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出会い1

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 到着した時はあれほど混雑していたアオアイ本島の港だったが、大型客船が案外スムーズに流れるように出港していく。
予め決められた順番を守っているかららしい。

僕たちも紗国の美しい豪華客船に乗り、船旅に備えていた。
間もなく出港となるらしい。

潮風が気持ちよく、顔に当たる。
色々あったけど、アオアイはなんだか楽しかった。
やっぱりこちらに来て初めての旅だからね。



朝早くから、港では蘭紗様と涼鱗さんを一目見たい女性達が集まり、すごい騒ぎになっていたそうだ。
涼鱗さんが紗国の臣下になったことが初めて明らかにされ、皆興味津々で見学に来ているのだ。
なにしろ、学生時代から美において双璧であった2人だ。
世界中に絵姿が発売されるほどの人気だということも、僕はもう知っている。

なぜなら……カジャルさんと一緒に繰り出した屋台で、2人のしどけない絵姿を見つけたからだ。

もちろん、購入しましたけど何か?
そして荷物の奥底に隠してあるんです!
ええ、絶対に蘭紗様に見つからないようにね!

乗船の際にはラハーム王妃と霧香様が馬車でいらして涼鱗さんと別れを惜しむ場面があったのだけど、それもなかなかの見どころで面白かったんだ。

黄色い声が飛び交う中、霧香様は涼鱗さんに飛びついたり頬にキスしたりと「お兄様大好き攻撃」を仕掛け、見守るアオアイ市民の絶叫を生み……絶世の美女と言われるラハーム王妃の微笑みに港の男たちは手を止めボーと見つめ仕事が滞るなど、色々と支障をきたしていた。

ああ、そういえば僕は、今朝早くに迎賓館に寄ってくれた波羽彦さんと、お話ができた。

阿羅国では僕のことを一生懸命に守ってくれた人なんだから……今後の阿羅国の復興を願っていることを伝えられてよかったと思っている。

そして、僑先生の一番弟子が阿羅国に渡り、波羽彦さんの体調面のサポートや阿羅国の解毒に関しての一切を取り仕切ることになったそうで、その挨拶も受けた。

名を波成と言うのだと、初めて知った。

これまで何度も見たことのある小さなその医師は、まるで子供のように見える。
だけどそのまなざしには知性が漂っていて只者じゃない感があって……なるほど……これはおそらくすっごく優秀なのでしょう!と思える人。

それに、とってもかわいらしい顔立ちの美しい人で、僕の心に印象深く残った。

波羽彦さんもどこか憑き物が落ちたようにすっきりとした明るい表情だったし……僕はなんだかほっと一安心。
彼に幸せが訪れることを陰ながら祈ろうと思う。

今朝から僕の肩にはクーちゃんが乗っているのだが、小鳥の姿なので検閲官もそれほど問題にせず、「魔力だけ測らせてください」との申し出があった。
そして……クーちゃんにキックされながら計測していた検閲官が、腰を抜かさんばかりに驚く数値が出たことは……まあ内密にしてもらうということで蘭紗様が直々にお話されていた。

やっぱりくーちゃんはすごい魔力を持っているみたい。

タラップを上がる途中、更に大きくなる黄色い声を受けて、僕は振り向いて「一応僕も……」という心境で手を小さく振ってみた。
すると、叫び声のようなもの聞こえた……
うん、やっぱり僕の手振りなんていらないよね……エヘヘ

その様子を見てなんとも言えない顔をした蘭紗様とともに、王の間とされている広い船室に入ると、ドッと疲れて思わずベッドにポスンと横たわった……

「ああああ!すっごい気疲れしました!」

蘭紗様はククっと笑って「そうだな」と言って横に座って髪の毛を梳いてくる。

「薫宛てにお土産もたくさんもらったぞ、いつの間にか社交をしていたようだな……今回は王妃としての役目は二の次で、ゆっくりしてほしかったのだが……皆がそなたに会いたがったようだ」
「そうなんですよ、海に泳ぎに行ったら瀬国の王妃様と王女様もいらっしゃったり……ああ、そういえば小さな王子さまがいましたね、彼とはほとんど話してないかも」
「うむ、獅子族は女性が強いからな、男性は総じて無口だ」
「でも、カジャルさんの叔父様はカジャルさんとずっと筋肉談義していましたけど!」
「ああ、軍師マドゥ殿は……そうだな……」

蘭紗様は声を上げて笑った。

急に眠気に襲われた僕は、少しあくびをしてしまった。

「眠いのか?寝てもいいぞ、もう全ての仕事は終わったのだ、帰りはゆっくりできる」
「んー……蘭紗様だって、お疲れでは?だってずっとお忙しくって大変だったでしょ?」
「そうだな……少し2人で寝るのも良いか」

控えていた侍女に2人で少し休むことを伝え、人払いをした。

僕たちは自分で袴を脱いで寝間着に着替え、飛び込むようにしてベッドに入った。

「ふふふ! なんだかいたずらしてるみたいな気分!午前中からベッドにはいるなんて」
「そうだな、しかしこれは新婚旅行だぞ?」
「そうでした!」

僕たちは微笑み合ってそして抱きしめあって、蘭紗様の胸の中にぴったり納まった。
ああ、本当にいいにおい……このにおいに包まれて幸せ……

僕は優しく頭を撫でられながらスヤスヤと寝入った。
たぶん、蘭紗様も。

こんな穏やかな日々が僕たちにはきっと大事なんだよね。
僕は蘭紗様の温かい腕の中で幸せを感じながら幸せな夢を見た。

……そうやってのんびりとした時間の流れる中、僕たちの船旅は帰路を順調に進み、何事もなく予定より早く帰国できた。





 その日は少し曇っていて、夏も終わりなのだなという感覚がなんとなく肌で感じられる。
紗国の秋はとにかく嵐が多いのだという。
その嵐で甚大な被害が出ることもあるので油断ならない……でもそれによってもたらされる恩恵だってあるのだと喜紗様から習った。
嵐の風と雨が、土地の栄養を森から運んでくるのだそうだ。

紗国は、お嫁様がもたらした物があるので商品企画がとてもうまい商業国なのだという。
そして、農業があまり発達していないらしい。
その理由の一つに土地があまり肥沃でないことがあるようだ。
だからといって飢えるようなことはない、発達していないというのは、輸出したりするほどの収穫量がないというだけであって、実際には紗国にはありとあらゆるものが栽培されたり品種改良されたりして、とても豊かに実っている。
その豊かさの秘密は『秋の嵐』がもらたす森の栄養だ。

そして、その実りは夏の終わりに一斉に刈り取らねばならない。
その理由が先にあげた『秋の嵐』だ。
森の栄養を運んでくる代わりに、大地を吹き上げる強風と叩きつける強雨で収穫の間に合わなかった農作物は全滅してしまうのだ。

僕たちの結婚式が行われた紗国祭は、その夏のおわりの収穫の無事を祝うものでもあるのだ。

「今年の収穫量はとにかく申し分ありません」
「そうか、それはよかった」
「しかし、秋の嵐の出足が早くなるかもと、天気を読む者が確率を出しております」
「……ふむ、被害が出そうな地域への警告と避難は早めにするのだぞ、だが我が直々に言うまでもなくそなたらはわかっておるだろうから、安心して任せる」
「はっ」

農産を担う官僚らが頭を下げて執務室から出ていったタイミングで僕は蘭紗様に問いかけた。

「あの……蘭紗様、少し良いですか?」
「ああ、いいぞ」

蘭紗様は書類から顔を上げ優しい眼差しを向けてくれた。


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