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母の思い1 仙視点
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薫の侍女、仙の視点からのお話になります。
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私たちはお嫁様付き侍女として生まれて、そのために厳しい教育を受けてきた。
でもまさか本当にお嫁様が渡ってこられるなどと思いもせず、ただ城で日々の仕事としてお嫁様をお迎えする準備をし、主のいない専用居住区を維持していた。
だけど、私達の前に突然その方は現れた。
残念なのはその日、私と真野、里亜の3人が揃って城を留守にしていたことだ。
真野は子作りのために里に帰っており、私と里亜は城下町に行き、布地や茶器などを見たりしていた。
と言っても休暇だったわけではない、これもお嫁様付き侍女の仕事の一環なのだ。
なので、まだ見習いのサヨがお嫁様にお茶をお入れし、お迎えすることになってしまった。
その時に私や、せめて他の二人がサヨ以外にもいたならば、お嫁様にもう少しきちんと状況をお伝えし不安を取り除いて差し上げられたのにと、今でも後悔している。
「ねえ仙、バイオリンのお手入れができたって知らせがあったんだよね?」
「はい、ございましたよ」
今日も光り輝くように美しい私の主は、私を見てにっこりと微笑まれた。
薫様……私はこの方と初めてお会いできた日のことを忘れられない。
シャツとスラックスをお召しで髪の毛を短くされていたにも関わらず、女の方かと思った。
優しげな眼差しに小柄な体つき、そして物腰が柔らかくつるんとした美しい肌。
なによりもその美しい黒髪と濡れたような黒い瞳が、強い色にも関わらず、とても優しげに揺れていた。
私は殿方とは猛々しくあるものと思っていたので、あのように優しげな雰囲気の男性を見たことがなかったのだ。
だけどお召し替えの際に男性だとわかり、そして教育を受けた時の言葉を思い出したのだ。
この世にある男性の枠とは違う育ち方をした方がお嫁様としていらっしゃることもあると。
そしてその通り、服飾のことを小物に至るまでこだわりをお持ちになったり、お料理やお裁縫までなさったり。
陛下に対しての細やかな心配りをおそばで見ていると、完璧なお嫁様でいらっしゃると言わざるを得ない。
最近では、翠紗様を救出なさってからの子育てのありようが私の心をさらに揺るがせた。
本来ならば、あのように王妃様が何から何まで子の世話をするなど前代未聞であった。
だけどその姿のなんと自然であったことか、そして母として子に接する薫様の横顔を見ていると、なぜか胸が詰まり涙が出そうになることすらあった。
「じゃあ……僕から作業所に尋ねると伝えてくれない?こちらにいる間に一度は行ってみたかったんだよね」
「かしこまりました、それではそのように」
私は笑顔で答え、里亜に先触れをお願いした。
薫様の室内着からのお召し替えを手伝いながら、私は実家を思い出した。
薫様の発案で急に決まった里帰りの際、私達の実家それぞれに向けて丁寧に文を書いて持たせてくれたのだ。
元お嫁様付き侍女であった母や祖母はもとより、親戚中が集まり震える手でそれを見て、涙を流しながら薫様の文を読む家族を見ていると、なぜだか私はこの里にいる人らが哀れに感じた。
私のように何事もなくきちんとお嫁様をはじめからお世話できるのは、稀であり、幸せなことなのだと、急に実感したのだ。
いや、今までもそれは感じていたのだけど、家族の震える手を見て更にそう感じたのだ。
そして、3才になる我が子を見た。
私のことを知らない人を見る目で見る我が子。
あの目を私は知っている、自分もあの目で母を見ていた。
私の母は厳しい侍女長であった、結局お嫁様を迎えること無く里帰りした後も私達を厳しくしつけた。
だけど、先代王のお嫁様としてお渡りになっていたハリル様が、紗国内に監禁されていたとわかった後、城に戻り、少しの間ではあったがお嫁様付き侍女としてハリル様に仕えることができた。
ハリル様が身罷られた後、薫様のお言葉で泣いている母を見て私は驚いた。
あんなふうに感情を表に出すことなど、この人にはないと思っていたから。
でも、薫様はハリル様だけではなく、母たちの心も解きほぐし、癒やした。
……私達は薫様のことを誇るとともに更に尊敬の念を抱いた。
「薫様、少しお痩せになりましたか?」
「そう?最近良く食べてるしそんなことないと思うんだけど」
ほっそりとした首を傾げて聞き返された。
美しい黒髪が揺れる。
最近伸ばしておられて、結わえることも多くなった。
だけど、結わえずにそのまま垂らしておいでになるのもまた、お似合いになる。
「体調に変化はございませんか?」
「うん、ないよ。大丈夫」
元気にそうお答えになって微笑まれる薫様のお顔を見て、私はようやく安堵した。
「ああ、翠のバイオリンも頼みたいな……蘭紗様に相談するの忘れてた……」
「それは、陛下にお伺いを立てずともよろしいのでは?翠紗様のことでしたら、大丈夫でございましょう」
「そうかな、そうだよね!」
薫様はお着替えが終わると、離宮の一角に作られたバイオリンの作業所に出かけられた。
近衛達を引き連れ歩く後ろ姿は軽やかでそして優雅だ。
生まれながらの王族のようにしか見えない。
日本では、政治家の家系に生まれた方であったというから、貴族であったということなのだろうと説明を受けた。
