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悠久2
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皆一瞬押し黙ったが……沈黙を破ったのはカジャルさんだった。
「その……この実験動物に悪い副作用は出たのか?」
「いえ、前王弟殿下のご協力により、悪しき副作用が出るであろう物質をあらかじめ除去していますので、出ておりません」
「完全な成功なのだな?」
「はい、そこでこの結果を蘭紗様にご報告がてら、カジャル様のこともご相談申し上げたのです」
「……そうか……」
カジャルさんはバツが悪そうな顔で座り直した。
「だが……」
涼鱗さんが不安げにカジャルさんを見つめる。
「万が一ということがあるんじゃないの?それはあくまで人ではなく動物での実験ではないか……」
「そう言われると思いましてね、思い切って自分で試してみました、そして見事成功しております」
「「は?」」
全員が呆気にとられてぽかんと口を開けてしまった。
「僑……お前何を言っている」
蘭紗様の顔も険しい。
「お前は王族が最も頼りにする医師であるし、紗国を代表する研究者でもあるのだぞ?」
「そうですよ、僑先生に万が一にも変な副作用が出てしまっていたら、どうなったことか!」
僕も言わずにはいられなかった。
「実験ならば罪人でやるよう手配もできたであろうに……」
「まあ、罪人が長生きできても邪魔なだけでしょう?」
「そういうことではなくてね」
涼鱗さんもため息交じりだ。
「で、今の僑の魂の状態は前王弟殿下に見ていただいたのか?」
「ええ、見ていただいております、『なんとも複雑な形になったものよのう』と笑っておられました、おそらく300年はゆうに超えるだろうとも」
「300年……」
カジャルさんが目を輝かせた。
「それなら俺も……」
「カジャル……」
涼鱗さんとカジャルさんは見つめ合った。
涼鱗さんのほっそりした美しい指がカジャルさんの頬を撫でる。
「カジャル……どうしても?」
「ここまで研究が進んだんだ、もうそこまで危なくないんだから……」
僕は蘭紗様を見つめた。
蘭紗様は困ったような顔をしていたが、やがて僕の顔を見て頷くと、伝えた。
「では、カジャル……やってみるがいい。心配は尽きないが……そなたの思いは痛いほどわかる。愛し合うもの達の寿命が互いに違いすぎるのは酷だ」
「蘭紗……」
涼鱗さんが目を伏せた。
「だが、約束してほしい。万が一失敗してしまったとしても、僑を責めたりしないと」
「思うのですが……」
僕は思い切って話してみた。
「普通に生きても紗国の人は100年近く生きるのでしょう?なら今すぐでなくても良いのではないですか?例えば体の衰えが気になるようになってからでも」
「そこなのですが」
僑先生はノートを慌てて開き何かを探し出し、そして資料を幾つか出して広げた。
「これはあくまで動物実験ですけどね、年若いほうが成功率は良いですし、副作用の出方も割合が少ないのです」
資料を見れば、一目瞭然だった。
より年若い方が予後がいい。
「……若いほうが良いと言うんですね」
「はい、そうです」
僑先生はまっすぐ僕を見つめた。
「なら……僕が言うことはもうありません。あとは、ご夫婦でお決めになること……なんでしょうから」
「そうだな……それと僑……このことは申し訳ないが……」
「ええ、わかっております。秘匿にいたします。国内はもとより、国外に流出など決してできない技術となりますでしょう。つまりこれを施すのは私とカジャルさんだけとなります」
「うむ……延命や長寿の薬が出来たとあらば、争いの元にしかならぬからな。これはなかったとこにするしかあるまい……」
涼鱗さんが唇を噛んだ。
「……カジャルを……よろしく頼みます」
涼鱗さんは僑先生に深々を頭を下げた。
僑先生は慌てて涼鱗さんに近寄り手を取った。
「カジャルさんは大事なお方です、私がしっかり管理しますので、大丈夫です、お任せくださいませ」
「……」
力ない笑みを浮かべた涼鱗さんは今にも泣きそうに見えた。
その頼りない感じはいつもの飄々としている彼とは別人のようだ。
「では……いつ、はじめるのだ?」
「そうですね、一月ほどいただけますか?自分の体で数値を取りながらより成功率を上げたいと思います」
「わかった。では……当日は我々も立ち会うとしよう、カジャル……それまで体調をしっかりと整えて備えるのだ」
「はい、蘭紗様」
カジャルさんの笑顔は明るかった。
希望に満ちた顔というのはこういうものなのだろう。
自分の愛する人を残して死んでいくのは心残りがあるものだ。
だけどそれを解消できるとしたら、それは誰もが飛びつくに決まっている。
お金だって請われるだけ出すだろう。
これは医療革命どころの騒ぎではないのだ。
だけど、蘭紗様はこれを封印することにした。
他の人にこの技術を知らせないことで、世界の安定を願ったのだ。
この技術が外に漏れたら、戦争になりかねない。
僕は身震いをした。
永遠に近い命、それは本当に幸せなんだろうか……
自分だけが生きるとしたら……
