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悠久1
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雪景色の美しい庭が見える城の一角に、僕専用のアトリエを作ってもらった。
寒い日の昼過ぎ、僕は水着の生地開発チームとアトリエで話していた。
こちらの世界の蝶は美しい光沢と弾力のある糸を吐き出し繭を作るのだ。
いわゆる日本でいう蚕だけど、こちらの成虫は本当に美しい透き通るようなガラス細工のような蝶だ。
その繭から取る絹糸は最高級で、王族の衣装などにも使われる。
だがその糸がまた、水着開発の生地に適していた事がわかって、色々と試しているのだ。
そこへ、蘭紗様からの呼び出しが来た。
僕はなんだろう?と首を傾げた。
執務室まで来てほしいとのことだったので、生地開発チームとの打ち合わせを切り上げ、仙を連れて急いだ。
「薫です、お呼びですか?」
少し焦って入室すると、そこには僑先生そして涼鱗さんとカジャルさんがいて、僕に礼をした。
「すまないね、薫」
「いえ、大丈夫です」
皆を見渡したが、微妙な表情で押し黙るだけで、誰も何も言わない。
……なんなんだろう?
「ではよろしいでしょうか?」
僑先生は助手が持ってきた大きな箱から分厚い資料と、ノート、そして絵の描かれた大きな紙をテーブルに広げた。
僕はわけが分からずそれをじっと見ていると、侍女が丁寧にお茶をいれてくれて良い香りが広がり始めた。
「僕はアイスにしてね、グラスに入れてね、氷もいれるから」
相変わらず涼鱗さんは冷たい飲み物を好んで飲むようだ、寒い冬なのに。
「では、ご説明に入ります」
僑先生は人払いをお願いした。
こんなことは初めてで少し驚いたけど、成り行きを見守ることにしておとなしくお茶を少しいただいた。
「カジャル様の阿羅国方式の延命治療の件でございます」
涼鱗さんと僕はハッとしてカジャルさんを見た。
蘭紗様は溜息をついて窓の外を見ている、知っていたのかな……
「そ……それは……涼鱗には言わないって約束を……」
「カジャル様……このような大事を夫君におっしゃらずにやり遂げようというのは……やはり少々無理がございますでしょう」
僑先生は頭を一回だけポリっと掻いた。
「それに、いつぞやおっしゃいましたが、薫様だけに付き添ってほしいとの要望ですが……それもまた、薫様だけに責任がのしかかり過ぎです。もし万が一カジャル様に何事が起きようものなら、薫様は涼鱗様に殺されてしまうかもしれませんよ」
「え……」
カジャルさんは青くなって涼鱗さんを見つめた。
「うん……どうだろう……怒るだろうし、騒ぎもするだろうけど、薫様を殺すかどうかは……」
「カジャルは私の気持ちを爪の先ほども理解していないってことがよくわかったよ。内緒でこんなことを進められた私の気持ちがわかるのは、おそらく蘭紗だけだろうねぇ」
涼鱗さんのため息交じりの言葉に、蘭紗様は苦笑して皆を見回した。
「この城内で起きることは私の責任だ、万が一カジャルにそのようなことが起きれば、それはまあ……んー」
蘭紗様も言いづらいようで続きを言わない。
「とりあえずですね、カジャル様が当初思っておられたように、内緒で事を運ぶというのは、色々と危険すぎる気がいたしましてね、密かに蘭紗様にご相談にあがっていたのですよ」
「……そうだったのか……」
「それで、今、あのアオアイや洋上で話したよりも更に良い材料がありますよね?」
「良い材料?」
「ええ、ヴァヴェル王国の前王弟殿下ですよ」
「はあ……」
