狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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白い手 蘭紗視点

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 昼過ぎに城を出て、夕刻前には紗国の最北にある山間部に到着した。
ここは紗国でも有数の果物の産地だ。
朝晩の寒暖差が激しいので、実る果物の出来は素晴らしく、最高品質を誇る。
紗国は農業大国ではないが、ここの果物は高級品として贈答用に国外からも人気が高い。

そして放牧を行う地域でもあるのだが、そこには山間部特有の悩みもあった。
魔物が家畜を襲う件数がこのところ増えているのだ。
それがどういう種類の魔物であるかは、まだわかっていないが、丹精込めて育て上げた家畜が一晩にして全滅ということもあるそうで、その時には国から補助も出したほどだ。

以前はこの辺りにそんな被害はなかった。

我が紗国王になってから件数が増えたと記憶している。
それに引っかかりがなかったわけではないが、深くは考えず原因究明もしてこなかった。

「蘭紗様、すごい吹雪です。防護壁があって体は守られておりますが、これでは視察は無理でしょう」
「うむ……」

元々豪雪地帯ではあるが、更に今年は雪被害がひどい。

「では、麓の町と村の長に話を聞くとしよう。どれくらいの被害なのかは把握せねば」
「了解いたしました」

近衛隊長は頷き、部下とともに動き出した。
我はその時声を聞いた。
声?というのだろうか。
悲鳴に近いような高い響く音だ。

我は何気なくその声のした方を振り向き、じっと目を凝らすとともに魔力を薄く張り、結界を広げていった。
何かがいるのなら、それに引っかかるので自分にはわかるのだ。

「陛下!わざわざのお越し、ありがとうございます」
「ああ、緊急時に呼び出してすまぬな。この度はまた雪崩ということだが、どのような被害がでた?」

一番近くの町の長老は、額に汗しながら近衛と共に我の前に跪いた。

「ふもとの町までも雪崩の端が届いており、山に近い郊外にありました加工工場が巻き込まれました」
「そこで働いていた者は?」
「それが……工場長と工員ともども連絡がつかぬのです。時間帯は昼前になりますので全員が工場にいたと思うのですよ。もしかして全員が巻き込まれた可能性もあると見ております」

我は思わず唇を噛んだ。
すでに人的被害がほぼ確実か。

「捜索は今は危険だ。この雪嵐だからな」
「はい、二次被害を呼ぶだけだと言い聞かせ、町からは捜索隊は派遣しておりません」
「さすがだ。良い判断だったな」

我は長老の手を取り労をねぎらった。
長老は皺深い手を震わせて感極まった顔で礼をする。

「では、町の中心部では皆無事ということだな?」
「はい、ですが、その……」
「どうした?」
「山中腹部にあります放牧の盛んな村は、恐らく工場とともに雪崩に巻き込まれたとみて間違い無いと思うのです。方角から見ても……」
「……そうか」

その言葉を受け、近衛らが地図を広げて確認している。

「しかし……この範囲も巻き込まれたかもというと、かなりの大きさであったのだな」
「ええそれはもう……地面が轟くような爆音でしたし、そして揺れも酷く、町でもその揺れにより家財が倒れるなど、かなりの被害がでました」
「わかった。それらの被害を報告としてまとめ、送ってくれ」
「はい、かしこまりました」

長老は皺の目立つ日に焼けた顔でもう一度我をじっと見て、そして礼をして去った。

「この規模の雪崩など……記録にないな」
「はい……毎年起こることとはいえ、これは異常事態ですな」
「うむ……」

我はある伝説を思い出していた。

地面の下に棲む大きな魔獣が体を震わせ地面を揺らし、そして雪崩を起こす。
雪崩の後出てきて雪の下に埋もれた者を取り出しておいしくいただくという伝説だ。

だが……あれは作り話だ。

子に話して注意を促すために聞かせるものとしてあるだけだ。
そんなことをつらつらと考えている時に、またあの高い音が聞こえた。
今度ははっきりと。

「今、何か……」
「はい、聞こえました」

その場にいた近衛らもスッと身構える。
しかし、そばに誰かいるということではなさそうだ。

「山の遠鳴り……であろう」
「そうでしょうか?」

皆が魔力を張り巡らせ、異常を探知しようとするが、それをやめさせ魔力を温存するよう指示した。

「長老から、休憩所として屋敷をお使いくださいませとの伝言でございます」

伝令のその言葉で我らはそこに移動することとした。
しかし、その時また、聞こえたのだ。
とても高い美しい……金属を打ち鳴らしたような音だった。
やはり私はそれが声に思えてならない。

「ちょっと待て、我は少しだけ辺りを飛翔し見回ってこよう」
「蘭紗様、お一人はいけません」
「なにも、歩くわけではない。吹雪いてはいるがこれぐらいならば大事無い。少しその辺りを飛翔し見回るだけだ。そなたらは先に屋敷に向かい、町の状況を把握してくれ」
「はい、しかし私だけはご一緒します」

隊長は強い目線で見つめてくる。
我は苦笑し、同行を許した。

そして我と近衛隊長の2人は飛翔し、なだらかに広がる山裾を見て回った。
広がる農村の田畑には雪が降り積もり、雪原だけが広がっている。
そしてもう一度今度は少し強く音が鳴った。
我らは同時に振り向く。

「あれはまるで、呼んでいるような……」

我は隊長とともに、その音を頼りになだらかな斜面を眼下に頂上を目指す。
吹雪はますます強くなってきたように感じる。
これまでか……引き返すべきだ。

そう思った時に、ふと、足に違和感を感じた。
掴まれたのだ。
一瞬近衛隊長に何事か起こったのかと後を見たがそこには誰もいなかった。
いるはず、見えるはずの近衛隊長が。

我はハッとして辺りを見渡した。
しかし上下左右どこを見ても真っ白になっていく。
完全に何もかも見失ったと悟った我は、念話を使い周囲に放つ。
しかし我の声が反射して返ってくるだけだった。

真っ白の世界の中、もう一度足を引っ張られた。

そして自分の足を見ると。

白い手が足に巻き付いているのが見えた……その時だった。
突然全身に叩き付けてくる雪の塊の衝撃で一瞬意識を手放した。

ふと目が覚めると吹雪の隙間から森が見え、地面に落ちていることに気がついた。

そして、強い魔力を感じて空を見上げた。
いや、空ではない……これはどこから……ハッとして地面を見る。
瞬間足元が崩れ落ち飛翔しようとしたが間に合わなかった。

いや、間に合わなかったわけではない、足を引っ張られるようにしてこの雪崩に巻き込まれた……そういう感じだった。
何かが我の足を掴んで引きずり込んだ……そう感じたのだ。
だが……足をつかめるほど敵がそばにいるのを感知できずにいたとは考えにくい。
何が起こったのか全くわからなかった。

押しつぶされ雪崩に流され、石のような固い雪と共にかき混ぜられ、全身を打ち付けられた。
動かない体を感じ今までに感じたことのない恐怖が襲う。
身を守る防護壁すら発動できない。
それどころか指先一つ動かせず、そして我の中から魔力が枯渇していることを悟った。

なぜ……そう思うが答えが見つからない。

ただ、流れ去るまま押しつぶされるまま、雪に翻弄された。
轟音が鳴り響く……
次第に体から五感さえも失われていくのがわかった。
雪崩に巻き込まれたとしても、魔力がある状態ならば抜け出す事は造作ないことだ。
しかし……指一本動かせない。

そんなばかな……

我は静かに眠るように……また、意識をなくした。

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