狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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宿命2 蘭紗視点

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「今からでも……精一杯努力し、まざりの地位向上と、そして……世界中でそのようなことのないように働きかけをしてまいります」
「そうですなあ……しかし……それは容易ではないだろう。人の世は何かと上下を決めたがるものだ。我らはその頂点におるゆえ、気づかぬことも多かろう。下々のものは自分よりも更に下があることで心の安寧を持つものもおるということだ。その下層を救うというのは容易いことではないだろう。我らは龍族ゆえ、そういう争いもなにもない。王族というのも一番体が大きく魔力も強いというだけのことだ。強いから周りを制しておられるだけのこと。我らは政治をしているのではなく、従わせているのだよ」

ふぉっふぉっふぉと笑って我の背を叩いた。

「何もかも嫌になったら、うちに来るがいいわい、歓迎しよう」

冗談を言う前王弟殿下の顔を見つめ、我も思わず笑った。
不思議なお方だ。
この方にお会いできて本当に良かった。
アイデンのおかげ……なのか……?

「私は……蛇族でございますが……正直言って龍族が苦手でございました。しかし、前王弟殿下、あなたにお会いできたことですべてが覆りました。心からの尊敬を抱いております。私達が知らないことをこれからもご教授いただけたらと、そう思うのですが……」
「おやおや……なるほどのう」

向こう隣の涼鱗に話しかけられ、前王弟殿下はふむふむと頷いた。

「そなたの魂もまた不思議だのう。ラハームの王子として生まれながら紗国に渡るとはまた数奇だが、こちらでも重用されるにふさわしい人物であろうな……お嫁様の研究の第一人者でもあるしのう」
「魂が不思議?ですか?」

涼鱗は一瞬ポカンとしたが、すぐにいつもの微笑に戻った。

「重用されるにふさわしいなどと、何よりの言葉であります」
「蛇族と我らはその昔、一緒に暮らしておったのは知っておろうか?」
「……」

涼鱗は目を見開きじっと前王弟殿下を見つめる。

「それは……なんとなく龍族と相まみえた時に感じるもので、わかってはいましたが、きちんとそのように伝聞されているわけではございませんので……やはりそうなのですか?」
「うむ……私の幼い頃にはもうすでに蛇族とは一緒にはおらなんだが……祖父に聞いたところ、なんでも……我らは昔蛇であったのだが、ある時数ある卵から一匹の龍が生まれ、その龍の力が絶大であったのでそれを王としたらしい。その血筋が我らなのだが」
「……蛇から龍が生まれ?たと?」
「うむ、我らは共に同じ卵生だ。それの名残であろうな。今ではきちんと別種となっておろうが、元は同じだったのは間違いない」

涼鱗は小刻みに頷いてそして笑顔になった。

「はっきりとそれが聞けてよかった……なんだか長年の憂いが晴れた気分です」
「そうかの?それならば良い……そなたは蛇は龍より劣っているとそう思っておるのだろうか?」
「いえ……まあ、そうでありましょう。龍はこの世の頂点でしょうから」
「そうでもないと思うがな……龍は周りに無関心だ。それゆえ恐れられているだけでなぁ、何も偉いわけではないと思うがの……まあ、そなたは長生きするであろう。魂の形が龍に近いゆえな」
「近い?」
「うむ……そなたは蛇族の王族だけあって、もともと生まれ持った力が非常に強いのだろうが、それ以上のものを感じる。きっとそなたは今までにない蛇族になりうるだろう」
「……それは……ありがとうございます」

涼鱗は胸に手を当て、隣のカジャルと微笑みあった。

キャハハと可愛らしい笑い声が響いて振り向くと、留紗と翠紗が同じまんじゅうを手に持って笑い合いながら食べていた。
こう見ると留紗はかなり背が伸びてきたように感じる、翠が小さすぎるのかもしれないが……まだこの世に生まれて2年と半年であるならば、仕方のないことだ。
きっとこれから大きくなってくれるであろう。

「こら!お行儀悪いんだから2人とも!」
「はい、おうひさま」
「薫様これ、翠の顔より大きいんですよ!見てください!」
「本当だ……」

薫もまんじゅうを手に取って見つめている。
その様を見て皆が笑顔になる。

「薫様、これは紗国の伝統的な祭りなど、慶事で配られるおまんじゅうですわ」

留紗の母が控えめに説明している。

「そうなんですか?大きい……中身は何が?」
「あんこですよ、だいたい皆様お持ち帰りになるのですけど、もちろんお召し上がりになられても」
「そうなんですか……前の食事会には無かったですよね?」
「ええ、今回はヴァヴェル王国の前王弟殿下がいらっしゃるので、それで出されたのではないかと……恐れながら蘭紗様と薫様の結婚式の際にも配られておりましたよ?」
「ええ?そうだったの?」

薫がなんとも言えない顔をしてまんじゅうを眺めるので、我は吹き出して背をさすった。

「そんなにまんじゅうが好きだったか?」
「大好きなんですけど……しかもあんこだなんて!どうして結婚式の時の僕たちのは無かったんです?」
「いや、あったと思うが……宴で出されていたぞ?」
「薫さあ……覚えてないの?ベロベロに酔っ払っちゃって、まんじゅうどころじゃなかったじゃないの」
「あ……」

真っ赤になった薫がおかしくて皆で声を出して笑いあった。
翠も楽しそうに笑顔でまんじゅうを小さな口で食べている。

「それにしても、可愛らしいですなあ……翠紗様は」
「ええ、本当に……そして不思議ですけど、薫様とお顔が似て見えるんですけど」
「確かに似ておりますな」

そう思ってみると、色彩こそ違うが、小さな顔の中にくるっとした丸い目と細い鼻、そして形の良い唇……どれを見ても似ている……かもしれない。

ふぉっふぉっふぉ

独特の笑い声が響き渡り前王弟殿下もまんじゅうを手にした。

「さもありなん……お二人は共に蘭紗殿のためにこの世界に来られたのだ。本当の親子のような縁があるのは違いあるまい」
「まことそうでありました……薫様があまりに自然にここに馴染んでおられるので、忘れるところでございましたが……そうでありますな」

翠は嬉しそうに薫を見上げている。
薫も嬉しそうに翠の頬についたまんじゅうのかけらを取ってあげている。

「同じ母としての立場なのです。なにかございましたら、なんなりとお申し付けを。薫様」

王族の奥方たちがあちこちで数十名立ち上がり、揃って薫に礼をする。
薫は慌てふためいて立ち上がり礼を返していた。

薫はしっかりと紗国に根付いてくれた。
本当に良かった。

翠もなんなく溶け込み、初めからこうしていたかのように皆に可愛がられている。
我の心の中は温かいもので満たされていく。
今日は姉の体の調子が悪く欠席であることが気になるが、いずれ翠を連れ森の神殿へ行こう。
きっと会いたがっているに違いない。

森の民に守られた神殿の、清廉な空気を思い出す。
父の瑞兆として現れた波成のことも心配だが……まだ探せばもしかして祖父の瑞兆として現れたまざりがいるかもしれない。

その懸念を払拭するためにもすぐにも号令を出し、探すこととしよう。
我は新たなる思いを胸に、王族らの穏やかな笑みを見回した。

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