくださる方がいなかったので、私も嬉しく思います」と快くわりと大きめの予算をだしてくれた。

そして翌日になって、僕はカジャルさんと一緒に馬車に乗って孤児院に向かうことになった。
空の高いところではすでに強風が吹きはじめていて、雲の流れていく様がとても早い。
それを見ていると心がざわざわと不安になってくるようだ。

「まあ、そんな不安そうにしなくても、本格的な嵐が来るのはまだ先だぞ?」
「そうですか……でも飛翔も禁止されましたけど」
「それは……薫様だけであって、俺らはまだ普通に飛べるが……」
「……え」

僕はびっくりしてカジャルさんを見つめた。
カジャルさんは笑いをこらえた変顔でこちらを見つめている。

「きっとあれだろ?蘭紗様が過保護になってるだけだろ?俺らが飛ぶのはそんな高くないんだから、これぐらいの気象だとまだまだ平気だ」
「……ぇぇぇ」

今朝だって、蘭紗様は空の門から馬車止まりまで飛んでいこうとした僕を止めて、空間移動で一階まで送ってくださったのに……
ああ、過保護……ああ、過保護とは……

「僕、平気なのに……女の子でもないし……」
「ああそれなのだけど、薫様どうやら、女子だと思われているらしいぞ」
「へ?」
「アオアイでもそう思った民衆は多かったらしい、こういうのが出回っている」

そうやって一枚の折りたたんだ紙を懐から取り出して僕に渡してきた。

開いてみるとそれは、アオアイの屋台で売られていた『しどけない蘭紗様と涼鱗さん』の間にもたれかかった僕そっくりのあられもない姿……可愛らしい膨らみの胸は着物からもう少しで見えそうな……いや、見えてはいないのだが、もう少しで見えそうな……うむ、悩ましい……これか!これがチラリズムか!
って違う!
僕は胸なんか膨らんでないし!

絶句する僕の横でケラケラ笑い転げるカジャルさんを盛大に睨んでいると、近衛隊長の柵が孤児院に到着したことを告げに来た。

僕は溜息をつきながらそのチラリズムイラストを小さく畳んで胸にしまった。

「まあ、気にするな!女子と思われているのは気になるだろうが……多くの王族はそうやって絵姿にされるものだ」
「……気にならないわけないでしょっ!」
「薫様?」

近衛の柵は手を差し出したまま不思議そうに顔を覗き込んでくる。

「具合でもお悪いのでしょうか?」
「いえ、そんなことはありません、ちょっと雑談していただけです、護衛ありがとうございます」

僕は柵に礼を言って遠慮なく手を借りて馬車を降りる。
今日の僕の衣装は簡素で、着物も袴も紺色だ。
余計な飾りも付けずに、子供たちが距離をおかないように気をつけたつもり……なんだけど。

「……」

降りてまず言葉を失った。

孤児院であるというその建物は教会めいた作りの古い建物で、石造りだ。
苔むした外観から長い年月ここにあるんだろうと推測できる。
元々はそこそこ立派なものだったのかもしれない……

そしてその建物の前に子供達が20人ほど並ばされている。
子供達は僕が来るということで、おそらくこれでも小綺麗にしたんだろう……とは思うけど。
色あせたサイズの合わない着物を、間に合わせで着せられた痩せた子供達は、目を輝かせることもなくうつろに立っている。

息を呑んで立ち尽くす僕の背中に手を置いて、耳元でカジャルさんが囁いた。

「これくらいで驚いてどうするんだ?まだこれでも屋根のある家で食事のある生活を保証されているだけでこの子たちは幸せなんだ」

僕はカジャルさんの方へ視線を動かした。
先程のふざけた様子は鳴りを潜め、真面目な顔で無表情だ。

「親がないというのはこういうことだ」

僕は体が震えるのを必死で抑えて、努めて明るく子らの前で僕らにひれ伏している孤児院長に声をかけた。

「……王妃の薫です、来るのが遅くなってしまいましたが……ここの事は僕が責任を負いますので、困ったことがあれば伝えてほしいのですが」
「……そんな……もったいないお言葉です……はぁぁぁ」

ますます恐縮して額を地面に擦り付ける院長に僕は困って、思わず手を差し伸べ立たせる。

「良いですか?僕はここにひれ伏してほしくて伺ったのではないのです、ここの現状の視察と必要なものが何なのか見極めに来ました。あなたがここの院長様ですよね?ならばきちんと話してください、よろしいですか?」

院長はようやく顔を上げて僕を見てくれた。
視線を微妙にずらして真っ直ぐには見てくれないけど……

とにかく問題だらけな予感しかしない場所で、嵐の前にどれだけのことができるのか……
僕は途方に暮れながらもう一度子供らを見渡した。

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...