狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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雪見酒

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 雪にもいろんな降り方があるのだなあと、暇さえあれば外を眺めた。
僕は春や夏に北海道のお祖父様の別荘に行くことはあっても、冬に雪国に行ったことがなかった。
だから、雪には憧れがあって紗国の冬は楽しく感じる。

朝起きて窓の外を見ると昨日よりまた積もってる……と思ったり、昼頃にザザっと音がして驚いて外を見ると、木から雪がどっさり落ちて来たり。
そして日が差すと溶けてポタポタと雫になって落ちてきたり……

すごくきれいだと思った。

冷たい気温もそれほど気にならないのは、きっと僕の体がこの国に来て体力も付き、落ち着いたからだろう。

「おうひさま、お茶です」

可愛らしい声に振り向くと、学び舎から戻った翠が侍女にお茶の淹れ方を習い、僕にお茶を運んできてくれたという。
驚いて受け取ると、照れたように真っ赤になって感想を待っている。
僕はゆっくりと芳醇な香りの紅茶を頂いた。

侍女も翠が淹れるということで、さぞかしとっておきの茶葉を用意したんだろうな……と思わせる。
いつもと違うぶどうの香りがするお茶で、色は美しい琥珀色だ。
一口飲むと口の中に広がる渋みの少ないさっぱりとした味は甘くすれば子供も好きかもしれない。

「とってもおいしいよ!翠が淹れてくれたなんて嬉しいな」

僕はカップをテーブルに置いて翠を抱き上げた。
最近翠の体重が少し増えたのを感じる、と言ってもまだまだこの身長に対して細すぎるぐらいだけど。

「はい、おうひさまが毎日お外眺めているから」
「え?」

僕はその言葉に驚いて聞き返してしまった。
そんなに外ばかり眺めていたかな……うん、眺めていたかも。

「ごめんね、不安にさせちゃった?雪がね、珍しいんだ」
「雪が?」
「うん、僕が生まれたところには雪は降ってもこんなに積もることは無かったんだよ」

今度は翠が驚いて目を丸くした。
この子は去年の冬は……家畜小屋で一人寒さに震えていたのだろうか……
そう思うと胸が痛い。

「雪がつもらない?どうして?」
「気温かな?なんでだろうね……地面や葉や花に落ちてきた雪が溶けちゃうから積もらないんだよ」
「とけちゃう……」

翠は僕のひざの上で窓の外を眺めた。
その頭頂部に頬を寄せると、若草のような匂いがする。

「お外出てみる?雪で遊んだことあるかな?」
「雪で遊ぶのは……おにいさんやおねえさんが投げたりしてたのを見てたの」
「……そう」

僕は翠を腕に抱き上げたまま廊下を進んで庭に出てみた。
そこだけ箒で雪を払ってくれていて、地面が見えている。
その上にまた雪がはらはらと降ってくるけど、今はちらほらとしか降っていないし、日差しも感じる。

「降りる?一緒に雪だるま作る?」
「雪だるま?」
「そうそう、教えてあげる」

僕は侍女から翠の羽織を受け取って着せた。

「これ、最初はこうやって雪を手で固めて……そうそう、うまいよ」

翠は小さな手で雪の塊を一生懸命作っている、その様子を見ているだけでかわいくて笑顔になる。
周りで見守る侍女たちもニコニコしているね。

「そしてこれを、コロコロ転がすよ、ほらこうやって」

僕がするように玉を転がしながらあちこちウロウロする翠は本当に可愛らしかった。
今朝なんとなく袂たもとに入れていたスマホで、写真を数枚撮ってしまった……だって蘭紗様に見せたくって。

「だんだん大きくなってきた!」
「そうそう、もうちょっと大きくしてね」

僕も一緒になってコロコロ転がしていると、2人が通った場所がカタツムリの通った跡のように筋になっていて、それを見ておかしくて2人でケラケラ笑った。

「翠とおなじぐらい大きくなったねえ」
「うん!」
「なら、この僕の分を頭にして、ここに乗せて……よいしょ」
「わあ」

紗国の雪はちょうどよいふわふわ加減と水分で、とても良く丸く固まってくれた。
出来上がった2段の雪だるまは、翠よりも背が高くなっちゃって、翠は嬉しそうに見上げて両手をあげている。

「じゃあ、これに目と口をつけよう……どれがいいかな?……きれいに掃除されていて何も落ちてないね……」

僕は苦笑したが、慌てて侍女たちがどこかに除けていたらしい木の枝や木の実などを持ってきてくれた。

「さあ、この中から、目と口はどれがいいかな?」
「んと……目は……おうひさまの色に似てるからこれ!」

黒っぽい大きめの実を見つけて喜ぶ翠を抱き上げて、雪だるまの顔に近寄った。

「さあ、それを押し当てて、むぎゅって押し込んで」
「はい!」

翠が両手で目をつけるとそれらしくなってきた、次に口にするという木の枝も押し込む。
絵がうまいので、こういう感覚が優れているみたいで、上手に顔になった……親の欲目かな……