僕とカジャルさんの頭からはでっかいハテナが出ていると思うんだよね、今。
「じいがどうかしたのか?」
カジャルさんが不思議そうな顔で僑先生に質問した。
「最近ですね、実は森のしずくのことで色々とご意見を伺いに日参していたのですが」
「日参……していたのか?」
「ええ、前王弟殿下もそれはそれは楽しげにお話してくださるものですから、つい」
「はぁ」
「それから森のしずくの存在もございます。あれは役立ちますよ、今回のことに」
「というと?」
涼鱗さんが身を乗り出した。
やはり興味はあるようだ。
「実験では、阿羅国の清から取った血を体内に取り込んだ後、森のしずくを使いますと、悪い副作用が格段に減ります。そして、運悪く残った副作用も森のしずくの服用である程度回復することもわかりました」
「つまり、何か?その阿羅国の清の血でもって、カジャルの寿命が伸びるっていうのは……絵空事ではないというのだな?」
「はい、うまく行けば必ず寿命は伸びます。……が、副作用がかなりの割合で出るのが厄介でございました。しかし、血をそのまま体内に取り込むという、阿羅国のやり方が乱暴すぎて副作用がでる可能性が高いと見まして、前王弟殿下のご相談しましたところ、実験で使いました動物の様子をご覧になって、魂の形が変わっていたことがわかったのです」
「魂の形……」
「はい、で、この図を御覧ください。これは前王弟殿下が描かれた図です」
「……なんだって」
蘭紗様も涼鱗さんも驚いて図に見入る。
丁寧に描かれたそれは、日本人の僕から見たら惑星や星々が並んでいるような図に見えた。
ほぼ円のものが並んでいるのだが、途中から急に形が変わり、最終的にはとても複雑な形に変化している。
「この最初の丸いものがはじめの魂の形です。このほぼ丸なのはどんな人でも大抵一緒なのだそうですよ、大方の人がこの形なのだそうです。そして前王弟殿下がおっしゃるには、この形ではない者が特別な任を得て生まれきた人であるとおっしゃいました。我が国であれば、蘭紗様そして薫様、そして涼鱗様です」
「特別な……僕が?」
「ええ、そうですよ。そして阿羅国の清の血から悪しき作用をしているであろう物質を取り除くことに成功しまして、それもまあ、前王弟殿下のご協力の元なのですが……その安全が増した血を用い実験した時の魂の変化がこれです」
「この絵も……最初円だが……最終的に複雑な形になっている、成功なのだな?」
「はい、前王弟殿下がおっしゃるにはこの魂ならばおよそ100年生きるだろうということで……と申しましてもこれはほんの1年あまりで普通は死ぬ実験用の動物でしてね、それが100年生きるとなると……もう長寿どころの騒ぎじゃないんです、つまり成功です」
「……」
寒い日の昼過ぎ、僕は水着の生地開発チームとアトリエで話していた。
こちらの世界の蝶は美しい光沢と弾力のある糸を吐き出し繭を作るのだ。
いわゆる日本でいう蚕だけど、こちらの成虫は本当に美しい透き通るようなガラス細工のような蝶だ。
その繭から取る絹糸は最高級で、王族の衣装などにも使われる。
だがその糸がまた、水着開発の生地に適していた事がわかって、色々と試しているのだ。
そこへ、蘭紗様からの呼び出しが来た。
僕はなんだろう?と首を傾げた。
執務室まで来てほしいとのことだったので、生地開発チームとの打ち合わせを切り上げ、仙を連れて急いだ。
「薫です、お呼びですか?」
少し焦って入室すると、そこには僑先生そして涼鱗さんとカジャルさんがいて、僕に礼をした。
「すまないね、薫」
「いえ、大丈夫です」
皆を見渡したが、微妙な表情で押し黙るだけで、誰も何も言わない。
……なんなんだろう?
