狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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冬の空

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 城の裏手にある塔は、僕たちが住む60階からは見えない。
裏手といってもその間には森があるし、距離もかなりあるのだ。
そこには罪人が繋がれていると聞くが、僕は詳しくは知らない。
普通に暮らしていればそこに関係するようなことは起こらないからね。

でも僕は王妃なので、国のことに全く無関心ではいられない。
今日はこの塔に、終身刑となった元孤児院長が移動してくるらしい。
国のお金を着服していたことと、翠紗への虐待の罪で終身刑となったと説明された。

じゃあ今までどこに?と聞くと、なんと実家預かりで謹慎していたという。

実家預かり……罪人なのに……と思うけど、実家が貴族なので敷地に牢があり、そこに一族の名にかけてきちんと逃げないよう繋いでおけるのだそうだ。
家族から罪人が出ることは不名誉だけど、それを逃したりするほうがよほど不名誉なのだという考えらしい。

そしていま、世界では常識が塗り替わろうとしている。
現在でも奴隷を持つ国などはほぼいないが(とはいえ、厳罰に処された者が肉体労働に駆り出されることなどはあるという)更に、まざりの子への見方が明らかに変化しているのだ。

ここ紗国ではまざりの子が、王の即位に際しての瑞兆だとわかった。
だけど、それ以外にもまざりの子は時折出現する。
彼らはその訳のわからなさから虐げられているのだと言う、今まではそういう子は恥なのだという認識が強かったらしい。

だけどこれからは変わっていってほしい。

他の国にもいるのか?と聞くと、阿羅国に嫁いで側室となった僑先生の義弟「波成」や僕たちの息子「翠紗」とは異なる特徴のまざりの子ならば、各国にまれに生まれているという。

それはどのような?と聞くと、色んな種族の特徴がばらばらに出た子で、そういう子を産んだ母ごと家を追い出されたりもしていたらしい。
どの国でもまざりに対しての偏見はかなりのものなのだ。

いろんな動物の特徴をバラバラに……キマイラという言葉を思い出す。
異形の怪物で、確かギリシャ神話だったような気がする。

紗国に現れた翠と波成様は同じ特徴を体に備えていた。
だからこそ瑞兆の麒麟だとわかったのだけど。
他国のまざりは様子が違うという。
顔が完全に獣であって人の形が取れないまま年を重ねる子もいたらしい。
だけど、その獣の種族はわからないのだ。

「しかも、誰から生まれたかがはっきりわかっているようで」
「母親がわかっているのか?」
「そうですね。母親もろとも婚家から追い出されるようなので」

僕は喜紗さんのその報告に顔をしかめた。
蘭紗様はそっと僕を気遣うように手を握ってくれた。

「世界中でまざりの子がどれぐらいいるのかは……統計がございません。しかし、今は各国王族の主導でそれらの調査が進められております。天からの授かりものとする紗国の発表がいかに効いたかわかりますな」

喜紗さんは報告書や各国からの書簡が山と積まれたデスクで難しい顔をしていた。

「サヌ羅殿にも聞いたのだが、今まで国際的な会議の場で『まざり』の文言は聞いたことが無かったらしいのですが、先日行われた瀬国での会議では色々と質問もされたようですな」
「まあ、総合すると、親がはっきりしていることからも、先祖返りが難しい形で出た場合と、外見に特徴の出る病気を生まれながら持っていた場合が混ざっているようですね」

僑先生が資料を読み返しながら発言した。
今日はいつものもじゃもじゃヘアを一つにまとめていて、いくらかスッキリして見える。

「つまり、紗国で現れているまざりとは違うということか?」
「ん……波成と翠紗様だけが特別だったと言えますね、今の所発見されていませんが、紗国でも先祖返りや先天性の疾患で見た目が酷い赤子は時折生まるでしょう。確率の問題ですからね。今まではそれらすべてをまざりと呼んでいたのです、区別はついていませんでしたしね」
「親が……はっきりしているかどうかで判断できそうですね。人から生まれたのが確実ならばそれは霊獣ではないでしょう」

喜紗さんは分厚い本を片手にメガネをかけて顔をあげた。
最近メガネをかけるようになったのだ、老眼ってことなのかな……

「他の国には王の即位時に瑞兆は現れないということも可能性がございますな」
「しかし、紗国にだけなぜ?となります」
「でもそれは、紗国は特別だからでしょう。そもそも王にはお嫁様伝説があってそれが実現しているほどなのです」
「まあ、他とは確かに違うな」

皆が顔を合わせて溜息をついた。
話し合って結論がでるようなものでもない。

「でも……確かなことは。霊獣ではない他のまざりの子は、疾患が隠されている可能性があるのに、冷遇されて幼いうちに命を落としているということですよね?その母親共々……路頭に迷っているというか……」