愛する人と一緒だから意味があるとしても、その愛が消えてしまうことだってあるだろうに。
蘭紗様の判断の正しさに感謝した。
そして、カジャルさんがどうか無事で……いられますように。
「その……この実験動物に悪い副作用は出たのか?」
「いえ、前王弟殿下のご協力により、悪しき副作用が出るであろう物質をあらかじめ除去していますので、出ておりません」
「完全な成功なのだな?」
「はい、そこでこの結果を蘭紗様にご報告がてら、カジャル様のこともご相談申し上げたのです」
「……そうか……」
カジャルさんはバツが悪そうな顔で座り直した。
「だが……」
涼鱗さんが不安げにカジャルさんを見つめる。
「万が一ということがあるんじゃないの?それはあくまで人ではなく動物での実験ではないか……」
「そう言われると思いましてね、思い切って自分で試してみました、そして見事成功しております」
「「は?」」
全員が呆気にとられてぽかんと口を開けてしまった。
「僑……お前何を言っている」
蘭紗様の顔も険しい。
「お前は王族が最も頼りにする医師であるし、紗国を代表する研究者でもあるのだぞ?」
「そうですよ、僑先生に万が一にも変な副作用が出てしまっていたら、どうなったことか!」
僕も言わずにはいられなかった。
「実験ならば罪人でやるよう手配もできたであろうに……」
「まあ、罪人が長生きできても邪魔なだけでしょう?」
「そういうことではなくてね」
涼鱗さんもため息交じりだ。
「で、今の僑の魂の状態は前王弟殿下に見ていただいたのか?」
「ええ、見ていただいております、『なんとも複雑な形になったものよのう』と笑っておられました、おそらく300年はゆうに超えるだろうとも」
「300年……」
カジャルさんが目を輝かせた。
「それなら俺も……」
「カジャル……」
涼鱗さんとカジャルさんは見つめ合った。
涼鱗さんのほっそりした美しい指がカジャルさんの頬を撫でる。
「カジャル……どうしても?」
「ここまで研究が進んだんだ、もうそこまで危なくないんだから……」
僕は蘭紗様を見つめた。
蘭紗様は困ったような顔をしていたが、やがて僕の顔を見て頷くと、伝えた。
「では、カジャル……やってみるがいい。心配は尽きないが……そなたの思いは痛いほどわかる。愛し合うもの達の寿命が互いに違いすぎるのは酷だ」
「蘭紗……」
涼鱗さんが目を伏せた。
「だが、約束してほしい。万が一失敗してしまったとしても、僑を責めたりしないと」
「思うのですが……」
僕は思い切って話してみた。
「普通に生きても紗国の人は100年近く生きるのでしょう?なら今すぐでなくても良いのではないですか?例えば体の衰えが気になるようになってからでも」
「そこなのですが」
僑先生はノートを慌てて開き何かを探し出し、そして資料を幾つか出して広げた。
「これはあくまで動物実験ですけどね、年若いほうが成功率は良いですし、副作用の出方も割合が少ないのです」
資料を見れば、一目瞭然だった。
より年若い方が予後がいい。
「……若いほうが良いと言うんですね」
「はい、そうです」
僑先生はまっすぐ僕を見つめた。
「なら……僕が言うことはもうありません。あとは、ご夫婦でお決めになること……なんでしょうから」
「そうだな……それと僑……このことは申し訳ないが……」
「ええ、わかっております。秘匿にいたします。国内はもとより、国外に流出など決してできない技術となりますでしょう。つまりこれを施すのは私とカジャルさんだけとなります」
「うむ……延命や長寿の薬が出来たとあらば、争いの元にしかならぬからな。これはなかったとこにするしかあるまい……」
涼鱗さんが唇を噛んだ。
「……カジャルを……よろしく頼みます」
涼鱗さんは僑先生に深々を頭を下げた。
僑先生は慌てて涼鱗さんに近寄り手を取った。
「カジャルさんは大事なお方です、私がしっかり管理しますので、大丈夫です、お任せくださいませ」
「……」
力ない笑みを浮かべた涼鱗さんは今にも泣きそうに見えた。
その頼りない感じはいつもの飄々としている彼とは別人のようだ。
「では……いつ、はじめるのだ?」
「そうですね、一月ほどいただけますか?自分の体で数値を取りながらより成功率を上げたいと思います」
「わかった。では……当日は我々も立ち会うとしよう、カジャル……それまで体調をしっかりと整えて備えるのだ」
「はい、蘭紗様」
カジャルさんの笑顔は明るかった。
希望に満ちた顔というのはこういうものなのだろう。
自分の愛する人を残して死んでいくのは心残りがあるものだ。
だけどそれを解消できるとしたら、それは誰もが飛びつくに決まっている。
お金だって請われるだけ出すだろう。
これは医療革命どころの騒ぎではないのだ。
だけど、蘭紗様はこれを封印することにした。
他の人にこの技術を知らせないことで、世界の安定を願ったのだ。
この技術が外に漏れたら、戦争になりかねない。
僕は身震いをした。
永遠に近い命、それは本当に幸せなんだろうか……
自分だけが生きるとしたら……
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