「ではよろしいでしょうか?」
僑先生は助手が持ってきた大きな箱から分厚い資料と、ノート、そして絵の描かれた大きな紙をテーブルに広げた。
僕はわけが分からずそれをじっと見ていると、侍女が丁寧にお茶をいれてくれて良い香りが広がり始めた。
「僕はアイスにしてね、グラスに入れてね、氷もいれるから」
相変わらず涼鱗さんは冷たい飲み物を好んで飲むようだ、寒い冬なのに。
「では、ご説明に入ります」
僑先生は人払いをお願いした。
こんなことは初めてで少し驚いたけど、成り行きを見守ることにしておとなしくお茶を少しいただいた。
「カジャル様の阿羅国方式の延命治療の件でございます」
涼鱗さんと僕はハッとしてカジャルさんを見た。
蘭紗様は溜息をついて窓の外を見ている、知っていたのかな……
「そ……それは……涼鱗には言わないって約束を……」
「カジャル様……このような大事を夫君におっしゃらずにやり遂げようというのは……やはり少々無理がございますでしょう」
僑先生は頭を一回だけポリっと掻いた。
「それに、いつぞやおっしゃいましたが、薫様だけに付き添ってほしいとの要望ですが……それもまた、薫様だけに責任がのしかかり過ぎです。もし万が一カジャル様に何事が起きようものなら、薫様は涼鱗様に殺されてしまうかもしれませんよ」
「え……」
カジャルさんは青くなって涼鱗さんを見つめた。
「うん……どうだろう……怒るだろうし、騒ぎもするだろうけど、薫様を殺すかどうかは……」
「カジャルは私の気持ちを爪の先ほども理解していないってことがよくわかったよ。内緒でこんなことを進められた私の気持ちがわかるのは、おそらく蘭紗だけだろうねぇ」
涼鱗さんのため息交じりの言葉に、蘭紗様は苦笑して皆を見回した。
「この城内で起きることは私の責任だ、万が一カジャルにそのようなことが起きれば、それはまあ……んー」
蘭紗様も言いづらいようで続きを言わない。
「とりあえずですね、カジャル様が当初思っておられたように、内緒で事を運ぶというのは、色々と危険すぎる気がいたしましてね、密かに蘭紗様にご相談にあがっていたのですよ」
「……そうだったのか……」
「それで、今、あのアオアイや洋上で話したよりも更に良い材料がありますよね?」
「良い材料?」
「ええ、ヴァヴェル王国の前王弟殿下ですよ」
「はあ……」
僕とカジャルさんの頭からはでっかいハテナが出ていると思うんだよね、今。
「じいがどうかしたのか?」
カジャルさんが不思議そうな顔で僑先生に質問した。
「最近ですね、実は森のしずくのことで色々とご意見を伺いに日参していたのですが」
「日参……していたのか?」
「ええ、前王弟殿下もそれはそれは楽しげにお話してくださるものですから、つい」
「はぁ」
「それから森のしずくの存在もございます。あれは役立ちますよ、今回のことに」
「というと?」
涼鱗さんが身を乗り出した。
やはり興味はあるようだ。
「実験では、阿羅国の清から取った血を体内に取り込んだ後、森のしずくを使いますと、悪い副作用が格段に減ります。そして、運悪く残った副作用も森のしずくの服用である程度回復することもわかりました」
「つまり、何か?その阿羅国の清の血でもって、カジャルの寿命が伸びるっていうのは……絵空事ではないというのだな?」
「はい、うまく行けば必ず寿命は伸びます。……が、副作用がかなりの割合で出るのが厄介でございました。しかし、血をそのまま体内に取り込むという、阿羅国のやり方が乱暴すぎて副作用がでる可能性が高いと見まして、前王弟殿下のご相談しましたところ、実験で使いました動物の様子をご覧になって、魂の形が変わっていたことがわかったのです」
「魂の形……」
「はい、で、この図を御覧ください。これは前王弟殿下が描かれた図です」
「……なんだって」
蘭紗様も涼鱗さんも驚いて図に見入る。
丁寧に描かれたそれは、日本人の僕から見たら惑星や星々が並んでいるような図に見えた。
ほぼ円のものが並んでいるのだが、途中から急に形が変わり、最終的にはとても複雑な形に変化している。
「この最初の丸いものがはじめの魂の形です。このほぼ丸なのはどんな人でも大抵一緒なのだそうですよ、大方の人がこの形なのだそうです。そして前王弟殿下がおっしゃるには、この形ではない者が特別な任を得て生まれきた人であるとおっしゃいました。我が国であれば、蘭紗様そして薫様、そして涼鱗様です」
「特別な……僕が?」
「ええ、そうですよ。そして阿羅国の清の血から悪しき作用をしているであろう物質を取り除くことに成功しまして、それもまあ、前王弟殿下のご協力の元なのですが……その安全が増した血を用い実験した時の魂の変化がこれです」
「この絵も……最初円だが……最終的に複雑な形になっている、成功なのだな?」
「はい、前王弟殿下がおっしゃるにはこの魂ならばおよそ100年生きるだろうということで……と申しましてもこれはほんの1年あまりで普通は死ぬ実験用の動物でしてね、それが100年生きるとなると……もう長寿どころの騒ぎじゃないんです、つまり成功です」
「……」
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