それも納得の存在感だ。
「侍女長」
里亜が声をかけてきた。
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私たちはお嫁様付き侍女として生まれて、そのために厳しい教育を受けてきた。
でもまさか本当にお嫁様が渡ってこられるなどと思いもせず、ただ城で日々の仕事としてお嫁様をお迎えする準備をし、主のいない専用居住区を維持していた。
だけど、私達の前に突然その方は現れた。
残念なのはその日、私と真野、里亜の3人が揃って城を留守にしていたことだ。
真野は子作りのために里に帰っており、私と里亜は城下町に行き、布地や茶器などを見たりしていた。
と言っても休暇だったわけではない、これもお嫁様付き侍女の仕事の一環なのだ。
なので、まだ見習いのサヨがお嫁様にお茶をお入れし、お迎えすることになってしまった。
その時に私や、せめて他の二人がサヨ以外にもいたならば、お嫁様にもう少しきちんと状況をお伝えし不安を取り除いて差し上げられたのにと、今でも後悔している。
「ねえ仙、バイオリンのお手入れができたって知らせがあったんだよね?」
「はい、ございましたよ」
今日も光り輝くように美しい私の主は、私を見てにっこりと微笑まれた。
薫様……私はこの方と初めてお会いできた日のことを忘れられない。
シャツとスラックスをお召しで髪の毛を短くされていたにも関わらず、女の方かと思った。
優しげな眼差しに小柄な体つき、そして物腰が柔らかくつるんとした美しい肌。
なによりもその美しい黒髪と濡れたような黒い瞳が、強い色にも関わらず、とても優しげに揺れていた。
私は殿方とは猛々しくあるものと思っていたので、あのように優しげな雰囲気の男性を見たことがなかったのだ。
だけどお召し替えの際に男性だとわかり、そして教育を受けた時の言葉を思い出したのだ。
この世にある男性の枠とは違う育ち方をした方がお嫁様としていらっしゃることもあると。
そしてその通り、服飾のことを小物に至るまでこだわりをお持ちになったり、お料理やお裁縫までなさったり。
陛下に対しての細やかな心配りをおそばで見ていると、完璧なお嫁様でいらっしゃると言わざるを得ない。
最近では、翠紗様を救出なさってからの子育てのありようが私の心をさらに揺るがせた。
本来ならば、あのように王妃様が何から何まで子の世話をするなど前代未聞であった。
だけどその姿のなんと自然であったことか、そして母として子に接する薫様の横顔を見ていると、なぜか胸が詰まり涙が出そうになることすらあった。
「じゃあ……僕から作業所に尋ねると伝えてくれない?こちらにいる間に一度は行ってみたかったんだよね」
「かしこまりました、それではそのように」
私は笑顔で答え、里亜に先触れをお願いした。
薫様の室内着からのお召し替えを手伝いながら、私は実家を思い出した。
薫様の発案で急に決まった里帰りの際、私達の実家それぞれに向けて丁寧に文を書いて持たせてくれたのだ。
元お嫁様付き侍女であった母や祖母はもとより、親戚中が集まり震える手でそれを見て、涙を流しながら薫様の文を読む家族を見ていると、なぜだか私はこの里にいる人らが哀れに感じた。
私のように何事もなくきちんとお嫁様をはじめからお世話できるのは、稀であり、幸せなことなのだと、急に実感したのだ。
いや、今までもそれは感じていたのだけど、家族の震える手を見て更にそう感じたのだ。
そして、3才になる我が子を見た。
私のことを知らない人を見る目で見る我が子。
あの目を私は知っている、自分もあの目で母を見ていた。
私の母は厳しい侍女長であった、結局お嫁様を迎えること無く里帰りした後も私達を厳しくしつけた。
だけど、先代王のお嫁様としてお渡りになっていたハリル様が、紗国内に監禁されていたとわかった後、城に戻り、少しの間ではあったがお嫁様付き侍女としてハリル様に仕えることができた。
ハリル様が身罷られた後、薫様のお言葉で泣いている母を見て私は驚いた。
あんなふうに感情を表に出すことなど、この人にはないと思っていたから。
でも、薫様はハリル様だけではなく、母たちの心も解きほぐし、癒やした。
……私達は薫様のことを誇るとともに更に尊敬の念を抱いた。
「薫様、少しお痩せになりましたか?」
「そう?最近良く食べてるしそんなことないと思うんだけど」
ほっそりとした首を傾げて聞き返された。
美しい黒髪が揺れる。
最近伸ばしておられて、結わえることも多くなった。
だけど、結わえずにそのまま垂らしておいでになるのもまた、お似合いになる。
「体調に変化はございませんか?」
「うん、ないよ。大丈夫」
元気にそうお答えになって微笑まれる薫様のお顔を見て、私はようやく安堵した。
「ああ、翠のバイオリンも頼みたいな……蘭紗様に相談するの忘れてた……」
「それは、陛下にお伺いを立てずともよろしいのでは?翠紗様のことでしたら、大丈夫でございましょう」
「そうかな、そうだよね!」
薫様はお着替えが終わると、離宮の一角に作られたバイオリンの作業所に出かけられた。
近衛達を引き連れ歩く後ろ姿は軽やかでそして優雅だ。
生まれながらの王族のようにしか見えない。
日本では、政治家の家系に生まれた方であったというから、貴族であったということなのだろうと説明を受けた。
それも納得の存在感だ。
「侍女長」
里亜が声をかけてきた。
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