僕は発言していて、徐々に声が小さくなってしまった。
その母と子があまりにも哀れで。

「そうだな……」
「でしたら、そこだけでも改善できたら随分心が軽くなりますよね」
「国として、そういう母子を救う機関を作るよう紗国でも考えましょう。このことに関しては紗国主導で行うのが良いでしょうな、世界が注目していますから」
「そうだな、それがいいだろう」

うまく行けばいいなあと思いつつ、昼からは研究所での仕事のために涼鱗さん、カジャルさんと共に3人で空の門から飛び立った。

研究所では7人に増えた研究員がせっせと分析をしていてくれて、行くたびに何か発見を聞かされる。

「薫様、桜様のことで興味深いことがわかりました」
「どんなことです?」
「以前、桜様は薫様と同じ日本からいらしたのでは?という推測をされておりましたが、やはり当たっていたようです」
「そうなの?まあそうだよね、携帯がガラケーだったし」
「がらけえ?」
「……いやなんでも無いよ、その報告続けてくれる?」
「はい、桜様の職業についてですが、日本の老舗和菓子屋『さとや』に務める和菓子職人だったようです」
「和菓子職人!?さとやの?!」

なるほどと思った。
桜様が残した物はお菓子を中心に食べ物が多く、それは今でも根付いていて僕も楽しめている。
うどんやそばも打てたようだし、洋菓子のレシピも色々と知ってたところを見ると、パティシエの学校なんかを出た人で、料理が本当に好きだったんだな……と想像した。

それに「さとや」といえば、うちでも色々お使い物などに使っていたところで、良く母が家用にも羊羹などを買ってきていた老舗だ。

「そうなの、なるほどねえ……」
「和菓子職人って、お菓子全般作る人?」
「いえ、おまんじゅうとか、あと、練りきりとか、羊羹とかですかね。日本の独特のお菓子を和菓子というんです」
「へえ」

涼鱗さんはさっそく氷をガンガンいれた紅茶を飲んでいる。

「なら、桜さんが残した物が主に食べ物に関してってのもわかるね」

僕は深く頷いた。

「桜様の残した調理法をきちんと受け継いでいるお店が市井にあります。名前をさとと言うのですよ、これは繋がりますね」
「なるほど……その郷の経営者は元々城にいた人だったりするのかな?」
「それが、郷の経営者は何代も前から弟子に受け継がれているので、今は家系を遡ることは残念ながら無理なようですが……城にいたお嫁様の調理法を受け継がれるのは城にいたものでないと無理でしょうからね、初代の菓子職人はきっと桜様のお弟子さんでしょう」
「うん、そうだよね」
「そこのお菓子、今度誰か買ってきてよ、お金渡すから」

涼鱗さんは甘いものに目がないのだ。

「もちろんでございます!買ってまいりましょう!」
「わあ、楽しみだなあ」

皆でわいわいやっていているとあっという間に夕方になった。

「そうだ薫、これなんだけど」

涼鱗さんが城へ戻ろうとした僕を呼び止めた。
手に大きめの箱を持っている。

「どうしました?」

歩み寄り渡された物を見る。

「これは?」
「それ、母から送られてきたんだけどね、翠に使ってほしいって」
「え、翠に?」

箱をデスクに置き、中を見てみると、可愛らしいオレンジや黄色などのあたたかそうな反物が入っていた。

「翠のことすごく聞いてくるんだよ、会ってみたいって」
「そうなんですか?翠のことに興味を持ってくださってるなんて、うれしいです!いただいた物もすごくかわいいです!ありがとうございます!」
「それでねえ、僕らも子を持たないのか?とかさあ」
「え、義母上がそんなことを?」

カジャルさんがぎょっとする。

「まあ、私達はマイペースだから子育ては無理そうだよーって適当に答えてるけどさ」

涼鱗さんは笑って言ったけど、翠への接し方を見ても涼鱗さんは良いお父さんになれると思うんだよね。

僕はもう一度お礼を言ってそれを持ち、玄関に向かう。
近衛が荷物に気づき、代わりに持ってくれた。

「ではまた、お疲れ様でした」

見送ってくれた2人に挨拶して笑顔で空に飛び立つ。
なんだかこうやって一人で空を飛んでいると、時々大きな違和感を覚えるんだよね。
人って空飛べるんだよ!って妹あたりに自慢したい気がしてくる。

空の大きさは地球でもこちらでも変わらない。

その広い中にふゆふゆと浮かぶように飛んでいると、まるで海の中を泳いでいるような気分にもなれる。
本当に気持ちが良かった。
冬の空の夕焼けに照らされながら、僕は幸せを感じた。

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