「おうひさま……お顔ができました!」
「うん、じゃあ次は、手を付けてあげよう」

大きめの枝がそれとなく置いてあるのを見て僕は思わず笑ったが、翠はきちんとそれを見つけて嬉しそうに駆けてきた。

「これ!」
「うん、じゃあ、差して、そうそうその辺りだね」

ポスっと元気よく枝を2つ差して、両手をあげている雪だるまの完成だ。
侍女たちも嬉しそうに手を叩いている。
翠は自慢気に僕を見つめてにっこり笑った。

「じゃあ、これも写真撮っておきたいな、そこに立ってこっち向いてくれる?」
「はい!」

僕は何枚か雪だるまと翠の写真を撮ってから、侍女たちも並ばせて皆の集合写真を撮った。
「おうひさまも」と言われたので操作を教えてから僕は翠を抱っこして雪だるまの横に立つ。
にっこりと笑って写った写真は本当に幸せそうな顔で、自分ではないみたいだった。





 夜になって蘭紗様と2人、暖かくした紗国のお酒とおつまみを広げて、庭に鎮座する雪だるまを見た。
冷える夜だが、そばに置いた火鉢があるので思ったほど寒くもない。
雪は珍しく完全に止んで、月明かりが美しかった。

「これを翠紗が?」
「はい、僕と2人で」
「そなたが教えたのか?」
「はい、日本にいた頃、少しでも積もればこうやって遊んだことがあるんです、でも、僕がいたところでは雪が少ししか積もらないから、土が付いた茶色いだるまになるんですけどね」

2人で顔を見合わせて笑った。

「そなたの住んでいたところは雪があまり積もらないのだな」
「めったに積もりませんよ、積もったら大惨事なんですよね、電車という乗り物が止まったり、みんな雪道の歩き方が下手だから滑って転んだりして」
「ほう……」

蘭紗様は興味深げに僕の話に相槌をうってから、美しい絵付けのお猪口で熱燗をのんだ。
僕は蘭紗様のそれに継ぎ足してあげて、自分も舐めるようにそれを口にしてみた。

紗国のお酒は甘くておいしいのだ。
だからといってお酒に不慣れな僕がグイグイ飲むわけにもいかないよね……ってことで、おっかなびっくりだ……
自分の結婚式の時には宴で失敗もしたしね……えへ。
というかまだ19才なんですけどね……まあ、日本じゃないからいいのかな。

「何を笑っておるのだ?」

優しい眼差しで僕を見つめていて、なんだか幻想的で夢みたいだなって思った。
月明かりの中の蘭紗様は本当に美しいのだ。

「んと……僕日本ではまだ未成年だから、本当はお酒とか駄目なんですよね……だからそれを思い出してつい」
「なるほど、20才が成人だと言っていたな」
「はい、こちらのように早くから独立もしませんし、今考えると甘ったれですよね」

僕はふふっと笑った。

「いや……しかしあれだろう?その間ずっと勉学に打ち込むということなのであろう?豊かな国なのだなあと思う」
「そうですねえ……確かにそうかもしれません、でも豊かというのなら、紗国のほうがずっと豊かですよ。人々はゆっくりと時を過ごして自然とうまく共存して生きていて」
「そうか……豊かというのもいろんな解釈があるからな」
「はい、そうですね」

僕は空になった蘭紗様のお猪口にもう一度お酒を満たした。

「このお酒は随分甘いですよね」
「うむ、甘くないのもあるが、これは子供でも飲める酒だからな」
「そうなんですか?」
「ああ、紗国のお祝いの席に良く出されるんだが、古くからある伝統的な酒だ」
「そうですか……この花のような香りも好きですし、甘いのはおいしいです」
「気に入ってくれて良かった。実はこれはスレイスルウの花の液が入っているんだ」
「そうなんですか?翠がくれましたよね!あの水色のお花とてもキレイ」

蘭紗様は嬉しそうに笑ってもう一度僕のスマホを手にした。
蘭紗様の顔がスマホに照らされて浮き上がる、その顔は幸せそうに微笑んでいた。

「2人のこの写真、どうにか現像できないものかな……絵師に頼むとしよう」

蘭紗様は僕と翠が雪だるまと写っている写真がお気に召したようだ。

「わざわざ絵師に?」
「ああ、そのためにお抱えがいるのだ。来年の名簿のための絵もそろそろ描き始めるだろうから、一度会わせよう」
「はい、楽しみにしています」

蘭紗様は静かにスマホを僕に返してから、僕の顎に手をやりキスをしてくれた。
トロンとなった僕の頬や額にもキスをして、そして抱きしめられた。

「部屋に行こうか」
「はい」

僕は蘭紗様と手を繋いで廊下を歩いた。
冬の寒さが余計に2人を繋げてくれているかのようで、2人でいる暖かさが愛おしかった。

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